夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「……一時はどうなる事やらと思ったけど、みんながいてくれて助かったわ。やっぱり頼るべきはみんなやね、助けに来てくれて本当に良かった」
『主はやての危機とあらば、我らヴォルケンリッターが出向かない訳には行きませんから』
『任せとけ、街の治安はアタシらがちゃちゃっと片付けといてやる!』
『我が盾の名に置いて、何人足りとも傷付けはさせません。お任せ下さい』
『はやてちゃんの背中は私達が守ります!だから、安心して行ってきてくださいね!』
「うん……うん、本当にありがとう」
なのはちゃん達が原種0号討伐、光一くん達が篠宮逮捕に向かい私も蔵木逮捕に向かう……となったところで、またも街に侵略種が現れてどうしようか……という時に来てくれた、私の大切な家族であるヴォルケンリッターのみんな。シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。
いつだって私はこの人達に背中を預けられる、窮地になりかけたこの瞬間にまるで息を合わせたように来てくれるこの大切な家族に、精一杯お礼を言わないとな。
そして今度会った時に目一杯お礼をしないと。
ふふと笑みが零れる。
「頑張ってくるわ」
頷く4人を見て通信を切り、私はリインだけを連れて蔵木のいる場所へと赴く。
これには訳があった、この直前の侵略種騒動が蔵木が人為的に引き起こしたものだと証拠を即座に掴んだから。だとすれば何を仕掛けてくるか分からないところに隊員達を何人も連れていくのはデメリットになる、だからここは最大戦力である私自身がリイン同伴で向かう。何かあっても私とリインなら立ち向かえる。
「……はやてちゃん」
「うん。行こっか、リイン」
「はい」
向かう途中で、リインの運転する車内で一息入れながらふと思い返す。私の原点はヴォルケンリッターのみんなだったけれど、思えばそれとほぼ同時に光一くんにも出会ったんやったな。
ある日の図書館、ちょうど欲しい本があったんやけどその本は当時車椅子生活の私には届かない位置で、どうしようかと思っていた時に見知らぬ男の子が取って渡してくれた。
「やあ可憐な少女、キミが所望していたのはこの本じゃないかな」
「あ、そうです。ありがとうございます」
「いや、これくらい問題無い」
「あの、良かったらお礼がてらお名前を……」
「俺様の名前は結城光一だ」
「光一くん……良かったら後でお茶せえへん?私からのお礼として」
「光栄な事だ」
思えば最初の方の光一くんはヘンテコな話し方してんなあって思ったりもしたなあ。なんか凄く気取ってるというか、ナンパというか、私は何となく本気でのナンパというよりちょっと遊び心でやってるんちゃうかと思ってたから良かったけど。
あの人最初見た時からイケメンやなあ思ってたから、私じゃなかったら勘違いしてたかもしれないくらいやったかもしれんし。何人の女の子勘違いさせてきたんやろね光一くんは。
実際ちょっと仲良くなってからはその口調は鳴りを潜めたし、聞いてみたら
「いやはや、少し気取った話し方があの頃はマイブームになっていたのだ。実にヘンテコだったであろう、悪かったとは思っている」
「私は冗談通じる子やから問題無いけど、光一くんはイケメンなんやからそないな事軽々しくやったらアカンよ?」
「むぅ……申し訳ない」
「分かってくれたら良いんよ」
って、マイブームって言われた時思わず噴き出しかけてもうたけどしゃーないやんな?見るからにイケメンな男の子があんなコテコテの気取った感じして遊んでて、無自覚に女の子を落とし続けていたと思うとシュールすぎて良く笑いを我慢出来たもんやと思うくらい。
うん、友達として彼を好きになったのはこんな感じかな。
でも……彼の事を男の子として好きになった、キッカケは『いつの間にか』とかじゃなくて明確にあって。それはリインフォースの事が光一くんの方にも話が行った時。
まずそもそもとして光一くんが魔道士、ファンタジー世界の人みたいな事してると知っただけでも驚いたけどあの時の真剣な表情は今でも忘れられんな。
「リインフォースは必ず俺様が救う、それが俺様の使命だ。大切な友達の大切な人……というのもあるが、目の前で苦しんでいる者を助けられず何が救えると言うのか。俺様は全てを救う為にここにいる、魔道士になっている、だからリインフォースを失わせる訳にはいかない」
