ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第17話 船旅

トマ視点

 

 

 

 イーストポートは港町というだけあって、魚料理が豊富だった。

 朝ご飯は飲食店で済ますことになった。

 注文したのは魚肉入りシチューとパン、その町の特産品を頼むのが通なのである。

 ロキシー先生は魚のパイ包み焼きを口にしている。

 肉とは違うその旨味を味わいながら、彼女の話を聞く。

 

「王竜王国は300年ほど前、北西にある王竜山にいた王竜王カジャクトをアレックスという方が倒したことによって、その縄張りにある膨大な鉱物資源を手に入れました。

 そこから一気に強国へとのし上がり、今の雑多で活気のある国になったんです。」

「へー、カジャクトって強かったの?」

「それはもう、黄金に輝く硬皮と畏怖さえ覚える筋肉を持ち、その上重たい体を軽々と跳躍するらしいです。」

 

 今のわたしで勝てるだろうか?

 掌で触れさえすればどんな相手も殺せるはず、魂を守る手段はないはずだし、守ってきたやつもいない。

 魔術で遠くから攻撃されたら厳しいかな。

 全力で防御すれば死ぬことは無いけど、攻めることも出来なさそうだ。

 うーむ、わたしが強くなるには、剣術を高めるか、上級魔術を使えるようになるか、無為転変の成長に期待するくらいかな。

 あの結界に引きずり込む技と、自分を変形させて急激に強くなってた技はまだまだ使えない。

 

「あ、港へ行く前に冒険者ギルドへ寄りましょう。パウロさんの捜索団員がいるかもしれません。」

「はーい。」

 

 シチューを食べ終えた皿をパンで綺麗にしてから、その最後の一口を堪能した。

 

 

 

 

 

 イーストポートの冒険者ギルドへ入る。

 喧騒と怒鳴り声が耳をつんざく。

 うるさいなー、まぁギルドは大体こんなもんか。

 

「だから!土地勘のあるベガリット大陸か、中央大陸北部に行くべきといってるじゃろう!魔大陸に拘るな!」

「いーや、道なんてわからなくても人探しぐらい出来ますわ、なんなら現地で人を雇えばいいじゃないですの!」

「なぜそんな所に労力をかける必要がある!?」

 

 金髪縦ロールの長耳族女戦士と、厳つい鎧を着込んだ茶色の髭が特徴的な炭鉱族が口喧嘩をしている。

 どうやら行き先で揉めているらしい。

 掲示板の前で迷惑なことだ。

 

「うーん、パウロさんの団員メンバーはいなさそうですね。港へ行きましょうか。」

「うん。」

「む?お主パウロと言ったかの?」

「あなた、パウロのお知り合いですの?」

 

 わっ話かけてきた、ロキシー先生に。

 しかし言い様を鑑みるにとおさまの知り合いっぽいな。

 ここは話を聞くしかない!

 ロキシー先生と手を離し、彼女らへ1歩近づく。

 

「あのっ!とおさまのお知り合いの方ですか!」

「とおさま?」

「はい!あ、自己紹介がまだでしたね。わたしの名前はトマ・グレイラット。とおさっ…パウロの娘です。」

 

 2人は目を皿にして驚いた。

 そうだろう、恐らく2人はとおさまの伝言を見て動こうとしたくれた人達で、今の状況はいきなり探し人が自分から現れたようなものだ。

 いや、ようなもの、じゃなくてまんまか。

 

「わたしも自己紹介を、ロキシー・ミグルディアです。こちらのトマさんを、パウロさんの元へ届けにいく旅をしています。」

「あらあら……わたくしはエリナリーゼ・ドラゴンロードと申しますわ。」

「儂は『(きび)しき大峰(おおみね)のタルハンド』じゃ。」

 

 金髪の方はエリナリーゼさん、茶色の髭の方はタルハンドさんだ。

 ロキシー先生が自己紹介をしたときも、わたしに負けないくらい驚いていた。

 伊達に彼女は水王級魔術師じゃないのだ。

 

「お二人は魔大陸へ行くご予定が?」

「そうじゃが、生憎土地勘もない所でな、他の場所を探そうと言ってもコイツが意地を張って動かん。」

「それなら、魔大陸出身のわたしが案内できると思います。この子をパウロさんへ届けたらパーティーを組んで頂けませんか?」

「まぁ!願ってもないことですわ!よろしいですわね?タルハンド。」

「……うむ。」

 

