夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
これで7話分まで終了
「電車が暴走している?」
『はい、確認出来ただけでも3台。1台は私が止めました。残り2台はアオイとユーナに任せていますので止められると思いますが』
「……公園のテロは囮?やっぱりこの事件、篠宮と蔵木が絡んでる可能性があるね」
『恐らくは』
大規模侵略種テロ発生からしばらく、駅構内に進出していた侵略種を退治中にシオリからの連絡が入った。
……やはりこのテロには、篠宮と蔵木が関わっている。それも公園で起きたものは完全に囮レベルのものが。
許されるはずがない、と同時に一瞬テンマのことが過ぎった。
あの子は強い、でもいつも何かを抱えているように思えた。
強い侵略種の反応を辿りながら、ふと思い返してしまう。
思えば、私はテンマに助けられてばかりだった。
あの子曰く「俺より姉さんの方が強いに決まってんだろ」とのことだけど、私はそうは思わない……間違いなくテンマの方が強い、それは純粋な武力じゃなくてたくさんの人を、大切な人を助けられるのは私じゃなくてテンマの方だと思っているから。
『ただいま〜トワ』
『お帰りなさい。……その男の子』
『ああ、拾った。トワと同じだ』
『……そう』
最初会った時、そこまで興味があった訳じゃなかった。
そもそもあの時の私は父さんや母さんにもそこまで興味が無いと思っていたから当然だけれど。
『俺はな、実の両親を殺したんだ』
『……後悔してるんだよ。もしもあの話を聞いた時点で『俺は借金があっても今までの2人と共にいたい』そう言えていれば何かが変わったんじゃないかってずっと思って。もし何も変わらなかったとしても、その言葉が言えていればきっとここまで後悔なんてしなかった。『言わなかった』その事実だけがずっとずっと脳裏によぎるんだよ』
でも、テンマの実の両親の話を聞いて見方が変わった。
この人は後悔しながら生きてきたんだ、どれだけ平気そうでいてもその裏には一生消えない苦しみがあるんだと。
その時から私の中には、少しずつ「家族とはなんなのか」という感情とテンマを気にする感情が芽生えた。そしてきっとその直後にはもう父さん、母さん、テンマに家族としての情が生まれていたんだと思う……尤もそれは、家族を知らなかった私では気が付けなかったけれど。
この気持ちを自覚したのは、初めて遠くに旅行しに行った時。
空港で火災に巻き込まれて、その原因が施設に一緒にいた魔人の子だと知った瞬間。あの子はもう自分では能力を制御出来ない、つまりどこでどう発火し爆発するか分からない……気が付いた瞬間父さんと母さんが危ないと思った、でも私じゃ届かない――
『2人とも逃げて!!』
届かない手の先、そこには――テンマがいた。
『がッ……あぁ……ッ!?』
『テンマ!?』
2人に覆い被さって爆発から身を呈して守った、あの子が魔人だって言うのは知っていたけれどそれでもボロボロになった姿を見て、ああ……父さん、母さんと同じくらい……大切だったんだって。
私じゃ守れなかった大切な人をボロボロになってまで守ってくれて……
『……あと、テンマ。ん』
『な、なに?』
『まだ怪我完治してないと思うから、おぶさって』
『いやそれは……』
『じー……』
『わ、分かった分かった!乗るからそんな目で急かすなって!』
生きていてくれた、3人が。
その温もりをテンマで実感して、溢れる涙を隠す為にそんなことを言って、あの日から何があってもこの笑顔を守るんだって決めた。
その為に魔人狩りを立ち上げた。
テンマや父さん母さんにどういう風に思われるか分からなかったけれど、みんな了承してくれて、テンマは着いてきてくれた。
でもそこでも私は助けられてばかりで。
「姉さん!情報が手に入った!今度狙われてんのは『相沢家』だ」
「分かった、行こうテンマ」
「おうよ!」
シオリを助けた時も最初に情報を持ってきたのはテンマだった、ずっと相互協力関係だったという勢力からの情報だったから私より早くてシオリの家族を誰も死なせずに救うことが出来て今こうしてネットワークの要になっているしシオリの帰る場所にもなっている。
「オイオイオイオイ魔人かよ!?しかもどんだけいんだ!!」
「テンマ、やれる?」
「やれるかどうかじゃなくてやるしかないっしょ!シュート!」
アオイの時もそうだ、テンマがアオイの家族が乗った車のタイヤを撃ち抜いてパンクさせていなければ魔人達の攻撃を真正面から喰らって助からなかったかもしれない。それにあの数を対処するのも時間が掛かっていたと思う。
「……今日も、なんだよ」
シイナ、セツナと一緒に助けた猫、そしてその家族。
少しだけど交わした交流と「また会おうね」と言う約束。その直後に起きた爆破テロで間違いなくあの家族がよぎった、もしかしたら助けられなかったんじゃないか、そんな悪い予感が脳みそから離れなくて……
現場に駆け付けた時、あの家族とすれ違った。
間違いない、あの猫の家族だと分かった……ホッとするのと同時にその先に誰がいるのか、見なくても理解していた。
