夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「おーい、いつまで寝てんだ寝坊助野郎。早く起きろー」
「う、うーん……な、なんだ……」
「寝ぼけてんじゃねーぞったく、今日はこの後ゲーセンっつったろ」
「そ、そうだったかぁ……?」
「アホ、お前から言ったのになーに忘れてんだよ!いつもはしっかりしてる癖にたまーにこれだから手を焼かせやがるぜ」
ここは……いや、俺は何か大事な事をしていた気がするが。
だが懐かしい声に呼ばれている、この声をどこかで聞いた覚えがあるがどこで聞いたんだっけか。
どちらにせよ起きなくちゃ、懐かしいくらいにうるさい声の主に応答してやらねばいつまでも起こされ続けるだろうしな。
「おーう、すまんすまん……おは……よう?」
「なんだお前、まるでもう二度と会えなくなった親友に会った時みてえな顔しやがって」
「え……あ、え?」
目の前にいたのは……間違いない、在りし日の、前世の……俺の親友だった。前世?そういえば今俺は何を……ああそうか、確かリリカルなのはの世界に転生して、でもリリカルなのはという枠組みとはあまり関係無いEXCEEDS Gun Blaze Vengeanceの世界に生まれ落ちたんだったな。
じゃあこれは夢か、今何してたか覚えてないけど。そもそも俺が死んだのは30代後半なんだから学生服を着て教室で寝ている時点で夢だと気付くべきだった。
まあいいか、夢なら夢で。久しぶりに会えた親友と数十年振りの学生生活を楽しんだって誰も怒りはしないはずさ。
「ほーらなにしてやがる!早く行くぞ!」
「……ああ、分かった分かった!今日は俺が奢ってやる!だからそれでさっきのはチャラな!」
「お、気前が良いじゃねえか。さっすが我が親友!」
「るっせえバーカ、んじゃ『アレ』やっか!」
「良いねえ、今日こそ俺がガンシューティングで勝ち越してやるよ!」
「言ったなお前?んじゃ負けたら次はお前の奢りだぞ!」
「……」
「ん?どうした?」
「あーはいはいなんでもねえよ、そんじゃレッツラゴー!!」
一体いつぶりに笑っただろうか、こんなに自然に笑うなんてもうしばらくしてなかった気がする。親友の肩に腕を回してゲラゲラ笑いながらゲーセンに行って、遊んで、ああこんなにも恋しい時間だったんだと自覚させられてしまう。
「あー楽しいなやっぱ」
「……そうか」
「なんだよしんみりしたような顔して」
「まあ、な」
でも親友の顔は少し寂しそうだった。
……俺がこの世界を夢だと知覚している以上、コイツも気がついていてもおかしくはない。それなら夢だと気が付きたくなかったな、ずっとずっと遊んでいたかったから。
でも聞かない訳にはいかない、騒がしかったはずのゲーセンは音を無くす。今ここにいるのは親友の言葉を待つ俺と、ゆっくりと口を開く親友だけだった。
「お前さ、気が付いてるよな。――ここが夢だって」
「……あー、やっぱり知ってたんだな」
「知ってたよ、死んだ後のお前がどこでどうやって生きてたのかもな」
「……そこまで」
「お前めちゃくちゃ大変なところに生まれて、頑張って生きて、大切な人達を守ろうとしてたんだから一生ここにいたいとか思っちゃダメだろ。帰らなきゃダメだ」
「そっか、そうだよな。ああ……思い出したよ、俺が何をしてたか」
そして思い出した、俺が何をしていたか。
姉さんとシイナ、セツナと共に原種0号に立ち向かったんだったな、だったら夢から覚めないといけない。俺には……こんな俺に告白してくれた人達もいるんだもんな、答えはどうするにせよまた泣かせるのは心が痛むしな。
「ま、俺にも帰る場所があるしな。お前とは違う……テレビシリーズ版のなのは世界にな」
「はは、2人揃ってなのは世界に転生してたのかよ」
「あの日話してた事が実現しちまったな。……っと、帰れと言ったのは俺だが一旦待て、お前に会わせたい人達がいる」
「会わせたい人達?」
決意して帰ろうとした時、相反して今度は親友に呼び止められる。お互いになのは世界に転生して帰る世界がある以上、ここで呼び止められたのは少しだけ嬉しかった。違う世界で違う人生を歩む以上、ここで別れたら死ぬまで会えないだろうからな……しかしそれとは別に疑問が湧いてきた。俺に会わせたい人達なんて一体誰なのか。
「ほら、来たみたいだぞ」
「…………え」
静止した世界に足音がもう2つ響く。
反射的に振り向く……そこには、見覚えのある、懐かしい、嫌いな顔が2つあった。
「……〇〇」
「久しぶり……だな」
「なんで」
「ここでしか会えないからな。――俺はちょっとあっち行ってるから話しとけ」
「いや、でも」
「良いから良いから!ほら、コイツの事ちょっと貸しますんでごゆっくりー!」
もう捨てたはずの名前で呼ばれて焦燥してしまったところを親友に背中を強引に押され2人の前に押し出される。
……そこにいたのは。間違いない、俺の――『今世』の実の両親、俺が転生して初めてした殺しの相手だった。
「い、今更なんなんだよ。俺がアンタらを殺したんだから恨んで出てきたか?それとも生き返りたいとか思ってるとか?はっ、どっちにしろ俺には――」
矢継ぎ早に言葉が出てくる、今更嫌いな奴らに何を言われてもどうだって良いが恨んで出てこられるのは傍迷惑でしかない、さっさと消えてもらうために言葉を紡ぐ。
「止めてくれてありがとうな、〇〇」
「――は?」
でも、それは男のその言葉で止められる。
は?今コイツはなんて言った?ありがとう?は?なんで?俺はお前を、お前らを殺したんだぞ?恨まれて然るべきであって礼を言われるようなはずはないんだぞ?
