夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「もうそろそろだね、バルディッシュ」
『固まっている人間の反応があったのはこちらで間違いありません』
「ありがとう。……今囚われている子達もきっと寂しい思いをしてるはず、親や兄弟と引き離された子だって多いと思う。――親と会えなくなる気持ちは、私も知ってるから。少しでも早く、一歩でも早く」
私に両親はいない。ううん、母さんはいた……けれどもう3年前に死んで。
――やっと仲良くなれた矢先だったから、わんわんと泣いたのを思い出す。
でも、その関係になるまでに私達は多くの壁が……それこそ多すぎる程の壁があって、まるで親子と呼べる関係とは言えなくて。
私が母さんが死んで泣けたのはきっと、光一のお陰だ。
あの人は不思議な人だ、なのはの友達で魔道士なのは知っていたのに出会う時は不思議とバリアジャケットを来ていない、普通の人間として過ごしている時で。
もしかしたら、だからこそ私は光一の事を敵だとは思えなかったのかもしれない。
……そして何より、今のこの状況を思うと孤独だった時期の私と重なってどうしても見えてしまうから。
「『私の魔法使い』が光一であるなら、ここにいる子達の魔法使いに……私がなりたい」
「そこ行く少女、1人かな?」
光一と初めて出会ったのはジュエルシード探しの為に夜道を歩いている時、自分より2、3歳年上くらいの男の子に話し掛けられたと感じた時だった。
私は相手が誰か分かっているし、相手も当時なのはから共有されてたはずだから知ってるのは当然。
「……あなたは」
「おっと待たれよ、今宵は戦おう等とは思っていない。ただ、夜道をキミのような女の子が1人で歩いていては危なかろうて」
「あなたには関係ない」
「しかしだな、魔道士と言えどまだ俺様より年下であろう?……ふむ、仕方あるまいここは俺様が付き添おう、本来は利敵行為故決して褒められた行いでは無いが……それよりも心配が勝ったのでな」
だから警戒も当然した……なのにあの人は全く意に介さず、それどころか「女の子1人は危ない」と敵に付き添うと言い出した、今思えば光一の性格がそこはかとないお人好しだからって分かるけどあの時はとにかく困惑してたな。
「……何が目的」
「あるとするならば、少女のエスコートさ」
「……信じられる訳ない」
「それは当然だ。俺様の身勝手でやるだけ故、無視して遂行すると良い」
だからとにかく無視してジュエルシード集めをした、上手くいかなかった時も何も言わずにそばにいてくれて、たまになのはに見つかる前に逃がしてくれたりもして……
結局私はなのはにやられちゃったけど、でも光一との繋がりが奇跡を起こしてくれたんだと思う。
だって――
「リニス!?リニスなの!?」
「本当にリニスなのかい!?」
「フェイト、アルフ……お久しぶりです」
死んだと思っていた母さんの使い魔で、私を育ててくれた大切な家族……リニスと再会出来た。
「いやはや、リニスが使い魔だとは知っていたが元の家族と再会出来たのなら僥倖!まあ、今は俺様の使い魔になってしまっているが」
「文句なんてありませんよ、助けていただいてとても良くしていただいて、それにフェイトと再会も出来て……光一には感謝が尽きません」
「フハハ!そうであるか!」
「…………ありがとう……光一」
「そうだね、アンタにはどうやって礼を尽くせば良いのかね」
「礼など良い。どうしても、と言うならリニスにこれからも定期的に会いに……いや、毎日でも良い、会いに来てくれたら嬉しいということと……もしも話しても良いというなら、フェイト……お前の抱える問題とやら、俺となのはに話してはくれないか」
夢じゃない、リニスと抱きしめ合ってそれを感じ取れたあの瞬間を今でも鮮明に覚えている。温かい身体と確かに感じる胸の鼓動が、リニスがそこにしっかりと生きている事を証明していて……そして助けてくれたのが光一と知って、あの時初めて私の心の中の氷が溶けたんだと思う。
リニスに抱きしめられて、そしてその言葉を聞いた私の目にはもう絶望は無かった。そこにあるのは確かに希望だったから。
「フェイトちゃんの抱える悩み、受け取ったよ。一緒に解決しに行こう。お母さんと面と向かって話し合おう?私達も手助け全力でやるから!」
