夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「旅行?」
「ああそうだ、ちょっと飛行機乗ってな。パーッとみんなで遊びに行こうってこった」
「どうかしら?2人ともこういう大きい旅行は私達とはした事無いと思ったんだけど」
「まあ良いんじゃね?最近は依頼件数も落ち着いてて今は無いんだろ?たまには遠出で気分転換も悪くない」
「良いと思う。反対する理由も無いし」
俺が夜海家の人間になってから早1年が経った。
俺は12歳、トワは15歳とあってどっちも今年度で一旦色々と区切りになる訳だがトワの方は受験勉強は落ち着いてきている。理由としては1年早く開始して安定して模試A判定を取れてきたから効率を鑑みて今は詰め込み過ぎるよりメンタルを安定させる方が良いと踏んだかららしい。なんともトワらしい合理的理由だった。
一方俺の方は相変わらずこれといった友人は作れていない、まあ作ってないという方が正解かもしれないが殺伐とした世界に生き過ぎてしまったから価値観や精神がどうにも同年代と合わない。
話し方も「難しい」と言われてあまりウケは良くない、でも合わせるような話し方は今更出来ないから困った。一応嫌ってる訳ではなく1クラスメイトとしてはこの6年生では何とか馴染めてきているのはまだ不幸中の幸いか。
「んじゃ出発は1週間後にするぞー、家族4人での旅行。トワとテンマを連れての旅行はいつかしてみたかったから今から楽しみだ」
「子どもが出来て大きくなったらたくさん旅行したいって言ってたものね。トワが家に来るまでは授かる事も出来なかったけれど……こうしてこんなにも可愛い娘と息子が出来た。本当に本当に嬉しいのよ」
「ほんっと、トウヤもエマも小っ恥ずかしいことをサラリと言うよな。むず痒くなるっつーの」
さてそんな折に「家族旅行に行こう」という話になった。
トワをいつ迎えたかは知らないがその時から遠出ということはしてこなかったみたいで、今回の旅行が初めてなそうだ。
未だにトワも俺もトウヤとエマの事を父親と母親と面と向かって言った試しは無い。あっちは知らないが俺の心情としては言っても良いのかという葛藤があった。前世は前世だから別物として見れるからともかくとして、俺の心の中には今世の大嫌いな馬鹿な両親が今もどこかにチラついている、どうしても消せないでいる。
「こういうのはな、言える時に言うに限るんだよ」
「そりゃそうだろうけどさ」
エマはニコニコしながら黙って聞いている。こういうところは1年前から慣れない、眩しすぎるんだってーのに……
「私にはやっぱり、まだ分からない」
トワも大分距離も近くなってきたが今だにこれだしな。
コイツもコイツで色々思うことがあるんだろう、俺にしてもそうだし。いつか親と思える、言える日が来るのかねえ。
時間は過ぎ去り旅行当日。
空港に行くまでエマがずっとトワと俺の事を可愛いかっこいい等と自分で渾身のオシャレをさせた娘と息子……戸籍上は、であるが……を褒めちぎっていた。そんなに良いもんかね、いやあっちは美少女だし実際めちゃくちゃ可愛いのは事実だから褒めるのは分かるが俺なんて別になんの特徴も無い12歳男子でしか無いわけで。
そんなん見たところでつまらないだろうに褒められたら気まずくなるのが分からないのだろうか、いやこのエマに言ったところで暖簾に腕押しだろう、この人はそういう人だ。
そんなエマも飛行機に乗れば静かになった、というかはしゃぎ疲れて寝たんだと思う。スヤスヤと良い寝息が聞こえてきた。まったく良い歳して子どもよりはしゃいで疲れるとか何やってんだかと苦笑いしてしまう。
何時間乗っただろうか、飛行機が空港に降り立つ……とアナウンスがあって俺も目を覚ました。いつの間にか寝ていたらしい、人の事言えないな。
「そろそろ着くらしいぞ、起きろ〜」
「むにゃ……おはようテンマ、ありがとう起こしてくれて」
「起こさなきゃずっと寝てんだろうが。目的地着く前にはしゃぎすぎなんだよ」
「ごめんなさい、ついね」
「ったくよぉ。トウヤとトワも起きたか?」
「おう、バッチリだ」
「ん」
ふわぁ〜と俺も呑気に欠伸をして少し鈍った背中を伸ばす。旅行はこれからが本番なんだから疲れてる場合じゃない、せっかく連れてきてもらったんだから楽しめるところは楽しむに限る。
コイツもどことなく少しこの地で何をするか気になってるように見えないこともない、そんな姿を見るとやはり可愛いなと感じてしまう。だって男の子だもの。
「お、着陸したみたいだ」
アナウンスで完全に着陸したことが伝えられる、これで長い空の旅ともおさらばだ。ここからは暫しの間憩いの時間とさせていただこう。
