夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
果たしてその先にあるものとは
「見つからないようにするったってどうすっかなあ……俺にはINVISIBLE無いし、姉さんみたいに生きた状態での能力奪取も出来ないし……ま、見つかったらちょっと眠っててもらうとするか」
時間帯は日はすっかり落ち夜真っ盛りとあって隠密行動を取るにはちょうど良い時間帯だ、侵略種を無視すれば簡単に自首まで辿り着けるだろうが……俺はそれでもこの世界の人達を守りたいというお人好しな感情が先行するらしい、派手な動きはせず携帯してあった投げナイフ用のナイフで着実に一体ずつ殺りながら慎重に移動していく。
今頃姉さん達もEXCEEDSも俺を探すのに躍起になってるはずだ、通信用の蜘蛛は安全な場所に隠しておいたから発信機が仕込まれていたとしたらデコイになってくれる。この全身黒ずくめの服装も闇に紛れられてかなり良い感じだ、後は見つからないでくれれば何も言うことはないんだが……
「……にーやん、1人でどこ行こうとしてるの?」
悪い予感ってのはどうにもすぐ当たるらしい、目の前に見慣れた人影が1つ。戦いたくない、可愛い可愛い妹分のアオイ。
自分がバケモノになってしまったと言う苦しみを無言で受け止めたあの夜からにーやんにーやんとことある毎に引っ付いて来て、出来ることならその笑顔をずっと見ていたいと思うくらい、もうあんな顔はさせたくないと思うくらい、いつだって抱きしめてあげたいと思うくらい大切な存在。
……そんな子に、ナイフを向けた、向けてしまった、向けざるを得なかった。
傷付けたくないのに。
「そうは問屋が卸さないってか?アオイはほんと、俺を見つけるのが昔から上手いよな」
「当たり前でしょ、大好きなにーやんだもん。どこに居たって見つけるに決まってる、ずっと一緒にいたいから」
「そりゃ慕われてるこって。……でもなアオイ、悪いがお前に構ってる暇ねえんだ、ごめんな」
だからせめて、物理的に傷つける事だけはしないように。
「え……ぅあっ!」
「傷付けたく無いんだ、分かってくれ。本当にごめん」
『幻覚』、『麻痺』どちらも精度こそ高くないが組み合わせることでまあまあの足止めは出来る。本当なら痛い思いをさせたくはなかったが、こうでもしないと追ってきそうだから許してくれ。
「に……や、ん……」
「こうなるって分かってたら昨日沢山抱き締めて、甘えさせてやれたんだけどな……はぁ〜あ、言っても仕方ねえか」
光一は悪くない、寧ろ今日話してくれて本当に助かったと思ってるしあのタイミング以外話せなかったのだから。
だから誰が悪いとかは無い、ただもしも今日がこういう日になると分かっていたら甘えさせてやれていたのかと思うと前世死んだタイミングが悪過ぎて溜め息しか出てこない。
「……じゃあな、元気でやれよ」
「やだよ……なんで……」
篠宮蔵木と殺り合って生きて帰って来る気はないし前述した通り生きていたとしてもどさくさ紛れに奴らと一緒に死んで全てを終わらせるつもりだ、だから別れの挨拶は今生の別れ。
アオイと過ごしたのは2年くらいだったけど、この子がいたお陰で魔人狩りの仕事も陰鬱とし過ぎずに済んだ。俺の癒しだった、だから別れの挨拶なんて直接言って悲しませたくなかったのに。
やってらんねえなと思いながらもそれ以上は言わずに、防御結界用の侵略種を寄生させアオイのいる場所を後にする。このままいたんじゃいつまで経っても動けやしない。
「精神的に疲れる……でも乗り越えないといけない壁ではあったか」
見つかったのなら見つかったでこれは試練だと思うしかない、これくらいで躊躇しているのなら自首なんて辞めてしまえと言う啓示だろう。身内であっても自分の使命を全うするのであればある程度排除出来るかと試されているに違いない、そんな神様がいるのであればまったくもって陰湿極まりないとしか言い様がないね。
「おにいさん……心配したんですよ」
「……ほんっと、こんな運命にしたのだとしたら俺は心底神様を恨むよ」
立ち塞がるもう1つの影、ユズだった。
神様がいるのだとしたらなんて残酷な運命を背負わせたのだろう、試練があるにしても同じ姓を貰った『妹』と対峙しないとならないなんて、ふざけていると叫びたいくらいだ。
実の妹のように見て可愛がってきた、たった1年だがそれでもユズに『自由とはこんなにも素晴らしいものなんだ』『笑顔とは、幸せとは、こういうものなんだ』と人間らしい感情を沢山沢山学ばせて、とても良い子に育ってくれたし俺と姉さんの事を血の繋がった兄や姉のように慕ってくれている。
