「……やっぱり、見あたらないな」
興宮の図書館で過去の新聞記事をあたった俺は、予想どおりとはいえ成果がなかったことに溜息をつくしかなかった。
あれから話し合った結果、俺たちがまずとるべき行動は梨花ちゃんが言うところの『世界の組成』、つまりこの見慣れない世界を成り立たせている要素、逆に言えば見慣れた世界との違いがどこにあるか、を調べることから始めようということになった。
梨花ちゃんは今頃は入江診療所に向かい、鷹野さんや山狗に不審な動きがないか内偵を進めてくれているはずだ。
……敵だとわかっている相手の手中に向かわせることに不安がないわけではなかったけど、鷹野さんたちの目的はオヤシロさまの祟りの再現。
だからこそ綿流しの夜までは安易に梨花ちゃんたちに害を及ぼすようなことはないはずだと主張し、梨花ちゃんは平気な顔をして出かけていった。
凄いな、と本気で感心する。
まぁ、梨花ちゃんの話が本当ならいくつもの世界で俺を含めた部活メンバーが凶行に走っていたのに梨花ちゃんはいつも平然と俺たちと付き合っていたわけで、それと同じことだといえばそうかもしれない。
で、俺は過去の事件についての調べ物に来ていた。
最初のダム工事の現場監督のバラバラ殺人、白川公園の北条夫妻転落事故、古手神社の神主夫妻の変死と自殺……それらについては多少なりと記事が見つかった。
その内容は俺の知る知識と変わりなく、そこに至るまでの経緯は同じ……だが肝心の4年目の祟り、北条叔母の撲殺事件は報道されていないだけに詳細が掴めない。
その事件で消えたはずの悟史がいることから考えて、俺や梨花ちゃんの知る世界とこの世界の分岐点は、そこに存在するはずなのだ。
「あっ、圭ちゃんっ!」
静かな閲覧室内にいきなり高い声が響き渡り、周囲の視線がそちらに流れる。
名前を呼ばれた張本人である俺も顔を上げ、注目を集めて真っ赤になる詩音を発見した。
ぺこぺことまわりに頭を下げつつ、そそくさと俺の隣にやってくる。
……いつも抜け目ない印象の詩音がこんな失敗をやらかすなんて、珍しいな。
「こ、こんにちは、圭ちゃん。今日はお勉強ですか?」
さすがにさっきのは恥ずかしかったのか、まだ顔を赤くしながら隣の席に腰を下ろし小声で尋ねてくる。
「いや、昼からこっちの玩具屋で部活の予定なんだ。それまでの時間潰し」
知り合いに会ったときのために用意してあった台詞を言うと、詩音は心なしか残念そうに肩をすくめた。
「そ、そうですか。……お姉のやつめ、休みの予定は教えるようにあれほど言ってあるのに、もぅ……」
ぶつぶつと魅音への不満を口にする。
「……あ、よかったら詩音も一緒に来ないか? 人数多い方が盛り上がるだろうしさ」
詩音も前の世界では一緒に戦ってくれた仲間だ。
戦力としても魅音に匹敵するくらい頼もしい存在だし、できることなら、今回も部活に加わってほしいところだ。
「え……あ、そ、そうですね。でも、いいんでしょうか。ほら、私って学校も違いますし、お姉の部活にも入ってないわけですから……」
すこし遠慮がちな様子だったが、でも意外と乗り気になっているのが見てとれた。
「そんなの大丈夫だって。……俺も、詩音が一緒のほうが楽しいしな!」
「えっ……!?」
また大きな声をあげかけて、慌てて口を押さえる詩音。
……なにかこの世界の詩音は妙に落ち着きがないな。
そういえば前の世界の魅音もたまにこういう反応をすることがあったっけ。
……やっぱり双子だな。
「……もぅ、こんなの不意打ちですよ……」
真っ赤な顔で胸を押さえてもごもごと呟く。
「そういえば詩音は、レナとか……悟史に会ったことはあるのか?」
以前感じた疑問に話をもっていく。
「あ、あぁ……レナさんとは、お姉と一緒に興宮にお買い物にきたときに一度会いましたね。梨花ちゃまには親戚関係の集まりでたまに会いますし……北条の兄妹とはまだ縁がないですね。会ってみたいとは思ってるんですけど」
……やっぱりそうか。
この世界の詩音は、悟史にも沙都子にも面識がないようだ。
前の世界で悟史との約束を守り、沙都子のために転校してきた詩音を知っている俺としては違和感が大きい。
「きっと仲良くなれると思うぜ。俺が保証する」
沙都子にじゃれついていた詩音の、優しい横顔を思い出す。
「そうですか?……ふふ、圭ちゃんが保証してくれるなら私、信じちゃいますよ☆」
明るい笑顔を返してくれる詩音。
が、すぐに顔を曇らせた。
「……でも、向こうは大丈夫ですかね。ずっと学校で一緒のお姉はともかく、私は園崎なわけですし……」
前の世界で聞いた園崎と北条の確執。
たしかに、学校にはその関係が持ち込まれていないとはいえ、直接沙都子たちと関わりのない詩音にとっては重い事実なのだろう。
「お姉にちらっと聞きましたけど、去年も大変なことがあったそうですし……園崎を恨んでたりしないですか?」
「いや、そんなことないさ。……詩音、その話って」
それはまさに、俺が今日ここへ来た目的だった。
「え、去年の話ですか?……あまり楽しい話ではないんですけどね。ええと、確か二人の叔母さんが、変質者だかなんだかに殴られて死んじゃったんですよね……?」
……叔母の撲殺事件はこの世界でもやっぱり起きていた。
でも、問題はその後なんだ……!
「でもさ、オヤシロさまの祟りって、聞くところによると……ひとりが死んだらひとりが消える……って話じゃなかったか? そのときは誰も消えなかったのかな」
出来る限りさりげなさを装って聞いたのだが、
「さぁ……私も、詳しく聞いたわけじゃありませんから。村で仲間はずれにされた上にそんな事件ばかり続いて、二人のことは可哀想だと思いますけど……」
悲しげに目を伏せる。
「圭ちゃん、こんな話……あまりしたくないです」
「あ、あぁ、そうだよな。ごめん」
取り繕うように笑ってみせ、俺は広げていた雑誌類を元の棚に戻した。
詩音はついてきて、
「圭ちゃん、これからお昼ですよね?」
「ん? あ、そうだな。どこで食べよう」
今朝家を出るとき、500円ほど持たされたのを思い出す。
「それじゃ、あの……よかったら、ご一緒しませんか?」
はにかみながらおずおずと言い出す詩音。
「あ、うん。……あんまり高いところは無理だけどさ」
魅音と違って詩音はどこかお嬢様っぽいから、予防線を張っておかないと物凄く高い店に連れていかれそうだった。
「それならおまかせです☆ 私、格安でとっても美味しいものが食べられる場所を知ってるんですよ♪」
「おっ、そりゃ助かるな!」
……この後、俺はなぜか詩音のマンションに連れて行かれて、お手製のチャーハンをご馳走になったのだった。
<雑談>
困ったことに甘めな展開が苦手でめったに書かないので、
どこまで詩音を可愛く書けているか自信がないですよ。
でもこの話では必要なプロセスだしなぁ……うーん。
それにしてもアレです。
いままでノーマークだった詩音や魅音を話のメインに
もってくるだけで新しいネタが2~3本思いつきました。
んでも、一応圭梨や圭羽が中心だと公言しているわけで、
そればっか続くのもどうかと……とか悩んだり。