 なんかトントン拍子でロキシー先生パーティーが結成してしまった……。

 ちょっと疎外感。

 

「あの、確認なんですけど……」

「敬語を使う必要はありませんことよ。」

 

 エリナリーゼはウィンクしながらそう言った。

 それならいっか。

 

「2人は何しに魔大陸に?」

「わたくしたち、元黒狼の牙のメンバーだったよしみでパウロの家族を探そうと思うんですの。」

 

 タルハンドがうんうんと頷いた。

 

「黒狼の牙って、もしかしてとおさまが入ってたパーティー?」

「えぇ、パウロがゼニスと…あなたの母親と結婚するに当たって、解散しましたの。」

「へー!じゃあとおさまの昔の様子知ってるの!?」

「えぇ……まぁ…………そうですわね。」

 

 あれ?

 歯切れが悪いし、目線をそらされた。

 タルハンドにも目を向けたが、梃子でも目を合わせるつもりはないようだ。

 

「皆さん、とりあえず港へ行って船に乗りませんか?話はそこでも出来ますし。」

「そうですわね!行きましょう!」

「そうじゃな。」

 

 ロキシー先生の一声で、2人は話を切り上げるようにつかつかとギルドから出ていってしまった。

 もっと昔のとおさまやかあさまの事知りたいのに!

 わたしは頬をふくらませる。

 

「わたしたちも行きましょう。」

「わかった!」

 

 ま、船で聞けばいいよね。

 ロキシー先生の手を握って、わたしはギルドから立ち去った。

 

 

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 1日目

 

「うぷ……オエエエエエエ」

「オロロロロロロロロロ」

『……ヒーリング』

 

 燦々と煌めく太陽の光を反射して、辺り一面水面が輝いてる。

 海の影に潜むのは大量の小魚か。

 潮風が吹いてわたしの鼻腔を刺激して、海の上という非日常を実感する。

 わたしはそんな景色と体験を楽しみたいのだが……

 青い顔をした2人の看病をしなくちゃならない。

 

 右手で触れるはタルハンド、左手はロキシー先生で見に行く暇がない。

 ずっと両手でヒーリングをしている。

 

 乗った直後はみんな平気だった。

 陸から離れるにつれ、まずタルハンドの顔が真っ青に変色しダウン。

 その30分後には青い顔で、死んだ魚の目で海を眺めるロキシー先生がリバースした。

 わたしは平気だ、元々揺れに強いのか、常時無為転変をしているからなのか、真相は定かではないけど。

 

「トマは優秀ですわね。無詠唱で魔術を使えるなんて。」

「それほどでもないよ、にいさまやシル姉の方が強い魔術を無詠唱で使えるし。」

「…あなたの村は魔境ですわね……。」

 

 エリナリーゼは平気なようだ。

 よかった本当によかった。

 無為転変使わないと、腕は2本しかないからね。

 

 2人には無為転変は話していない。

 いや、ロキシー先生がもう説明してるかもしれないが、わたしは話してない。

 せっかくロキシー先生が力を隠してくれてるのに、それをバラしまくるのはよくない事だ。

 2人はわたしが神子だと知っても、積極的に国へ報告するような人には見えないが、念には念を。

 

「うぅートマさん……もう一度ヒーリングを……。」

「オェ……儂にも……頼む……。」

「はい、『ヒーリング』」

 

 そのままわたしの1日目は、ヒーリングで終わった。

 

 

---

 

 

 3日目

 

 グレートテンタクルが出た。

 海に生息するたこの魔物で赤色をしている。

 わたしは2人のヒーリングを止め、魔術を発動しようとした。

 

 真っ先に動くはエリナリーゼ。

 甲板の上を素早く駆け抜けグレートテンタクルに一撃加える。

 その後直ぐに攻撃が当たらないところまで下がり、再び剣で攻撃。

 ヒット&アウェイのタンクっぽい立ち回りだ。

 

 その後ろから真空波……はエリナリーゼにわかりにくいか、氷霜撃にしよう。

 