ただ、その鬼気迫る表情からは悲壮感も覚えてしまって。今でもそれが何でなのかはイマイチ分からないでいるけど、きっともうこの顔をさせちゃいけないんだって今では分かる。
あの時ですら、危ないと思ったんだから。
「良いのです、私はこの運命を受け入れます。もう充分な程に幸せになれましたから……だから大丈夫です」
だからリインフォースが結局救えず消えた時は悲しかったけれど、その後に来たのは光一くんの心配で。
「済まな……かった……俺様は、俺様はリインフォースを救うと誓ったのに……何も出来なかった……はやてを救ってあげられなかった……」
「大丈夫、私は救われたよ。リインフォースと心を通わせる事が出来て、家族になれた。だからこれで良かったんよ」
「……はやて」
「最後までリィンフォースを助けようとしてくれてありがとうな、光一くん」
ギュッと抱き締めた腕の中で静かに震えて泣く光一くんを見て、この人は他人の為にこんなにも泣いてくれるんだってとても心が掴まれるような気持ちになって、それが明確に彼を男の子として好きになった瞬間だった。
……あれから何年も経って、ハーレムとはいえ私だって光一くんの彼女の1人になった、なったって言うのに中々休みが取れなくて、何なら中学生の姿に戻るのもそんなに無くて、まるでみんなに置いていかれてしまってるみたいになってるけどそれでも心と心は通じ合ってると信じてる。
「ここですね」
「そうやね」
いつの間にか着いた蔵木の根城にノックをする。
「……国連か」
「違法薬物取引の件と、蔵木さんと、篠宮マナさんの関係についてお話を伺ってもよろしいでしょうか」
「……ああ」
ヤケに素直に受け入れたと感じて警戒を強める、このタイプは本当に諦めたのかそれともまだ策があるのか読みにくい。
「但し、残った『これら』を倒し切れたらな」
「やっぱり!」
そして蔵木はやはりと言うべきか後者だった、いや後者と呼ぶには目にやる気がないから本当に残った侵略種や魔人をけしかけてるだけか。
どちらにせよやるしかない、大人化モードを解除する。
「そっちが本当の姿か」
「普段はせんのやけどね!行くよリイン!」
「はいです!」
「『夜天の光よ、我が手に集え!祝福の風、リインフォース』セットアップ!」
本来私の魔法は広範囲高威力が多くて室内じゃあまり力を発揮出来ないけれど……それでもこれくらいならヘッチャラヘッチャラ!
「『ブリューナク』!」
あまり威力は高くないけど今の最適解はこれ、侵略種や最早理性の欠片も無くした魔人殲滅しながら部屋をある程度壊さないとなるとこれが一番。
……それにしても、不本意だけど今こうして『魔法少女』になれているんだって実感すると少しだけ嬉しくなってしまう。目の前に敵がいるんやからそないな事思っちゃダメなのにどうしても『こっち』が本当は本業なんだって感じてしまうんやな。悪い子や。
「なるほど、思った何倍も強い」
「そりゃどうも。どうもついでにちょっとだけ私のとっておき見せたげるわ」
どうせこの人は逮捕するし、こんな人が私の事を子どもだなんだと言ったところで信用なんてせえへんからな。見せられるだけ見せたるわ。
但し、この技でもオーバーパワー過ぎるからね。出来る限り範囲を狭めて、威力も控えめに。
「『遠き地にて、闇に沈め――デアボリック・エミッション』」
私の身体を中心に球体が敵を瞬時に殲滅する、とっておきと言うにはちょっと小粒かもしれんけどまあ所詮見せる相手が相手やしな、これくらいでもええか。見せられるだけと言いつつあんまり見せられんかったけど。
でもこれだけでももう敵は跡形もなく全部無くなっていた、後に残ったのは無言で結末を見届けていた蔵木だけ。
「さて、これで全部倒したよ。どう?まだやる?」
「――いいや、もう文字通りこっちに手札は無い。入るなら入れば良い」
今度こそ、というよりは最初から半分諦めていたのか……蔵木はボロボロになったソファに腰を降ろす。
――そこから後に語られた話は、何とも言い難くほんの少しだけ分かる部分もあったにせよ……やはり許されない事をしたとして逮捕に至った。
もしかしたら、出会い方が違ってさえいれば蔵木は……光一くんと友達になれたかもしれんのかな。
少し切なくなりながらも、私の仕事は幕を閉じていくのだった。