夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「ふぅ……来ちまったなあ」
本当は自分の足で警察署まで歩いて行ければ良かったんだが、アオイ、ユズと相次いで見つかってしまった為にこうして近場の小さな交番まで出向いた。
とはいえこの交番は何も縁が無い訳じゃない、本土でも度々侵略種駆除の時に協力してくれていた警察の人がいるのがここだ。今日のテロの時にも俺と話していたあの警官だ、捕まるのなら見ず知らずの警官より知ってる顔に手錠掛けてもらった方がなんだかんだ最後の別れの挨拶も出来て一石二鳥だしな。
良くしてもらってたし歳の離れた友人みたいな感じだったしきっと戦友でもあった、魔人狩りは裏稼業の戦友だったり歳の近い友人だったりだけど表稼業の戦友にもどうせなら感謝とか思い出話とかしたいと思ってしまうのは甘えだろうか。
「直接背中を預けた訳じゃないけど、俺の背中に背負った人達を守ってくれたからな。間違いなく戦友だ」
直接背中合わせになった事は無い、侵略種駆除は俺らハンターの役割で市民を逃がすのは警察の役割だから。だが俺らが守りたい、背中に背負った市民や大切な人の命を預けられた、それにプライベートで話すことだってあった。だから間違いなく戦友と言える、この言葉に嘘は無い……『いつものように』気さくにドアを開けて入っていく。
「よっ」
「……テンマ君、なんでよりにもよってこんな時に来たんだ。キミだってニュースは見たはずだ、今なら見なかったフリをするから早く出ていきなさい」
「なんでって、そりゃ出頭しに来たんだけど?まあほんとはここに来る気は無かったけど身内がしつこく追い掛けてくるもんで、ここでお縄になろうかと」
「バカを言うなよ、キミが侵略種関連で人々を危険に晒す行いをするはずがない。何かの間違いに決まっている」
この警官は人が良い、いや良過ぎる。人を見る目はあるが優しすぎる余りに一度信用した人間を最後まで信じる、信じてしまう。今回は確かに俺は第4管区のことについては全くの無実だから相変わらず人を見る目は腐っちゃいないんだろうが、わざわざニュースを知っててやってきてるんだから意図くらい読んでほしいもんだけどね。
最後にアンタのとこに来たんだよってね。
「それが事実かどうかはさておき、『犯罪者に対する私刑』は実際してたよ、裏稼業としてね。何人も殺した、何十人も殺した、或いは何百人に上るかもしれない、無数の犯罪者を手に掛けてきた。いくら犯罪者でももう俺の手は血まみれなのさ……逮捕する理由になるだろう?」
「キミが手を掛けなければその殺してきた犯罪者の何十倍何百倍もの犠牲者が出ていたんだろ?だとしたら――」
その先は絶対に言わせない、言わせてはいけない。
ただの一般人が言うなら問題は無かった、言わせといても「ああ、そう?そう思うのは自由だけど俺は引かないよ」で済んだがこの人は警察だ、だとすればそれは言わせてはいけない言葉だ。
大切な友人、大切な存在の1人だからこそ立場を尊重したい、最期に言葉を伝えず後悔したまま逝きたくない、もうあの時みたいに後悔したくない、だから咄嗟に口を挟む。
「ダメだよそれは。アンタは警官だろ、だとしたらそんな感情論で動いちゃいけない、それは警官としての矜恃に反する行いに他ならない。友人としてそれを言ってくれるのは本当に嬉しいと思ってるし凄く恵まれてるんだなと思う、信じてくれて有難いよ。
でも今アンタは警察じゃないか、犯罪者を法の下に連れて行って正しく裁く事を仕事にしているんじゃないのか?だとしたら今の発言は聞き捨てならない、ここに犯罪者がいるんだぞ?何人もの人間を殺してきた大量殺人犯がいるんだぞ?何をチンタラしている?アンタのやるべき仕事は、目の前に現れた、自首してきた犯罪者に手錠を掛けて法の下に向かわせる事だ、違うか?」
俺の手は血まみれだ、それは他の魔人狩りメンバーもそうだがその罪も背負って捕まりに行くのだと決意したのは他ならぬ自分だ。だとすればこの手には他の5人が奪ってきた血も着いているし奪ってきた命を背中に背負っているのと同義。
たとえどれだけ罪を犯してきた人を殺してきた犯罪者であっても、それが人ならざるものに成り果てた魔人でも、人の命は人の命に他ならない。奪えばそれは背負うべき罪に変換される、奪えばそれはどれだけ人ならざるものでも『人殺し』になる、それが事実だ。
