夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
これで丸1ヶ月連続投稿達成
「用意周到に縛ってくれちゃって、俺は実験動物か何かかっちゅーの」
目が覚めた時、自分が哀れな状況に置かれているのを自覚して誰もいない空間に愚痴をこぼす。何せ色々と格好付けて振り切ってきたのに捕まって早々鎮静剤は打たれるわ身体は拘束されるわで散々な目にあった、しかも鎮静剤の影響で意識も飛ぶし目が覚めたら覚めたでグルグルに巻かれている上に誰もいない空間に放置されている自分がいるとか情けないってレベルじゃねーぞ。
「しっかし割と警察上層部の中でも魔人知ってそうなのが多かったのが唯一ここに連れてこられるまでの収穫といや収穫か。どうやってヒントを遺すかが難題にはなるが、まあすぐにはそういう事にゃならんだろ。ああいう外道共は実験大好きだからな」
ここに来る中で唯一収穫になったのは、警察上層部所謂背広組はかなりの数魔人を知っていて篠宮と蔵木に協力している点だ。
思った100倍くらい警察が腐ってそうで何より、良識派の選別もある程度事前に済ませてあるしゴミが増えただけとも言えてしまうがそこは仕方ない。良識派が暗殺されない事がこの世界を掃除し終えたあと立て直す時に必要になってくるから、背広組の1人1人に至るまで調査をしてもらうしかないだろう。
俺が生前に遺すメッセージは『幹部以外にも魔人を知ってて見逃してる連中がいる』というところに重点を置けば良い、幹部以外の背広組は誰が良識派で蔵木派かは俺の死後にでも調査してくれる事に託すとしよう、信頼してるのは『警察』ではなく『良識派』だし。
「……一応効いてるフリはしとくか。通じるかは知らんが」
ちなみに薬が効いてない理由はシオリの『薬師蜘蛛』を参考に使役してる寄生型を予め寄生させ、少しずつ解毒薬で薬を上書きしてもらっていた為だ。薬師蜘蛛と違って効果が出てくるまで遅延があるからこうしてまだ拘束されたままだが、隠密行動で多少なりリスクがある前者に対してこっちは事前に自分に寄生させておくだけで事足りるから発見されるリスクが無い、俺ってば天才?
「来たか」
徐々に解毒されてるがまだ少しだけ時間はかかるだろう、篠宮が来たみたいだしまだ下手には動かない方が身のためだ。
「お〜……うんうん、思ったより効いてなさそうだけどこれくらいならしばらく問題なさそうだねぇ。でも念の為だし薬持ってこさせようカナ?」
怨敵とはいえ画面越し以外で、直接対面するのは初めてか。予告編では『顔の良い敵キャラ』くらいにしか考えていなかったが、今の俺はそんなのどうだって良いから早く隙を見つけて殺す事しか考えられない。光一にはまだ全部は聞けていない、だが今日聞いた話のニュアンスで言えばセツナも親父も母さんも、シイナと姉さんの出会いのシンボルである猫の家族も、全員コイツと蔵木が原因で死んだ事になる。
許されるはずが無い、俺が助けられたからまだ全員生きているがここで殺さないと今度こそみんな殺されてしまうかもしれない、何より精一杯生きてきた人達が傷付き死んでいる姿を見て野放しになんて出来るはずがない。
「まあどっちにしても〜魔人狩りなんてお遊びはおしまいね?せっかくトワちゃんと遊べると思ったのに邪魔されちゃったんだもん、それに便利な能力持ちならあたしの役に立ってもらうくらいはしてくれるよネ?」
バカめ、そんなのの役に立って堪るかっての。
薬の効きは……能力が使えるまでになったか、ここまで来た以上勝てるか勝てないかじゃない、『やるしかない』が正解だ。それ以外でコイツ諸共俺が地獄に落ちる方法が無いしな。
『怪力』を発動する。ユーナの『剛腕』と違って傷の再生能力は無い上に身体能力強化も『剛腕』程ではない、その分筋力、皮膚強化と任意部の骨格肥大化がある。これによって『解錠』無しでも拘束具の突破が可能、但し隠密性は0だがな。
「んぇ?」
「悪いけどこう見えて簡単にはいそうですかって殺されるようなタチじゃないんでねぇ!!」
『硬化』『幻覚』『麻痺』『毒生成』『侵略種完全使役能力』今有効に使える全ての能力を解放する。麻痺と幻覚で一瞬でもスタンされられればその間に毒生成で作った弾丸の込められた銃のトリガーを引ける、それに侵略種完全使役能力の一番の利点は「倒されたとしても俺が死ぬ前に撤退させれば死ぬ事は無い」「撤退させた後なら俺が死んでもあっちは生きられる」という点、そこを理解してくれているから使役している連中もドンドン特攻してくれる。
「うわ〜キミ思ったより強いねえ〜」
「お褒めに預かり光栄ついでに死ねぇ!!」
「おーおー血気盛んなんだねえ、えーと……誰だっけ?」
「テメェに名前覚えてもらうなんざ真っ平ごめんだから自己紹介なんてしねーよヴァーーーカ!!」
……とはいえ、さすがに実力の差は歴然か。何がそこまで強くしてるのかは全く待って分からんが俺の攻撃を全部いなしてやがる、毒生成の銃弾が一発でも傷を付けられればアイツにちょっとくらいダメージを与えられるものを。本当に憎たらしい奴だ。
