今回はいつもよりちょっと長めになりました
様々な姿に変身可能な【ヘンゲンジザイ】というシノブノさんの変身魔法で、人間以外のものに変身するとどんなことができるかを知っておくことにした教師達は、シノブノさんに指示を出して、様々な姿にシノブノさんを変身させていった。
見たことがあるものなら何にでも変身可能な【ヘンゲンジザイ】の魔法によって、剣や槍などの武器に変身したシノブノさんには、普通に武器として使える程度の強度があり、頑丈さで言えばLv4並みだと言えるだろう。
どうやらシノブノさんのステイタスが、変身して姿を変えたものに反映されていたようで、怪物であるミノタウロスに変身したシノブノさんの場合だと、Lv4並みの強さを持つミノタウロスとなるようだ。
シノブノさんより小さなものや大きなものにも変身可能な【ヘンゲンジザイ】という魔法で、今度はゴライアスに変身したシノブノさん。
適正LvがLv4なゴライアスは、シノブノさんと同じLvであり、階層主なゴライアスと同様な動きも可能であったシノブノさんを見ていた教師達は、貴重な教材を見るような目でシノブノさんを見ていた。
オラリオのダンジョンでの実習を行わずとも、ダンジョンの怪物について生徒達に教えられるのではないかと考えた教師達から、実習の手伝いを頼まれていたシノブノさんは「先生達に変身しても問題ないなら協力するでござるよ」と言い出したが、私を含めた教師達は悪用しなければ構わないと許可を出しておく。
翌日から、戦技学科の学生達の実習で、怪物に変身したシノブノさんを教材として使うことになり、シノブノさんが【ヘンゲンジザイ】で変身した怪物は、実物大の怪物の見本として扱われていたようだった。
ダンジョンの上層から中層、更には下層までの様々な怪物に変身し、教材としての役割をこなしたシノブノさん。
階層主であるアンフィス・バエナにも変身していたシノブノさんは「頭が2つになったのは初めての感覚だったでござるよ」とも言っていたな。
シノブノさんが変身した怪物を教材として使う試みに、驚いていた生徒達は多かったが、名前だけ知っていた怪物が実際にどんな外見なのかを知ることができると喜んでいた生徒も多い。
大忙しなシノブノさんではあったが、教師達から謝礼として学区紙幣のラグナーを幾らか受け取っているようで、シノブノさんの懐の方は結構暖かくなっていたみたいだ。
そんなシノブノさんは放課後の学区内で「変身教師の声はいかがでござるか?今ならどんな教師に変身しても1回200ラグナーでござるよ。言う台詞を指定するには追加で300ラグナーかかるでござるが」などと言いながら客引きをしていたが、どうやら変身魔法を使った商売を始めていたようである。
無断で変身して成り済まして悪事を働いている訳ではなく、あくまでも商売として教師の誰かに変身することを望まれて、頼まれた台詞を言うだけなら、変身の悪用と言えるほどのものではない。
変身魔法を悪用している訳ではないなら、止めなくてもいいか、と判断した私はシノブノさんの商売を止めることなく立ち去っておく。
翌日から噂を聞き付けた生徒達が集まったことで、シノブノさんの商売は大繁盛しており、ヴァーデンベルク先生に変身したシノブノさんは、女生徒達からのリクエストで様々な台詞を言うことになっていたが、興奮のあまり鼻から血を出す女生徒も少なくはなかった。
鼻血を出すことを「鼻から愛が溢れた」と言っている女生徒は数多く存在していて、ヴァーデンベルク先生に言われたい台詞を頼んだ女生徒達は、シノブノさんが変身したヴァーデンベルク先生が言う熱烈な愛の言葉を聞いて、全員が幸せそうな顔で鼻から愛を溢れさせていたな。
頻繁に女生徒達から愛が溢れたせいで、医療関係の学科が保健室などに提供している造血薬が使用される頻度が増えていた為、あまり過激な発言は言わせないようにと制限されることになったシノブノさんの商売だが、それでも客足は途絶えることはない。
今日もまたシノブノさんの変身魔法によって、教師の姿と声を使った商売が始まり、長蛇の列を作っていた女生徒達。
一応シノブノさんが過激な台詞を言っていないかの確認をするように学区の神々から頼まれた私が、少し離れたところで【強化念系】のスキルで使用可能な念能力の絶で気配を消し、隠れながら観察していると、女生徒達からのリクエストでヴァーデンベルク先生に変身していた回数が多かったシノブノさん。
やはりヴァーデンベルク先生が1番人気があるみたいだが、他の先生達も需要はあるようで、エルフの美男であるマリク・アルフォール先生も「マリク先生」と慕う女生徒が多く、ヴァーデンベルク先生に次いで人気があるマリク先生にもシノブノさんは変身していたみたいだ。
やはり美形な男性教師は女生徒からは大人気なようだな、と思っていると列に並んでいた女生徒の1人であったマシマさんが「おもろい商売やっとるようやないかシノブノ!」と笑顔で話しかけているところが確認できる。
「冷やかしなら帰ってもらいたいところでござるなマシマ殿」
「そう言うなや、ちゃんと500ラグナー用意しとるわしは客やで」
笑みを浮かべたまま500ラグナー紙幣を取り出して、手渡してきたマシマさんを客として扱うことにしたシノブノさんは「それで拙者は誰に変身して、どんな台詞を言えばいいのでござるか?」と聞いていた。
