夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「はあ!?篠宮がまだ生きてる!?」
開口一番は俺のその驚愕に満ちた声だった。
あの爆発で、更に言えば触手一本まで追い詰めて姉さんが消し飛ばしたはずなのにまだ生きてるなんて……信じられないがシイナとセツナがそう言うならまあ事実なんだろう、戦ってた当事者の言葉を信じられないとかそれこそダメだろうし。
「ごめん……あの爆発で上半身だけ逃げられちゃったみたいで……」
『うう、せっかく力かしてくれたのに……ごめんね、おにーちゃん、トワちゃん』
「いや謝る事じゃない、謝るべきは俺の方だ。何にも出来ずに結局力を貸してやるくらいしかしてやれなかったから……」
しかし謝るべきではない、それこそ俺が戦ってたら戦いにすらならず消し飛んでただろうし。言ってて悲しくなってくるがそれが事実なのだから仕方ない、なんか凄くブルーな気分になってきたな……そうだよなあ謝るべきは俺の方だもんな……
「それこそ謝ることじゃないよ、テンマ」
「そーそっ!力を貸してくれたお陰で1回は篠宮を撃退出来たんだから!」
『何回きても、何回だってたおしちゃえばいいもんね!』
「ははっ、何回も倒すって……俺一度も倒せなかったのに……一矢報いるので精一杯だったのに……」
しかも何回も倒すとか……俺は一度も倒せなかったのに……なんだろうせめて生きてるなら生きてるで俺が正気に戻る前にもう1回来てくれませんかね、もう正気に戻った上でブルーな気分になっちゃったからどうしようもないよ俺、どうすんのこれ。
「これはっ!」
『みんなきをつけて!くるよ!』
「なっ!?」
しかしそんなブルーな気分も束の間、シイナとセツナが何かを感知したかと思うとの地鳴りが響きまるで触手のように木の根みたいな何かが飛び出してきた。ってこれ原種0号!?嘘だろそれはなのはとフェイトが撃退したはずじゃないのか!?
「原種、0号……」
姉さんもその異常性に気が付いたみたいだが……ってどんだけ伸びてくるんだよこれ、どこにそんな力隠し持ってたんだよ。
「おいおいまさか本命はこっちなのか!?」
「……篠宮があの中にいる」
「あれを操ってるって事?」
それはそれとして俺置いてくのやめてもらっていいですか、俺何も感じられてませんよ。あの中に篠宮いるってマジですか?だとしたらヤバいって話じゃなくなると思うが。
「ううん、多分篠宮は飲み込まれてる。自我も意識ももう無いはず」
『0号の栄養にされたんだとおもう、あのひとよわってたはずだから』
「……そっか、これは。あたしとセツナで止められる気がする……いや、違うかな。あたしとセツナで止めなきゃいけないんだ」
『うん。わたしもほんとうのもくてきは『これ』だったから』
しかも飲み込まれてるのかよアイツ、じゃあもう死んでるじゃねえか。最期は誰の手でもなく自滅とか、なんて言えば良いのか。まあ手向けの言葉なんてなくて良いだろ、所詮人の心が分からない怪物だったんだから。
それよりも問題はこっちか。
何度も言うようにもう無茶させたくないって言ってんだよこっちは。それに……もう悔しい思いはしたくない、俺は弱い、それは間違いないがだとしてもそれが立ち止まる理由にはならない。
それで立ち止まるのであれば、俺は篠宮に向かう事なんて鼻から選択肢に入れなかったからな。少し力を貸すくらいになったって良い、肉壁程度でも良い、たとえどれだけ些細な助太刀になったとしても役に立ちたい。
姉さんと目配せをしてお互い頷く。
「なら一緒に行くよ!」
「俺だって忘れてもらっちゃ困るぜ!」
「いや、その、トワとテンマは……」
「篠宮は元々私達が追ってた相手、それにシイナは万全じゃないでしょ。今にも不安定で、壊れそうに見える……」
『……しょうじきしーちゃんがしんぱいっていわれるとそうかなっておもっちゃうところはある』
「だろ?だから俺達も行くんだよ」
「そう、だから一緒に行く。私とテンマが、きっとシイナとセツナを支える」
「おう任せとけ!雑用ならなんでもござれ!」
「……うん!」
『ありがとう』
思えば篠宮を追ってもう長い事経つんだな、あの空港火災で親父と母さんを失いかけて、魔人狩りを立ち上げて、僅かな手掛かりだけでも求めて来る日も来る日も東奔西走、長い長い戦いだったよな。
今はもうその篠宮そのものは飲み込まれて死んでるみたいだが、その力自体は生きてる上にもっと厄介な事になってるからな。魔人狩りを立ち上げた本来の意味合いを、本懐を遂げるにゃ今しかないって事だよ。
