暗黒生命体調査計画   作:彼岸花ノ丘

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類似個体

 何が起きたのか。

 それを考えようとした瞬間、ナオミは頭の中が真っ白になった。勝手に逃げ出した筈の身体が、強烈な打撃を受けたと感じたがために。

 対する身体、暗黒生命体の細胞は冷静だ。高度な演算能力を発揮して状況を解析。今の『自分』が取るべき最適な動きを行う。

 まず背中にある翅を羽ばたかせ、体勢を変更。打撃……全身に物理的ダメージを与えるほどの、衝撃波が来た方へと振り向く。長く伸びた尻尾を身体の前方へと動かし、盾代わりにして構えた。

 更にアンテナ状の触角を解放。花が開くように、先端部分を展開する。これは表面積を広げる事でより多くの情報を収集するための状態だ。角と思えるほど頑強な甲殻の内側を露出させるため防御力は低下するが、想定外の攻撃を受けた今は情報収集を優先する。

 ナオミが何かを考える前に、彼女の身体は全ての準備を終えた。地面などない無重力空間で静止してから、ナオミは自分を襲ったものの正体を目視で確かめる。

 

「……………これは、まさか」

 

 その口から出たのは、驚きの言葉。大きく目を見開き、口は半開きになる。

 ナオミがつい先程までいた場所には、『人影』があった。

 間違いなく、人類のシルエットだ。二本の腕を持ち、二本の足を生やし、直立二足歩行をして、胴体の上から伸びる首に大きな頭を乗せている。

 だが、その容姿は人間でもバイオロイドでもない。

 身体は服を一切纏っていない。裸体であるが、剥き出しなのは皮膚ではなく甲殻。胸部を黒い外骨格が覆い、手足も甲殻を纏っている。肌らしきものは全く見られない。人型という形もあって、節足動物というより鎧武者のような外観だ。身長は百八十センチ近くあり、肩幅もかなり広い。

 背中からは四枚の翅が生えている。長さは二メートル以上あり、幅広で身体よりも大きい。翅の縁が頑強な『筋』で支えられていて、地球生命で例えるとチョウに似た構造だ。臀部からはざっと三メートルはある細長い尻尾が伸び、先端が鋭く尖っている様はさながら悪魔の尻尾のよう。

 そして顔面。目は完全に複眼で、人間的な眼球は痕跡すら見えない。口は人間のものではなく、左右に開く昆虫のような大顎になっている。額から生える二本の触角は、忙しなく揺れ動く。頬や額などの皮膚は見当たらず、全体が甲殻に覆われていた。

 昆虫人間、という表現が一番しっくりくるだろうか。あまりにも人間に似た、人間離れした怪物だ。

 

「(コイツの正体については、色々考えられる)」

 

 もしもバイオロイドの意識のままだったら、数秒は思考停止していた。そう確信するほどの衝撃を受けつつ、ナオミは冷静に思考する。

 例えば、人型の暗黒生命体という可能性。

 大部分がイモムシ型、及びそこから派生した形態が多いとはいえ、暗黒生命体の姿形は極めて多様である。ムカデどころか龍や怪獣のような形態の種もいた。ならば人間のような姿の種がいてもおかしくはない。地球上で人間が生まれた以上、人間の姿形が一定の環境下で有利なのは間違いない事である。

 だが……幾つもの暗黒生命体を観察してきたが、今まで『サル型』は見ていない。

 見ていないだけで、いないとは限らない。近縁種が全て滅びている、などの理由は幾つも浮かぶ。それでも此処に、これほど完成された人型がいる事に納得がいかない。

 それよりももっと可能性が高いものがある。何しろ前例が此処にいるのだ。

 暗黒生命体の細胞に取り込まれたバイオロイド――――ナオミと同じ存在だと考えるのが、最も自然だろう。

 

「(そりゃ、いてもおかしくないわよねぇ)」

 

 ナオミの身体が暗黒生命体化しているのは、彼女が選ばれた存在だからではない。単に運が良かっただけ。ムカデ型に食われる間際、角イモムシによって邪魔された上、ムカデ型の体液(或いは体組織)を浴びた。これにより多量の暗黒生命体細胞が体内に入り込み、侵食されるきっかけと時間を得たのだ。

