ダンジョンで行う特別実習中は、学区の教師達がダンジョン内に配置され、ダンジョン内で異常事態があれば学区の教師達が対処しておき、生徒達の安全を確保するようにしているが、広大なダンジョンの全てに対応するには教師の数が足りていない為、基本的には正規ルートだけに配置されることになっている学区の教師達。
下層に向かう第8小隊に私が同行することになったのは特例ではあるが、問題児だが優秀なLv4である4名の命が失われることがないように、と私を含めた学区の教師達が考えたからだった。
下層の探索自体は生徒達だけでも危うげは無かったが、帰り道で階層主のアンフィス・バエナと遭遇したあたり、私が同行したのは正解であったと言えるかもしれない。
下層のモンスターなレイダーフィッシュの牙や、アクア・サーペントの鰭、ブルークラブの鋼殻、などの下層のモンスターが残すドロップアイテムを必要量まで集めることが、下層で特別実習をすることになった第8小隊の課題であり、それらが達成されたことは、既に私が確認している。
残るは報告書、つまりはレポートの提出となるが、実技以外は余り興味がないのか、第8小隊はギリギリまでレポートを提出しないことで有名だ。
ダンジョンでの特別実習を無事に終えて、学区に戻った第8小隊に、しっかりとレポートを書かせて早めに提出させるようにと他の教師達や神様達からも言われていた私は、レポート提出という課題を行わせる為に、第8小隊の面々に会いに行く。
既にギルド職員となることが決まっているエイナ・チュールさんにセクハラをしていたシノブノさんを最初に発見した私は、レポートを早めに提出するように言ってはみたが、返ってきた言葉は「拙者はエイナ殿の尻を揉みしだくので、忙しいでござるよ」というものだった。
双方合意の上での行為なら私が止めることはないが、明らかにセクハラされて嫌がっているチュールさんに「助けてサミダレ先生!」と助けまで求められたのなら、手早く助けておくとしよう。
「グェッヘッヘ」などと言いながら、同性であるチュールさんの尻を触っていたシノブノさんの頭を後頭部から鷲掴みにして持ち上げ、握力を強めていくと「グワアアアアア!」と野太い悲鳴を上げながら苦しみ始めたシノブノさん。
「イッタイ!アタマガァァァァ!」
苦しみながら頭の痛みを訴えるシノブノさんは、セクハラをしているどころでは無くなったようで、シノブノさんのセクハラから解放されたチュールさんに「今の内に逃げておいてくださいねチュールさん」と言っておくと「ありがとうございますサミダレ先生!」と感謝しながらチュールさんは逃げ去っていく。
チュールさんの退避が完了するまで、しばらくシノブノさんの頭を鷲掴みしたままでいたが、痛みに慣れてきたのか「期間限定のエイナ殿の尻が遠ざかっていくでござるゥゥゥ!うおおお!燃えろ!拙者の中の何かァァァ!」などと言い出して必死に私の手から逃れようと身体を動かしていたシノブノさんに、反省の色は欠片もなかった。
「悔いて改めろとまでは言いませんが、貴女は欲望に正直過ぎますねシノブノさん。とりあえず貴女は逃しませんし、全く反省の色が見えないので、握力を強めておくことにします」
「先生は拙者の頭を物理的に破壊しようとしているのでござるか!?か弱い拙者は普通に死んじゃうでござるよ!?」
徐々に強まっていく握力に危機感を抱いた様子のシノブノさんは、そう言いながらも必死にもがいて逃げ出そうとしていたが、がっちりとシノブノさんの頭を掴んでいる私の手は、そう簡単には外れない。
「大丈夫です。私は手加減が得意ですから、死なない程度にしておきます」
もとより生徒を殺害する気持ちは更々ない私は、どの程度までなら後遺症も残らず、強い痛みだけを身体に与えることができるのかを理解しており、人体の痛点も詳しく把握している為、シノブノさんに的確に痛みを与えることが可能だ。
「それは死ぬほど苦しいけど死ねないってことではござらんか!?」
「そうとも言いますね。正解ですよシノブノさん」
「そんなことを正解したくはなかったのでござるが!?お慈悲を!拙者にお慈悲を!」
此方に慈悲を求めてきたシノブノさんは、強烈な痛みを予想しているのか、先ほどのような余裕はない。
痛みに怯えたりはしていないようだが、それはそれとして物凄く強烈な痛みを味わうのは、シノブノさんも嫌なのだろう。
「チュールさんにセクハラするのは止めますか?」
「止めるでござる!」
此方からの問いかけに食い気味に返答したシノブノさんは必死だった。
「レポートを今日中に書き終えて、教師に提出しますか?」
「しっかり提出するでござるよ!」
次の問いかけにも、迷わず素早く答えたシノブノさん。
「それでは今のところはシノブノさんを解放しておきますが、先ほどの言葉が嘘にならないことを祈っておきます」
「拙者を信じてほしいでござるよ。先生に嘘をついたりはしないでござる」
私に対して嘘をついたりをすることがなかったシノブノさんのことを信じておくことにして、鷲掴み状態だったシノブノさんを解放した私は「レポートは早めに提出してくださいね」とだけ言って立ち去っておく。
次に発見したサンジョウノさんは、身体を動かしている真っ最中であったが、学んだ格闘術の動きを確認しているところであり、キレがある良い動きを見せていた。
「サミダレ先生じゃねーですか、何かご用で?」
此方に気付いて話しかけてきたサンジョウノさんは、 レポートを書くよりかは身体を動かしている方が好きな生徒の1人だ。
「第8小隊の面々に、早めにレポートを提出してもらうように頼んで回っているところになります。とりあえず先ほど会ったシノブノさんは今日中にレポートを書いて提出してくれそうですよ」
「セクハラシノブノがレポートを早めに真面目に書くとか、何かしたでしょサミダレ先生」
「握力は披露しましたね。シノブノさんの頭を使ってになりますが」
「握力がとんでもねーサミダレ先生に頭掴まれたシノブノは、死を覚悟したかもしれねーですね」
苦笑いしながらそう言っていたサンジョウノさんには「ちゃんと死なないように加減はしましたよ」とは伝えておいた私は続けて「サンジョウノさんも早めにレポートを書いて提出してくれませんか?」と聞いてみる。
「レポートとか超面倒で仕方ねーですよ。ずっと実技だけで単位取りてーなって思ってます」
「レポートなどの書類を書くのが苦手な生徒は多いですからね。それでもサンジョウノさんのレポートは読みやすく纏められていて、私達教師からは評価が高いですよ。提出期限ギリギリでなければもっと良いのに、とも言われてはいますが」
「どうせ書くなら読みやすい方がいいかと思って自分なりに纏めてただけなんですけどね。それが先生達に好評とかわからねーもんです」
サンジョウノさん本人的には読みやすく纏めて書いただけで評価されるとは思っていなかったらしい。
その後、私と模擬戦をしたサンジョウノさんは、身体を思いきり動かしてスッキリしたのか、凄まじい勢いでレポートを書き終えて、私に提出。
短時間でサンジョウノさんが書いたレポートの内容を確認してみたが何も問題はなく、下層での探索について書かれた報告書としては、充分なものであったのは確かだ。
さて、後はテントウさんとマシマさんにレポートを提出してもらえば、第8小隊全員がレポートを提出してくれたことになるが、自由人と戦闘狂にレポートを書いてもらうのは、アンフィス・バエナを倒すことよりも苦労しそうではあるな。