学区が停泊するメレンという港町には「メレンらぁ~めん」という名前のラーメン店があり、港町であるにも関わらず何故か豚骨ラーメンがメインな店で、魚介などはあまり使ってはいない。
港町なのに魚介を使っていないせいか邪道とも言われる「メインらぁ~めん」だが、中毒性の高い豚骨ラーメンを出している店でもあり、学区の生徒達でリピーターとなっている者も少なくはないようだ。
明らかに身体に悪いと解っていても「あの油を身体が求めている」とも言っていた学区の生徒で第7小隊所属な小人族のナッセンくんも「メレンらぁ~めん」の虜になっていた。
私が教導を担当している第8小隊の面々も「メレンらぁ~めん」は嫌いではないようで、メレンの港町に来たら必ず「メレンらぁ~めん」に豚骨ラーメンを食べに行っているようである。
「メレンに停泊中に行く場所は決まってるでござるな」
「「メレンらぁ~めん」は癖になる味ですよねー」
「おばあちゃんが言っていた。食事は一期一会、毎日毎日を大事にしろ、と」
「あの独特な旨味があるスープと、それに絡む細麺がええよな」
そんな会話をしながら第8小隊の面々がメレンを歩いていたが、行き先は「メレンらぁ~めん」で間違いなさそうだ。
「サミダレ先生も一緒にどうでござるか?」
「美味しーですよ豚骨」
「おばあちゃんが言っていた。美味しい物を食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを待っている間だ、と」
「サミダレちゃんもどうや?豚骨中心な「メレンらぁ~めん」は中々悪くないで」
此方に気付いた第8小隊の面々から、一緒に「メレンらぁ~めん」に行かないかと誘われることになったが「今日は人に会うので、匂いの強いものは食べないようにしておかないといけませんから、残念ですが断らせていただきます」と第8小隊からの誘いを断った私は、メレンを移動していく。
極東から来た船に乗っていたカナヤゴ様の眷族である鍛冶師に会いに行った私は、極東のカナヤゴ様が用意してくれたという私への贈り物を鍛冶師から受け取った。
「ありがとうございます。カナヤゴ様にサミダレ・時雨が深く感謝していたとお伝えください。それと此方がカナヤゴ様が、ご所望の葡萄酒とソーマとなりますね。一応梱包材で包んではありますが、瓶は割れやすいので、丁寧に扱って気を付けて運んでください。割らずに極東まで無事に届けてもらえると助かります」
感謝の言葉と一緒に、カナヤゴ様から頼まれていた酒を鍛冶師に渡し、丁寧に極東まで運んでカナヤゴ様に、しっかりと届けてもらうように鍛冶師に頼んだ私は、カナヤゴ様からの贈り物を持って、一旦学区の船へと戻る。
製鉄の神であるカナヤゴ様からの贈り物とは、極東で精製された金属である日緋色金。
それなりの量の日緋色金を極東から持ってきてもらったが、オリハルコンに勝るとも劣らない金属な日緋色金を椿さんに渡しておこうと考えている私は、自室に置いていた多額のヴァリスと日緋色金を持ってオラリオへと向かう。
ヘファイストス・ファミリア団長にして、最上級鍛冶師である椿さんは、第8小隊の面々を気に入っており、彼女達の装備をいずれ作ってやりたいとも言っていた。
Lv5になった第8小隊の面々には、現在のステイタスに見合った新しい装備が必要となる筈だが、生半可な素材と技術ではLv5の力には耐えられない為、学区の鍛冶学科が用意できる現在の武器では強度的に問題が出てきてしまう可能性が高い。
そこで日緋色金製の装備を椿さんに作成してもらおうと考えた訳だが、椿さんに仕事を頼むと素材が此方持ちでも高額なヴァリスが必要となる。
生徒達では絶対に支払えないヴァリスは、私が先に支払っておくが、6億ヴァリスで足りなければ、私もダンジョンで稼ぐ必要がありそうだ。
とりあえず第8小隊の面々には後日に椿さんの工房に顔出しをしてもらって、現在の彼女達の身体に合うように、日緋色金製の装備を作ってもらうとしよう。
今日はヴァリスと日緋色金という素材を渡して、第8小隊の装備の作成を依頼するだけになるが、私の黒刀に興味津々だった椿さんは、また黒刀を見たがるかもしれない。
