夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「フラグなんてへし折ってみせるぜ!」
そうは言ったものの俺が守るにも限度がある、何度も守ってたらそれこそ俺の全身の細胞が焼けてしまうんじゃないかと思うくらいあの魔人の能力は桁違いだ。
だから俺は奥の手を使う、これはごく稀にしかやらない上に魔人の前ですらも絶対見せなかった能力、いつか使うかもしれないが今ではないとずっと溜め込んできた力だ。
「……今から俺はちょっとビックリするような力を使う。だけど絶対大丈夫だから、俺を信じてほしい」
「ったく、言ったろ?そういうのは個性や持病みたいなもんとしてしか見てない。そんでそれを信じてほしいって言って使う息子を、誰が信じられないもんか」
「何があっても絶対信じるわ。だって命懸けで私達を守って、親だって言ってくれたんだもの」
「へっ……照れるっての」
しかしそんな力でも親父と母さんは即答で「何があっても大丈夫」と信じてくれた、俺が息子だから。たったそれだけのことで。
そう言われてしまうと照れてしまって仕方ないが今はそれどころじゃないな。
「姉さんも、大丈夫?」
「うん。テンマの能力、見てみたい」
「いやそういう話じゃないんだけど……まあ良いや」
姉さんの方は微妙にズレた返答だったけど、それもまた姉さんらしくて良いや。そう言えば初めて込み入った話をした時も若干そんな雰囲気出してたっけ、懐かしいもんだ。
――ほんじゃま、始めますか。
「
俺がそう叫んで天に腕を掲げる、するとどこからともなく咆哮が聞こえてくる。そう、これが俺の能力だ。
「これは……」
親父がさすがに驚いたような表情と声を上げる。
そりゃ仕方ないだろう、何せ唐突に『侵略種』それも大型翼竜種の声が聞こえたんだ、驚かない方がおかしい。
「これが俺の能力、侵略種の完全使役能力。本能しか無かった侵略種に『心』を与え共に通じ合うことで力を貸してもらう。まあ細かいことはまた話すから今はこれに乗るぞ。――信じてくれるよな?」
「息子だからな」
「息子だものね」
「後で詳しく聞きたい」
「いやだから姉さん……」
それでも信じてくれた、それもとびきりの笑顔で。
相変わらず姉さんはズレてるけどまあ信頼の証みたいなもんだろうし良いとしておく、というか心を許した瞬間からの姉さんの天然ぶりが加速してる気がする。
「まあ良いや、とにかく頼んだから!」
「任せて」
翼竜種の背に3人で乗って飛び立つ、緊急脱出すると伝えてあるからかこの翼竜もかなりのスピードで一気に高度500m付近まで到達する。
「まさか飛行機から降りて早々もう一度空の旅とはね〜」
「乗せる予定は無かったし何ならこの能力を教える事も一生無いと思ってたんだけどな」
特注の双眼鏡で姉さんの様子を見ながら話す。
相手は格闘戦術は無いだろうしすぐ倒せるはず、話は出来るだろうが手短なものにはなるだろうな。
「……俺さ、親父と母さんに拾われる何年か前、まだちゃんと一般家庭で暮らしてたんだ」
本当なら一生2人には隠し通すつもりでいた暗い過去。
それを今、話しておきたいと思った。少しでも。
「俺は両親を殺したんだ。詳しい事はまたゆっくり出来る時に話すけど……2人が非合法なことに手を出して、俺を殺そうとしたから。だから殺した、殺すしか無かった、そうすることでしか生きられなかった、そうすることで自分を被害者にするしかなかった。その関係で俺はこの『持病』を持つことになった、両親も同じような力を持ってしまったから。この力でしか対抗出来なかったから」
「テンマ……」
「そんな事が……」
息を飲む2人の声。ここまで重い過去があるとは思わなかったんだろう、普通は当たり前だ。俺自身でさえ想定していなかったのだから。
「ほんとは隠しとくつもりだった。2人を親として見れてるとは言えなかったからな、こういう話すんのって結構勇気いるんだぜ?でもな、話すと決めた。まあさっきのことがあったからってのが大きいが……とにかくこの話をしたってことはさっきも言った通り本気でトウヤとエマを『親父』と『母さん』と思って大切にしたいと思ったからだってのは覚えててくれ」
「ああ……ありがとう」
「ありがとう、テンマ」
