ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
「えっ?」
白い光に飲み込まれたかと思ったら、なぜか浮遊感が───
そう感じる暇もなく、落ちる。
びゅうびゅうとわたし自身の体で風を切る音が鼓膜を強く刺激する。
自分の声すら聞こえない。
なにも掴めるものが無く、1人で孤独に落ちている。
なんで!
なんで空にいるの!?
何とかしないと!
急いで
「
腕を翼のように変形させ無様にバタバタとはためかせる。
これで空を飛べたら生き残れる!
しかし現実は無情だった、勢い付きすぎて誤差も誤差。というか飛びかたなんてわからないよ。メグに鳥について詳しく聞いていたらな……。
いや現実逃避してる暇はない!
どうする!?どうしたら生き残れる!?
わたしは必死に頭を回転させる。
もっかい無為転変?いや無理だ。体へ魔力を流す量を増やす?それで死んだら?だめだこのままじゃ地面に叩きつけられるだけだまず落下の勢いを殺さないとでもそれができないしなら体を頑丈に…………
このままなにも思い浮かばなかったら?
わたしはこのまま落下で死ぬ。
死ぬのだ。
こんな、意味のわからない状況で。
意味もなく、死ぬ。
こんな、あっけなく、しぬ
死っいやだ!死にたくない!!!嫌だしにたくない!いやっやだぁ!!やだやだやだやだやだあぁああああ!!
視界がぼやけては鮮明に、風で涙が吹き飛ばされている。
その猛烈な勢い風によって否応にも死のイメージか纏わりつく。
(たすけてにいさま!とおさま!かあさまぁ……!シルねぇ...!!!たすけてよ……!!!)
今までの思い出が蘇る。
庭で見たにいさまの綺麗で自由な魔術。
剣を振るうカッコいいとおさま。
かあさまの家族に向ける優しい眼差し。
美味しい料理を作っているリーリャ。
本の読み聞かせでキラキラと輝くノルンの瞳。
アイシャの熱が出てもわたしを気遣う言葉を出す口元。
メグの元気いっぱいでわたしたちをいつも引っ張ってくれた振る舞い。
ハナの人を拒まない静かな優しさ。
シル姉の舞うように風魔術を使う姿……
っは!シル姉!!!風魔術!!!
わたしは真下へ全力で風を起こす。
ちょっとずつ速度が落ちていく。
そうだ!速度が落ちたから翼で!でも腕は両方使っているし……とりあえず背中!
無為転変でグニャリと翼をつくる。
あっ服破れたぁ!!!
「んぎぎぎぎ!!」
バサバサと翼をはためかせながら両腕で風魔術を使う、それでも完全には止まらず、わたしは猛烈な勢いで森へ突っ込む。
「ぐぇっえ」
何とか両足で着地しようとしたことが不幸となり、聞こえてはいけない音を出しながら木にぶつかった。
「おぶっ」
最悪な方向に生えている枝にお腹を突き刺された。
「ぶべっ」
勢いはだいぶ死んだが、大きく太い枝に腹からダイブ、内臓がぐちゃっとした。
しかしまだ地面は来ない。
わたしは抵抗も出来ずただただ落ちていく。
グシャッゴキッグチャ……………………ベチャ
「……ぅえ……げぼっ……おぇ……。」
目の前がチカチカする。
終わってる視界で体を見ると、両足はあらぬ方向に折れ、左手は全ての指が向いてはいけない方向を向いている。
お腹には折れた大きな木が刺さっていて、これがわたしの腸をまろび出させている。
全身に裂傷を負っているし血がドクドク止まらない。
あ、右目が見えない。
(わたしが痛みを感じにくくてよかった……)
そんなことを考えながら
「……むぃてんぺん……。」
両足がグニャリと蠢き正常な形に治る。右目と両腕も治してお腹の木を取る。
「うっゔゔゔ……おぼぇえぇ」
木が塞き止めていた血がダクダクと流れ落ちる。
わたしの命が終わる前に、無為転変で治す。
お腹の穴は肉が渦を巻くように塞がり、ついでに血と臓器も治せたようだ。
やっぱり魂さえ保っていれば元の形に治せる。
つまり失った血液さえ治せるのだ。元々臓器とかも治せたし、当然か。
あと病気怖いし解毒魔術もかけとこ……。
魔力は……あと6割くらいかな?
無為転変は魔力効率がいい、特に自分を弄る場合は。
魂の解像度が他者の魂のよりも、自分の魂の方が上だからかな?
