夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「姉さん、話って?」
「うん……父さん、母さん、テンマ、ユズには最初に話しておきたかったからこうして集まってもらった。もしかしたら反対される可能性もあるけれど、みんなのことを思って話すことだから……」
「大丈夫さ、トワがこうして話してくれるってならそれなりの理由があるはずだ。しっかり話し合って決めよう」
「ええ、それにトワがワガママを言うなんて珍しいもの。寧ろ家族会議が楽しみよ」
「家族会議……ど、ドキドキします」
「そこまで言うってこたぁかなりの話っぽいな」
日々が流れるのは早い、特に恐らく1話が始まっただろう2ヶ月前のシイナとセツナとの出会いからは怒涛の連続だった。
まだシイナとセツナは俺と姉さんが魔人狩りにいるのを知らないし、姉さんもシイナとセツナがEXCEEDSにいるのを知らないけどきっともうそろそろ知るタイミングが来るはずだ。
その時お互いがどう思うか、或いは決別するのかはやはり未来を知らないから全くもって予想も何も無い。だがお互いがどういう選択をするかにかかわらず俺はその運命を受け入れる覚悟をしている、さすがに本気の殺し合いなんてなったら止めに入るが。
そんな折に、姉さんから珍しく込み入った話があると家族全員が集められた。かなり真剣な表情だから恐らく魔人絡みでの大きな転換点が訪れているんだろうが……何種類かの予測は立ててあるから多分驚くような事態にはならないだろうな。
「みんな……ありがとう。あのね、父さんと母さんにも話してると思うけど私達は人殺しをしてる魔人や、その魔人を作り出す薬を取り引きしたり作っている連中をこの世から根絶して父さん、母さん、テンマ、ユズやみんなに幸せに生きてもらいたいって、幸せに生きられる世の中を作りたいって思ってるしその為の活動をしている」
「そうだな。聞いた時はさすがに驚いたが、絶対に命優先で帰ってこいっていう約束を守ってくれるなら俺はトワ、テンマ、ユズ、それにシオリちゃん、ユーナちゃん、アオイちゃんを応援したいと思ってる」
「本当は危ないことをしてもらいたくは無いけど、空港で見たあの子の悲しそうな顔を思い出すと……やめてほしい、とは言えないものね」
大体話の切り出しは予想通りだった、姉さんは天然だったり弟相手にまるで恋愛感情があるみたいなことをふざけて言ってくることがあったりと中々に面白いが、本当に大切な話をする時はこれでもかと言うくらい丁寧に話す。
芯はめちゃくちゃまっすぐなんだよな、家族想いで仲間想いで、見ず知らずの誰かの笑顔も守りたいなんて思ってるような底抜けに優しい人だから。
「……本当に私達の事を凄く考えてもらえて、嬉しい」
「あ、安心してもらう為に命大事に、でっ……や、やりますっ」
「こういう安全確認みたいなのは過保護なくらいがちょうど良いもんなあ、その点親父と母さんは万全だ」
んでまあ、親父と母さんも底抜けに聖人だからな。
少なくとも俺が独り立ちするまではずっとこんな感じだろうし、全部終わったら死ぬ云々も一人暮らしを始めてからになるなあ。
「それで本題だけれど、多分そろそろ私達は魔人化薬を作ってる連中の親玉に目を付けられると思う。特定されるのも時間の問題かもしれない」
「最近は結構デカいとこ潰したからな。近い将来そういう話になるんじゃないかとは思ってたけど早かったなあ」
「……遂に目の敵にされるターンが回ってきた、という感じですね」
「だから一旦私達は海外に居住地を変更しようと思ってる。父さんと母さんにも、身の安全の為に着いてきてもらいたい……身勝手な事だって言うのは分かってる。巻き込んでしまって、命の危険に晒して本当になんて言ったら良いのか分からない。それでも、絶対に守りたい……やっと手に入れられた、愛情なんて知らなかった私を、私達を、たくさんたくさん愛情込めて育ててくれたからこそ、大好きな父さんと母さんだから、どうしても近くにいてほしい……」