「エリナリーゼ離れて!『氷霜撃(アイシクルブレイク)』!」

 

 エリナリーゼが右に素早く逸れ、氷の槍がグレートテンタクルに突き刺さる。

 威力は弱めにした。

 船が壊れたら嫌だし。

 目論見通りグレートテンタクルは絶命し、船の人達から称賛の声が上がった。

 それと同時に、船の船尾から2人の魔術師がのろのろと現れた。

 

「うっゔゔ……加勢…しに来ました……。」

「ゔゔゔうおぇー…魔物は…どこじゃ……オェ。」

「まったく、もう倒しましたわよ。」

「あはは……。」

 

 2人は吐き気と戦いながらも加勢に来てくれたのだ。

 それはうれしいしありがたい。

 もう倒したけど。

 

 

---

 

 

 5日目

 

 ロキシー先生は多少船酔いに慣れたようだ。

 タルハンドはダメ。

 

 後数日したらミリス大陸に着くと、船の人に伝えられた。

 また、この5日でエリナリーゼにミリス神聖国について教えてもらった。

 とおさまについてはお茶を濁されている。むぅ。

 

 ミリス神聖国は世界で2番目の国力と歴史を持つ国で、ミリス教団の総本山がある。

 そもそも国がミリスって名前だから当然か。

 教団が先なのか国が先なのか、どっちだろう?

 歴史は詳しくないのでわからない。

 

 建物は白と銀を基調に数多く建ち並び、静謐で荘厳な重々しさがあるらしくて、観光してみたいと思った。

 とおさまに会ったら一緒に行ってくれるかな?

 ノルンとも久しぶりだ。

 

 …………そして、エリナリーゼから聞いたもっとも嫌なことが、魔族差別だ。

 なんでも人以外の種族全般に厳しいそうで、ロキシー先生が行ったら辛い目に合うかもしれないと言っていた。

 

 させるわけがない。

 ロキシー先生に嫌なことしてきたやつ全員の魂を変形させる。

 ここまでの旅で成長したわたしの無為転変は、一瞬触れるだけでも破裂して死ぬ。

 

 嘘言ってロキシー先生を困らせても殺す。

 魂の揺らぎは見逃さない。

 こちらを騙そうとする揺らぎは既に紛争地帯で理解している。

 

 エリナリーゼとタルハンドをバカにしても殺す。

 彼らはロキシー先生のパーティーメンバーであり、ロキシー先生の弟子であるわたしは彼らの名誉を守らなくちゃならない。

 

 立場は関係ない教皇だろうと騎士だろうと民だろうと殺す。

 どれだけ強かろうと魂に響かないやつらの攻撃は、無意味で無価値で無駄で徒労でわたしを殺せない。

 一瞬で全身を消し飛ばす攻撃は、どうせタメがあるのだろう?躱してみせる。

 わたしは掌で触れられれば殺せる。

 ストックを使えば逃げても見つけられる。

 どれだけ速かろうと改造竜に乗れば追い付ける。

 

 とにかく、魔族差別してきたら殺す。

 

 「トマさーん?どこにいるんですかー?」

 

 遠くからわたしを呼ぶ声が聞こえる。

 ロキシー先生だ。

 

 腹の底から湧き出る怒りが収まって、緩やかに冷静になってくる。

 頭に血が上りすぎた。

 そうだ、エリナリーゼはミリス教の人でも魔族迎合派がいると言っていた。

 魔族が嫌いな人ばかりじゃないのだ。

 

 部屋から出て一度深呼吸を挟んでから、ロキシー先生に返事をする。

 彼女は振り返って、聖女もかくやという微笑みを浮かべ、食事に誘ってきた。

 

 ロキシー先生、わたしの恩人で先生で家族みたいな人。

 絶対に失いたくない。

 

 

---

 

 

 船から降りて地上に降り立つ。 

 

「わぁ……!」

「着きましたわね。」

「やっと……着きました。」

「オロロロロロロロ。」

 

 ミリス大陸に着いた。

 正確にはウェストポートに着いた。

 木製の桟橋(さんばし)の先は、ザ・港町って感じの町だ。

 まだ神聖さは感じない。

 そして約1名吐いているのでヒーリングを施す。

 これで記念すべき70回目だ。

 

「さてと、馬と馬車を買いますわよ。スレイプニル種がいいですわね。」

「馬車!スレイプニルって優秀なの?」

「そうですわ。ここは大金を支払ってでも確保したいところですわね。」

 

 えっ大金?