「というか……ここ、どこ……?」
右を見ると森、左を見ると森、上を見ても森、下を見ると血溜まり。
空中にいた時はそんな余裕なかったけど、現在地くらいは確認すべきだった。
体が治って心に余裕ができたから考えられることだね。
そうだ、まずは今の状況を整理しよう。
トマ・グレイラット
魔力:6割
身体:負傷なし
服:ビリビリ、もはやボロ布、ちょっと恥ずかしい。
持ち物:隣に落ちてきた大剣、カチューシャ
マズい。
とんでもなくマズい。
シル姉の上着を匂ってたらバレたときよりマズい。
とりあえず服、そしてご飯をどうにかしないと……
---
うんうんとこれからのことを考えていると森の奥から人がやってきた。
「なんだ……ガキ……?血溜まりに座ってやがる……」
「……こんにちは!」
「ちっ本当に気色の悪いガキだ……」
口悪っ。
短い茶髪をした目付きの悪い大人が木の影からさらに近づく。
剣を右手に持っている。
魔物狩りでもしているのだろうか?
それなら近くに村がありそう!
「あのっこの辺に村ってありますか!よかったら案内してくれませんか!」
「あ?あぁー………………いや、まぁ、気色悪いが、売れは……するか?」
「え?売れる?魔物でもいるんですか?」
短い茶髪の男は剣を腰に構えた。
これは、剣神流の型だ。
後ろになんかいるのかな?
わたしはくるりと後ろを見回す。
なんだ、なんにもいないじゃん。
「オラァ!」
「わっ」
短い茶髪の男が斬りかかってきた!
何とか大剣で防ぐ。
男の剣は鞘付きだ、気絶が目的か?
敵かな?
殺すか。
「あぁ!?このガキィ!!!」
男の言葉は怒髪天を衝くような怒りに満ちていたが、それとは裏腹に瞳は冷静沈着だった。
男はバックステップで距離を取り、木々に隠れながらわたしの周りをゆっくりと歩き始めた。
なにを怯えているのか、いや、こういうところがこの男を強くしてきたのだろう。
実際、男の剣術は剣神流上級に北神流中級はありそうだ。
わたしが負けるわけないが。
身体強化した身体で地を踏み込む、
「うわぁああ!なんなんだテメェ!!!」
そう叫びながらも男は木々をすり抜けながらわたしへ駆け込んできた。鞘もなくなって抜刀状態だ。
「しっ!」
大きく振りかぶって右腕を鞭のように振るう。
しかし男は止まらず低姿勢を取り回避!
わたしはバックステップをし距離を取りながら再び右腕を振るう。
その鞭撻は男の頬を掠める。
最小限の動きで躱された。
男はさらに加速。
そのまま剣を腰に構え────
「無音の太刀、ちっ余計な体力使わせやがって。
しっかし気色の悪いガキだったなぁ。」
わたしのお腹を8割斬った後、男は振り返りもせず無音の太刀の速度を利用し距離を取った。
もう仕留めたと思って独り言を喋っているんだろう、しかし無為転変で既に傷は無くなっている。
魂を弄り脚を変形、加えて北神流の技で無音で歩き男へ接近する。
あと3歩
2歩
1歩
「
「あ?」
男はぐにゃぐにゃと小さくなり始めた。
始めに四肢を消して口を塞いだので抵抗する事や助けを呼ぶことはできない。
出来るだけ長持ちするように丁寧かつゆっくりと魂を弄る。
全身が薄橙から紫、水色に変わった辺りで完成。
ストックできる小さな改造人間が出来た。
初めて人を弄っちゃたけど、鼠や魔物よりもやりやすい。人の方が魂がよく見えるのだ。
あと服もゲット。
少し、いやだいぶダボつくなぁ。
けれど人と会える格好にはなった。
とりあえず、親切な人が見つかるまで適当に歩くしかないか。
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翌日になった。
昨日から食べたものが
本当にお腹がすいた。
お腹をさすりながら森の中を適当に歩く。
すると、前方に人が集まっているのが見えた。
「っこんにちは!食べ物を恵んでくれませんか?」
彼らはわたしを見ると一瞬怪訝な表情をしたものの、すぐにニヤニヤとした笑みをし出した。
「ふぅん、その背中に身に付けてる大剣をくれたらいいぜ。」
「これは……ダメです。こっちの剣ならあげられるんですが。」
短い茶髪の男が持っていた剣だ。
あのレベルの者が持っていた剣なので、価値はあるだろう。
「そうか、じゃあそれを寄越しな。」
「はい……どうぞ。」
両手で剣を渡す。
その男は剣を吟味したあと、右手を背中に隠し左手でわたしに握手を求めてきた。
なんだろう?