「チッ、バケモンがよ」
「なーるほどなるほど〜キミの実力はよーく分かったよ〜」
「あ?ほざけクソ野郎が」
「いや〜キミすごいね、トワちゃんにしかキョーミ無かったけどちょっとだけびっくりしたよ〜」
「余裕ぶっこきやがって……!」
案の定けしかけた侵略種は全員倒されて撤退、銃弾は一発も当たらずであっちは余裕綽々のニヤケ面を晒してやがる。
このまま倒されたらそれこそ養分になるだけでしかない、そんな利敵行為許されてなるものかってんだ、死ぬ覚悟はあるがそれは何としてでも最悪蔵木を殺せなくてもコイツだけでもぶっ倒して殺してからの話、それまではたとえ四肢を失っても死んでなんてやるものか。
こっちもまだまだ余力を残している風を装って対峙し、睨み付ける。ハッタリだろうがここで引くなんて有り得ない、みんなを守る為にここに来てんだろうが。
「おろ?怖気つかないんだ、これだけしてダメだったのに?」
「あたりめぇだろクソアマ、こちとらテメェを殺す為にわざとここまで来たんだ死んだって諦めてやんねえよ、まあ死ぬのはテメェぶっ殺してからだがな」
「へぇ、かっこいい〜」
「ナメてんじゃねえぞ!!であぁ!!」
「うーん、強くはあるんだけどねぇ。トワちゃんよりは下かなあ、エイジくんはケッコー評価してたみたいだけどアタシからしてみると物足りないかな〜」
硬化と怪力、光一相手に必殺の一撃として放った攻撃も簡単に防がれる。そもそもあの時ですら光一は非殺傷に魔力収集効率の悪いこの地での即興攻撃とあって相当制限されていたのは目に見えていた、それでほぼ互角とすればやはり俺は弱い部類になるんだろうな。覚悟はしてたがここまで通用しないと情けなさ通り越して笑いが込み上げてくるわ。
思い切り殴り掛かったはずなのに軽々しく受け止められ投げ飛ばされる、俺がユズにやったような構図で同じように吹っ飛ばされるなんてな。
「いってて……俺渾身の攻撃をいとも簡単に受け止めやがって」
「え?あれ攻撃だったの?軽すぎて何してたか良くわかんなかった!」
「テメェやってる事抜きで俺の大嫌いな性格してやがるなほんと」
「アタシは〜キミの事ちょーっとだけ気に入ってるカモ?そのコンジョーってやつ?見どころあるし?」
「誰がお前なんかに気に入られて嬉しいんだっつーの!死に晒せ!!」
「も〜大人しくしててってば〜、せーっかく気に入ったしエイジくんも気になってるみたいだからちょっとだけお話させてあげようと思ったのに、手加減出来なくて殺しちゃう、じゃん!」
「ガッ……ハ……ク、ソがぁ……」
あークソ、今ので絶対骨何本か折れたわ痛くて堪んねえ。一体何人の魔人を食ってきたんだコイツは、しかも高い質の魔人を……どんな実験してたらそんなバカな数と質を食えるんだ。どれだけ罪を犯してんだよ。
ユラユラと近付いてくる影にギリギリと唇を噛む、1人で解決するには力不足だったのか?いやだが誰かを巻き込む訳にはいかない、地獄に落ちるべき者同士で一緒に沈むのが妥当だから俺がやるしかないんだよ。
「おーい生きてるー?……ふむふむ、息はあるか。これで殺してたらエイジくんに怒られるところだったから生きててくれて良かったよ。はーいそれじゃお薬も届いたし次こそ暴れないで――」
パァン、と乾いた破裂音が響く。俺はまだ諦めちゃいない。
「いっ……たぁ……」
「へ……ナメ……やがって……」
俺はある意味でこの瞬間を狙っていた。篠宮がノコノコこっちに近付いてくるこの瞬間、そこだけは一瞬隙が出来るから銃弾を撃ち込む最大のチャンスになる。一世一代の大賭け、万が一俺が殺されて吸収されるのだとしても何かしら大きな打撃を篠宮に与えておかないといけないのは必須条件……俺を吸収するメリットより近付いたデメリットが大きくなるようにしなければならない。
その為に撃ち込んだ一撃、どれだけ強かろうと魔人若しくは侵略種の範疇から外れていないのであればこれは必ず効く。原種や毒耐性や超再生を持った魔人にもある程度効く事は実証済み、さすがに原種や超再生レベルだとラグが生じるから恐らく俺はここで終わりだろうがやれるだけの事はやったし後に繋ぐ事は出来た。
……殺すまでは死んでやるものかとは言ったが、無理なものは無理だからな。その時の為の代替案はあるんだよ、俺だってイノシシじゃねえんだ譲歩に譲歩を重ねた上で出したのがこれ。
そしてもう1つ、俺自身が対魔人用毒入り銃弾を飲み込む事で吸収した時に直接的なデメリットも付与する、人間の意地汚さをナメんじゃねえぞバケモン。どうせ俺は死ぬんだから飲み込んだところでデメリットねえんだぞ。
「ふふ、やっぱりキミの事気に入ったカモ。でもまた痛いのはカンベンだから少し寝ててね〜」
さて、やるこたぁやった。勝てないなりに、死んでも迷惑掛けない方法を編み出してやったんだ、ざまぁみろよ。
ああでも、やっぱりちょっとくらいは悲しませちまうのかなあ――姉さん、みんな。悪りぃ……後は託した、俺は奴らより一足先に地獄に行く。許してくれとは言わない、何なら見限って忘れてくれ。
「サヨナラ、だな」
最後に見た光景は、自分の顔面が蹴り上げられる瞬間だった。