玩具屋の部活に参加して部活メンバー全員と顔見知りになったのがよかったのか、詩音はちょくちょく分校や俺たちの立ち寄り先に顔を出すようになった。
魅音とはいつも互いにからかい合ってるし、もちろん沙都子とも仲良しですっかり部活の7人目のメンバーとなった観がある。
「前の世界では6の目が出たと思ってたのですが……これは、ひょっとしたら7の目が出たのかもしれませんです」
今日も賑やかにはしゃぐ仲間たちの中には、前の世界にはなかった悟史の姿もある……。
梨花ちゃんは頼もしそうに笑ったが、俺はなぜか胸騒ぎのようなものを感じていた。
まだ足りない、なにか足りない。
どこかで誰かが、そう囁き続けているような気がした。
「悟史、いいか?」
ある日の放課後、俺は部活の罰ゲームで本来は委員長の仕事であるカレー菜園の草むしりを押しつけられた悟史に声をかけた。
「あ、圭一。まだ帰らなかったんだ」
「ちょっとな。……手伝うよ」
悟史の隣にしゃがみこみ、作業を手伝う。
「ありがとう。……なに?」
こちらの意図を察して、悟史は微笑んで先を促す。
「俺、まだ引っ越してきたばかりで事情がよくわからないんだけどさ……悟史と沙都子って、二人暮らしなのか?」
二人は交代で弁当を作っているらしく、あまり出来がいいとは言えない揃いの弁当をいつも持ってきていた。
だからこう聞くのは、不自然ではないだろう。
「……うん。3年前になるかな、両親が事故で、ね」
悟史は屈託のなさそうな笑い方をしたが、心中がそうでないことはぶつりと根を引きちぎるような草の抜き方をしたことで明らかだった。
……悪い、悟史。
「叔父さん夫婦に引き取られたんだけど、……その、叔母さんは死んじゃってさ。叔父さんも居心地が悪くなったんだろうね。ふらっと出かけちゃったまま帰ってこないよ」
小さな笑みとともに肩をすくめる。
「……圭一は知ってるかな、ダム戦争のこと」
「あぁ……、うん。すこし」
本当はかなり詳しいところまで知っているが、そう答えた。
「僕たちの家は、ダム賛成派だったからさ。引き取り手もないし施設に入るのも沙都子が嫌がったから……あはは、叔父さんが帰ってこないのをいいことにそのまま、だよ」
普通なら子供が二人で暮らしていればしかるべきところに連絡がいくのだろうけど、この場合は北条家の事情が逆に幸いした。
関わりを持つことを避けた村人は誰も通報したりせず、親の残してくれた貯金をたよりに悟史と沙都子は慎ましく二人暮らしを続けているのだという。
「そうなのか……なぁ、そのダム戦争の余波って、いつまで続くんだろうな。ずっとって訳じゃないだろ」
俺は前の世界で、本当は村の誰も沙都子を嫌ってなどいないことを知っている。
園崎家頭首の婆さんだって、悟史の親はともかく悟史や沙都子を本気で嫌ってるわけじゃない。
「うん……沙都子のためにも、早く終わって欲しいとは思ってるよ。圭一も、心配してくれてありがとう」
心からの感謝の言葉が胸に響く。
ああ、よくわかったよ……。
悟史がいなくなった後も、沙都子や詩音、みんなに慕われていたわけが。
「大丈夫。僕は園崎家を恨んでなんかいないよ。魅音には本当にお世話になってるし、詩音も良い子だしね。村に憎まれ役が必要な間は、仕方ないかなって思ってる」
『仕方ない』……そんな悲しい言葉を、こんな優しい奴に言わせる現状に、俺はなにかしてやれるんだろうか。
また叔父が帰ってくれば、前の世界でやったことをもう一度やってみせる自信はある。
でもそうなったときはきっと悟史が沙都子をかばって傷つくことになるんだろう。
この世界の沙都子は俺から見ても前の世界の沙都子よりも甘えん坊で、とても叔父を相手に抵抗する強さはない。
つらいことは悟史が全部背負ってしまっているから……。
「悟史……」
拳をきつく握りしめる。
爪が食い込んで痛いくらいに。
「ひとりで頑張るなよ、悟史。もし俺にできることがあったら、なんだって言ってくれ。まだここに来てから日は浅いけど、俺は悟史も沙都子も、仲間だと思ってる」
悟史はそれを聞いて目を丸くしたけど、すぐに微笑んだ。
「……圭一も、レナや魅音と同じことを言うんだね」
「え……?」
悟史は草でいっぱいになった籠を手にして立ち上がった。
「去年、僕もけっこう追いつめられてた時期があってさ。そのとき、二人がいまの圭一と同じように言ってくれた」
校舎裏に、静かに風が吹き抜けていく。
「自分ひとりで背負わなくていい、自分たちはもう手を伸ばしてるから、手を伸ばして助けを求めて欲しいって。そうしないと届かない、助けたくても助けられない……仲間なんだから、いつだって味方になるよって」
悟史の言葉は、俺にも覚えのあるものだった。
……レナと、魅音がそう言ったって?
「みんながいて、本当によかったよ」
そう言って、悟史は草を捨てにいくために背を向けた。
なんだ……何が引っかかってる? 何を見落としてる?
俺は悟史の言葉のどこに、違和感を感じたって言うんだ?
正体の分からない焦燥を持てあましながら、俺は悟史と別れたあと古手神社に向かうことにした。
内容が内容なだけに、相談できそうなのは梨花ちゃんしか思いつかなかった。
「……みぃ?」
梨花ちゃんは話を聞くと、難しい顔をして一声鳴いた。
「レナや魅音が、前の世界の記憶を持っている可能性がある……圭一は、そう言いたいのですね?」
すこし考え、俺が言いたいことをうまく整理してくれた。
そうだ、俺がこうして前の世界の記憶をもっているんだから、レナや魅音が持っていたって不思議じゃない。
「あ、あぁ。俺や梨花ちゃんが隠してるから、言い出せずにいるだけってことはないかな?」
一縷の望みにかけてそう言ったのだが、梨花ちゃんはすげなく首を横に振った。
「それはありえないのです。……二人は悟史がいることに違和感を抱いている様子はありませんし、レナと魅ぃがもしもあの世界のレナと魅ぃだったら、その……不自然なことがあるのです」
梨花ちゃんは最初はきっぱりと拒絶したが、続いてわかったようなわからないような曖昧なことを口にした。
「不自然って……なにがだよ?」
「ボクの口から言うべき事ではないのです。でも、間違いないです。レナも魅ぃも沙都子も詩ぃも、あの世界の記憶は共有してないのですよ」
俺に言える理由ではないってことは、なにか女同士にしかわからない秘密でもあるのだろうか?
……よくわからないが、梨花ちゃんの判断はたぶん間違っていないと思う。
なんといっても梨花ちゃんはループする世界に関してはベテランだ。
ビギナーの俺がおいそれと口を出せるわけもない。
……ただ、俺の理由のわからない焦燥感も、まだ胸の奥でくすぶり続けているのは確かだった。
最初期にたぶん書いた奴なので、一話分は馬鹿短いです...許してください。当時の個人ブログとかサイトって拍手機能ありましたよね、ハーメルンってサイトは拍手機能ないの辛い...正直、拍手機能に甘えてた節がある...