暗黒生命体の身体を食べて、ナオミは感動を覚えた。
同族意識なんてものはない。身体はナオミの意識など無視して勝手に咀嚼し、捕まえた暗黒生命体の体組織をぐちゃぐちゃに潰す。舌を経由して途方もない『不味さ』が脳に叩き込まれるが、身体に動きを任せれば咀嚼は止まらない。
そうしてすり潰したものを飲み込む。消化管の中でも、内臓の動きと食べたものの存在を感じ取れる。
暗黒生命体は、摂食・消化行動も非常に興味深いものだった。
「(今なら分かる。食べるだけで、こんなにも激しい攻防が起きていたのね)」
血肉を咀嚼しつつ、ナオミはその詳細を解析していた。構造は見る前に潰れてしまったが、まだ細かな組織は残ったまま。暗黒生命体化が進んだ目と触角は、自分の体内すら観測出来る。
噛み潰した暗黒生命体の身体は、その状態でも生きていた。
より正確に言うなら、細胞単体でも生きている、と言うべきか。咀嚼によって身体がバラバラになっても、細胞達は単独で活動を続けている。中には周りにある養分(ナオミの歯にすり潰された細胞など)を吸収し、十分なエネルギーを得ると分裂まで始める始末。
このような事が可能なのも、暗黒生命体が持つ『エネルギー吸収能力』のお陰だ。この能力は身体ではなく、細胞単位で持ち合わせている力。なんらかの理由で身体が破壊されても、細胞さえ生き残れば周りのエネルギーを吸い込める。
多細胞生物が身体をバラバラにされると死んでしまうのは、生理機能を様々な
更に、イモムシ型暗黒生命体の細胞はとても小さかった。なんと僅か〇・〇二マイクロメートル(五万分の一ミリ)しかない。これはウイルスの大きさと比べても小さく、人間の細胞と比べれば一千分の一の大きさである。高性能なバイオロイド細胞は人間よりも巨大なため、バイオロイドと比べれば更に小さい。
恐らくこの小ささは、生き残るための戦略だ。たとえ食べられ、咀嚼されても、細胞単独で生きていける。ならば一つでも傷のない細胞があれば、そこから再生して『復活』出来る。咀嚼による磨り潰しを回避し、口から零れ出るには小さい方が有利だろう。
もしもここまでバイタリティ溢れる細胞が、生きたまま胃に入ったら……きっと胃液さえも餌にして、増殖・復活をしようとする。そして腹を食い破り、外に出てくるかも知れない。
「(ま、それをやられる心配はしなくて良いだろうけど)」
喰われる側の生存能力は凄まじいが、喰う側だって決して劣ってはいない。暗黒生命体の捕食者達は、獲物を確実に消化するための方法を持っている。
まずエネルギー吸収能力への対応。この能力さえ封じてしまえば、獲物の細胞が体内で増殖する可能性を著しく抑制出来る。これのやり方は簡単で、捕食者が持つエネルギー吸収能力をぶつければ良い。同じ能力により相殺してしまうのだ。それどころか可能ならばそのまま圧倒し、取り込んでしまう。
しかし全ての細胞に通じるやり方ではない。食われる側の暗黒生命体にとって、出力で圧倒される事は想定通りなのだろう。今ナオミが食べた暗黒生命体は吸収能力に耐性を持っており、これだけで消化し切るのは難しい。
そこで分泌するのが異次元物質で出来た消化酵素だ。エネルギー吸収に耐性を持ちつつ、大きな分子の結合を破壊していく。能力は、あくまでも細胞が無事だから使えるもの。細胞そのものを一つ残らずバラバラにすれば、もう体内で能力が発動する心配はない。胃液という形で浸し、徹底的に分解していく。
これでも生き残った細胞には、今度は免疫細胞による攻撃が加えられる。消化液と共に少量送り込まれた細胞は、自己と異なる細胞に物理攻撃(多次元に干渉するレーザー的攻撃など)をしていく。かなり攻撃性が高いらしく、時々仲間の免疫細胞を攻撃するほどだ。同士討ちは間抜けにも見えるが、言い換えればカモフラージュ……『仲間』のフリをして生き残ろうとしている獲物の細胞も、容赦なく駆逐する能力がある。
