夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「どうだテンマ、美味いか?」
「うん、美味い」
「だろ〜?エマの料理はなんだって美味いからな!」
「も〜トウヤったら」
俺が夜海家に引き取られて?拾われて?から1週間が過ぎた。つい昨日どうやら俺の名前が決まったようで、トウヤの奥さんエマの名前に似ている『テンマ』になった。戸籍もちゃんと登録したようで、これで俺は晴れてちゃんとした人間の生活に戻れたということになる。
テンマという名前も悪くない、漢字にすれば恐らく『天馬』だろう。大層な名前だが男としてかっこいい名前に憧れはあったから受け入れるのに時間は掛からなかった。
しかしこの家の夫婦は賑やかだ。トウヤとエマは笑顔が絶えない、眩しすぎてたまに苦手な空気になることもあるが基本的にこうした平和な空気は嫌いじゃない。
「……ごちそうさま」
「おう!この後は勉強か?」
「まあ」
「あんまり根詰めすぎないようにね」
「……うん」
ただ、トワは思った通り感情の起伏が殆ど無かった。
俺はEXCEEDSを予告編しか見られずに死んでしまったから夜海トワがどういう出自でどういう経緯で夜海家に引き取られたか分からない、そもそもトワの苗字が『夜海』とすら知らなかったが話から推察するに孤児だったんだろうか。
どちらにせよトウヤもエマも魔人化に驚いてなかった辺り、トワも魔人になった姿で遭遇していたのだと推察しておく。だとしたらワンチャン、変な研究施設育ちってのもあるな。リリカルなのはシリーズってそういう悲惨な出自やりがちだからな、フェイトとかエリオとか特に。
俺はご飯を無遠慮におかわりした後自室と銘打たれた部屋に戻って行った。布団は本当にフカフカだし食いっぱぐれないし、デメリットは無いな。
そういえばこれから小学校に編入する手続きもするらしい。年齢的に5年生だから相当終盤だが、社会性や社交性を学ぶには確かにこれ以上無い選択肢だ。まだ前の親がまともだった頃は幼稚園にも通っていた身、甘んじて受け入れようじゃないか。
「ん?」
そうしてこれからのことを考えていると部屋の扉がノックされた。
「……いる?」
「まあいるけど」
ノックしたのはトワだったようだ。トワは3歳年上で受験勉強とハンター業をしているから大変だろうに、わざわざ新入りの俺のところに来るなんて何が目的だ?
「少し話、したい。良い?ダメならダメで聞かないけど」
「話ねぇ……大方、俺の魔人としての話だろ?良いぜ、同じ魔人になら」
「……ん」
腹の中を探ってみたが嘘はついてないようだ、これは本当に『同族』としての出自に興味を持っているとみて良いだろうか。
「貴方は……『あそこ』にいたの?」
「『あそこ』?がどこかは知らないが、多分アンタの思ってる場所じゃないな。俺は一般家庭とホームレスしかしたことがない」
「……そう」
「え?それだけ?」
「……ん」
とんでもない肩透かしだった。てっきりもっと踏み込んで聞いてくると思ってたのに、例えば人間を食べた事はあるのかとか、力を悪用した事はないのかとか。俺をそういう悪人なのかどうかを見極めるために話しているものだとばかり思ったから素っ頓狂な声が出た。
「もっとこう、俺が悪の魔人なんじゃないかとかは聞かないワケ?」
「良い。分かるから」
「分かるってお前……もしかしたら俺が嘘つきとか隠し事してるとか思わないの?」
「思わない」
「なんで?」
「何となく」
「ええ……」
あれ?この子割と天然なのか?根拠無しに聞いてないの?ええ……分かんねえ、俺には分かんねえ感覚だそれ。
特に後に魔人絶対殺すウーマンになる女とはとても思えない、何かそうなるキッカケでもあったのか?
