夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「……こんな馬鹿だから、放っておけないんだよ」
肩をそっと掴んで姉さんが口を開く。
「あのさァ!なんなのか意味分からないんだけど邪魔しないでよ!お腹空いてるんだってば!」
「ハハハ!良いだろう!この俺様が相手をしてやる!」
「誰アンタ。……まあいいや!じゃあアタシがアンタを倒して食べてあげる!」
「夜海姉よ!それに魔人狩りの諸君よ!我が親友テンマと話があるのであろう!であるならば俺様がコイツを止めている!その間にゆるりと話すが良い!」
それを妨害しようとしてきた篠宮を、今度は光一が受け止める。コイツは……なんでここまでするんだ。
俺はもう何も出来ずに死ぬだけの存在だったのに、情けなく無様に篠宮に吸収されていくだけの存在だったはずなのに。
「……なんで」
「俺様からの話は後だ!今は『家族』やシイナ、セツナと話し合うのだな!」
光一は何も聞かずに黒耀を構える。それどころか俺がなんでと疑問を口にする事を一蹴した、まるで助けるのは当然の行いだと言うかのように顔も向けなかった。
……ああ、まあこうなってしまえば聞かないんだろう。
であれば、こっちも一旦は割り切って光一を生かす為の最前の行動を取ろう。ここで全員を生存させて送り届けるのがせめてもの役割だ。
「……光、一」
「今度はどうした」
「そいつは……今、強化……されてる。あと一歩で殺せるところから……訳の分からん薬物を自分に投与して……だから、気を、つけろ……」
「相分かった、その忠告心の底より感謝する。決して無駄にはせぬ――往くぞ黒耀」
『OK Master』
光一を見届けてから姉さん達の方へ振り向く。
さっきプスっと俺に何か刺さったみたいな感じがしたが、恐らくシオリの薬師蜘蛛だろうか。
「……どいつもこいつも……ははっ、俺なんかの為に」
「にいやん!自分の事を『なんか』なんて言わないでよ!どれだけ!どれだけ……アタシが心配したか……」
自虐に一番最初に割って入ってきたのはアオイだった。
この子には最後抱き締めてあげられなかったって後悔もあったし、少しだけしっかり見えるようになってきた視界に最初に映る姿がやっぱり泣きそうになってるのは辛いな。
「……おにいさん、死のうとなんてしないで……わたしを置いていかないで……」
次に口を開いたのはユズだった。
ユズにも大きな後悔があるな、何せ最後に見たのは妨害しに来たユズを吹っ飛ばして怪我させちまった姿だったからなあ……アオイもユズも怪我が治ってるみたいで良かった。
「本当に世話が掛かるんですから、テンマは」
「一番まともに見えて一番問題児ってーか?」
シオリとユーナもおかんむりらしい、まあ俺には関係無いが。
「……テンマ」
「姉さん……なんで、助けに来たんだ。家族を裏切って1人死にに……行ったんだぞ、だったら放っておけよ」
「大切な家族を失うなんて、耐えられる訳がない。それがたとえどれだけ強い相手であったとしても、それで尻尾を巻いて逃げて良い理由には欠片もならない。それに……コイツは、私の復讐相手でもあるから」
「俺は地獄に落ちるべきなんだぞ……元々はまともだった実の両親を殺して、沢山の人間を殺して……」
「だったらその罪も一緒に背負う」
姉さんに肩をガッチリ掴まれて言われる、家族だから、逃げる理由にはならないから、罪も共に背負うからと。
そんな事で納得出来るはずが無いだろう、家族だからって何でも連帯で背負う必要性なんてどこにもない、なんだったら背負えと言われたら理不尽だと抗議したって許されるはずだろうに。
「たかだかそんな、家族だからって」
「それだけじゃない」
「……シイナ」
それを見つめていたシイナにも肩を掴まれる。今まで見た事のないくらい真剣な表情だ、シイナは真面目すぎるくらい真面目で責任感が強い人だからきっと俺の事も見捨てられなかったんだろう……俺如きに縛られるなんてあっちゃいけないのに。
「俺の事なんて見捨てて良かったのに。巻き込まれに来るなんて、バカな奴だな……」
「違うよ、テンマ」
『そうだよおにーちゃん、見捨てるなんてできっこないよ』
セツナもやっぱ一緒か、この子も大概俺なんかに縛られなければなんて思ってしまう。あの日セツナと出会う事なく魔人だけ倒してしまっていれば良かったのかな。
やはり後悔だけが募る、俺と関わったせいでみんなこうして不幸になった、命を無駄にしようとしてしまった、だから――
「良い!?耳かっぽじって良く聞いてて!」
その声に一瞬声が詰まって。
「あたしは」
『わたしは』
「テンマの事を」
『おにーちゃんの事を』
「男の人として好きになったんだよ」
『男の人として好きになったんだよ』
重なった2人の声で、次に言おうとしていた言葉がすっぽりと抜け落ちて頭が真っ白になった。
「……は?」
今、2人は何を言った?好き?誰が?誰を?