何も無実で捕まろうって訳じゃない、相応に捕まる理由もあるんだから何の憂いもなくこの手をコイツに突き出せる。
「……バカだな、キミは。大馬鹿者だよ。その立場を捨ててまで見逃したい程の人格者だと思ったから言ったということくらい、分からないはずがないだろうに。それでもテンマ君、キミはその手を僕に突き出すと言うのかい?どれだけ沢山の人を救ってきた手だと思うんだ?僕に英雄を捕まえろと言うのか?」
「俺は英雄じゃないさ、たとえ人未満に堕ちた外道を殺したとしても法律はそれを人間と断定する。だとすれば俺は人殺しだ、人殺しは英雄じゃない、英雄と言っちゃいけない。ただの人殺しでしかないのさ」
まだ何かを言いたげな俺の戦友は、それでも俺の発言と表情から「最早説得出来る材料が無い」と思ったのか項垂れ、手錠を取り出した。そうだそれで良い、アンタこそが英雄になれば良いんだ。事実が異なるとしても俺が全て解決して奴らと一緒に死ねば英雄になれる、俺の最後の置き土産で篠宮と蔵木、そして警察上層部の悪事を公表してくれれば出世は確実だろうさ。
上手い事証拠見つけて英雄になってくれよ、分かりやすいように痕跡残しておくから。
「さ、行こうか」
「ああ……」
まさか余裕綽々で発言してるのが手錠を掛けられてる方だとは、事情を知らなければ思うまい。
さてこれで会うのも生涯最後だろう、パトカーに乗り込んで無言の道中で話すべき事を伝えきってしまおう。
「――これは独り言だから無言で聞き流してほしい」
「……」
「今回の事件、『篠宮マナ』って奴と『蔵木エイジ』って奴が黒幕だ。そんで警察上層部や裏社会と繋がっている……」
「それは……」
「もしも似たような話が浮上してきたら徹底的に調べ上げてくれ、浮上してきた時点でもうソイツらは終わりだからな。今はくれぐれもすんなよ、証拠出てこないから」
息を飲むのが聞こえる、今こうして伝えているという意味が分かっているのだと思う……俺の置き土産なのだと暗に伝わっているのだろう。真の目的が黒幕との接触と全てを終わらせに行くというのももしかしたら伝わっているのかもしれない、まあそれは些細な話ではあるか。
「後さ、俺はハンターだから人々を守るとかそういうのは下手な訳よ。確かに駆除することで守れるのかもしれないけど、安心させたり避難させたりってのは俺じゃ無理だった。そういう意味じゃアンタに俺の背中に背負った人達を守ってもらってたよな」
「ずっと戦友だって思ってた。初めてアンタがこの交番に赴任してきた日、まだまだお互い新人だったよな」
「新人同士なりにハンターと警察の立場で色々話したり、助け合ったり、頑張ってきたし仲良くなれたと思ってる。一回りというか倍年齢違うけどさ、それでも友達だって思った、戦友だって思った」
「本当に楽しかったよ。そんで手錠を掛けたのが他の誰でもないアンタでホッとした、アンタが友人で本当に良かった。最後にこうして笑顔でいられんのは間違いなく――ああ、時間切れか」
感謝の気持ちも何とか伝えきれたか、最後の一言だけは言いきれなかったがこれは最後まで話をしたかった俺の蛇足でしかないから実質伝えきれたと言って良い。
「……泣くなよ、アンタは今回の事件の容疑者を捕まえたんだ。何も恥ずかしいことは無い、胸張って入っていけ」
小さく嗚咽が聞こえたその背中を肘でちょっと強く小突く。俺の倍生きてる警官が私情で泣いてるだなんて格好が付かない、こういう時くらい胸張って警察の仕事しろっての。
「最後に見る友人の顔がそんな情けない顔は嫌なんだよ。ちょっとくらい格好付けてくれよ」
「…………ああ」
「ん、それで良い。自慢の友人なんだからビシッとしててくれ」
深呼吸を1つして目元を拭ったその姿は、空元気だろうが様になっていた。
これならもう大丈夫だ。
パトカーから降りた俺を大量の報道陣とフラッシュが取り囲む。これで名実共に逮捕という形になるんだなと実感が込み上げる。
空を1つ、見上げる。
どうせ死ぬなら地獄に落ちる前に流れ星にでもなってみたいと、下らない事を思って中に入っていくのだった。
とある警官
テンマの戦友で歳の離れた友人、30歳の交番勤務の警官
まだまだ若々しく青いところも多々あるが正義感と行動力に溢れておりテンマと相性が良かった
プライベートでも話す仲でありお互いがお互いを無条件で信頼出来るくらいであった
奇しくもテンマに手錠を掛けたのは表稼業での戦友の彼だった