 ギギギっと音が出ていそうなくらいゆっくりと顔を向け、ロキシー先生に訪ねる

  

「……ロキシー先生、わたし達お金あるよね……?」

「ふふ、ありますよ。そんな顔しなくても大丈夫ですから。」

 

 セーーーフ。

 わたし達だけ徒歩になるところだった。

 ……いや?

 そうなったらついに改造竜に乗れたのか!

 惜しいことをした……。

 改造竜についてはロキシー先生が召喚術って言ってた。

 信じられたかはわからない。

 

「それでは馬を探しましょうか。」

「…………そのことですけれど、わたしとロキシーで探して、タルハンドとトマは観光しに行って下さいまし?」

「……そうじゃな、それがいいじゃろう。」

 

 2対2で分けで別行動するのか。

 じゃあみんなにお土産買っておかないと。

 ロキシー先生にお金を貰おう。

 

「お金ちょうだい?」

「はいどうぞ。」

 

 彼女は小さな袋に幾らかの硬貨を詰め、渡してくれた。

 お金、ゲットだぜ!

 そのまま2人と別れ、タルハンドと一緒に露店方面へ歩いていく。

 その途中、彼に好きな食べ物や今までの思い出などを尋ねてみた。

 彼は饒舌にずっとお酒のことを話してきたけど、わたしまだ8歳だよ?

 

 

---

 

 

ロキシー視点

 

 

 

 トマさん達と分かれ、エリナリーゼさんと港町を歩いている。

 馬と馬車を売ってる店を見つけたので、彼女に声をかける。

 

「ありましたよ、あの店に入りましょう。」

「ちょっと待って下さいまし、その前に、少しお話しましょう。」

 

 彼女の全てを見透かしたような目が、わたしに突き刺さる。

 えっえっえっ何でしょう。

 何か粗相をしていたのでしょうか。

 彼女の後をついていくと、人通りの少ない路地裏へ連れ込まれた。

 ずいっと顔を近づけられ、ある事を質問される。

 

「あの子は、神子ですの?」

 

 しまった。

 そう思った時には遅く、わたしの愚鈍な表情筋はその答えをありありと示してしまった。

 

「えっいや……。」

「…………分かりましたわ、何故それを隠しているのか、大体想像はつきますわ。」

「…………そう、ですか……その事を、国へ報告しますか?」

 

 返答次第では、覚悟を決めねばなりません。

 わたしには責任があります。

 トマさんを無事にパウロさんのもとへ送り届けること、その為なら!

 

「いいえ?そんな野暮なこといたしませんわ。ただ、あの子が呪子ならば、何かしてあげられるんじゃないかって思っただけですの。」

「へっ?」

 

 杖を握る手が緩み、帽子がズレる。

 彼女の心から心配している表情によって、嘘をついている様には見えない。

 

「そ、そうなんですか?」

「えぇ。」

 

 わたしの覚悟はサラサラと風に吹かれ、消えてしまった。

 というか、神子であることはいつバレたんでしょう?

 

「その……いつ?」

「船での2日目ですわね。」

「早い!」

 

 冷や汗がどっと出る。

 ううー、この調子じゃどれだけの人にバレていることやら……。

 

「そんなに心配しなくても、わたくしとタルハンド以外にはバレていませんわ。」

「あっそうなんですか。」

 

 2人以外に漏れていないことに幾らか安心して、わたしは大きく息を吐いた。

 バレたことは良くないですが、不幸中の幸いといったところです。

 

「うふふ、さぁ馬を買いに行きましょう?早くしないと2人が待ちくたびれてしまいますわ!」

 

 そう言うと、エリナリーゼさんは颯爽と路地裏から飛び出し店に行ってしまいました。

 はぁ、どっと疲れた気がします。

 けれど、エリナリーゼさんが理解ある人で良かった。

 これなら、力について話してもいいかもしれません。

 

 わたしはおもむろに路地裏から出て、店へ歩き出しました。




誤字脱字報告ありがとうございます 8/27
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