いや、いやいや冗談が過ぎる、いくらなんでも……この状況で、更に言えば俺なんかの事をだなんて。
「ごめんトワ、ユズ、アオイ……抜け駆けした」
『約束やぶっちゃってごめんね』
「……あとで改めて一緒に告白するからね?」
「わ、わたしだって!」
「……私は何となく、シイナとセツナならするかなって思った。でも私もユズもアオイも負けないくらいテンマの事、好きだから。そこは対抗させてもらうんだからね」
「分かってる!そこは大丈夫!把握してるから!」
「はぁ?……はぁ!?」
『あ、おにーちゃんがびっくりしてる』
「そ、そりゃそうだろ!?なんなんだよこの流れ!?好き!?誰が!?誰を!?異性として!?」
「そりゃあたしとセツナとトワとユズとアオイが、テンマの事を男性として好きだって話だけど……」
「え、何その『そんなの当たり前でしょ?逆になんで聞き返してるの?』みたいなリアクション!?俺着いていけてないよ!?」
嘘……じゃ、なかった。
いや、元々嘘とは疑っていなかった、というか家族や大切な人の言葉を疑いたくはなかったからそこは良いんだが嘘じゃないとして、だとしたらもっと意味が分からないから更に混乱してしまっている。
急にシイナとセツナに告白されたと思ったら、姉さんとユズとアオイまで同じ気持ちだったって……そんなの理解しろって方が無理があるだろ、こんな状況じゃなくたって混乱してるぞ。
異性として好意を持たれていたとか欠片も気が付かなかったんだぞこっちは、まだシイナ、セツナはギリギリ理解出来たとしても後の3人は本当になんでなんだ。
家族同然に過ごしてきた妹分と義理とはいえ姉と妹だぞ?何間違ったら俺にそんな感情抱くんだ?何一つとして理解が出来ない……
「あー、にーやんってば『何をどう間違ったら俺に異性として好意を抱くんだー』って思ってるでしょ」
「……おにいさん、鈍感です」
「ここから生きて帰ったらしっかりと教えてあげるから。だから……今度『1人で死のうとする』なんてやったらもう二度と許してあげないよ。ただでさえ魔人狩りとしてのルールも、テンマが作ったのにそのテンマが最初に破るし。これ以上は私も何をするか分からない」
「姉さん!?姉さん顔も雰囲気も怖いよ!?圧が出てる圧が!!……だー!もう!分かった、分かったよ!一旦1人で死ぬとか死なないとかは考え直すから!今はこの状況をみんなで打開しような!元はと言えばみんなを守るのも大きな要因としてあった訳だし!?ここで篠宮倒しきれなかったら意味無いからな!」
「もー、最初からそう言いなさいな」
『あとでお説教なんだからね!おにーちゃん!わたし達がどれだけ心配してたかたくさんたっくさん聞かせてあげるんだから!いいかな!?』
「ひぃ!?セツナが怖い!?」
理解は出来ない……が、圧にやられた。主に姉さんの。
だから一旦このやり取りの攻防は引っ込めておく、それに今は言い合いをしている暇もそんなに無い。いくら光一が作ってくれた時間と言えどあの強化された篠宮を1人で相手取っている。本来なら倒せるかもしれないがこの世界で魔道士は大きく不利、それにこれは俺の……あー、今は『俺達』の戦いだから人任せにするのも嫌だしな。
不本意ではあるが薬師蜘蛛を打たれたお陰で回復もしちまったし、多分俺の中に仕込んだ毒も消えちまったからな。ここで食われたら本当の意味で無駄死にだ。
「光一!加勢する!」
何にせよまずは目の前のラスボスを倒してから、その後の話をするしかないんだろうさ……俺が死ぬにせよ生きるにせよ。
そんな訳だから、取り敢えず……やりますかね。