そして最後に消化管。食べたものを時折押し潰していく。小ささ故に暗黒生命体の細胞は物理的に潰すのが難しいが、難しいだけで不可能ではない。念入りに、何度も何度も潰せば、幸運な生き残りは残らない。
暗黒生命体の種によってはもっと複雑な、或いは高度な仕組みがあるかも知れないが、ナオミの体内で起きているのはこのような消化プロセスだ。
「(食べた後の栄養の利用も、面白い)」
消化吸収後、取り込んだ物質は全てエネルギーまで分解していく。
これは一見して非効率なやり方だ。人類の場合、食べたものは消化により分解されるが……その単位は精々アミノ酸やビタミンなど、大きな分子程度である。もっと分解してアンモニアや二酸化炭素ましてや原子にはしない。何故なら身体を形作るタンパク質の原料はアミノ酸などであり、これ以上小さくする必要がないからだ。小さな分子や原子を大きな分子まで組み立てるにもエネルギーを使うので、必要最低限の分解に留める方が効率的である。
暗黒生命体の身体も物質で出来ている。これをエネルギーまで分解するというのは、アミノ酸よりも更に細かく、原子どころか素粒子さえも残さず分解するという事。当然細かく分解すればするほど、消費するエネルギーは大きい。いくらなんでも過剰な分解で、エネルギーの無駄遣いに思える。
しかし実際には、必要不可欠な行程だ。というのも暗黒生命体の身体は異次元物質により構成されているが、この異次元物質、種によって全く性質が違う。「体液の大部分を占める水っぽいもの」でさえ、種によって水と水銀ぐらい性質が異なる。
これは考えてみれば当然だ。種によって生き方が違うのだから、物質に求める性質だって全く違う。そして異次元物質の作り方は、エネルギーからの合成である。最小単位であるエネルギーまで分解しなければ、自分用の物質を合成する事は出来ないのだ。
「(おまけにこのやり方でも分解出来ない、毒素のような異次元物質まである……暗黒生命体のような生物でも、毒による防御は有効なのね)」
毒のような異次元物質は、ナオミの細胞を分解していく。詳しい理屈は不明だが、細胞の構造自体が崩壊していくようだ。まるで全ての柱が一瞬で腐った家かのように。
尤も、毒性は即座に分泌された酵素により中和。捕食者であるムカデ型にとって、獲物がなんらかの毒を持っているのは当然の事なのだろう。迅速な対処をしたので、毒による被害は殆どない。
ちなみに細胞が壊れるほどのダメージを受けたのは、その毒が異次元物質……人類の知る物理法則を超越する作用を発揮したからだ。人類がどんな毒物を打ち込んでも、暗黒生命体は分解するだけだ。要するに餌になるだけ。
徹底的な分解を経て、食べた暗黒生命体の全てがエネルギーへと変換された。
このエネルギーの『形態』も興味深い。エネルギーと一言でいっても、例えば熱や電気、光などの種類が存在する。それぞれのエネルギーには性質の違いがあり、変換効率や利用の簡単さなども異なる。
では暗黒生命体の体内にあるのがどんなエネルギーかと言えば……これは意外にもハッキリしていた。
光エネルギーである。厳密には人類文明で扱われている光とはかなり異なる ― 例えば光なのに超光速で飛ぶなど ― ものだが、値が異なるだけで、属性や性質は極めて近い。恐らく異次元物質の生成を可能とする、特異な物理法則に適したものなのだろう。この光エネルギー(のようなもの)を変換し、異次元物質の合成や代謝活動の維持を行っている。
光エネルギーといえば、暗黒生命体が持つもう一つの特徴にも関わる。
それは無からエネルギーを生み出す力だ。暗黒生命体は無からエネルギーを生み出せるが、この生み出したものが光エネルギーなのである。先述した通り厳密には人類の知る光とは異なるが、それに極めて類似した性質のものには間違いない。
