夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「改めまして、ようこそEXCEEDS極東支局へ。EXCEEDS総督の八神はやてです」
「夜海トワ」
「相沢シオリです」
「北森ユーナです」
「夜海ユズです」
「新名アオイ……です」
「夜海トウヤと言います」
「夜海エマです」
EXCEEDS極東支局、今私達がいるのはこの前まで明確な敵対意識と言うほどでは無かったけれど微妙な立ち位置で、共闘したのも成り行き任せだった組織の人達のところ。
でもそこにはシイナもセツナもいる、まだ完全に全員を信用出来るという雰囲気には無いけれどそれだけで私としては少なくとも2人の言葉は信じられると確信出来る。
「高町なのはです」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。相沢さんとは先日以来ですね」
「その、先日はご迷惑をお掛けしました」
「結城光一と言う!宜しく頼む!」
シイナとセツナは……まだ自己紹介をしない、或いはこの高町さんとテスタロッサさん、結城くんの3人が幹部級と言ったところなのだろうか。
とにかく何にせよ今は話を進めてもらう方が先決。
「では改めて確認をさせてください。今回結城君と接触をし救援を求め、ここまで来ていただいたのは……夜海テンマさんの冤罪を晴らし、不当な拘束から解放する事。という認識でよろしいですか?」
「それもありますが……私達はとにかくテンマを助けたいんです」
「……私達にとってテンマは大切な仲間、それに私やユズ、父さん母さんからしてみれば家族でもあるから」
「このままじゃおにーさんが死んでしまうんです……」
「それはどうして?」
この感じ、EXCEEDSはやっぱり篠宮と蔵木の存在に一切勘づいてないみたいだね。そこは仕方ない、魔人関連についてはまず原種や侵略種駆除を優先する組織からしてみれば触れるのはどうしても後回しになるものだろうから。そうした情報共有も含めてこの人達を頼ってみたいと、頼るしかないと賭けに出た。
「……アンタらに言ってもどうしようもないと思ってる。でもね、国や政治家、警察……EXCEEDSも含めて、魔人化薬を放置してるからこんな事になったってのは覚えといてよ。そのせいで沢山の人が傷付いて、死んで……にーやんはね、一度も泣いたところなんて見た事無いけど一番傷つきやすかったの」
「うん……おにーさん、亡くなった被害者の人を見る度震えてた、どこにもぶつけられない行き場の無い感情を押し殺して……」
「……貴方達は知らないだろうから言うけれど、ここの警察は魔人化薬製造の大元である人間とグルだよ。知らないから優先しようが無かったんだと思うけれど、もう少し優先してくれてたらって思わずにはいられない。……ごめんね、シイナ、セツナ。こんなのぶつけても意味は無いって分かってるけど」
EXCEEDSは恐らく警察と魔人化薬製造元が繋がってるのも知らないはず、だから責めたって仕方ないのは分かっている。だからこれは不毛な八つ当たり、それでも私達にも行き場の無い感情くらいあるんだって、どれだけ苦しくて悔しい想いをしてきたかって、言わないといけなかった。あまりシイナとセツナにはぶつけたくなかったけれど。
「だからにーやんは、アタシ達に迷惑掛けたくないからって1人で篠宮と蔵木のとこ行っちゃったんだよ」
「済まない、確かに俺様達EXCEEDSは侵略種駆除がメインだがそこから派生した事件、事故等を防ぐのも当然仕事だった。それが出来なかったどころか何も知らずにいたのはこちらの不手際に他ならない。本当に申し訳ない」
「私としても、総督という立場でありながらこのような失態をしてしまって、本当に申し訳なく思っています」
真っ先に謝罪したのは、結城君だった。多分彼は謝罪しなくても良いというかした方がややこしい事になるからあまりしない方が良かったと思うけど、それでも誠心誠意頭を下げられて、総督にも頭を下げられたら……少し気まずくなっちゃうね。
「過去は取り戻せません」
「だが未来は変えられる!!如何様にも!!」
「……結城君が話したいのは分かるけど今は私のターンやから……コホン、なのでどうか、皆さんの話を詳しく聞かせてもらえませんか?」
重たい空気だったけど少しだけ和らいだ気がした。
