レポートについての話は今回で終わりとなりますが、本編はまだ続きますね
戦技学科の生徒達が履修可能な科目は、多種多様であるが、私が教師として担当しているのは基本的には近接戦闘などの実技系科目であり、剣術、槍術、斧術、格闘術、杖術、という戦う術を教えている。
剣術では、大剣、長剣、細剣、短剣、太刀、刀、小太刀等の扱いを教えており、生徒それぞれに適した剣を扱う術を教えているが、剣に属する武器を扱う生徒は非常に多い為、ヴァーデンベルク先生に手伝ってもらうこともある剣術の授業。
槍術では、長槍、短槍の扱いを教えており、希望者には斧槍の扱いも教える為、斧術も一緒に学ぶ生徒も居る槍術の科目。
斧術では、大斧、両刃斧、片手斧に加えて、此方も希望者には斧槍の扱いも教えており、槍術と斧術を両方学んだ生徒が身に付けた斧槍の扱いは、槍術と斧術をどちらか片方だけ学んだものと比べると段違いとなっていたな。
格闘術では、素手である無手での格闘術と、武器を持った状態での格闘術も両方教えており、戦いの基本である格闘術を学んでいく生徒達。
杖術では、武器としての使用も可能とする杖を用いた杖術を教えることになるが、基本的には後衛の魔導士達が学ぶことが多い杖術の科目。
魔法なども使用する全ての戦闘を含めた総合戦闘という科目を担当するヴァーデンベルク先生の手伝いをすることもある私は、戦う術を生徒達に教える教師として、学区の生徒達からは認識されているようだ。
そんな学区の教師である私は現在、戦技学科の生徒達が実技の科目で使用する場所、学区の学園層の一角にある赤土色のフィールドで、テントウさんとマシマさんの2人と対峙していた。
2人にはレポートの提出を求めただけであったのだが、その場に居合わせた主神のバルドル様とヴァーデンベルク先生の提案で、何故かテントウさんとマシマさんの2人と戦うことになってしまった私は、戦闘服ではない教員用の黒衣を着たまま、普段使う愛刀ではなく鍜冶学科に入学したばかりな生徒が用意した刀を片手に構える。
テントウさんとマシマさんがこの模擬戦で私を倒すか、もしくは私が持つ刀を折れれば、レポートの提出は免除されるとまで約束していたバルドル様とヴァーデンベルク先生。
しかし私を倒せず、刀も折れずに敗北すれば、即日でレポートを提出することも約束していたテントウさんとマシマさんの2人。
自由人なテントウさんと戦闘狂なマシマさんが、軽く注意した程度で素直にレポートを書く訳がないので、どのみちこの流れになっていたのかもしれないな。
私の方は、常時発動型の【生来痣者】以外のスキル使用を禁じた状態で、刀を折ることなく用いてテントウさんとマシマさんを倒すことが勝利の条件だとバルドル様とヴァーデンベルク先生に決められることになった。
ちなみに私が現在持つ刀は、まだまだ未熟な鍜冶師である鍜冶学科の新入生が作成してくれたものであるが、外見は立派な刀に見えるとしても、刀剣としては斬れ味も強度も悪いナマクラで、今の私が普通に振るえば折れる強度しかない。
軽く振るっただけで容易く折れそうな刀だと知っていながらそれを私に渡し、スキルの使用まで禁じた状態で戦わせようとするバルドル様とヴァーデンベルク先生は、私を窮地に追い込んだ上で、どうやってそのピンチを乗り越えるのかと期待した眼差しで此方を見ていた。
バルドル様とヴァーデンベルク先生のご期待に応えるつもりはないが、生徒達がレポートを書く時間は限られている為、テントウさんとマシマさんには悪いが瞬殺させてもらうとしよう。
振るっただけで折れる強度しかないとするならLv4であるテントウさんとマシマさんの肉体を斬れない可能性が高い為、刀を振るうことはない。
切っ先を用いた突きを使用することも難しいとするなら、この刀は刀として使うことはなく、単なる道具として扱っておく。
「おばあちゃんが言っていた。世界は自分を中心に回っている。そう思ったほうが楽しい」
そんなことを言いながら連携することなく、単独で大剣を構えたまま突撃してきたテントウさんが振り下ろす大剣による斬撃。
それを半身になって回避すると同時に刀の柄頭をテントウさんの額に押し当てて、衝撃だけをテントウさんの頭部に徹し、まずはテントウさんを気絶させた。
