ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第31話 エリスの献身

エリス視点

 

 

 

 オルステッドと戦ってから5日経った。

 アスラ王国には2日前に既に入っていて、私達はフィットア領へひたすら北上している。

 

 トマがいなくなってから、ルーデウスは変わった。

 夜の見張りは譲ってくれないし、エッチなことは一切しない。

 魔獣が出てきた時だって、真っ先に魔術を使って倒している。

 そして倒した後、私達の怪我を頻りに心配して、大丈夫だとわかると、やっと一息つくのだ。

 

 ルイジェルドはそんなルーデウスの事をずっと心配している。

 私もだ。

 目の下の隈は日に日にくっきり浮かんできて、僅かな寝る時間さえずっと魘されている。

 

 私はずっと、ルーデウスを神格化していた。

 家庭教師をしてくれていた時も、魔大陸に飛ばされた時も、ミリシオンの時も、龍神の時も。

 ルーデウスはすごかった。

 ルーデウスは強かった。

 ルーデウスならなんでもできると思っていた。

 でも、違った。

 彼は無理をしていた、いや、させていた。

 それが分かったのは、ルーデウスが寝ている時だった。

 

 その日、ルーデウスがあまりにも酷く魘されていたので、傍に座って頭を撫でた。

 それが不味かったのか、ルーデウスはさらに苦しそうになって、私は焦った。

 咄嗟に彼の手を握って、大丈夫、安心して、私がいるわ、と声をかけ続けていると、次第に呻き声は弱くなり穏やかな顔になっていった。

 

 夜闇を押し退けるたった一つの焚き火の明かり。

 私とルーデウスだけを照らして、まるで世界に私達しか存在しないような錯覚を覚える。

 だからか、彼の顔立ちが良く見えた。

 

 凛々しい眉に目元の一滴の泣きボクロが垂らされて、優しげな印象を与える。

 綺麗な鼻筋が通っていて、形のいい唇は思わず触りたくなる。

 しかし疲労によって刻まれた薄暗い隈と痩せた頬が私に憐れみと心配を抱かせた。

 

 ルーデウスはトマを失って、気を失うほどのショックを受けて、こうなった。

 トマは家族思いで優しくて、強かった。

 隙あらばルーデウスにくっつき甘えた。

 旅の雑用を積極的にこなし、私達のサポートをした。

 ルイジェルドとの稽古では、私よりルイジェルドを追い詰めていた。 

 さすがルーデウスの妹ね、なんて、思っていた。

 私も頑張らないとって。

  

 そのトマがいなくなったのは龍神と戦ったからで、戦いの中で一番役に立たなかったのは私。

 

 ルイジェルドは龍神を足止めできて、ルーデウスは岩砲弾で傷をつけ、トマは神子の力で右腕を破壊した。

 私は、せめて龍神の気を引こうと死に物狂いで剣を振ったけど、意味はなかった。

 

 私の力じゃ、戦いにすら入れなかった。

 

 そう思った時、心の底から悔しくて無意識にルーデウスの手を握りしめた。

 その時、はたと気づいた。

 手が小さい。

 はだけた服から見える体も、私より小さく細い。

 全体的に彼は私より小さいのだ。

 

 それに気づいてやっと、ルーデウスは自分より年下なのだと、初めて理解した。

 

 この細腕で、私を守ってくれていた。

 今も必死に、無理をして。

 私は守られるだけだった。

 情けなさが胸いっぱいに広がって、私は声を殺して泣いた。

 

 

 

 

 

 オルステッドと戦って8日経った。

 ルーデウスは限界だ。

 ぶつぶつ独り言を言って自分を責めている。

 

 私は、自分ができる最大の慰めをするために、ルイジェルドに相談した。

 立ち寄った農村の一部屋を借りて、準備をする。

 タオルで入念に体を拭いて、服を畳んで袋にしまう。

 下着姿のまま、ルーデウスを待つ。

 こんな時でも私はどこまでも女で、ドキドキと激しく心臓がなって顔に熱が集まっている。

 

 後少しで、ルイジェルドがルーデウスを連れてくるはずだ。

 その後、私はルーデウスにめちゃくちゃにされる。

 そうなれば、少しは気が晴れるはずだ。

 

 ベッドに座って深呼吸しても落ち着かず、太股を擦り合わせる。

 やり方はルイジェルドから聞いた。

 その通りにやればいいだけだ。

 

「どうしたんですか?ルイジェルドさん」

「エリスがお前に用があると言っていた」

「エリスが?」

 

 ビクッと体が震えた。

 扉の先に、ルーデウスがいる。

 

「エリス?入りますよ」

 

 ガチャリと扉が開けられ、隈を携え窶れたルーデウスが見えた。

 でも私の姿を見た瞬間固まった。

 扉を開けたまま。

 

「ちょっと…!扉閉めなさいよ…!」

「えっあ、はい」

 

 ルーデウスは扉を閉め、そこにピッタリ背中をつけて動かない。

 顔が赤らんで目線を部屋の隅に固定している。

 それにひとまず安心した。

 私を一切エッチな目で見てないわけじゃない。 

 

「ルーデウス、来て」

「エ、エリス。服はどうしたんですか」

「脱いだわ」

「脱いだって……」

 

 ルーデウスは恐る恐るベットに座り、私の方を見ようとしない。

 

「こっちを見て」

「いや、その……」

「私がいいって言ってるのよ」

 

 口をもごもごさせるが視線は動かない。

 なぜだろう。

 やっぱり、私なんかを実際に抱くのはイヤなのかな。

 わがままだし、他の子より女の子らしさがないし。

 それとも、状況を掴めてないだけ?