きっとそれは、結城君のお陰だね。……テンマと意気投合するのも、何となく分かる気がするかも。もし機会があれば、少し話してみたいかな。
一度場所を移す合間に、そんな事を思うのだった。
「私は元々魔人化薬の研究施設で育ったんだ、廃棄されたけど」
「その施設の運営をしているのが、蔵木エイジと篠宮マナの2名。魔人化薬の製造に熱心なのは篠宮の方で、蔵木は篠宮の支援をしています」
「それで私を取り戻そうと動いた篠宮達を妨害する形でテンマがわざと指名手配を掛けられた」
「つまり篠宮氏及び蔵木氏は警察を支配下に置いている?」
「我々はそう考えました」
話は私の出自と篠宮蔵木との関係、そしてテンマが指名手配を掛けられるまでの経緯を説明した。この流れで警察が怪しくない、と言えなくなる動きがこれでもかという程出てきているのだからあっちも納得せざるを得ないだろうね。
「ふむ、警察とは何も連携をしていないのにもかかわらず事件の容疑者をあのスピードで発表したというのは中々にきな臭い」
「確かに、今回の警察の動きは不自然な点が多く見られました」
「警察上層部も魔人化薬のお得意様だよ……」
「なるほど……ところで、夜海さん……ではどっちを呼んでいるか分かりませんね。トワさん、魔人狩りのリーダーは貴方ですよね?」
「うん、そうだね」
「何故、魔人狩りを?」
チラリと父さんと母さんを見やる、2人とも話して大丈夫だと頷いてくれたからここは迷わず話そう。
「私は研究施設から廃棄されたあと、父さんと母さんに拾われて養子になった。最初は家族ってものが分からなかったけど、今は幸せだって心の底から言えるくらいには幸せ」
「トワ……」
「ありがとう、そう言ってくれて」
「テンマもユズも、孤独になった時父さんと母さんに手を差し伸べられて養子になったんだけどね……ある時父さんと母さんが魔人によるテロで危うく命を落とすところだったことがある。その時はテンマがいたから何とかなったしそれで大切な家族という認識を持つことが出来た。でも、それと同時に『大切な家族が危ないのに魔人対処に国が動かないなら、私達が動くしかない』そうも思った。私達は大切な人達を守る為に、この活動をしている」
ここまで誰も失わなかったのは奇跡だと思ってる、勿論自分達の努力あってこそだとも思っているけど。だからこそ少しでもこの奇跡を必然にしていく為に魔人狩りを辞める事は出来ない。
「魔人によるテロ、ですか」
「4年前の空港火災、トワと同じ研究施設の実験体となった子が使われたんです。能力は『炎』。ですが上手く能力を使う事が出来ず、半ば自爆兵器みたいに扱われて……」
「自爆兵器ってところは違うけど、あたしとセツナの能力に似てる……」
「だね」
「セツナ、何か心当たりある?」
「うーん……やっぱり記憶が無いから分からない……」
「そっかぁ」
「シイナとセツナを何か疑ってるとか聞きたいとか、そういうのは無いから安心して。2人は大事な親友だもん、信じられないはずがないでしょ?」
「うへへ、そう?」
「ありがとうトワちゃん」
もちろんだけど2人を疑うなんて有り得ない事はしない、もしかしたらセツナの記憶の手がかりがあの施設にあるかもしれないというのはあるけど私のシイナとセツナは良い子だから。
「そんな自爆兵器みたいな魔人だって、魔人化薬なら作れてしまうんです」
「私も一度、過去にこのタイプの魔人と遭遇しています」
「最初の子も含めて2人とも、私が眠らせた。私達は、魔人化薬とそれを作っている蔵木と篠宮を憎んでいる。――勿論テンマも同じ、だけど……テンマは1つだけ私達と違うところがある」
「ほう、聞かせてもらえるだろうか」
ここからはかなり神経を使った話になる、結城君の眼光が鋭くなるのも仕方の無い話。テンマの、私達でも一度か二度聞いた覚えがある程度の話……あの子の『実の両親』の話になる。あまり話すべき内容じゃないし話されるとテンマもあまり良い顔をしないと思うのは承知している、でもあの子が『死にそう』ではなくて『死にに行っているかもしれない』そう伝えるのにこれ以上の話は無い、EXCEEDSに助けてもらうにはこれ以外無い……そう確信している。
後から怒られる時は何時間でも怒られるから、今だけは許してねテンマ。
「……良いよ。でもここで聞いた事は他言無用にして、テンマが今もずっと苦しんでる事だから」
「勿論です。守秘義務は必ず守ります」
「これはまだ、テンマが家に来てすぐの頃に聞いた話だけれど――」