 細胞が体内に入り込み、尚且つ暗黒生命体の細胞が馴染むまで放置される。この条件さえ満たせば、DB型バイオロイドでなくとも暗黒生命体化した身体を手に入れられるだろう。ナオミがこの宇宙に訪れる理由である調査計画には、百人のDB型バイオロイドが参加していた。そして誰もが暗黒生命体に襲われ、喰われている。決して高い確率ではないだろうが、ナオミと同じような経験をした者が他にいてもおかしくない。

 

「……ねぇ。少しでも人間の意識は残っているのかしら?」

 

 『同族』であるなら、まずは会話でこの襲撃の真意を確かめる。そのつもりで話し掛けてみる。

 

【キュロロロロロ】

 

 返答は、あまりも人間離れした声。

 そいつ(ひとまず人型暗黒生命体、略して人型と呼ぶ)が発した今の一言に『言葉』はないだろう。だがどんな文章よりもハッキリと、齟齬なく意思疎通が行えた。

 この人型暗黒生命体にバイオロイドだった頃の意識は微塵も残っていない。

 頭を真っ先に欠損したか、はたまた生命活動が完全に停止した状態から侵食されたのか。いずれにせよナオミほどバイオロイドとしての状態が良くなく、自意識を維持出来なかったらしい。

 知性も知識もなく、ただ人の形をした暗黒生命体となったのだ。

 

「(別にそれは良いんだけど)」

 

 バイオロイドの仲間との再会も、今のナオミにとっては些末事に過ぎない。あちらと違い意識は残っているが、人格は既に大きく変性しているのだから。冷静で冷淡、数学的に思考する今のナオミの意識は別の疑問を抱く。

 何故、コイツは自分の前に現れたのか。

 

「(偶然、って可能性は勿論否定出来ない。否定出来ないだけで考慮に値しないとは思うけど)」

 

 ナオミ達がこの宇宙に侵入してから、かなり長い時間が経っている。

 人類的には大した長さではないだろう。恐らく数時間どころか数分も経っていない。だが光速の数百億倍もの速さで活動する暗黒生命体の時間感覚は、小型種なら数秒で世代交代するであるほど濃密だ。そしてナオミはこの時間、あちらにこちらにと動き回っている。

 光の速度は秒速三十万キロ。その数百億倍の速さで飛び回れば、数分で十万光年は動いている筈である。しかも敵から逃げたり、獲物を追ったり、群れを追跡したり……ナオミの移動はほぼランダムで、一直線に飛んではいない。そのランダム移動の中で偶然ばったり顔合わせする可能性は、限りなくゼロだ。

 ナオミも人型も、何かに誘引されたのであれば偶然鉢合わせる事もあるだろう。しかしナオミは特段、何かを求めていた記憶はない。精々食べ物と群れぐらいである。

 或いは本能的に同族を求め、意識する事もなく互いに接近していたのではないか――――

 

「(いや、それはない。絶対ない)」

 

 十分あり得そうな可能性を、ナオミの意識は即座に否定する。

 根拠はない。だが理由はある。

 まず自分の意識が猛烈に訴えている。この『ゲテモノ』から離れろ、と。

 生理的嫌悪、と言うべきだろうか。背筋が震えるほどの気持ち悪さを、ナオミは目の前の存在に対し感じていた。暗黒生命体化して合理的・数学的思考となったのに、それにも拘らず抱く不快感。こんな奴を求めていたなんて、絶対認めたくない。

 そして身体にある暗黒生命体の細胞からも、人型を求めるような感覚はない。むしろ理性以上に回避したがっているようにさえ感じた。こちらは嫌悪など感情的理由ではなく、警戒心などの合理的理由によるものという感覚がある。どうにも暗黒生命体からは危険なものと判断されているらしい。

 本能的に惹かれている可能性は絶対にない。

 ……否、よく考えればこの否定の仕方は誤りだろう。

 人型が一方的にこちらを求めている、その可能性だけは否定出来ない。たとえこちらがどうしようもない嫌悪感を抱いていたとしても、だ。

 