話の本題についても、想定していない訳ではなかった。
この前の数ヶ所殲滅に際してそこの元締めみたいな場所も数日後に潰したため、そろそろ本格的に篠宮と蔵木に目を付けられるのも時間の問題というのは話していた。
だからもしかしたらどこかに高飛びするのではないか、そうした予想は薄々あった。しかし急だったのも確かだ。
「この家は、残しておいても良いのか?」
「別宅として残しておくのは大丈夫、これは一時的に避難するようなものだから。必ず戻ってくる、戻ってこれるようにする」
「だったら問題無いんじゃないかしら、近所の人達には挨拶する余裕は無いかもしれないけど……ユズの力でなら最低限の荷物だけ持って移動も出来るし」
「そうだな。もう移動先の物件とか決まってるのか?」
「うん、シオリには話してないけど相沢家が物件とお金の方は足が付かないように手配してくれるみたい。本当は手を借りすぎるのもどうかとは思ったけど、魔人化薬を根絶する為だし命の恩人だからってサポートしてくれたからすぐ見つけられた。ユズには話の後で物件と座標を教えるから」
「任せてください!」
さすが姉さん、用意周到だな。
この感じシオリには敢えて話してないんだろうな、身内の中でもかなり近しい相手にはわざと伝えず逆にちょっと遠い身内には話してマークされてても外せるような立ち回りをしている。
俺達に話せていなかったのも万が一にも情報を気取られない為の最善の動きという訳か、これなら理にかなっている。
「姉さん、いつくらいに移動するの?」
「数日中には。正規の移動方法じゃないから本当はダメだけど、こうしないと本当に危ないから……学校も家庭の事情で休学ってことになると思うけど」
「まあ仕方ないよな、そこは。他人には話せないしな」
「そうよね」
「んじゃ、お互い海外に行くって話を本当にしたい最低限の友人にだけ、詳細を隠して話すくらいなら出来るよな?」
「それくらいならやれるよ、私もシイナとセツナにしておきたかったし。……必要なことでも、離れるのは寂しいから」
「そりゃあ誰だって友達と離れるのは寂しいだろうさ、俺も友達らしい友達最近出来たからもう少し仲良くなっておきたかったけど、事情が事情だしな。ここはもう仕方ないって割り切るしかない。シイナとセツナには姉さんの方から伝えてもらえる?」
「良いけど、直接会わなくて良い?」
「姉さんとの方が話したいこと多いでしょ、じっくり話しておいでよ」
「そっか、うん、ありがとう」
篠宮や蔵木の陣営に悟られない内に身を隠すとなると確かに数日内が限界だろうな、そうなると海外行きを伝えられる人数も限られて来る。
世話になった人全員には伝えられないだろうな、タイミングが合わない限りメグちゃんとこの人やラーメン屋のおっちゃんにも黙ったままの移動になるはずだ。
だがそれでも一番話しておきたい友人には伝えておきたい、それはシイナ、セツナではなく……光一だ。
2人に関しちゃ姉さんがいるから託せる、だがしばらく顔を合わせて会えなくなるという点では光一と何とかして『あの話』を一度はしておきたかった。
もしかしたら俺より知っていることがあるかもしれないからな。
「原種はほぼ駆除出来たかされてるし……あと少し、あともう少しで……今よりはずっと平和になるはずなんだ」
「そうだね、頑張ろうテンマ、ユズ」
「全力でサポートします!」
今が何話時点なのか全く分からない、だがこの感覚なら……まだ中盤なんだろう。リリカルなのはの世界とは中盤以降一気に話が加速する、だからまだ加速してるとは感覚的に思えない今は5〜6話。それでも、予測出来たとしても、あと少しと思いたかった。
壮大な物語なんて要らない、壮絶なバトルなんて要らない、ただ俺は……昔から憧れていたなのは達に会って、それからは大切な人達が幸せになるのを見届けたい、それ以上も以下も無い。たったそれだけで良いんだ。
そう、ただそれだけで――