「……大丈夫かな。ちょっとだけ、怖いかな」
「心配要りませんよフェイト、いざとなったら私がいます。何かあったらプレシアに説教しますから、ガツンと本音をぶつけてください、ね?」
「それに俺様には秘策が行える可能性がある。フェイトの話を聞く限りではやれるかもしれん。……確証が無いから今は話せぬが、それが持てたら必ずややってみせよう」
「あたしも着いてるよ!フェイト!」
「……うん、ありがとう。なのは、リニス、光一、アルフ」
4人がいたから、私は勇気を出せた。
本当は怖かった、これで本当にどうしようもなかったらって思って震えていた、それでも4人がいてくれたから怖くても一歩を踏み出す事が出来た、立ち向かう事が出来た。
「――貴方、今なんて言ったの」
「俺様の力を使えば、アリシアを復活させられる。ただ、人間というより俺様の使い魔のような形にはなってしまうが」
「本当なのね?本当にアリシアを助けられるのね?」
「嘘だったら俺様を殺すと良い。……しかし、本当はプレシアの事も助けたいのだが……如何せん力が無かったらしい、申し訳ない」
「私は罪を重ね過ぎたわ、だからこれで良い。謝る必要は無いわ」
そしてそれは、あっさりと叶った。光一の切り札で。
「分の悪い賭けだったがな」と言っていたあの人は苦笑いをしていたから本当にそうだったんだと思うけれど、それでもアリシア……姉さんを助けられると言い切った光一に、その時だけは誰も口を挟めないくらいの力が何故かあったのを覚えている。
そして、姉さんは生き返った……いや、本当は心肺停止で身体が残っていて魂が成仏出来ていないだけって言ってたから違うのかな?私には分からないけど、とにかく姉さんは目を覚ました。
あの時の母さんの顔は一生忘れない、泣きそうな、嬉しそうな、申し訳なさそうな、色んな感情が入り交じってて。
そして。
「ママッ!そこに正座!なんでフェイトにあんな酷いことしたの!」
「本当です、プレシア。貴方は不器用すぎるんです」
「……返す言葉も無いわ。フェイトも、今まで本当にごめんなさい」
「母さん……アリシア……」
憑き物が落ちたみたいになった母さんを見て、謝られて、わんわんと泣いて。きっとあそこから私達は0から、本当の家族になれたんだって。
でも取り返せないものもあった。
母さんは今から3年前に亡くなった、ジュエルシード集めやその前から命を削ってアリシア姉さんを生き返らせようと必死になってたからそれが祟ってしまったんだって母さんは言っていたけれど。
「……ごめんなさい」
「謝らないでよ、最後まで。たった数年だったけど夢みたいな時間だったんだから、ね?」
「母さん、私は……母さんと過ごせて幸せだったよ」
「貴方には、沢山酷い事をしたのに」
「それでもだよ、姉さんが事故にあったのは母さんのせいじゃなかったんだから。過去を引きずるより『今』を楽しみたかったんだ。……ありがとう、母さん」
「…………2人とも、ありがとう」
でも、母さんがいなくなってしばらく寂しかったけどそれでも仲直り出来て楽しかったからだって思えたのは……うん、全部光一やなのは、リニス、アルフ……それに管理局のみんなのお陰。
だから……だから私は。
「国連の調査員です、皆さんを助けに来ました」
そんなみんなみたいになりたい、誰かを全力で助ける、誰かの笑顔を守る、そんな私を助けてくれたあの人達みたいに。この想いをリレーで繋いでいくんだ。
「こくれんのひと……にげて」
「どうして?私はみんなを助けに来たんだよ?」
「あれは……すごくあぶなくて、こわいやつ、だから……」
「――キミは優しいね、心配してくれてありがとう」
「でも、大丈夫」
「国連の魔法使いは……ううん」
「誰かの笑顔を守るヒーローは、凄く強いんだ」
「あんなの一瞬でやっつけて、みんなを助けるよ」
今度は私が、手を差し伸べる番。
傷付いて、苦しんでいる誰かを助ける番。
本当に触れたい人に触れられなくて、それでも家族の温かさを知って。苦しみも温もりも知ったから。
「怖かったら、目を瞑って10秒数えて」
「――その間に、全部終わらせるから!」
私は目の前の脅威に、全力で駆け出していった。
※勿論ですがあのヤバそうな物体は原作通り10秒で始末されています