夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
その報告を受けたトワはテンマ奪還へ動く
「ごめんなさい……ごめんなさい……トワおねえちゃん……」
「にーやんの事見つけられたのに……何も出来なかった」
テンマが指名手配された、と聞いた私達は手分けしてテンマを探そうということになり各自探索をしていた。だけど途中でアオイ、ユズと相次いで通信が途絶えた事でその場所まで向かうと麻痺で身動きの取れなくなっていたアオイと、気絶しているユズを発見。話が出来るようになったと思ったらこれだった。
こんな事ならテンマを1人にさせるんじゃなかった、1人で実の両親の死を自分の責任だと背負っているのにはとっくの昔に気が付いていたのに、どれだけ幸せそうに過ごしていても時折「自分がその輪にいないような目つき」をしているのにも気が付いていたのに、グッと拳を握り締め……1つ深呼吸して、アオイとユズの頭を優しく撫でる。
今は自分の失態を悔やんでもどうしようもない、リーダーとして、年上としてまずはこの子達のメンタルケアをしなくては。
「大丈夫……ユズもアオイも悪くない、それよりもこれからどうするか決めないとね。このままだとテンマが危ないのには変わりないから」
今すぐにでもテンマを探しに行きたい気持ちを落ち着けるように、優しく声を出す。2人に語り掛けているがこれは自分に言い聞かせているのもある、ここで取り乱したらテンマに対して恋心を抱いている年下のユズとアオイを更に不安にさせてしまう……それは何としてでも避けないといけない。
「しかしこれからどうしますか?テンマの無実の証拠集めをするにも私達はそうした事はズブの素人ですし」
「うーん……こうなった以上EXCEEDS頼るしかないんじゃない?あんまああいう組織頼るのもどうかと思うけど、今は四の五の言ってられる場合じゃないし」
「今は好き嫌いで頼る頼らないを決めてる場合じゃない、私達が頼れる権力者はEXCEEDSしかいないなら迷ってる暇は無いね。第4管区で戦ったEXCEEDSの隊員も、信じる信じないはさておき誠実さは感じられたからその子が動いてくれるなら心強い」
最早こうなった以上、頼れる機関はEXCEEDSしかない。瑞穂の公的機関では誰がどこでどうやって篠宮蔵木と繋がっているか分かったものじゃないから頼る以前の問題、だとすれば頼れるのは瑞穂の公的機関ではなく海外から来ている機関。
政府から直々に調査と活動を任命されている以上その権力は間違いなくあるはず、これならテンマを救う為の発言や行動が出来ると踏んだ。
「そう……ですよね。落ち込んでいても先には進めない……今はやれる事を考えて頑張らないと」
「絶対にーやんの無実を証明してやる!アイツらの思い通りにはさせないもん!」
「うん、その意気だよ。でも無理はしたらダメ、良い?」
「『1人で背負い込まない、必ず相談する事』」
「『みんなで分かち合って考えた方が早く解決する』」
「私達の約束だからね、1人の悩みはみんなの悩み。それを破ったテンマにはキツいお仕置きをしないといけないから絶対無実を証明して取り戻そう。――テンマが決めたルールなのに勝手に破るなんて許されないからね」
「そうだそうだー!」
2人も元気を取り戻したみたいで安心した。それに魔人狩りをやる上で決めたルールがある、それが『悩み事やトラブルが起きたら必ずみんなに共有して相談する』。チームはみんなで1つだから頼って良い、頼られて良い、お互いに頼り頼られが出来るのが理想だ――と、テンマが言って約束事になった。
なのにそのテンマが最初に破っている、これは由々しき事態。
みんなが守り続けていた約束をまさか言った本人が守れないだなんて、そんなのお仕置きする以外無い。それにあの子はどうしても自己肯定感が低い、自分をエリートと言う時もあるし実力に対する自負があるのは分かるけれど自分自身が異性として好かれていると微塵も思っていないところが目立つしそれも気に食わない。