「(ぶっちゃけ逃げたい)」

 

 恐らく元同族とはいえ、今は拒否する対象。そもそもコイツはいきなりやってきて、意図してかどうかは兎も角ダメージを与えてきた存在だ。友好的に接する理由がない。

 離れたいという想いは身体も同じようで、殆ど無意識にナオミは後退する。

 

【キュロ、キュロロロ】

 

 相手は、後退した分だけ詰めてきたが。

 ぞわぞわと悪寒が背筋を駆ける。逃げたいという想いが、逃げろという直感へと変わる。背中の翅を高速で羽ばたかせ、全力で後退を試みる。

 ナオミの行動に反応してか、人型も行動を起こす。

 猛烈な速さでナオミに肉薄するという行動だ。

 

「(速い!?)」

 

 一瞬。今のナオミですら視認するのがやっとの速さ。人間味を残している思考は僅かな間止まってしまう。

 そのような思考を挟まない、暗黒生命体化した身体が反射的に動く。両手で、人型が伸ばしてきた片腕を掴んで受け止めた。もし両手が動いていなければ、人型の手はナオミの首をがっちりと掴んでいただろう。

 どうにか初撃は防いだ。防ぎきれた、とは言い難いが。

 

「ぐ……こ、この力、は……!?」

 

 驚きが言葉として出てくる。

 ナオミが両手で掴んでいるのに、人型の腕を抑え込めない。ぐいぐいと突き進み、ナオミを掴もうと迫ってくる。

 力が段違いに強いのだ。ナオミの力もDB型バイオロイドだった時よりも遥かに向上している筈だが、人型の振るう力は更にもう一段上といったところ。

 ナオミは腕を伸ばし、掴まれないよう奮闘する。だが突き進む勢いが強過ぎて、真っ直ぐ伸ばしきれない。

 

「こ、のぉ!」

 

 このままでは不味い。そう判断したナオミは人型の胴体目掛けて蹴りを放つ。怯ませた隙に距離を取ろうという算段だ。

 しかし繰り出した蹴りは、人型の胸部に当たるも弾き返されてしまう。鎧のように全身を覆う甲殻が、極めて頑強で攻撃が通らない。

 打撃を与えるどころか自分の隙を作ってしまった。これを見逃すほど人型は甘くないようで、蹴ってきたナオミの足をもう片方の手でがっちりと掴む。

 ヤバいと思った時には手遅れ。ナオミの身体は、力いっぱいぶん投げられてしまう。加速度により生じる重圧が、ナオミの身体を押し潰す。

 

「これ、しき……!」

 

 翅を広げ、体勢を立て直す。投げられただけでダメージを受けたが、身体の動きが鈍るほどではない。むしろ距離を取る事が出来た。

 逃げるなら今が好機。

 

【キュロアアッ!】

 

 しかし人型もそれを理解する程度の知能はあるのか。一際大きな咆哮を上げるや、また飛び立つ。

 やはり高速。移動速度では人型の方がナオミよりも数段上だ。だが後退し続ける事で見た目の速さ、所謂相対速度は大きく減少。更にナオミは後ろ向きに飛んでいたので、人型の動きはよく見えている。先程と違って考えるだけの猶予はあった。

 先とは状況が違うナオミに対し、人型のやる事は変わりない。猛烈な勢いで迫り、またナオミに向けて手を伸ばす。

 それが届く前にナオミは推力の向きを変更。一瞬にして後退から前進へと転じる。

 飛行が翅の羽ばたきによる推力ではなく、電磁誘導に似た力だから可能な事だ。とはいえ慣性は存在しているため、身体は推力と慣性の板挟みになる。文字通り身体が押し潰される感覚は、ただの人間どころか軍用バイオロイドでも耐えられないだろう。だがそれら痛覚も数値で判断するナオミは表情一つ変えない。