「(イモムシ型の細胞から染み出してるエネルギーも、光エネルギーみたいね。多少の差はあるけど、異次元物質ほどの違いは感じないかな)」
身体の構成物質どころか、物理法則までもが種によって大きく異なるのが暗黒生命体。それを鑑みると、創り出すエネルギーの性質に大きな差がないのは、奇妙にさえ思えてくる。
全く違いがない訳ではないので、全く変えられない訳ではないのだろうが。変換効率や保存しやすさなど、色々便利なので
ナオミが思うに、これは暗黒生命体の『起源』から引き継いだ性質なのではないか。
「(最初の暗黒生命体は、光エネルギーを創り出す生物だったのかしら)」
もしも人類の知る光と同質のエネルギーを得るのが始まりならば、暗黒生命体の起源というのは案外人間のような、ごく普通の生命から進化したのでは……
そんな考察が過るも、ナオミは顔を横に振った。あり得ない、と否定した訳ではない。ただ、根拠と呼ぶには些か弱い。使い勝手の良いエネルギーを創るよう進化した結果、光に類似したものとなっただけかも知れない。『結果』から過去を推測するのは極めて困難であり、証拠なしの考えは危険だ。
「……うん。面白い」
ただ、好奇心は刺激される。食べた暗黒生命体の全てが身体に取り込まれたのを実感した後、ナオミは満足気に独りごちる。
食べたのはとても小さな、八センチ程度のイモムシ型暗黒生命体。
だがそこに踏まれるエネルギーは膨大だ。異次元物質で出来た暗黒生命体の身体は、通常物質とは比にならない密度のエネルギーを有している。だからほんの小さな虫一匹でも、まるで星を食らったかのような『質量』を感じさせた。
とはいえ暗黒生命体の身体能力は凄まじく、消費エネルギーが非常に多い。獲物のエネルギー量が如何に膨大でも、消費エネルギーも多いならたくさん食べねばならない。恐らく『見た目』の食べる量は、地球生命とあまり変わりないだろう。
つまりナオミの場合も、こんな虫一匹では満腹にはならないという事。まだまだ空腹な身体は半ば無意識に動き、近くにいた別の暗黒生命体を捕まえた。細長いミミズのような種で、翅などは生えていない。脚どころか頭部なども見られず、一見してイモムシ型よりも原始的だ。或いはイモムシ型が進化して、無駄なパーツを削ぎ落とした姿かも知れない。
これをぱくりと頬張ったナオミは、しかし今度は簡単には咀嚼しない。ゆっくりと潰しながら、身体の構造を解析するためだ。先程一匹食べた事で僅かながら満腹感を得たため、ある程度なら意識的に補食行動を抑制出来るようになっていた。今なら内臓など、体内構造を調べながら咀嚼出来る。
「(ほほぅ? 体組織の分化が、全く進んでないわね)」
真っ先に印象に残ったのは、全身の細胞が未分化に近い事。
地球生命の場合、多くの高等動物の細胞は分化……特定機能に特化した状態となっている。例えば脳細胞は情報処理を得意とし、小腸の細胞は栄養吸収を得意とするといった具合だ。
分化した細胞には様々な強味がある。まず、特定機能に最適化されているため、その分野の仕事を最高効率で行う事が可能だ。これは少ないエネルギーで同じ仕事が出来るというだけでなく、非効率な細胞では出来ない水準の仕事も可能であるという事。
それに一つの細胞が複数の能力を持っていても、身体の部位によっては全く使わない。脳細胞が筋肉のような伸縮性があってもパワーは増大しないし、足の筋肉が消化吸収能力を持っていても使い道がない。それら無駄な機能を削減すれば、エネルギーや資源の消費も抑えられるだろう。
自然界を生き抜く上で、エネルギーの節約は重要だ。節約すれば少しの食べ物で生きていけるだけでなく、余った分でより多くの子孫を残せる。
