ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
今日も今日とてにいさま達を待つ。
土魔術で作った椅子に腰かけて、左手で改造竜を撫でながら右手で無為転変の練習をする。
最近細かな変形ができるようになってきて、頑張ればリスクを極限まで抑えながら人に翼を生やせるくらいの技術になってきた。
まぁ結界に引きずり込む技は全然手も足も出てないんだけど。
この数日、アルフォンスさんに散々こき使われた。
でも色んな人に感謝されたのは嬉しかったな。
こういう復興の時には魔術師の需要が高いらしい。
それとも、無詠唱魔術で色々応用が効くお陰で単純な土壁を自由自在に動かしたり強度を上げたりデザインを凝ったりできるからかな?
人形制作で培った技術が役に立ったね。
あらかじめ作ったコップに、白湯を入れる。
コップに口をつけくぴくぴ飲む。
「ふぅ」
改めてこのなにもない草原を見渡していると、無常感が沸き上がってくる。
なんというか、こんな悲惨な災害があっても植物はたくましく成長して、いずれ元の形に戻るっていうのが自然の巡りを感じるね。
そうだ、巡るといえば、あのヒトガミがいる空間は記憶にある魂の通り道と同じものだったのだろうか。
あそこで魂が循環されるのなら、わたしが術式でその場を弄ればこの先に生まれる生命も弄れるのでは?
例えば、魔力を異常にさせて全ての人間を神子にしたり、生まれてくる種族を一種類だけにしたり……
いや、難しいか。
それをするために必要な技術と知識、なにより術式の出力が足りない。
技術と知識は最低限人間を神子にできるくらいのやつが必要だ。
今はまだ無理。
術式の出力はにいさまくらいの魔力量があったら可能性はあったかなー。
「んー……まだかなぁ」
今日も来ないのかな。
ぐでーんと椅子からずり落ちつつ、肘掛けに両腕をかけて、空を見る。
今にも雨が降ってきそうな重苦しい曇り空。
私の心を写してるようだ。
あー早くにいさまに会って抱きつきたい!
ルイジェルドさんに生き残ったのを褒めてもらいたい!
エリスさんと剣のとっくん……あ…………
体を起こして、再びなにもない草原へ視線を向ける。
わたしはフィットア領に来るのが2回目だったから、動揺せずにいられた。
でも、にいさまもエリスさんも、転移事件後のこの場所を初めて見ることになる。
わたしがそうだったように、2人ともこの惨状にすごく落ち込むだろう。
にもかかわらず、わたしが構って構ってとアピールするのは良くない。
ここはあくまでも冷静に再会し、2人の精神を労るべきだ。
ロキシー先生がわたしにやってくれたように。
……ん?
ロキシー、先生?
なにかが、頭の中で引っ掛かる。
顎に手を当て、考える。
むぅ、ロキシー先生関連の事に違いないが、しばらく会ってないのに引っ掛かる事なんてあるのかな?
わたしの勘違いだろうか。
それならいいんだけどなー。
……んー……なんだろう……
目を瞑って、記憶を探り集中する。
すると、だんだん
それは…………白い。
それは……布だ。
それは……逆三角形の形状をしている。
それは……それは……!
「ロキシー先生のパ…………………………御神体、どうしたっけ」
御神体はわたしのバッグに入っていた。
そしてオルステッド戦でわたしはカチューシャとボロボロの服以外失った。
新しい服はオルステッドがくれた。
つまり、にいさま達が持っているか、捨てられた可能性が高い。
いや、たぶん持ってるだろう。
わたしの墓に埋めるために。
たらりと、汗が流れ落ちた。
正確にいえば、ダラッダラ汗が流れ落ちて体が震える!
落ち着け、深呼吸、深呼吸しろ。
「すぅーはぁーすぅーはぁー!!!」
中身……見られてないよね。
見ないよね!女の子の私物なんて!
プライバシーとか、分かってくれるよね!