仲良くなった証かなぁ。
わたしは左手を差し出す。
「本当にバカだなぁ。」
「え」
ゴンッ!と頭に強い衝撃が走った。
視界にチカチカ星が飛び、強い吐き気と脱力感が一気に押し寄せてくる。
ゲラゲラとわたしを嘲る笑い声が聞こえる。
幸い意識は途切れなかったので瞬時に無為転変で頭を治す。
血に濡れた頭を上げ、目の前の男を睨む。
「おっ根性あるじゃん、じゃあ2回目ぇ!」
「無為転変」
目の前の男を急激に改造人間へと変える。
一瞬で全身が紫へ変色しカエルと人を醜く混ぜたような姿になった。
コイツは殴ってきたし強くもないからストックしない。
「オッおぉたズゲェぇえ???」
「あいつらと戦って。」
残りの彼らは9人、全員が目を見開いて汗をかき、震えながら武器を取った。
ふーん、冷静じゃん。
コイツのレベルだけ低すぎない?
「うわあああ!!!化け物!!!」
「くるなぁ!!!消え失せろ!!!」
「くそっどこ行きやがったガキィ!!!」
改造人間が注目を集めいてるうちに木々へ紛れて体を隠す。
短い茶髪の男が教えてくれた森の戦い方だ。
というかポケットに入ってるから実質共闘かも。
わたしは彼の木々の隙間を縫うような動きを思い出し、彼らへ近づく。
そして集団から少し離れた慎重の低い男へ掌を押し付ける
まず1人。
最低限四肢を失くし口を塞いだので放置。
次はあいつらだ。
北神流、無為転変を組み合わせ無音で這い寄る。
2人にタッチ。
他の奴らは固まって周囲を警戒している。
仕方ない。
ここからは姿を見せる!
「わたしはここだよー!」
6人が振り返り各々武器を構える。
わたしも右手の大剣を強く握る。
睨み合っていると、彼らの1人が声を上げた。
「ベン、トーマス、グレイがいねぇ。どこやった?」
「ん?あーあの人達なら……そこにいるよー、出てきて。」
近くの茂みを指差す。
当然なんだけど、命令したのでうぞうぞない四肢を動かし這い出てくる。
彼らは絶句している。いや、放心か?
なんにせよ、隙あり!!!
「ぐぁああ!くそっなんだ!?」
「いっでえええ!!!痛い痛い!!!」
「俺の腕がぁあああ!!!」
ふっ無詠唱風魔術が決まった。
すかさず地を蹴り距離を詰める。
「やぁ!」
近くの2人を無音の太刀で両腕切断!
その間に1人の斧持ちが走って接近してきたので左手を鞭のように変形させ、振るう。
それはなぎはらいを目的にした鞭撻じゃない。斧持ちの体に巻き付きそのまま絞め落とす。
あ、これじゃ左手使えるまで時間がかかるな。
2人の剣持ちが同時に正面と右側から攻めてきた。
大剣で正面を防ぎ、右のやつの腹を槍に変形させた右足で貫く。
そして背中から肉の触手を生やし、この戦場全体に素早く振るう!
「むん!」
さっきの正面から向かって来た剣持ちの1人はモロに触手を食らって倒れた。
最後の1人が逃げようとしたので、北神流の剣投げで突き刺す。
全員動けなくなったところで無為転変。
これでストック10体!
とりあえず、一安心だ。
ストックした10体の改造人間の内2体を見張りに行かせる。
それらは持久力と声量に特化した偵察専用改造人間だ。
また、彼らの持ち物を漁ってご飯やらお金やらを手に入れたので、魔術で火を起こし暖かいスープとご飯を食べる。
「美味しい……けど……。」
みんなに会いたい。
どうしたら会えるだろうか。
わたしがにいさまを、みんなを見つけるかみんながわたしを見つけるかだよね。
…………この森に火をつけたらよくない?
でもロキシー先生が「火魔術は火事に気をつけてください。本当に苦労しますから……。」
と遠い目で語っていたのが印象に残っている。
やめたほうがいいかな。
それに、この森に住んでいる優しい人が入るかもしれないしね。
今のところ蛮族しか会ってないけど。
結局やることはは初日と同じだ。
現在地すらわからないし、まずはひたすら前へ進もう。
でも歩くの正直疲れたな……ま、改造人間を馬車みたいにすればいーや。