 なら

 

「ルーデウス、最近辛そうだわ」

 

 ルーデウスの赤面が消えて、照れていた表情も抜け落ちた。

 

「いえ、全然辛くありませんよ。逆にもっと頑張らないといけません」

 

 嘘だ。

 辛くないならあんなに魘されたりしない。

 

 私が考えるに、こんな風になった理由は一つしかない。

 それを話さないと、きっと無茶をし続ける。

 

「……やっぱり、トマのこと?」

 

 ガタガタッとベッドが揺れた。

 ルーデウスは立ち上がって、荒い呼吸をしている。

 

「ルーデウス!大丈夫?」

「はっはっはゴホッ!はっはぁーすぅーはぁーすぅー」

「深呼吸、深呼吸して」

 

 私が声をかける前にルーデウスは自分で呼吸を治そうとしていた。

 いつもの事のように。

 もしかして、私が見ていないだけでずっとこんな感じだったの…?

 

「はぁー……すいません。ちょっと、その、唾が気管に入って」

「嘘よ」

 

 明らかに無理をした笑顔を向けられた。

 早くルーデウスに元気になってほしい。

 忘れろなんて言わないけど、こんな状態はトマも喜ばないわ。

 あの子は本当にルーデウスのことが大好きだったから。

 

「気にしてるのね、あの子の事を」 

「……そうですね」

「あれは、ルーデウスのせいじゃないわ。話も聞かずに襲いかかってきたオルステッドのせいよ」

「違う!!!」

 

 再びベッドが揺れながら、しかしさっきより激しくルーデウスは立ち上がった。

 

「僕が、声をかけたせいで」

「違うわ」

「違わない」

「違うわ」

 

 ルーデウスの両手を包み込むように握りしめる。

 

「あれはオルステッドのせいで、そして……」

 

 両手に力を込める。

 ルーデウスと目を合わせる。

 彼の若葉色の瞳が揺れている。

 

「力が足りなかった、私達のせいよ。ルーデウスだけが悪いわけじゃないわ」

 

 彼を見つめ続ける。

 私の意志を証明するように、ルーデウスの後悔を溶かすために、私の弱さを見せるように。

 

「……………ぁ…」

 

 ルーデウスを抱き締め、ベッドに寝かせる。

 四つん這いで、彼に覆いかぶさり、気持ちを伝える。

 

「私の体を使っていいから、ルーデウスの辛さを、後悔をぶつけて頂戴」

 

 彼の瞳が一際大きく揺れた。

 そしてゆっくりと、震える手を伸ばした。

 生唾を飲み込む音がやけに大きい。

 一筋の汗が流れ落ちる。

 いよいよ彼の手が私の胸に触れそうになり───

 

 

 

 

  

 ───────止まった。

 

「だめ……だ」

 

 ルーデウスは体を捩ってベッドから抜け出して、涙を流しながら床に座り込んだ。

 ベッドから離れてルーデウスの前にしゃがむ。

 

「ル───」

「僕、クズなんですよ。生まれてから、いや生まれる前から。そんな男が自分勝手にエリスを傷つけていい訳ないでしょう」

「違うわ、ルーデウスはクズじゃない」

 

 ルーデウスがクズ?

 私をずっと守ってくれて、家族を大切に思う彼がクズな訳がない。

 

「違いません。僕は妹を死なせたクズ野郎なんですよ」

「トマが死んだのは私達の責任もあるわ」

 

 決してルーデウス一人のせいじゃないわ。

 一人で抱え込まないで。

 

「きっかけは僕です。」

「先に声をかけてきたのはオルステッドよ」

 

 私の言葉はルーデウスの心に響かない。

 後悔を溶かせない。

 私一人じゃ、彼を支えられない、慰めることさえできないの?