たぶん、普通の人が御神体を見るとわたしを異常者扱いしてくるだろう。
わたしはロキシー先生の敬虔な信徒であるが、これが一般的にヤバいのは分かる。
この世界で生きてきたわたしの記憶とツギハギの人の記憶を合わせても、コレいいね!なんて言ってくる人はいない!
それに、もしロキシー先生にバレたらめっちゃ怒られちゃうし、没収されるかもしれない!
やだ!
わたしの墓には御神体を一緒に埋めてほしいのに!
そうやって、どう御神体を誰にも見つからずに手に入れるか考えていると、いきなり誰かに抱きつかれた。
深く集中しすぎたせいで、周りが全然見えてなかった。
「トマ……だよ…な…」
全体的に窶れていて、目の下に隈ができているが、間違いない、にいさまだ!
「にーさま!!!久しぶりー!1ヶ月ぶりくらい?」
にいさまはわたしの肩や腕、お腹を遠慮なく触る。
もう触られてない箇所が存在しないくらいにたくさんペタペタ。
えへへ……や、ちょっと照れるね。
「生きてる……」
にいさまは目を潤ませた。
今にも涙が溢れ出しそうだ。
「生きてるよ。先に着いちゃったから、ここで待ってた」
にいさまを強く抱き締める。
心臓の音が聞こえるくらいに、わたしの命を伝えるように。
「トマ……トマ……!」
苦しくなるくらい抱き締め返されて、わたしもそれに負けないくらい抱き締め直す。
「おっお前……どうやって……」
「あー…………」
にいさまの様子を手紙で送れってやつ、あれからオルステッドはヒトガミの助言を読むのだろう。
なら、にいさまに全部正直に伝えるのはマズいかな?
ヒトガミって人の嘘読むのが得意そうだったし。
そしてなにより、この状態のにいさまに心配かけたくない。
ほどほどに話すか。
「オルステッド様と取引して……助けて貰ったの」
「は?……オルステッド…
「そう、わたしの力が有用らしくて。後ある条件を飲めば困ったら助けてくれるらしいの」
「条件って……」
「んー……月一で近況報告とかしたらいいって」
さっきとは打って変わって絶望的な表情をしている。
そんな顔してほしくなかったから、抑えて話したんだけどな。
でも抑えてコレってことは、全部話したらもっとマズかったって事でしょ。
これで正解かな。
「ごめん、俺のせいで」
「にいさまのせいじゃないよ。アレは急に襲ってきたオルステッド様が悪い」
「いや……それでも、俺がきっかけで襲ってきたんだ」
「む……」
「俺が、もっと本気で頑張ってたらこうならなかった。
俺がもっと真剣にこの世界と向き合っていたら、きっと声をかけなかった。
俺がもっと強かったら、お前が肉塊みたいにならなかった。
だから……俺のせいなんだ」
にいさまの眉は苦しげに寄せられ、目は伏せられた。
罪悪感に苛まれてしょうがないって感じだ。
アレは避けようがない災害みたいなものなのに。
わたしは、にいさまに元気になって貰いたい。
笑顔を見せてほしい。
幸せになってほしい。
だからわたしは──────
「にいさまは、オルステッド様と戦ったのは自分のせいだと思ってるの?」
「ああ」
「……罰してほしいの?」
「後悔が、消えないんだ」
「じゃあ、さ」
後悔を、ちょっとでも溶かすために、わたしができること。
「これからの人生で、わたしをたっくさん抱き締めて。偉いね、すごいね、かわいいねって、たくさん言ってほしい」
「え……」
「後、今みたいに自分を責めて無理をするの禁止」
「いや、これは本気で頑張ろうとしているだけだ」
「んーいいのかな?わたしがお願いしてるんだけどなー。にいさまのせいで死にかけたわたしが」
「……ごめん」
「冗談……わたしも、みんなも怒ってないよ。だから、いつか自分を許せるように努力すること。これがわたしからにいさまへの罰だよ」
話してる間に来ていたエリスさんとルイジェルドさんに目配せする。
2人共、頷いてくれた。
ほら、やっぱり怒ってない。
にいさまが振り返って、2人を見る。