 寸分の狂いなく冷静に前進する事で、至近距離から人型へと突撃する。

 互いに向かい合って進む物体の相対速度は加算される。時速百キロで進む車からは、自分目掛けて突撃してくる時速百キロの車が、時速二百キロで爆走しているかのように見えるのと同じだ。自前の超スピードに加え、ナオミの突撃も合わされば、さしもの人型も反応が間に合わない。

 ナオミにも動きはろくに見えないが、こちらは作戦として実行した身だ。予め計算で導き出したタイミング通りに膝蹴りを放てば、硬質化した膝が人型の額を打つ。

 頭も甲殻に覆われているため、蹴りの一発ぐらいではダメージにはならない。だが額には触角がある。折る事は叶わなかったが、強い刺激を与えればいくらか感覚を惑わせる筈。

 更に蹴り上げた足先を顔に引っ掛けつつ前進すれば、そこを起点にナオミの身体を円を描く。素早く人型の背後へと回り込んだら足先を伸ばし、引っ掛かりを外したらそのまま前進。翻弄しながら距離を取る――――

 が、そんなナオミを殴り付けるものがある。

 人型の尻尾だ。三メートルはある長い尾が鞭のようにしなり、ナオミの身体を叩きのめす!

 

「ごふっ!?」

 

 受けた一撃は、投げられた時とは比較にならないほど強烈。口から吐血、いや、体組織が溢れ出してしまう。

 その打撃で吹き飛ばされたナオミであるが、ただでは起きない。この空間には大地も壁もない。吹き飛んだ勢いを殺さなければ延々と飛んでいく。

 更に翅から力を放ち、吹き飛ぶ勢いを加速。高速飛行で逃走を試みる。

 人型はこれで見逃してはくれず、ナオミを追ってくる。しかし自前の尻尾が与えた運動エネルギーは、人型にとっても相当大きなものらしい。簡単には追い付けず、しばし考える猶予が出来た。

 

「(全く、とんだ化け物じゃない……)」

 

 頭の中は冷静に、数学のように合理的に思考を巡らせていく。

 戦ってみて、ハッキリと理解する――――あまりにも身体能力が違う。

 ある程度は仕方ないとは思う。見た目からして、より暗黒生命体化が進んでいるのは人型の方なのだ。おまけに体格だって大きい。ならばより強大な身体能力を発揮出来るのも、人型の方に決まっている。

 だとしても、些か強過ぎないだろうか?

 理屈はない。あくまでも感覚的なものだが……侵食度合いや体格差を考慮しても、この強さは暗黒生命体らしくないと感じた。暗黒生命体の細胞は繁殖にエネルギーの大半を費やし、戦う力への配分はかなり少ない。繁殖特化の生命体であり、戦闘能力は二の次である。

 無論捕食者など戦闘が重要な生態的地位もあるため、必ずしも戦闘能力が低いとは限らない。だが予想通りであれば、人型とナオミは同じDB型に由来する存在だ。そこまで大きな違いが生じるとは考え難い。

 何か、自分とは異なる点があるのか。

 他にも気になる事がある。何故自分を追うのか、という根本的な疑問だ。獲物を求めているとすれば、さっさと食べれば良い。その身体能力を用いれば、ナオミの血肉を食い千切るのは簡単だろう。

 しかし人型はナオミを襲いこそすれ、食い殺そうとする気配はない。捕食する気なら、何故投げ飛ばすような攻撃をしてきたのか。

 

「(というか、私よりももっと効率的な獲物がいるじゃん)」

 

 付け加えると、ナオミは『栄養価』の面でも好ましくない。

 かなり暗黒生命体化が進んでいるとはいえ、その身体は全てが異次元物質に置き換わってはいないからだ。異次元物質は単なる超常物質ではない。その生成に膨大なエネルギーが必要であり、故にほんの小さな一欠片に、通常の物質では考えられない密度のエネルギーを内包している。

 莫大なエネルギーを消費する暗黒生命体からすれば、通常物質はさぞや中身のないスカスカな食べ物に思えるだろう。それこそ惑星を何個も食べなければ、腹の足しにもなるまい。他にないなら兎も角、成長や繁殖、生存のために食べるべきものではない。