 

 ルーデウスは立ち上がって、涙を手で拭った。

 

「エリス、慰めてくれてありがとうございます。ちょっと楽になりました」

「待って、ルーデウス」

「少し、外の空気を吸ってきます」

「ルーデウス……」

 

 ぱたんと扉がしまって、ルーデウスは出ていった。

 伸ばした手が空を切る。

 部屋にこもった熱はいつの間にか消えていて、空しい寒さを感じた。

 

 

---

 

   

 翌日。

 意外にもルーデウスはちょっと元気になっていた。

 目の隈は薄くなって、張り詰めていた空気は緩んでいる。

 ルイジェルドも嬉しそうだ。

 

 しかし、私は手放しで喜ぶことはできなかった。

 まだまだ前のルーデウスとは違う。

 完全に立ち直らなかったのは、やっぱり私が強くないから、ルーデウスに釣り合ってないからだと思う。

 私がもっと頼れる人なら安心して身を委ねただろう。

 

 私は決意した。

 一回で慰めきれなかったのなら、何度でも慰めよう。

 抱き締めて、感謝して、今度は私が少しでも支えるのだ。

 例え今の私がルーデウスに遠く及ばなくても、釣り合わなくても。

 

 そしていつか、強くなって肩を並べ、ルーデウスと家族になりたい。

 夫婦に、なりたい。

 

 お祖父様もお父様もお母様も、ルーデウスとの結婚なら許してくれるだろう。

  

 そう思いながら、フィットア領まで続く道を踏みしめた。

 

 

---

 

 

 トマ視点

 

 

 

 赤竜捕まえて改造竜にした。

 ふーはぐれ竜探すのめんどくさかったな。

 流石に群れでしつこく追い回されるとわたしもしんどいからね。

 

 今はオルステッドと戦って12日、にいさまの所へはどれくらいで着くのかな?

 ま、フィットア領に先に着いちゃっていいか。

 改造竜に跨がって、久しぶりの空の旅を楽しもう。

 あのプレッシャー撒き散らすオルステッドから離れられて気分が上がってる。

 ストックも補充できたし(魔獣)、満足だ。

 

「いくよー!」

「ぎヮア!」

 

 紫で2対の翼を持つ小型の竜が飛び上がり、高度を上げて飛翔する。

 結構飛ばそう。

 

 

 

 

 

 オルステッドと戦ってから25日、フィットア領についた。

 一応バレないように離れた所に着陸して、竜を犬みたいにした。

 前きた時より難民キャンプがしっかりしていたが、相変わらずどんよりとした空気が流れている。

 

 たぶん早く着きすぎたね。

 にいさま達は早くて10日後くらいに着くかな?

 それまでなにしよう、難民達の手伝いでもしようかな。

 あっ、そうだ。

 その前に掲示板見よう。

 

 トコトコ歩いて難民キャンプの中央、本部と看板に書かれた建物に入る。

 中に人はそれなりにいた。

 かき分ける程でもない密集地を抜けて掲示板に近づに、詳細を見る。

 そこで嬉しい発見をした。

 

「シル姉、メグもハナも生きてる…!」

 

 音沙汰無かった彼女達が生きていたのだ!

 嬉しさが胸いっぱいに広がって、小躍りでもしたい気分だった。

 その気分のままかあさまの名前も探したけど、行方不明のままだった。

 小躍りはやめだね、はぁ。

 さて、やることやったし何しようか。

 

「…………トマ?」

 

 聞き覚えのある声がした。

 後ろを振り返ると、褐色肌で灰色髪のお姉さん、ギレーヌがいた。

 

「ギレーヌ!」

「無事で良かった」

 

 ギレーヌに駆け寄って……抱きつくのはまだちょっと早い関係かな?

 ギレーヌは微笑んで、再会を喜んでくれた。

 

「トマ、エリスお嬢様やルーデウスの場所は知っているか?」

 

 あー、ギレーヌがこう言うってことは、やっぱり早く着きすぎたんだ。

 にいさま達は今ウィシル領とミルボッツ領の間くらいだろうか。

 

「たぶん、後遅くて1ヶ月くらいしたらここに着くよ。わたしにいさまとエリスさんとルイジェルドさんとここまで旅をしてたんだけど、ちょっとトラブルがあってわたしだけ早く着いたの」

「本当か!?」

「うん、本当」

 

 ギレーヌは尻尾をゆらゆら揺らした。

 眉尻も上がってとても嬉しそうだ。

 

「わたしにいさま達か来るまでここにいるんだけど、何か手伝えることある?」

「む、アルフォンスに聞いてみよう」

 

 ギレーヌは受付の奥に引っ込んでしまった。

 アルフォンスか。

 知らない人かな。

 しばらくすると、ギレーヌは片眼鏡の男を連れてきた。

 あっ執事の人だ思い出した。

 

「こんにちは!攻撃中級魔術全部と中級治癒魔術、解毒魔術を使えます!トマ・グレイラットですよろしくお願いします!」

「おお、積極的なご協力ありがとうございます。では、こちらに来て頂けますか」

「はい!」

 

 その後の数日、アルフォンスの指示した事(治癒や水、土魔術で壁の補強等)をやって、暇になったらフイットア領端、なにもない草原でにいさま達を待った。

 月一のオルステッドへの手紙、にいさま来なかったら何書けばいいんだろうとか思いながら。

 のんびりと、ゆったりと。

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