――この旅行は平和なものになるのだと信じて疑わなかった。
「夜海家に死亡フラグがあるのではないか」確かにそう思ってきたし警戒もしてきた、この時だって警戒はしていたはずだった。
だが心のどこかで「もう大丈夫なんじゃないか」「今くらいは多少気を緩めても良いはず」「旅行で気を張り詰めるのは無粋」そう思ってしまっていた。
だから、だろうか。
「火事だーー!!空港から火の手が上がっているぞ!!」
「逃げろ!!そこらで爆発も起こってるぞ!!」
一瞬、何が起こっているか判断しきれなかったのは。
「何してんだテンマ!早く俺達も避難するぞ!」
「わ、分かっ――」
それでもトウヤの声で我に返る、そうだこういう時のために俺は予想していたんじゃないのか。そう思い直しトウヤの手を引こうとして……
「ごめん……なさい……私、は……」
『目の前の存在』にゾッとした。いや、正確に言えば降りてから見える視線の先、少し遠くにいるのだがこれは実質的に目の前と言っても過言では無いはずだ。
――何せ相手は魔人だ。
まさかこの火事や爆発を起こしたのはこの魔人か?しかし様子がおかしい……
「あれは……」
トワはなにか知っている?いや、まさかとは思うが知り合い?だとすればどこでどう知り合った?待て、今はそれよりもこの魔人をどう対処すべきか――
「2人とも逃げて!!」
今まで聞いた事のないようなトワの叫び声だった。
瞬間まるで周りの世界が静止したかのようになる、俺の思考が火事場の馬鹿力で加速する。相手は魔人、炎上と爆発を引き起こしたのはコイツで間違いない。だとして引っかかるのは謝っていたこと、本来魔人は自分の益のために力を振るうのにまるでそうはしたくないような言い方、それにトワの言葉……ここから導き出される答えは……ッ!?だとしたら2人が危ない!!
今まで使用してこなかった能力『硬化』を瞬時に発動させる、静止した時間が動き出して俺がトウヤとエマに覆い被さった瞬間だった。
「がッ……あぁ……ッ!?」
「テンマ!?」
爆発音がした、と同時に背中を灼き尽くすかのような熱さと痛みが襲い掛かる。やっぱり思った通り、この魔人は何らかの人為的な方法で力が制御不能になった、それも自分は望まずなった魔人だ。
だからいつどこでどう爆発が起こるか分からない、それを知っていたからトワは物凄い剣幕で2人を逃がそうとしたって魂胆だ。
……しかし俺にまでそんな心配そうな叫び声上げなくて良いのに。
「しっかりしろテンマ!!おい!!」
「うぐっ……け、怪我……は、?」
「俺もエマもしてない!テンマが助けてくれたから……なんでそんな無茶したんだ……」
しかし不思議なもんだ、確かに恩は感じていたし割と好きな人達ではあった、4人で過ごす時間は良いものだと思っていたしこういう時間が続いたら良いと思ってた。
だが、それだけで果たしてこうも身を呈して助けられるのか、そう問われたら俺は首を横に振るだろう。
「良かっ……た……」
……ああ、そうか。
そうだったんだ。
爆発から守れて、救えて『良かった』って心の底から、そう思えるくらいもうこの人達を大切だと、かけがえのない人達だと思っていたんだ。
「……そっか、私……私は、もう……」
なんだよ、トワも同じタイミングで気付くのかよ。
つくづく呆れてしまう、これじゃ本当に姉と弟じゃないか。
だったら俺が寝てるままじゃいられない、少しずつ回復してくる身体にムチを打って立ち上がる。
「トワ、テンマ、貴方達は……」
「……私に家族はいないって思ってた、でも『父さん』と『母さん』それに『弟のテンマ』がいることにやっと気が付けた。失いそうになって初めてこの感情を知ったんだ。だから……だから、私に『父さん』と『母さん』を守らせて」
「俺さ、咄嗟に身体が動いた時に初めて2人の事をちゃんと親として大切に想ってるって、トワの事『姉』として大切に見てるんだって知れたんだ。――絶対守る、だから俺の後ろから離れないでよ?『親父』『母さん』。そんで一緒に守んぞ『姉さん』」
「うん。テンマは2人を守るのに集中して」
「了解、そんじゃあ魔人の方は頼む」
「頼まれた」
真正面から『可愛い』とか『大切』とか言われた時に感じた居心地の悪さは眩しすぎた訳でも苦手だったからでも無かった、親に言われて照れ臭くなってしまったからだったんだ。
トワに散々「いつか分かる時が来る」だなんて言っておきながら自分も気が付いていなかったなんてな、口角が上がる。
ああ……だとしたら何がなんでも、死んででも守ってやる。
次こそ後悔しないように。
「フラグなんてへし折ってみせるぜ!」