だからこの際にお仕置きを徹底的にして、自分がどれだけの女の子を無意識に陥落させてきたのか自覚させないとダメ。
その為には取り返さないと。テンマと、私達の日常を。
それにEXCEEDSも完全に信用出来ないと思ってる訳じゃない。
『うむ、テンマの姉上。だが俺様達にもEXCEEDSから緊急連絡が来た故ここから先の侵略種対処は『国連機関・EXCEEDSとしての仕事』となる。あまり顔を合わせない方がお互いの為であろう』
『うむ!また会おう!』
いつどこで出会ったのかは分からないけれど、テンマの友達の人は……信じても良いかもしれない、そう思った。
立場があるのにそれを度外視してテンマと協力してテロに対応して、そのまま組織と合流して利用しても良かったのにこっちの事を考えて連絡が来たら『お互い顔を合わせるのはあまり良くない』と離れてくれた。
あそこまでテンマや私達を尊重してくれたあの人や、第4管区で出会った隊員がいるなら助けてくれるという可能性に縋ってみたいと思えた。
そうしてみんなの顔色が良くなったところで、足音が聞こえた。
もしかして篠宮や蔵木が何か仕掛けていた?私達の事も指名手配に掛けた?と一瞬思ったものの、その姿を見て嫌な可能性は消して良いと至る。
「……良かった、テンマの姉上にそのお仲間と見受ける」
「誰アンタ」
「自己紹介しよう!俺様は結城光一!EXCEEDSの隊員である!」
「EXCEEDS?アタシらが行くなら良いけどわざわざ出向いてくるってなんか怪しくない?」
「大丈夫だよアオイ。この人はEXCEEDSだけどテンマの友達だから、心配して探しに来てくれたんだと思う」
「うむ!その通り!テンマが指名手配を掛けられている故、早急な保護が必要と判断して上の判断を待たず出てきてしまった!」
「ええ……」
「なんというか、怪しくはない……かも、です」
そう言えばあの時は名前を聞けないままだった、今こうして名前を聞けて良かったと思ってる。いつかテンマの友達も、出来たのなら家に呼びたいと考えていたから。
「ところでつかぬ事を聞くが、当事者のテンマは?」
「1人で自首しにいった、止めようとしたけど振り切られた。だから今からEXCEEDSに協力を仰ごうとしていたところ」
「なにっ!?テンマが自首を……こうしてはおられんな、テンマ達のご両親は既にEXCEEDSで保護しているから本部に向かおうぞ」
「もう保護を?仕事が早いですね……」
「早いってか早すぎるっしょ」
「そこは無断でやってしまったので申し訳ない!だがテンマが指名手配された以上彼らの身に何かあってからでは遅いと組織の独断で行った!文句なら後でいくらでも聞こう!」
「……いや、大丈夫。父さんと母さんを真っ先に助けてくれてありがとう」
それに怒られるのを承知で先に父さんと母さんを助けてくれていた、なんて知ったら尚更信じたくなるよ。
いくら友人の身内と言えど会った事の無い人達の保護を優先してくれるのは、今まで見てきたどの公的機関よりも信頼に値する。
「そう言ってもらえるのであれば有難い限りだ。さあ、向かうとしよう。なに、元よりウチの直属上司は心配になるくらいの人格者だ不当な扱いはさせないはずだ。更に言うのであれば、俺様、シイナ、セツナの友人の大切な人達だ何かあればこちらが先に手を出すやも知れぬな?」
飄々とした言い回しだけれど目が笑っていないのが分かる、テンマの事が本当に大切なんだと理解出来る。テンマの大切な人は自分の大切な人にもなる、そうであればこそ『当然誰であっても大切に扱う』という認識から『何かあったらしてきた連中に対して口より先に手が出る可能性がある』という認識に変わる。
……待っててね、テンマ。
必ず無実を証明して、取り戻して、一緒に篠宮と蔵木を抹殺して、みんなで平和に暮らそう。
そしてこの気持ちを伝えて、テンマがどれだけみんなから、私から、愛されているか伝えるから。
だから生きていて。どうか……