「後はマシマさんですね」
「待ちきれんかったでぇ!サミダレちゃん!」
テントウさんが気絶すると同時に、此方のナマクラとは違う業物な刀を構えて、狂気が混じる笑みを浮かべながら、此方に突っ込んできたマシマさん。
刀の扱いに関しては若年ながら玄人の域に到達しているマシマさんは、戦うことに関しての才能があるのは間違いない。
だが、それでもまだ私に勝てる程ではなく、マシマさんが振るう刀を避けながら、掬うような足払いをマシマさんにしかけた私は、体勢を崩したマシマさんの身体を投げ飛ばす。
赤土色のフィールドにマシマさんを背から叩きつけると同時に、マシマさんの額にナマクラな刀の柄頭を押し当てて、衝撃だけを内部に徹し、マシマさんも気絶させておいた。
「一応刀を用いて倒しましたが、これで良かったでしょうか?」
「ええ、貴方の勝利ですよ時雨」
テントウさんとマシマさんと模擬戦をした私の勝利を認めたバルドル様。
ナマクラな刀を武器としては使わずに武術の補助をする道具としてだけ使ったが、それでも刀を用いて勝利したことは確かである為、私の勝利は認められたようだ。
「やはりサミダレ先生には、俺の知らない引き出しが多いな」
そんなことを言っていたヴァーデンベルク先生は、先生としての口調ではなく、素のレオン・ヴァーデンベルクが出てきていたが、思わず素になるほど私の技術が興味深かったのかもしれない。
それから今回の模擬戦で私が使用したナマクラ過ぎる刀を作成した鍜冶学科の新入生には、外見しか立派ではない刀について「見た目の良さだけしか考えていませんし、斬れ味も強度もお粗末なものでしたから、刀としては使えませんでしたよ。使用者の足手まといにしかならないものは武器とは呼べませんね」という正直な私の感想を伝えておくと悔しそうにしていた。
学区の鍜冶学科に入ったばかりの新入生には、見栄えよりも実用性を意識するのは難しいことだったのだろう。
ちゃんと悔しいと思える気持ちがあるなら、今度は武器として使えるものを作れるように努力してもらいたいところだ。
そして鍜冶学科でしっかりと学んで、立派な鍜冶になってくれれば、私からは何も言うことはない。
その後、気絶していたテントウさんとマシマさんを起こし、空き教室を使って約束通り今日中にレポートを書いてもらうことにしたが、自由人なだけで、レポートを書くこと自体は苦手ではないテントウさんは手早くレポートを書き終えて、私に提出してきた。
内容を確認してみたが、精巧なモンスターの絵まで載っていた報告書は、下層の環境やモンスターについて解りやすく図解されており、用紙が10枚以上使用された分厚いレポートは、僅か2時間で書いたとは思えない程の情報量であったのは確かである。
下層に関する情報が多数掲載されたテントウさんのレポートは、ダンジョンの下層について知らない人でも理解しやすい教材としても使えそうな程に完成度が高い。
「素晴らしいレポートですねテントウさん」
「おばあちゃんが言っていた。微に入り細を穿つと」
「確かに細かいところまで詳細に書かれたレポートでしたね。これでテントウさんは課題の提出は終了となります」
課題の提出が完了したテントウさんは空き教室から立ち去っていったが、マシマさんは現在もレポートを書いている真っ最中。
ペンを動かしながらレポートを書いていたマシマさんは、戦うことは大好きだが、座学などはそこまで好きじゃないようで、いつもレポートを書く時は眉間に皺を寄せながら険しい顔をしている。
頭を悩ませながらレポートを書いていくマシマさんを見守っていくと、なんとかマシマさんはギリギリ今日中にレポートを私に提出してくれた。
「お疲れさまでしたマシマさん」
「ほんま疲れたわ、サミダレちゃんが模擬戦で持っとったナマクラへし折る方が楽やったな」
そう言っていたマシマさんも、模擬戦で私が持っていた刀がナマクラだと気付いていたようだ。
刀剣の目利きもできるマシマさんは、戦うことに関係している武器についても詳しかったりするが、武器に関するレポートなら早めに書けていたような気がするな。