夜海家長男はフラグをへし折り続ける 作:吉田正鷹
「誰だった?」
「知らない人、ちょっと出てくるね」
覚悟を決めている途中だと言うのにこのままじゃシイナが外に出てしまう。仕方あるまい、どちらにせよ2人を背に戦うんだからここで腹を決めてやるよ全くよ。
「待った」
「え?どしたの?」
「……インターホンの向こう側にいる奴、どうにも怪しい。というかとんでもなく面倒な奴だと俺は思ってる」
「分かるの?」
「なんつーのかな、俺とアイツは同族みたいな波長を感じるんだよ。そんで、俺の同族ってのはめちゃくちゃ厄介な事しかしてこないワケ、だから俺が出る……これから見るもの全部、現実として受け止めてもらいたい」
「うーん……良く分かんないけど分かった!任せるよ」
「セツナ」
「え?」
「絶対俺より前に出るなよ、シイナもだけどセツナは特にだ。出来るな?」
「だ、大丈夫」
よし引き止め成功、代わりにインターホンを覗くとやはりと言うべきか異様な雰囲気の男がこちらを見つめているのが分かる。間違いなく十中八九魔人だ、それも今まで倒してきた魔人の中でも上位数パーセントランクの強さに匹敵する。
それを後ろに守りたい人を背負って戦うとか、この世界に俺を送り込んだ神様は相当試練がお好きなようで呆れるわ。
「大きな物音がしたら目線を俺から外さずに少しずつ距離を取れ、1歩でもあの男から距離を取るんだ。でも目線は絶対外すな」
「お、OK」
「しーちゃん……」
「大丈夫、あたしが絶対守るから」
ドアを開け男の元へと向かう、顔付きが鮮明に見えるがこの感じは最早理性もほぼ無いタイプだろうな。
「ようお客人、生憎と今日は俺が先客で満員御礼なんだ……お引き取り願おうか」
「お前……魔人だな、そうなんだろう?」
「やれやれこっちの言葉も通じないとは、これじゃ人間じゃなくてただの猛獣だよ」
「魔人、食わせろ、食う、お前を……食わせろッ!!」
「はぁ〜あ、やっぱり使うしかないのかよ。殺り合おうぜ、バケモン同士な」
こりゃ想定以上に理性の欠片も無い奴だ、今までも魔人の本能に頭をやられておかしくなってた魔人は何人も見てきたがここまで侵略種じみてると笑えてくる。
男の魔人は腕を触手に変え更に身体を肥大化させる。
俺が今回使用するのは『怪力』と『硬化』。
どうにもお相手さんは侵略種の使役も出来るようだから2人を空に逃がそうにも逆に翼竜種のヘイトを買ってまずい、毒生成は万に一つでもシイナとセツナが浴びたら死んでしまうから使えない。やれやれ、縛りプレイは好みじゃないってのに。
肥大化した腕で取っ組み合いになる。
「お前、美味そうだな。食わせろ、食わせろ食わせろ食わせろ!!」
「野蛮人はお呼びじゃねえっての!ぐぉっ……こんの馬鹿力がよぉ、俺の怪力と真正面から取っ組み合い出来るなんてどんだけ魔人を食ってきたんだ、かっ!」
さすがに体格差があるな、パワーはこっちが幾分か勝っているだろうが体格で少し押し負けている。複数の力を扱える魔人なんて早々いないってのに意図も簡単に使いやがって……ま人の事言えないけど。
「だがこの程度なら!どりゃあ!!」
「うぐおぉ!?」
とはいえ地力が違う、踏ん張ってそのまま押し切り男を近くの外壁にめり込ませる。行動範囲が制限されるが今のより強いのを相手にした経験もあるんだからそう簡単に負けてられない。
「きゃあっ!」
だが悲鳴が聞こえた、振り向けばシイナとセツナが分断されてセツナだけ集中して襲われている。
「クソがよ!!」
一心不乱に駆け出し、ラプトル型の侵略種達の首を掴み上げるとそのまま強引に折って絶命させる。
セツナは……助けられたみたいだな、でも怖がらせたかな。
「大丈夫か?」
「う、うん。テンマさんもその、大丈夫?」
「俺は平気よ。それより怖がらせちまったな、俺もアイツと同じバケモンなんだよ」
「そ、そんな事……」
「そんな事無い!!」
怖がらせた事を謝ろうとしたがそれを遮られた、シイナだった。
