夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「つー訳で、今度の単独依頼は海女取島だからちょいと家開ける事になるけど、良い?」
「学校に連絡はした?」
「入れた入れた、離島のハンター達は待遇悪いみたいだからどうなってるか分からないけど俺ら本土の学生ハンター達は依頼日にゃ公休だからな。明確な理由あっての休みなのに連絡入れない訳ないし」
「だったら良し!出発は今からになりそうか?」
「だなー、元々依頼受けてたハンターが怪我で全治3週間らしいから急遽代打になった。まあ依頼って言っても島でのハンター講習会みたいなもんだけど。姉さん、親父と母さん頼んだよ」
「うん、任せて。行ってらっしゃい」
「おう!行ってきます!」
あの空港火災の危機を乗り越えて早3年が経った。つまりは俺が夜海家長男『夜海テンマ』としての生活を始めてからもう4年も経った事になる。
原作がどういう展開を迎えてこの原作開始直前の時期まで来たのかは全く知らないが、少なくともこの世界線において『夜海トワ』……姉さんは家族や友人の前では柔らかい優しい表情で穏やかに暮らせるまでになっていた。まるで初めて会った時の無愛想さは無い、まあ天性の表情の起伏の少なさはあるが……というかそれは出自云々じゃなくて天性だったのかよとツッコミを入れたくはなるが。
「気をつけてね〜行ってらっしゃい」
「気張っていけ〜!」
「あんがと!行ってくる!」
何にせよ親父も母さんもここまで無事で過ごせた、推定的な死亡フラグを回避したらこの先は未知の領域とはいえ姉さんもめちゃくちゃ強くなったからな。主に裏稼業の魔人狩りの方で実戦めちゃくちゃ積んだし。つーか俺も仲間だし。いやあ魔人狩りの方々全く見た事無かったけどみんな揃いも揃って美人揃いだよね、さすがリリカルなのは世界のネームドだけあるわ。
閑話休題、取り敢えずは……見送る家族に元気に手を振って、新主人公である久瀬シイナ、セツナ姉妹のいる海女取島に向かって、原作開始の音色でも聞きましょうかね。
「くぁー!長かった〜!」
この『長かった』という言葉には色んな意味が込められている。半日ずっと揺られっぱなしの船旅もそうだし堅苦しい講習会もそうだ、まあ講習会は俺流で指導したからある程度自分を出しながらやれたけど。
取り敢えずこれで依頼達成だな、後は……そう!わざわざ招待したのだからと数日間観光していってほしいと費用あっち持ちでの高待遇を受けたのだ。だったら断る理由もない、学校にも家族にも依頼の延長と伝えたしこれで数日間フリーで過ごせるぜ!
……で、なんでこんな高待遇になったのかと言うと、この島はやはりと言うべきか待遇が悪いのでその問題点を本土に持ち帰って掛け合ってみると話したのがかなり効いたらしい。
俺ってば超優秀で本土でも指折りのハンターとして重宝されてるからな、発言権はあるって訳よ。
「さてさて、後は……」
「あ!夜海先生!」
「おー、久瀬さん。講習会お疲れ様、学生で大変なのに参加してくれてありがとね」
「ううん、へーきへーき!てかそれは先生の方もじゃん!あたしより2つも年下で本土でもエリートってすごくない?」
「ま、それ程でも……あるかな!何せ俺エリートだし!」
「ぶっはは!何それ〜!でもありがとね、お陰でみんな心做しか表情明るいよ」
「そりゃどうも」
しかし講習会に久瀬シイナも参加してたとは驚きだ。彼女は花の女子高校生、姉さんの1個下の17歳だから遊んでてもおかしくない年齢なんだがこの島のハンターとしてみんなから頼りにされているのを見るに相当真面目なんだろう。
本土じゃ副業ハンターなんかも多いが、一介の学生でここまでやれるのは素直に尊敬する。
とはいえ向こうから接触してきたなら僥倖、このまま関わりを持ってしまうに限る。
「ね、この後なんか予定あるの?」
「いや別に。好きに観光してってほしいとは言われたけど、予定組んでないし今日は適当に見て回ろうかと」
「んじゃああたしらが案内しよっか?あー、あたしらっていうのはウチの妹のセツナもって事になるんだけど」
「そりゃ光栄だけど良いのか?ただでさえ高校生とハンター2足のわらじだってのに更に自分の時間減らすようなこと」
「いーのいーの、夜海先生はお役所や政府と違って信用出来るし」