キリッとした目でこちらを見つめて頷くシイナに俺は笑顔で頷き返す、そうだよその目だよ、やっぱ主人公だよなあ。
「あー、もしもし。極東支局久世シイナです」
『はっ!こちら本局です!』
「原種0号の本体は私久世シイナ、久世セツナ、それから夜海トワさんと夜海テンマさんが責任を持って駆除しますので!――お任せ下さいッ!!」
『了解!ご武運を!』
熱く燃えたぎる炎を噴出させるシイナ、セツナを見やり俺達も各々の能力を発動させる。
「氷牢!」
姉さんの氷牢で本体以外を凍らせ行動不能にさせる、やっぱいつ見ても桁違いだわ姉さんの魔人能力は。
さて俺もやりますか。
「毒生成!……っと、シイナ!」
「わっ……と、ありがと!」
「この能力はどんだけ強くても原種や魔人なら必ず効く、篠宮にすら効いたからな。だからそれを託す、無茶しないように俺ので弱らせてからトドメさせよ?」
『おにーちゃん、やっぱりたよりになるね!』
「そうだね、さっすがテンマ」
「わ、分かった分かった!ほら早くやってこい!」
「うん、行ってくる」
『待っててね』
「おう」
……原種0号に近付き、更に炎の出力を上げたシイナを見て思う。きっとシイナの使う、セツナと意識融合して使っているこれは本来セツナは死んでいるから1人で使っていたんだろう。そしてこの『意識融合』という形で「シイナの中にセツナがいる」という点を考えれば、本来の話はこの能力を通じて「シイナの中にセツナがいる」とシイナ自身が感じ取ってその中で対話をして、これからも自分の中にセツナは生き続ける……恐らくそんなENDなんだろう。
だが今は違う、セツナは生きている、文字通りちゃんと生きている。身体そのものは極東支局の部屋の中にいるんだろうが、その意識は常に一心同体。
だからこそ俺はシイナに無理をさせる訳にはいかない、あの人は無意識に無茶をするが今はそれで悲しむ人の数がどれだけいるんだか……それに家族だって……セツナだって悲しむ。手繰り寄せた奇跡を最後まで無駄にしない、たった一丁の銃を渡す事しか出来なかったがそれがシイナを守って、みんなの笑顔を守ってくれるならたったそれだけの事でも良い。
「ガン、セット!」
『行こう、しーちゃん』
「うん……使わせてもらうよ、テンマの力」
放たれた銃弾は的確に0号を撃ち抜き、激しく蠢く。
たとえどれだけデカくてもどれだけ凶悪な強さをしていても通じる、俺の唯一のチート。きっとこれが神様がくれた力なんだろうさ、チートにしちゃ命中精度が低過ぎる気がしないでもないが……まあ、この時の為にあったんだと思うならそれで良い。
何にせよ託した力が満足に働いてくれるなら……それで。
その優しい力で、どうか。
「噴射口は私とテンマがやる!シイナとセツナは本体を!」
「うん!」
「そいじゃやりますか」
さて、俺達にも俺達の仕事がある。本体をシイナが仕留め、俺達が噴射口を殲滅する。1人じゃ無理でも2人で、2人でも無理なら3人で、3人でも無理なら……4人一緒で。
「オラオラオラ!!俺だってちょっとは役に立つってとこ見せてやんよ!」
姉さんと分担して、姉さんは斬り刻み俺は怪力やその他の能力で、それぞれ殲滅。
……今まで押し殺していた想いが再燃する。
今になってどうしてこんなのを思い出してしまうのか、実の両親と穏やかに暮らしていた時が脳裏に蘇ってきてしまう。
やっとここまで来たという達成感からなのか、それとも復讐を遂げられるという恨みの終わりからか、それとも共にやっと地獄へ落ちる準備が出来たという安堵からなのか。
「……どっちにせよ、まだ落ちる気はあるんだよ……俺は」
「トワ、テンマ、合わせられる!?」
「合わせる!」
「合わせるぜ!」
「それじゃセツナ、行くよ!」
『うん!』
その呟きをかき消して、答える。
「3!」
拳を構える、いつものスタイルで、目を閉じて。
「2!」
様々な想いが去来する、救えた人、救えなかった人、今ここにいる人、この後がどうなるかなんて誰にも分からないんだから今はとにかくその全てを背負おう。
「1!!」
目を開く。
「であああああああああああ!!!」
――この日一番の炎の華が、咲き誇った。
本当はここで綺麗に終わってほしかったんだがなあ。
「しぶとい奴だなおい」
まだ生きている、元気というには俺の銃弾が撃ち込まれているからアレだが、逆に言えばあれだけ撃ち込んでまだ生きているのはシャレにならない。
「どうするんだこれ……って、この気配は!?」
どデカいピンクのビームに金色の光……間違いない、あれはなのはとフェイト!!