ああ、やっぱり。やっぱり、テンマだ。
あの子はいつだって私が手をどれだけ必死に伸ばしても届かない人達を救ってくれる、私より余程強い人なんだ。そう確信するには十二分過ぎるくらいで。
「ヴア゙ア゙ア゙ア゙ア゙、ア゙ア゙ア゙ア゙……ア゙ア゙ア゙ア゙、ア゙ア゙」
「……この事件、やっぱり篠宮と蔵木の仕業で確定だね」
『確証のあるものが?』
「後で説明する、待ってて」
だから、手の届く範囲なら助けないといけない。こんなところで立ち止まっていられない、そう施設で犠牲になった子達を思うなら……『これ』を葬らないといけない。
「くっ、はっ、ふぅ……」
伸びてくる触手はまるで助けを求める子どもみたいで、本当に嫌になる。目の前で何人が犠牲になったかなんてもう数え切れないくらい見てきた、テンマと違って私1人で救えた命なんてほとんど無い、出来るのはせめてこれを倒して弔ってあげるくらい。
「ちぃ!」
地中から伸びてくる触手に一瞬不意を突かれる、コイツは篠宮が扱っていた侵略種で何人もの魔人にされた子どもを取り込んでいるから強いのは当たり前……でもそんなので苦戦してる暇は無い。
「必ず、あの子達の無念を晴らす」
少し身体が痛むけどそんなの関係無い、『氷牢』で蠢く怪物を……眠らせてあげるべき存在を凍らせる。
「――ごめんね」
凍らせた標的は意図も容易く粉砕された、子どもの頃は全く敵わないと思っていたのに。
走馬灯のように、連れていかれた子達の最期が思い浮かぶ。
「おやすみ……」
私にはこれくらいしか出来ない。
テンマがいなければ両親に言葉さえ届けられないままだったし、力だって大切な人1人私だけじゃ守れない。
何より、届けられなかった言葉があったところで何も出来なかったのに力も届かない自分が心の底から情けなく思う。
「篠宮……!!」
情けないからこそ、篠宮だけは自分が殺す。
もう誰かを理不尽に失いかける気持ちなんて懲り懲りだ、テンマもユズも、ユーナ、シオリ、アオイも。シイナやセツナだって。
シイナが魔人になった理由はテンマから聞かされている、そうじゃないと生きていけなかったから、どうしようも無かったからだと。セツナは……分からない、記憶喪失だと聞かされている。
でも、私は2人を信じたいって思った。
「この負の連鎖は必ず止めてみせる、止めないといけない。私が何としてでも」
思い耽っていると、倒したはずの怪物から触手がまだ伸びているのに一瞬遅れて気付いた。しまった、もう倒したからと油断した、一度攻撃を受けるしかない……
「!?」
しかしそれは『炎の銃弾』によって防がれた。
……ああ、ほんの少しだけ、もしかしたらこうなるんじゃないのかなって思ってたよ。でもまさか本当になるなんてね。
「え……トワ……?」
『トワちゃん!?』
「――シイナ、セツナ」
紅蓮の髪、炎の弾丸、間違いなくシイナとセツナだった。
テンマから話を聞かされた時、全く予想しなかった訳じゃなかった。テンマが無害だって話すくらいの魔人、EXCEEDSが目を付ける可能性があるのはうっすらとずっと考えていたから。
でも不思議だね、いざ目の前に立たれると動揺して手が震えちゃう。分かっていたのにね。
大切な親友、家族を亡くしかけてテンマに救われて、テンマの事が大好きで――多分、きっと、私もシイナも、セツナも、テンマのことを異性として好きだと思ってる。
私の大切なものを守ってくれて、いつでも隣にいて、笑いかけてくれて、こんなにも心が温かく、熱くなる。父さんや母さんともまた別の感情が芽生えた、これは恋なのだと、明確に確信した。
シイナもセツナもそんな私と同じ目をしていたから、そうなんだと思っているしそうだったら嬉しいな、なんて。
……本当ならここで刀を降ろして良いとさえ思った、戦う必要は無い。私はシイナとセツナの境遇、生き方を理解して納得して、同じ人を好きになって、全部を話し合ってもっと仲良くなりたいとまで思った。
――それでも、私は刀を握ったままだった。
本気で話をしたい、その為にはぶつかり合う必要がある。
そう、思ったから。
~オマケ EXCEEDSに呼ばれた直後の光一~
はやて『光一君!?キミ、リニスとアリシアを無断で召喚したやろ!!』
光一「それは済まないと思っているが偶然誰よりも早く今回の事件を発見したものでな!連絡より先に召喚して対処していた!!説教ならこれの後にいくらでも受けよう!」
はやて『も〜ホンマにキミは……今回は緊急事態やったから不問とします!でももう少しはよ連絡してほしかったよ!』
光一「いやはや面目無い!……それと1つ良いか、はやて」
はやて『なんや?』
光一「今回の件、どうもきな臭い。警察との協力はなるべく避けたい。こんな大規模なテロ、ただの魔人犯罪者が起こすとは到底思えぬからな……現地の公的な組織との関わりをなるべくシャットアウトしておきたい」
はやて『いや、でもな……うーん……分かった、ルークにはこっちから伝えとくわ。光一君を信じとるからな』
光一「助かる」
※これのお陰で現状まだ指名手配はされてません