「……名前と帰る場所をくれて、ありがとう」
流れそうになる涙を見ないフリして降下を指示する。姉さんが暴走する魔人を倒したらしい、目視でも倒れたのが見えたが気配が無くなったのが決定打になった。
「終わったみたいだな」
「もう大丈夫。……あの魔人は殺すしか無かったけど」
「仕方ないって、俺より事情知ってるだろうにそれを選択したってこたぁつまりそれしかやれなかったんだろ?それよかこれでもう命の危機は無くなったんだ、空港はこの有り様でしばらく帰るのも無理そうだし今からでも旅行楽しもうぜ。『家族みんなで』」
魔人の亡骸を見やって、この出来事が収束したんだとホッとすると同時に思えばきっと、これは原作で言うところの「夜海夫妻が死んでしまう日」だったんだと確信している。
間違いなく、俺がいなければ2人は死んでいた。あのタイミングは俺じゃなきゃ間に合っていない、姉さんじゃ間に合わなかった。
「そうね、色々あったけれど……話も聞かないといけないけど、テンマがそう言ってくれるなら」
「だな。まあ正直子どもに守られる親ってのは複雑だが実際俺達にやれない事を出来るってのは素直に凄いと思うぞ。勿論話は聞かせてもらうが」
「あいよ、いくらでも話してやる。な?」
「そうだね……父さんと母さんになら。それに危ない目にはあんまりあってほしくないから、この世界の私達しか知らないような秘密とか共有しておくべきだと思う」
「その上で俺達が守るから完璧ってワケよ」
俺が前世生きた世界でこの世界がどうなったか読めないが、中々悪辣なことしてくれるじゃないの、ええ?もう自分としてはこの世界を完全なる『リリカルなのは』とは思わない、何せ次こそは絶対に守らないとならない人達が出来た。失ってから後悔した実の両親ではなく、失わずに目の前に家族としていてくれる。
だとしたらここは「俺が俺として生きる世界」だ。知識は使う、原作の展開を考えて傾向を予測するのはやる。だがそれはそれとして現実として生きる、そう決めた。
「さてそんじゃ行くか?」
「……ちょっと待ってほしい」
「どうしたよ……って、ああ、そうか」
決意を新たにまずは旅行をするかと切り替えようとしたが、姉さんが俺の服を軽く引っ張ってきた。なんか引き止めたいことがあるらしいが……あーそうか、そうだよな。
「ん……全部は無理だからほんの少しだけだけど……『あの子』をこのままひとりぼっちにするのは、可哀想だから。良いよね?」
「俺達は事情は知らないが、トワがするってならそれなりの事情があるんだろ?」
「その辺りも聞くけど、持って行ってあげて」
魔人の遺体。そこから髪の毛を数本拝借して袋に入れた姉さん。
何かしら知人だったのか、それとも推定的に変な研究施設……まあ人体実験をさせられていたところにいた頃に知った顔だったのか、どちらにせよ自分の意志で暴れたかった訳じゃない『人間』を哀れんで少しだけでも身体の一部を持って帰って埋葬したい……そう思うのはまあ人間として正常な心だと言えるだろう。
「……あと、テンマ。ん」
「な、なに?」
「まだ怪我完治してないと思うから、おぶさって」
「いやそれは……」
「じー……」
「わ、分かった分かった!乗るからそんな目で急かすなって!」
正常な姉としての心も持ってしまったようだが。いや良いんだけどね、家族らしくて。
でもちょっと恥ずかしいだろ、姉におんぶしてもらうとか。
まあそんなこんなで……多分だが『夜海家』を守り抜くことが出来た俺達は、弔ったものもあるが笑顔で生還していくのだった。
原作では燃え盛る空港の中両親を弔いマナ達への恨みで孤独に生きていくことになったトワ
しかし『夜海テンマ』の介入により燃え盛る空港を、両隣に両親がいて背中には弟のテンマがいる状態で脱出
間違いなくこの時点で大きく物語は変化した
トワは『夜海家』として、守るものを背に戦っていく
この先の物語も、ご期待ください
夜海トワ
家族を失わなかった上で原作通り家族を家族として想う気持ちが芽生えた。勿論それはテンマにも向けられている
性格は原作の復讐の鬼みたいな修羅では無くなり、家族に害を与え、この先も自分のみならず家族に危険な存在として篠宮マナ達を絶対にぶっ殺すという認識は変わっていない