思えばここに来て初邂逅になる訳か、全くもって状況的に実感が湧かないのが勿体ないがそんな事を言ってる場合じゃないな。
「お待たせしました!」
「なのちゃん、フェイちゃん!」
「あっちの0号は完全に静止させてきました!」
「地上を任せていい?私達は地下の本体をぶちのめしてくるから!」
「了解です!」
「お願いします!」
さあ、今度こそぶちのめさないとな。
「行くよ、トワ、テンマ。掴まっててね」
「うん」
「おう」
……なんかシイナの奴、少しだけ顔が強ばってるな。
何を考えてるか知らないが、人にはあれだけ言えるのに1人で思い詰めるのはやっぱ好みじゃない。
「――何考えてるか知らねえけどさ、何があっても俺と姉さんがきっとシイナの事助けてやるから。それにセツナだっているだろ?」
「そうだね、沢山助けてくれた分今度は私達がシイナとセツナを助けるから」
「……あはは、やっぱバレてた?不安になってたの」
『しーちゃん、バレバレだよ』
「ごめんって!でも、不安だった気持ち吹っ飛んだ気がする。きっとみんなでちゃんと帰ろう、そんで抱き締め合おう」
「そうしよう」
『やくそくだよ』
「俺は男なんだが……ま良いや」
元気付けられたのならもう大丈夫だろうさ。
帰ったら女の子にもみくちゃにされるのは勘弁だからちょっとハグしたら撤収するがな。
……とりあえず、戦う前に俺はともかくみんなが幸せに生きられるそんな世の中でありますようにと願っておくとしようか。
「篠宮はここに取り込まれてる」
「マジか」
「手伝ってね、あたしが上から燃やすから。トワとテンマは地上から」
「分かった」
「って言っても俺はサポートくらいだぞ。姉さん、刀」
「はい」
「ほい、んじゃ毒刃先に付着させといたから。これなら効果絶大だ」
「助かる」
「んじゃあ行ってらっしゃい!」
まったく、最後まで格好付かないけど……
「ヤバっ!?」
『しーちゃん!』
っておいおい!?シイナの奴やっぱ無理してたんじゃねえか!
クソッタレが。
「ぐっ……うっ!?と、トワ!?テンマ!?ダメだよ!危ないっ!」
「手伝う」
「ここまで来たんだ、手伝わせろ。なあ、セツナ?」
『今のしーちゃんは1人じゃたいへんだとおもう……わたしはこえをとどけることしかできないけど、おねがい!たすけてあげて!』
俺に説教したいんだったら、ここで力尽きてちゃ意味無いんだからよ。ちゃんとしやがれ、掴んだ左腕にそっと力を入れる。
「大丈夫だよ、シイナ。私達は死なないし、私達がシイナを死なせないから!」
「俺に説教したいんだろ?だったら一緒に帰んだよ、良いな?」
「……ありがとう」
「ねえ……シイナとセツナの炎は、綺麗だね」
「俺も好きだぜ、2人の炎。温かくてさ」
『えへへ、そういってもらえるとうれしいな』
「私達の宝物だよ」
腕を掲げる。
「行くよ、トワ、テンマ!」
「うん!」
「ああ!」
掲げた腕を、共に振り下ろす。
上げた声と共に放ったその炎は、0号を飲み込み……完全に消滅した。後は帰るだけだな。
隣のシイナを見やる。
「シイナ、脱出を……!?」
『しーちゃん!』
「だーもう!力使い果たしてんじゃねえよ!」
案の定というか、気絶していた。
慌てて姉さんと共に落下するシイナをガッチリ掴む。
「シイナ!」
「一緒に帰ってやんねーぞそんな事してると!ほんっと世話のかかる……ってマジかよっ!?」
しかしホッとしたのも束の間、俺達は爆風の余波に飲み込まれて意識を失うのだった。
※リインは今回に限りはやての方にいる為対応したのは別の局員
※ヴォルケンリッターは街の安全が確認出来次第原作同様各地に派遣されているものとする