「そうやな、じゃあ変身するのはサミダレちゃんで、言う台詞は、これや」
そう答えたマシマさんは用意していた紙をシノブノさんに渡していたが、どうやらその紙に言ってもらいたい台詞が書かれていたようである。
「無駄に用意周到でござるな!そしてこの台詞を拙者に言わせるつもりでござるかマシマ殿!」
「せや、金取って商売しとるんなら、きっちりと仕事してもらわんとな。嫌とは言わせへんで」
どんな台詞が書かれていたかは、この位置からでは見えないが、シノブノさんが躊躇うような内容の台詞を、私の姿に変身したシノブノさんに言わせるつもりであるマシマさん。
変な台詞じゃなければいいな、と思いながら、離れた場所で見ていると変身魔法で私の姿に変身したシノブノさんが口を開く。
「簪を用意したので、着けてもらえませんか。ああ、とても似合っていますね。それが私の気持ちですが、言わなければ解りませんか。私は貴女と一生を添い遂げたいと思っていますよマシマさん」
そんな口説くような台詞を私に変身したシノブノさんがマシマさんに言っているところを目撃した私は、生徒に愛の告白をしている自分の姿を客観的に見るのは、意外と恥ずかしいなと思った。
私が人知れず羞恥の感情に苛まれている間に、元の姿に素早く戻ったシノブノさんは機嫌が悪い。
「これで満足したでござるな、さっさと帰るでござるよ!しっ!しっ!」
明らかに機嫌が悪くなっているシノブノさんはマシマさんを追い払うように手を動かし、さっさと帰らせようとしていた。
「ほな、また来るで」と言って上機嫌で去っていくマシマさんへ「次来たら塩を撒くでござる」と言ったシノブノさんは、2度と来るなと言わんばかりな顔をしていたな。
それから列に並んでいた女生徒達のリクエストに応えていたシノブノさんだったが、次に現れたのがサンジョウノさんだと知ると「嫌な予感がするでござるよ」と顔をしかめていたシノブノさん。
「500ラグナーで、好きな台詞言ってもらえんですよね。じゃあサミダレ先生に変身してもらって、これ言ってくれねーですか」
サンジョウノさんも500ラグナーをシノブノさんに渡して、台詞が書かれた紙をシノブノさんに手渡す。
「また紙に書いた台詞でござるかって、これをサミダレ先生に変身した拙者に言わせるのでござるかサンジョウノ殿!」
「しっかり500ラグナー支払ったからいいじゃねーですか。はやくサミダレ先生に変身してくだせーよシノブノ」
早く早く、とシノブノさんを急かすサンジョウノさんに、苦渋の決断をしたかのような顔をしたシノブノさんは、変身魔法で私の姿に変身する。
「私の最も大切な存在が貴女ですよサンジョウノさん、いや、九重。これからは貴女のことを一生私に護らせてください。共に幸せな家庭を築いていきましょう九重」
私の姿で再び生徒に愛の告白をしているシノブノさんを見て、また羞恥の感情が蘇ってきた私は、恥ずかしいと思いながらも頑張って耐えていた。
「はい、終わりでござる!さっさと帰るでござるよ!」
私が耐えている間に、元の姿に戻ったシノブノさんはサンジョウノさんのことも手早く追い返す。
他の先生に変身した時は、生徒の希望に応じて、複数の台詞を言ったりもしていたシノブノさんは、私への変身を頼まれた時だけは、1回台詞を言うだけで終わらせているようだ。
それからも変身魔法を使った商売を続けていたシノブノさんだったが、列の最後尾に並んでいたのがテントウさんだと知ると「また嫌な予感がするでござるよ!」と言い出すシノブノさん。
「おばあちゃんが言っていた。沈黙は金、雄弁は銀と」
そんなことを言っていたテントウさんも、500ラグナー紙幣と何か台詞が書かれているだろう紙をシノブノさんに手渡していく。
「サミダレ先生に変身して、これを拙者が言うのでござるか!?しかも姿勢の指定まであるとか別料金で300ラグナー取るでござるよ!?」
紙に書かれている内容を確認して怒り出したシノブノさんに無言で300ラグナーを渡したテントウさんは、追加で金払ったんだから言えよ、と言わんばかりな目でシノブノさんを見ていた。
物凄く嫌そうな顔をしていたシノブノさんだったが、テントウさんが望んでいた通りに、変身魔法で私に姿を変えると、テントウさんの前で片膝をつき口を開いていく。
「貴女に恋をした。どうか跪かせて欲しい、花よ」
短い言葉ではあるが、しっかりと愛の告白を私の姿で言っていたシノブノさんは、素早く元の姿に戻って「終わりでござる!さっさと帰るでござるよテントウ殿」とテントウさんも追い払っていた。
「この商売は、今日で終わりにしておいた方が良さそうでござるな」
遠い目をしていたシノブノさんは、そんなことを言っていたが、そうしてもらえると私も助かるな。
その後、ヴァーデンベルク先生の姿になって様々な台詞を言ってほしい女生徒達から追われることになっていたシノブノさんは「もう先生達には変身しないでござるよ!」と言いながら逃げ惑っていたみたいだ。
まあ、シノブノさんにとっては先生達に変身する商売をしたのは失敗だったようだが、失敗を学ぶことができるのも学区という場所なのかもしれない。