いや待てよ?だとしたらこの家族フラグ過ぎないか?超が付く聖人夫婦、魔人の力を見ても特段何も言わない、平和な時間、原作開始前……めちゃくちゃ死にそうな雰囲気プンプンじゃねえか。
「私が話したかったのはこれくらいだから。じゃあ――」
「待って」
『だとしたら』なのか『そうでなくとも』なのかは分からない、でも俺の話を今トワに話しておくべきだと思った。
俺が後悔している唯一の家族との話を。
「なに?」
「……俺と前の家族、実の両親との話。何となくトワには聞いておいてほしくなった」
「……そう。だったら聞く」
「俺はな、実の両親を殺したんだ」
話の切り口としては衝撃的かもしれないが、個人的にはその辺はどうでも良かった。もう終わった話だったから、どう足掻いても取り戻せないなら引きずるだけ無駄だと知っていたから。
それでも1つだけ、どうしても後悔している事があった。
「この額の借金なんてどうするのよ……」
「そうは言われても……もうどうしようもないんだよ、〇〇だって食べ盛りでまだ小さいのにこれじゃまともにメシも食わせてやれない。こんな辛い環境に置いておくなんて……」
「借金が返せないこんな家庭に置いておくなんて不幸にしかならないわ、どうしたら……」
ある日、両親がこんな話をしているのを聞いた。
事業失敗で借金をしたというのは聞いていたからいつかこんな日が来るだろうと感じていた、だが俺はここで失敗した。話をスルーして聞かなかった振りをした、せめて食い扶持を減らす為に俺を施設に送るものだと思っていたから気に留めなかったのだ。
何せまさか両親が魔人化薬を知っているだなんて想定していなかった、だが両親はどこからともなく『それ』の情報を手に入れて非合法の商売に舵取りを始めた。そ、魔人化薬の売買。
そしてそれに魅了された両親はいつしか自分自身も魔人になり、理性を失い、当初の目的だった『俺を養っていく為に手を出した』という事を忘れ『俺までもを喰らおうとした』。
だから俺は魔人になって両親を殺した、殺すしか無かった。
生きるために、自分だけはこの苦しみから逃れるために、自分は被害者なんだと正当化するために。
「……後悔してるんだよ。もしもあの話を聞いた時点で『俺は借金があっても今までの2人と共にいたい』そう言えていれば何かが変わったんじゃないかってずっと思って。もし何も変わらなかったとしても、その言葉が言えていればきっとここまで後悔なんてしなかった。『言わなかった』その事実だけがずっとずっと脳裏によぎるんだよ」
言って何かが変わった、とは言いきれない。寧ろ何も変わらなかったと思う。何せ両親はあの時点でもう大分追い詰められていた、いくら実子と言えど言葉1つで押し止められていたのならばこの世界はもっと平和になっているはずだ。
それでも、もしかしたら何かが変わったのではないか、言わなかった事で生じたその『もしも』が一生まとわりついて離れない。
「バカな両親にしてバカな息子だったって事だ」
両親の事は嫌いだ、大嫌いだ。俺をこんな目にあわせたんだから地獄で一生業火に焼かれててくれたら良いと思う。
だがそれと同時にこれが呪いとして付き纏う、俺もまた『バカ』だったんだ。もしも死んだらきっと俺は次は転生なんて言うボーナスタイムは無く地獄に落ちるんだろう、両親を魔人にしてしまった事に関して俺にも罪はあるのだから。
「……貴方はきっと、バカじゃない」
「そうか?」
「バカだったら、こんなに後悔しない。私には家族というものはいないから苦しみは分からないけど……それだけは何となく、分かる気がする」
トワはそれを否定した。それがどういう感情かは分からないが、少しだけ気が紛れた気がした。
「家族がいない、ね」
「なに……?」
「いや、アンタにも分かる時が来るさ。いつかね」
だから暗に伝える。お前はもう家族に恵まれているんだと。
いつそれに気が付くは知る由もない、それでも。
きっといつか、トワにも家族が分かる時が来る。そう願って。
・夜海テンマ
EXCEEDSは漫画未履修、アニメ予告編のみ視聴なのでダルナザ共和国は名前すら知らない。漫画がやっていた事と瑞穂じゃない世界の話をしてた事だけ知ってる
EXCEEDS以外は全履修済みで寧ろかなり詳しい
逆にEXCEEDS世界線に関してはシイナ、セツナ、トワと見るからに悪そうなcv.上坂すみれの女とオマケにその女の隣にいた男の顔を知ってる程度、魔人狩りはトワの名前と容姿は知っていたが苗字と他メンバーは記憶していなかった
テンマ「え?EXCEEDSで知ってる原作知識?多分あれって久世シイナ、久世セツナが中心の物語で何とかトワって子が魔人狩りやってて仲間が何人かいるのは知ってる。あとcv.上坂すみれの顔良い悪女とその隣になんかいた男の顔は覚えてる、名前?知らん。侵略種と魔人が絡んでくるのは知ってる」
※セツナが早々に死ぬことすら知りません
※ここが劇場版軸の世界線なのは知っています