見せるだけで済むなら別に構わないんだが、椿さんが黒刀をどうにかして削ろうとし始めたら止めないといけないな。
そんなことを考えながら到着した椿さんの工房に、許可される前から無断で入ることはなく、まずは工房の入り口となる扉をノックしておくと「入ってきて構わんぞ」と言った椿さんの声が聞こえた。
「お邪魔します」
それだけ言うと工房内に入った私は、ちょうど休憩中だったらしい椿さんに「お久しぶりです椿さん」と挨拶をして頭を下げておく。
「うむ、久しぶりだな時雨。相変わらず大きな身体をしておるなお主は」
「もっと歳を取ればある程度は縮むでしょうが、3年程度では私の身長は縮みませんね。今日は椿さんに頼みたいことがあって来ました」
「言ってみろ、手前と時雨の仲だ。大概の頼みなら引き受けよう」
「この日緋色金で、学区の第8小隊の装備を作ってもらえませんか」
持ってきていた結構な量の日緋色金を袋から取り出して見せて、そう頼むと日緋色金に目が釘付けとなっていた椿さん。
「極東が生んだ精製金属である日緋色金は貴重である筈だが、どうやってここまで大量に集めたのだ?」
「極東生まれの私は、製鉄の神であるカナヤゴ様の眷族であったことがありまして、その縁でカナヤゴ様から贈り物として日緋色金を頂きました」
椿さんからの問いに正直に答えた私は日緋色金を椿さんに渡し「そしてこれは第8小隊用の装備を作る代金の前払いということでお願いします」と続けて、6億ヴァリスも椿さんに渡しておいた。
「4人分にしては日緋色金とヴァリスが多いような気がするのだが」
「余った日緋色金とヴァリスは、私からの気持ちということで、椿さんに差し上げますよ」
「ふむ、日緋色金は有り難く頂くが、ヴァリスは余れば返しておくぞ。素材に困ることはあるが、手前は金には困っておらぬのでな」
「流石は最上級鍛冶師ですね。薄給な教師としては羨ましいものです」
「む、薄給であるなら6億ヴァリスは、どうやって用意したのだ?」
不思議に思ったのか、どうやって6億ヴァリスを私が用意したのか聞いてくる椿さんには、嘘偽りなく答えておくとしよう。
「以前オラリオに来た時、生徒達の実習が終わった後に、ダンジョンで稼いでいました」
実習が終わった後は、ダンジョンに生徒が潜ることもないので、教師だけでダンジョンに潜ってヴァリスを稼いでいても問題はないらしい。
「それだけで、よく6億ヴァリスも稼げたのう。普通はそこまで稼げんぞ」
「運良くレアモンスターなヴィーヴルと遭遇してドロップアイテムを取得して売却したり、他にも宝石樹を幾つか発見できたので、大量の宝石の実を売り捌いて高額のヴァリスを手に入れていましたからね。いずれ必要になるかと考えて貯金していたそれを、今回持ってきたということになります」
「ヴィーヴルや宝石樹を発見するとは、確かにお主は運がいいのかもしれぬな」
遭遇すること事態が稀なレアモンスターであるヴィーヴルと出会ってドロップアイテムを入手し、貴重な宝石樹まで発見した私を運が良いと評した椿さんは、快活な笑顔で頷いていた。
「それでは明日にでも第8小隊を連れて椿さんの工房にまで向かわせてもらいますので、その時に生徒達の手の寸法などを測ってもらえると助かりますね」
最後にそれだけ言って立ち去ろうとした私を「まあ、待て時雨」と呼び止めた椿さんは「お主の黒刀を手前は、まだ拝んではおらんぞ」と言いながら私の腰にある鞘に納まった黒刀を指差す。
「見たいんですか?」
「うむ、見たくてたまらん!早く見せてくれんか!」
声と息を荒くしながら黒刀を見せるように催促してくる椿さん。
「見るだけですよ、削ろうとしたら即座に帰りますからね」
「ちょっと位なら良いではないか」
「やっぱり帰りますね」
「待て、行くな時雨!手前に黒刀を見せずして帰ろうとするのはやめるのだ!」
此方にタックルするように抱き付いてきて離れなくなった椿さんは、黒刀を見ないと満足しそうにない。
「見るだけで我慢してくださいよ」
致し方なく黒刀を鞘から抜いて椿さんに見せておくと「ほわああああっ!」と歓喜の声を上げながら黒刀を凝視していた椿さんは、大興奮していた。
とりあえず椿さんがまた黒刀を削ろうとしたら、止めておかないといけないな。