 ナオミを食べるよりも、ナオミよりも小さな暗黒生命体を食べる方が効率よくエネルギーを摂取出来る筈だ。戦闘能力の観点から考えても、反撃してくるナオミより、逃げるばかりの小型種の方が安全だろう。

 合理的な暗黒生命体(人型)が、食べる目的で自分を襲うとはナオミには思えない。

 

「(食べるためじゃないなら一体なんなのよ。縄張りから追い出すため? なら逃げる私を追い駆けてくる筈がない……)」

 

 相手の動機から打開策を導き出せないものか。考えようとするが、時間切れを迎える。

 

【キュロォオ!】

 

 またも人型は十分に距離を詰め、掴み掛かるように迫ってきた。今度は両方の手を使って。

 伸ばしてくる両手を躱さねば。しかし急な方向転換による翻弄は、先程見せている。暗黒生命体の情報処理能力を考えれば、同じ作戦が通じるような甘い相手ではない。もう一度やれば、ほぼ確実にこちらを捕まえてくるだろう。

 ならば、今度は目眩ましはどうか。

 ナオミは自分の右手に力を集めていく。全身を構成する異次元物質を分解し、光に近い性質のエネルギーへと変換してから凝縮するのだ。エネルギー密度が一気に高まり、硬質化している右手がその圧力でひび割れる。

 そのひび割れた右手で、迫る人型の手を殴り付けた。

 打撃の威力は(直撃させれば地球どころか恒星さえも破壊出来そうだが)大したものではなく、人型の手を押し退けるには至らない。だが強い衝撃を受けた事で、ナオミの右手は耐久限界を迎えて崩壊。内部に溜め込んでいたエネルギーが一気に溢れ出す。

 要するに、爆発だ。

 

【ギッ!?】

 

 至近距離での爆発を受けて、流石の人型も動きが止まった。多少の肉体的ダメージに加え、感覚器を惑わす事も出来たのかも知れない。

 殴った当事者であるナオミは前もって触角と視覚を閉じる事で、過剰な情報を遮断済み。自分だけは即座に動き、一足先に逃げ出す。

 爆発はかなり効果的だったらしく、人型が立ち直るのに中々時間が掛かった。ナオミが遠くまで逃げてから、ようやく人型は爆発の中から出てくる。

 大抵の捕食者であれば、十分な距離を取れば狩りを諦める。遠くに行った相手を執拗に狙うよりも、近くにいる別の獲物を襲う方が効率的だからだ。

 しかし人型はナオミを追う。猛然と、一直線に、迷いなく。

 やはり食べるつもりではないらしい。だが、そうなると何が目的かさっぱり分からない。

 何度も繰り出している掴み掛かるという行為も、考えてみれば不自然だ。殺すつもりならば殴るなど、打撃を与えれば良い。一度尻尾で叩かれたが、あれは恐らく背後を取られた事への反射的行動。人型が狙ってした攻撃とは考え難い。

 何か、掴む事で目的を果たそうとしているのか。だとすればやはり捕まるのだけは避けねばなるまい。相手に殺す気がなくとも……いや、殺す気がないからこそ得体が知れない。

 

「(なんなのコイツ……私より暗黒生命体に近い筈なのに、暗黒生命体っぽくない……!)」

 

 今や羨望を向ける対象である暗黒生命体。だからこそナオミは、人型から感じる『異物感』に一層強い嫌悪を抱いた。

 しかし相手はナオミの気持ちなどお構いなし。どんどん距離を詰めてくる。いずれまた接敵する事となるだろう。

 突進も、目眩ましも使った。いよいよ打つ手がない。ここまで執拗に追跡される経験がなく、どうしたら良いのか考えが浮かばない。

 

【キュロォオオオオオ!】

 

 まるで追い込まれたナオミの心境を理解したかのように、高揚した叫びを上げる人型。

 更に加速してきた人型を止める術は、今のナオミには存在せず。

 それでも立ち向かうべく振り返るも、高速で伸びてきた手をナオミは躱しきれず。あえなく顔面を掴まれてしまうのだった。

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