しかしデメリットも小さくない。分化後の細胞は、それ以外の仕事は出来なくなる事が多い。『全能性』の喪失と呼ばれるもので、要するに指や足の細胞は、脳には変化出来ないという事だ。切り傷は治っても腕自体を欠損すれば生えず、目が抉れればそのままで、心臓の血管が詰まっても代わりは形成されない。
暗黒生命体の細胞は、この分化が進んでいない。少なくともこのミミズ型にはその傾向が見られる。分化していない細胞であるが故に全ての能力を持ち、細胞が一つだけになっても全身の復元が可能という驚異的生存能力を発揮するのだ。
勿論全細胞が複数能力を持つため、効率は悪い。つまりエネルギー消費は特化した細胞よりも多い。だが暗黒生命体の生息圏では強大な生物同士が絶え間なく争い、その血肉には物理法則を超えた密度のエネルギーが詰まっている。多少の非効率は十分補える環境だ。むしろあまりに天敵が多いため、身体の欠損頻度を考えれば何処からでも再生出来る方が好都合なのだろう。
「うーん、実に高機能……おまけにこの感じからして、現時点で使う見込みのない不要な能力は休眠させてエネルギー消費を抑えてる。消費も、実はそんなに多くないわね」
強いて弱点を挙げるとすれば、
暗黒生命体はオーバーロード文明も人間文明も滅ぼした。プロメテウス砲どころか宇宙を滅ぼすVC爆弾にも耐え、超光速で動き回る事も出来る。星の一つ二つを吹き飛ばす攻撃を繰り出し、エネルギー吸収や運動制御などの特殊能力も持つ。
戦闘能力そのものの高さは言うまでもない。数多存在する平行宇宙に暮らす生物の中でも、最上位に位置するだろう。
しかし一つの細胞が持つエネルギー量を考えると、戦闘に費やしている分があまりに少ない。殆どのエネルギーが環境への適応、様々な攻撃への耐性、消化吸収、細胞分裂速度など……成長や生存、繁殖能力に投じられている。
暗黒生命体にとって、戦いの勝ち負け自体はどうでもいいのだろう。重要なのは生き残り、子孫を残す事。ただ全体のエネルギー量があまりに膨大なので、あらゆる文明を凌駕する力があるように見えているだけなのだ。
尤も、単純に戦闘能力で上回る相手と戦ったとして、簡単に負けるとは思えない。反応速度や演算能力が高く、対応力や判断力がずば抜けているからだ。戦いでは数値以上の強さを発揮するだろう。仮に力で負けたとしても、生存能力や環境適性、繁殖力に長けている暗黒生命体は環境を支配する。どんな戦闘種族でも、生きる場を失っては生存出来ない。
即座に勝てないような相手にも、最後は必ず『競争』で打ち勝つ。それが繁殖に特化した暗黒生命体の戦略だ。
「んふー。成程ねぇ」
体細胞について解明し、好奇心が満たされてナオミはご満悦。それに暗黒生命体として、自分の身体にもその力があると思うと気分が良い。
とはいえ謎はまだある。繁殖を重視する傾向があるのは理解したが、だとしても戦闘能力を軽視し過ぎている気がした。或いは、繁殖能力ばかり進化していると言うべきか。
ランダムな変異により進化するなら、普通は極端に偏らない。だが、なんらかの意思による進化の方向性があるとも思えない。暗黒生命体化の進んだナオミ自身がその『方向性』を感じていないからだ。きっと、何か違う理由がある筈。
「(もっと調べてみれば、色々分かるかも)」
咀嚼していた暗黒生命体を、ごくんと飲み干す。
栄養だけでなく、たくさんの知識が得られた。
だがまだこんなのは暗黒生命体のほんの一部。もっと食べれば、色々なものを食べれば、暗黒生命体についてもっと知識を得られるだろう。
「ふふっ、楽しくなってきた。はぐっ」
また一匹暗黒生命体を口に入れ、噛み潰す。今度は二センチほどのイモムシ型暗黒生命体。ゆっくりと噛んで、体組織の構造を解析していく。一通り解析したら飲み込み、また次の暗黒生命体を襲う。