「私達が魔人化薬に手を出して、貴方を守る為にそれを服用して、人で無くなってしまった時に……道を踏み外した時に、貴方を殺す前に止めてくれて……ありがとう」
「ば……馬鹿だろアンタら。意味が分かんねえよ、俺は死にたくなかったから殺しただけだぞ?アンタらの事なんて一切考えなかった!!ただ自分の為に殺したんだ!!」
叫ぶ。震える声に虚勢を張って。
「それでもだ。俺達に実の息子を殺させないで済ませてくれた、たった7歳の子どもにその重責を背負わせた俺達の罪は大きいけれど……それは地獄の底で償ってくる」
「でも貴方はたとえ何十年、百年経って死んだとしてもこっちに来たらダメ。新しい家族や親友くんと再会して、次の人生に向かわないといけないの」
でも、そんな虚勢はアイツらには……両親には効かなかった。
そういえばまだ経営が傾く前のこの人達はとても真面目な人格者だった事を思い出す。いや、傾いてからも魔人化薬に手を出してからも、服用するまではずっと俺の事を考えていたんだろう……それを忘れた事は無かった、そうだ、忘れた事なんて、忘れたくても忘れられなかったくらいだった。
「……ふざけんなよ、勝手に決めやがって。俺は……俺は、アンタらの事が……嫌い……嫌いに……なんて、なれなかったんだよ……」
だから、力無くその場にへたり込む。
大嫌いだと言ってきた、でもそんなのも含めて全部全部全部、虚勢でしかなかった。大好きな人達を殺したという事実に蓋をしてずっと我慢してきただけに過ぎなかった。地獄に落ちたかったのも、そんな自分が一番嫌いだからだった。
「俺達は魔人になって罪のない人も殺した、だから一緒に行く事は叶わない。ここが会える最後のチャンスだったんだ。……自責の念に潰されかけるお前にどうしても会って、それを下ろしたかった」
「死んでから正気に戻って、どうしても私達の事を抱えてほしくなくてね。こんな下手くそなことしか出来なかったけれど、私達の事は忘れて新しい人生を生きて」
「嫌だ……嫌に決まってる……忘れる訳ない……大好きだったんだ……たとえ一緒にはいられなくても俺の心の中にいつだっていてほしい、俺の父さんと母さんは2人いるんだって、言わせてほしい……」
そんな言葉がするり、落ちてきた。
なんだよ……こんなにも本音って簡単に言えたのかよ、なんて。2人を抱きしめながらそう言い切る。涙が溢れてくる、8年ずっと背負って生きてきた2人を殺したという自責の念と蓋をし続けてきた想いと共に、溢れてくる。
「……ありがとう、ありがとうな」
「こんな私達の事を覚えていたいって言ってくれてありがとう」
――2人は確かに許されない事をしたんだろう。
でも、それは同時に時代の被害者でもある証拠だった。
そうしないとまともに生きられなかったから。
確かに覚えていた温もりの中で、たくさんたくさん泣いた。
「……ほら、もう帰る時間なんじゃないか?」
「そうよ。貴方を待ってる人がいるもの」
「――ああ、そうだな。帰らないと。俺な、新しい家族が出来たんだ……だからその人達を守らないといけないから、行かないと」
「行ってこい」
「気を付けてね」
「んじゃ、俺ともお別れだな。帰るならそこのゲーセンのドアを開けろ。そうしたら現実へ帰れる」
温もりから離れる。もうそこにはあの時のような、全てを背負って死にに行く少年の姿は無くて……良くも悪くも15歳の顔付きになっていたんだと思う。父さん、母さん、親友……全員がホッとしたような表情をしていた。
「……お前にはなんて感謝していいか分かんないな」
「なーに、前世からの付き合いだからな。ま、今世では付き合い無いけど……ずっと見てたし。最後にちょっとくらいお前の為になれて良かったよ」
もう一度泣きそうになるけれど、グッと堪える。
これ以上泣いていたらいつまで経ってもあのドアを開ける事は出来なくなってしまう、だから笑顔で答える。
「行ってきます」
もう振り向かない。3人に背を向けて歩く。
ドアの目の前まできた俺は……一瞬振り向きかけて、やはり辞めた。それをしたら二度と戻れなさそうだったから。
だから。
「『ツバサ』」
「『ツバサ』、貴方なら出来るわ」
「いっちょやって来い『ユウキ』」
捨てたはずの名前と、前世の名前を再びその胸に刻む。
振り向かずに笑みを浮かべ、左手を挙げてグッドサインを作る。それが今生の別れだ。
「――バイバイ」
一応キリの良いとこまで書けました
まだ最終話ではないですがとりあえずここまで見ていただいた皆様、ありがとうございました