あまりにもラッキーだった、まさか久瀬セツナまで着いてくるなんて最高の展開に他ならない。きっとこの2人が何か大きな危機を乗り越えてダブル主人公として大活躍するその様子をこの目でしかと見てみたい。
何故タイミングが分かっているか?国連災害対策本部調査機関設立のニュースがやってたからな、つまりこれはEXCEEDS……大元が時空管理局の組織の介入だと分かったからだ。何せその調査機関の代表として『八神はやて』が映ってたからな。
いやーこの世界に生まれ落ちて早15年、やっと本家リリカルなのはのキャラを拝めましたよと。そしてこのタイミングでの図ったかのような海女取島からの依頼、どうやって行こうか悩んでいたから正に天からの贈り物と言わざるを得ないだろう。
「それじゃお言葉に甘えようかな」
「よーし!それじゃ早速家までレッツゴー!」'…
「元気だなあ」
しっかしシイナは元気が良い、あれやってこれやってと大変なはずなのに全くそれを感じさせないバイタリティは正に10代といったところか。
いや姉さんは魔人狩りとしての活動中はめちゃくちゃ行動範囲広いけど、どっちかと言えば普段は落ち着いてるし、シイナが特段元気なだけか。
「セツナ〜ただいまー!」
「おかえりしーちゃん。隣の方は?」
「こちらは今回本土から講習に来た夜海テンマ先生!依頼が終わったから今日から数日こっちで観光するみたいなんだけど、今日は予定も無いらしいからあたし達で島案内しよっかなと、どう?」
「うん、良いと思う。夜海さん、わたしは久瀬セツナって言います。しーちゃん……久瀬シイナの妹です」
「わざわざ自己紹介ありがとう。ご紹介に預かった夜海テンマだ、よろしく」
間近で見る久瀬セツナは非常に可愛い、それに快活な姉より随分と大人しそうだが真面目そうなところは似ている印象。一体この2人がどうやって本編で活躍していたのか見られなかったのが本当に惜しまれる。
しかしなんというか、この島は温かい場所だ。気候が、と言うよりは島民の心遣いがとても気に入ったという意味で、俺としては過ごしやすい場所だと思えた。
「それで、ここが港だよ。良く侵略種が出るけどいない時は静かで良い場所なんだ〜」
「あたしが直近で依頼受けたのもここだね。お礼で良く魚を貰うこともあるんだ、美味しいよ」
「なるほど確かにここは普段なら落ち着けそうだ。それに漁師は島民の主な生活基盤になってるからギブアンドテイクの関係性になるのも頷ける」
案内の終盤訪れたのは港だった。ここが島民の生活基盤且つ、侵略種のホットスポットでもあると教えてくれた2人、港がずっと静かであるならきっとそれが平和になった証拠ということなのだろう。いつかそんな日が来ると願いながら日々奔走しているらしい、なんて逞しいのだろうか。その生き方に感銘を受けてしまう。
「ふむ、そろそろ日が暮れるな。案内してくれたお礼に送って行ってあげるよ」
「ありがとう!あ、じゃあさじゃあさ、ウチ泊まってかない?」
「しーちゃん!?」
「……どうにも久瀬さ……あー、シイナさんは俺が男というのを意識されてない様子で」
ただ、さすがに家に誘うのは無防備すぎやしないかと心配になってしまうのだが。ほら、妹の方も絶句してしまっている。
どうにも俺のことを信用しすぎているきらいがあるなこれは。
「シイナで良いよ!あとセツナも、大丈夫だって!こう見えてあたしだって女だから、『そういう視線』には気付ける。夜海先生にはそういう気配無いし大丈夫!」
「うーーーーん……まあ、わたしも大丈夫だと思うから良いけど……」
「いや良いのかよ……というか、そっちがフランクに呼ばせるなら俺のこともテンマって呼んでくれて良いから」
「はーい!ありがとテンマ!」
「それじゃあ……男の人1人は気まずいかもしれないけど……よ、良かったら……テンマさん」
「……はあ、分かった。悪い気はしないし泊まらせてもらう」
しかも押し切られたし。なんか泊まることになったけど大丈夫かこれ……俺が変な気起こさなきゃ何も起きないだろうけど良く気まずくならないなと2人を見やりながら苦笑いを浮かべるのだった。
夜海テンマ
※何度も言いますがセツナが1話脱落するとは思っていません
※何ならダブル主人公の片割れがトワとも思っていません