その後もナオミは次々と小さな暗黒生命体を食べ、栄養補給をしながらその身体に宿す秘密の解析を行った。そして様々な知識を得ていく。
――――イモムシ型と一言でいっても、ナオミの周囲だけでも恐らく数万種は生息している事。
――――身体構造の差異から、イモムシ型だけで十六科五百属程度はいる事。
――――体節構造や体組織の性質からして、ミミズ型とイモムシ型が極めて近縁な事。
――――身体が小さいほどイモムシ型が優勢だが、体長十センチを超えると甲虫のような種の個体数が多くなる事。
――――咀嚼や消化により細胞単位でバラされても、情報処理は個別の部位で継続し、思考力や本能どころか記憶さえも殆ど失わない事。
ただ食べるだけなのに、次々と新たな知識が入ってくる。知的好奇心を刺激しながらの食事は、バイオロイド文明にいた時には味わえなかった。腹は満腹になってきたが、好奇心が止まらないので食べ続けてしまう。
しかしその手を止めたのも、ナオミの中にある好奇心だった。
「んぁ?」
大きな口を開き、一匹の暗黒生命体
を食べようとしていた時に気付く。
周囲を飛び回っていた大量の暗黒生命体達が、一斉に移動を開始した事に。捕まえた暗黒生命体をぱくりと頬張り、ナオミは暗黒生命体の群れを見る。
たくさんの暗黒生命体が移動する事自体は、珍しくもなんともない。大型種同士の闘争などで大きなエネルギーの発生が予見されると、そのエネルギーを吸収して繁殖する生産者はそちらに集まるものだ。或いは先程の球体型のような、驚異的な天敵がやってきた時も一斉に逃げ出す。いずれにせよ暗黒生命体生態系におけるあり触れた循環の一つ、と表現しても良いだろう。
されど今ナオミが見ている範囲に、巨大な暗黒生命体の姿はない。
ナオミ自身、暗黒生命体が支配するこの宇宙では食われる側の一体だ。天敵となり得る種はいくらでもいて、今も多種多様な捕食者が周囲を飛び交っている。それこそ百メートル圏内どころか、今、十数メートル隣りの位置を通り過ぎる巨大ムカデ型がいるほどだ。ナオミ以外の獲物が豊富だから今は狙われていないが、大型種に一度狙われたら生存すら危うい。きっと、スズメバチ型と戦った時よりも一方的に食われてしまう。
たとえ狙われなくても球体型のような化け物や、百メートル級の大怪獣の戦いに巻き込まれたら一溜まりもない。だから周囲の安全、自分より大きな生物の視線や距離などは、知的好奇心を満たしている間も十分警戒していた。見落としているとは考え難い。
本当に全ての脅威を判別出来れば、そもそも被食者なんていない(天敵に食われる前に逃げられる)ので、何処かに見落としがある事は否定出来ないが……今ナオミが確認している暗黒生命体の大移動は、半径数キロで起きている大規模なもの。高々数メートルの暗黒生命体同士の争いで生じるような、ちゃちなエネルギーを求めて発生するものではない。
おまけによく見れば、小型種だけでなく数メートルから数十メートルクラスの暗黒生命体も、一緒に移動しているではないか。姿形から推測するに、大型の暗黒生命体はいずれも捕食者。エネルギー吸収能力は持っているが、生産者の種より効率が悪く、普通に獲物を食べる方が栄養面では良い。そんな連中が傍にいる暗黒生命体を襲わず、仲良く一緒に移動している。
そして一番不思議なのは、大部分の個体はこの場に留まっている事。確かに半径数キロ圏内の暗黒生命体が一斉に移動しているが、それに参加したのは全体からすればほんの一部。九割以上の個体は無反応で、何時も通りの食う食われるの暮らしを続けている。
一体、何が起きようとしているのか。気になるのなら、調べるしかあるまい。
「よし、ちょっと追い駆けてみよっと」
好奇心の赴くままに、ナオミもまた群れの後を追う。
その先で待つ出会いが、自分の未来を決定付けるとは考えもせずに。