『妹分』でさえ胸が張り裂けそうな程に苦しかったのに、『妹』に刃を向けろだなんてこんな辛いことがあって堪るか。
「行きましょうおにいさん、今ならEXCEEDSの方々が保護してくれます。……まあ、国連みたいなものを信用出来るのかというところではありますけど、今は緊急事態ですし頼るしかないです。なので――」
「そりゃ出来ないお願いだな」
「……どうして」
「今はEXCEEDSの手も借りたい時だ、なのに指名手配犯を庇って立場が悪くなったら本末転倒だろう?だから俺がみんなのデコイになる、その間にみんなと親父、母さんをEXCEEDSで保護してもらってくれ。……ユズにしか頼めないんだよ、親父と母さんの事は」
しかもユズは俺の『幻覚』を突破してくる、何故かは分からないがとんでもないことをしていそうで怖い。精度低いったってユズの能力に看破できるだけのものは無かったはずなんだが……だから戦うとなれば間違いなく傷付けることになる、いくらなんでも大切な妹殴るとか蹴るとかしたらメンタルボロボロになるぞ。
だからここは何としてでも引いてもらう、卑怯だとは思うが親父と母さんのことを出せば簡単には反論出来ない。
「おにいさん、ちゃんと帰ってくるって約束してください」
「――ああ、するとも。ちゃんと誤解だってのが認められれば帰ってくる」
嘘だ、帰ってくるなんて約束一片たりとも出来ないし誤解が認められることも無い、分かってて言ってる。身内に嘘をつくなんてしたくもないがこれで引き下がってくれるならいくらでも付いてやる、その方がまだマシだ。
「それでわたしを騙せると思ってるんですか?」
「分かっててもそこは受け入れてほしかったんだけどなあ……良い子に育ったと思ったのに今頃お兄ちゃんへの反抗期か?」
「わたしが、わたし達がどんな想いでおにいさんを心配していたか分かりますか?あなたはそれをまったく分かってないじゃないですか!」
「困ったなあ、どうやって突破しよう」
これで引き下がってくれるなら嘘をついたって良かった……んだが、効かないんじゃ言い損でしかない。飛び抜けて賢いユズなら俺の気持ちをわかってくれると思ったんだけどな……こんなところで反抗期されても困るんだけど。
「おにいさん!!話を聞いてください!!」
「妹なら兄の言う事を聞いてくれないと困るんだよ、それも親父と母さんのこと頼んでんだから」
「分かりました、そこまで言うなら――実力行使で行きます」
「だろうと思ったよ」
結局こうなるのかと『硬化』を発動、それだけでユズの攻撃は通らなくなる。そもそもこの子は戦闘力は低い、アオイもサポート寄りだがそれよりも更にサポート寄りの能力をしている。
だから殴りかかって来たところを掴んで振り払っただけですぐ地面を転がって行った。それだけ俺とユズとの物理的な戦闘力には絶望的なくらい差があった。
「ぐっうっ……おにい……さん……」
「……お前、ほんと最悪だよ。なんで可愛い可愛い妹に怪我させないといけないんだよ、なんで……」
簡単に振り払ったはずだった、そのままアオイと同じ感じで放置しておけば良かったはずだった、なのにアオイから立て続けでしかも妹をこんな目にさせてしまったという自責の念に俺は少しだけ耐えられなくなってしまった。
「ごめん……ごめんなユズ……ごめん……」
立ち上がれなくなったユズに駆け寄って抱き締める、こんな事ならアオイにもしてやりたかったと後悔しながら、震える手で零れる涙も拭えず抱き締めて頭を撫でる。
自分で傷付けた癖に滑稽すぎることこの上ない。
「こんなバカな兄貴の事なんて忘れてくれ、幸せになってくれ……」
「そんなの……嫌、に、決まってる……じゃないですか……」
「……バカヤロウが」
ユズから離れる、いつまでもこうしていたら自首なんて出来ない。俺はコイツらを幸せにする為に、安心して過ごせる世の中にする為に今から決別するんだ、だったら躊躇するな。
「――姉さんによろしく伝えといてくれ。…………じゃあな」
俺はこの子達に、アオイとユズにどれだけの傷跡を残してしまったのだろう。それは分からない、分からないがそれでも進まないと行けなかった、それが一番誰しもがハッピーエンドを迎えられる方法なのだから。
まだなにか言いたいように口を開こうとしたユズを優しく手刀で眠らせる。
「そうとも、俺はみんなが幸せになるためにフラグをへし折りに行くんだ」
「しかし……少しの間と言うには、みんなと絆を育みすぎたなあ。あーあ――もう、会えねえな。シオリ、ユーナ、光一、シイナ、セツナ、アオイ、ユズ――姉さん」
「ごめん、こんな俺の事心配してくれて、ありがとう」
その声は、誰に聞こえる事も無く宵闇へと消えていった。