キッとした目をこちらに向けながらビシりと指を向けてくる。
「あたしとセツナを助けてくれたテンマが化け物なワケ無い!だから怖くなんてない!セツナ、怪我は?」
「無いよ、守ってくれたから。ありがとう、テンマさん」
「ね?セツナも怖がってない」
「やっぱりキミら姉妹だよ、似すぎ。でもありがとよ」
なんて寛大な人なんだろうか、本日何回目かのびっくりだ。
だが和んでる暇は無いらしい。
「う、あぁ……食わせろぉ……」
「分かってたけどしぶとい奴だ。2人とも下がって」
ほんの2分くらいだってのにもう回復してやがる、かなり無遠慮に突き飛ばしたはずなんだがなあ。まあこうなってしまったら後はどっちが先に体力が無くなるか勝負だ、先にダウンした方が捕食されるゲーム……まあ俺が倒れたら2人が食われるから絶対死なないんですけどね。
「ううん……わたしも戦うよ」
「セツナ!?」
「ちょ、本当に危ねえって!!」
気合いを入れている途中で隣からセツナの声が聞こえた、いや聞こえたって何なんで聞こえてる訳?俺は下がってって伝えたはずだしシイナでもなくセツナなのは本当になんなの?戦うったってセツナに力は……
「大丈夫だよ、わたし思い出したんだ。テンマさんが『魔人』として戦う姿を見て。ずっと昔に封印した記憶、わたしが――魔人だったっていう記憶を」
セツナの身体が大きく燃え上がる、と同時にその姿が人間ならざる者へと変貌していく。これは、魔人!?まさかセツナが魔人なのか!?それも空港火災の時見たアイツみたいな、炎の魔人ッ!!
「お前も魔人かァ!隠していたなァ!?食わせろ!!」
「テメェセツナに手ェ出したらぶっ殺すぞ、出さなくてもぶっ殺すが」
「セツナが――?」
「ごめんねテンマさん、でもわたしもやらないと。足手まといになりたくないから」
「わーったわーった!んじゃ後方支援は頼むぞシイナ!」
「え、う、うん!」
こうなったら仕方ない、覚悟を決めたリリカルなのは世界の女の子ってのはテコでも動かないのは知ってんのよこちとら。
「しゃオラァ!!やってやろうじゃねえか!!」
突進してきた男に向けてこっちも突進を仕掛ける、勿論ヤケクソではなくパワーが上で硬化を使ってる俺に分があるから行う。
ドォォン!!と大型トラック同士でぶつかったような衝撃が襲いかかりかなりのダメージが身体全体にビリビリ来る、全力でやってダメージ喰らわせて来るとか脳筋がすぎるだろ。
「ぬぐおぉ!?」
しかしそのお陰で相手は吹っ飛んだ、ざまぁねえな。
「よっしゃ撃ち込めセツナ!!」
「うん!はぁッ!!せやぁ!!」
しかもセツナから撃ち出される大量の火球を全身に浴びている……これなら倒せたか?いや、燃え盛る男の身体が僅かに回復しているのが見える、これでまだ全身の細胞を焼き尽くせていないのかよ。コイツ回復力の固有能力もあるとか聞いてねえぞ。
「や、やった……の?」
「ううん、アイツはまだ復活してくるよ」
「ちっ、回復力の高さは魔人共通だがアイツのは特殊能力レベルの強さだな。道理でしつこい訳だ」
あと原因としては、セツナが上手く能力を操れていないのも起因する。初めて使ったから弱いとかじゃなくて根本的に身体に合ってないように見える、まさかこの子も姉さんと同じ出自とか言わねえよな?
「こんな姿になって、今まで隠してて……本当にごめんなさい」
「ううん謝らないで。私はどんなセツナでも大好きだよ」
「しーちゃん……」
どうする?このまま2人掛かりでやってもあの超回復があるんじゃジリ貧だろう、不完全なセツナの力はいつまで保てるか分かったもんじゃないし本格的にピンチかもしれない。
「セツナ」
「なに?」
「その能力、やっぱあんま身体に馴染んでない?」
「……正直、そうかも。でもやらないと」
「ご尤もで」
何にせよ、やるしかないって事ね。
ここで守れなきゃ男が廃るっつーの。
「しゃあっ!やってやる!」
自分に檄を入れてもう一度集中し、対峙するのだった。