そして、近づいていく。
「ルイジェルドさん……エリス……」
ルイジェルドさんが微笑み、エリスさんがにいさまを抱き締めた。
その2人の姿はまるで夫婦みたいに似合っていた。
にいさまは、エリスさんの胸の中で、わんわん咽び泣いた。
曇り空が綺麗に晴れて、清々しい晴天を見せた頃、にいさまは泣き止んだ。
にいさまは濡れたエリスさんの服を布で拭きながら、今までの事、これからの事を話し合おうと、少し赤らめた顔で言った。
そうして情報交換をする中で、ルイジェルドさんが衝撃的な事を話す。
「俺はここで別れる」
「えっ!」
ルイジェルドさんによると、本当はもうしばらくいるつもりだったらしい。
理由はにいさまがとても落ち込んでいたから。
けれど、それも無くなったらここにいるのは戦士だけなので、お守りは必要ないだろうって。
ルイジェルドさんはにいさまに今までのお礼を言い、エリスさんとわたしを撫でた。
そして、にいさまが送ったペンダントを付けながら、わたし達の元を去る。
ルイジェルドさんは、途中からパーティーに入ったわたしに優しく接してくれた。
日々の特訓の時には、無駄な動きを的確に指摘して教えてくれた。
逆に良い動きをした時は、笑顔で褒めてくれた。
また会えると信じて、今までの感謝を込めて、その背中が見えなくなるまで見送った。
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「こっちこっち、ここの本部にギレーヌがいるよ」
2人を難民キャンプ本部まで案内する。
ギレーヌとアルフォンスからエリスさんが来たら真っ先にここを教えてほしいと頼まれていたのだ。
中に入って受付の人に事情を伝える。
一瞬で奥に引っ込んだ受付の人は、ギレーヌとアルフォンスを引き連れて来てくれた。
「ギレーヌ!」
「エリス、いや、エリス様、よく無事に……」
「……もう、エリスでいいわよ」
エリスさんは喜色満面で喜び、ギレーヌも微笑んだ。
しかしギレーヌの笑みはすぐに消える。
アルフォンスも、エリスさんを気の毒そうに見ている。
その視線に、表情に、わたしは嫌な予感を感じざるを得なかった。
「エリス……奥で話そう」
ギレーヌは固い声で言った。
「わかったわ」
エリスさんが、覚悟した顔でギレーヌについて行き建物の奥へ歩いていった。
そして、にいさまも。
わたしは、行けなかった。
にいさまはボレアス家に雇われている使用人って立場だけど、わたしはなんにもない。
強いて言うならボランティアしてる人だ。
「ルーデウス殿は外にてお待ちください」
「え? あ、はい」
ん?
にいさまでもダメなのか。
ということは、ボレアス家の人間以外聞いちゃダメな話をするのだろう。
「だめよ、ルーデウスも一緒」
エリスさんが有無を言わさぬ強い語気で言った。
「エリス様がそうおっしゃられるのであれば」
アルフォンスのその言葉で、一度止まったにいさまが再び歩きだした。
完全に奥へ入る前、チラリとこっちを振り返ったので、手を振っといた。
今のにいさまなら、なにがあってもエリスさんを支えられるだろう。
わたしは本部の外へ出て、アルフォンスが用意してくれた部屋に帰った。
1時間も経たないうちに、にいさまが帰ってきた。
どうやらアルフォンスがにいさまに用意した部屋はわたしの隣らしい。
にいさまは、暗い表情で眉間を狭めていた。
どんな話だったのか、エリスさんは大丈夫なのか、詳しく聞きたいけれど、たぶんわたしに話しちゃダメことだろう。
機密情報ってやつだ。
せめてにいさまに寄り添おう。
にいさまと荷物を運び終えた頃、本部に戻ってみると言われた。
エリスさんの様子を見るらしい。
わたしはいってらっしゃいと言い、また自分の部屋で待った。
結構、だいぶ待った。
しかしにいさまもエリスさんも戻ってこない。
晩御飯も食べてしまった。
ずっと起きてる意味もないかと思って、その日はいつもより早めに寝た。