ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第33話 惜別

トマ視点

 

 

 

 聞き馴染みのない音が聞こえて、目が覚めた。

 ぐちゅぐちゅというか、ぺちゃぺちゃというか、水の音だ。

 それに人の激しい息遣いも聞こえる。

 うるさいなぁ。

 誰がこんな夜中に仕事してるの?

 夜は大人しく寝ようよ。

 

 毛布を頭まで被って、膝を抱えて背中を丸める。

 若干音が小さくなって、穏やかな気持ちになった。

 そのままウトウト優しい微睡みの中に揺蕩って、夢の世界へ落ちそうになったとき、一際大きく、艶かしい聞き覚えのある声が耳に入った。

 

 (え…!?この声、もしかして……)

 

 毛布から身を出して、隣の部屋に聞き耳を立てる。

 いや、立てるまでもない。

 この難民キャンプの壁は木や石で出来ていない。

 布で仕切られているだけだ。

 だから、隣の声が聞こえてしまったわけだ。

 

 (………………!わわ…わぁ!間違いない!この声エリスさんだ!)

 

 声を一生懸命抑えようとしているが、隣部屋には全然聞こえてしまう。

 むしろ、我慢してるせいで余計にその…………

 気持ちよくなってしまった時の声だけ聞こえる。

 

 (これ…絶対……………………いや、違う可能性も……)

 

 戦ってる時の鼓動の高鳴りとは違う、けど、それと同じくらいドキドキしながらベッドから降りる。

 心臓が口から飛び出しちゃいそうだ。

 緊張しすぎて足が踊って、ズルっと転けてしまいそうになった。

 これじゃバレちゃう。

 

 (無為転変)

 

 グニャリと両足がネコ科みたいに変形する。

 柔らかい肉球で衝撃と音を吸収し、さらに北神流の技で気配、足音を消す!

 風で布が揺れ、擦れる音に合わせて歩く。

 落ち着け。

 焦ってはいけない。

 ゆっくりでいいから、確実にバレないように近づくんだ…!

 

 唾を飲み込む音さえ気にしながら、一歩、また一歩と隣室へ歩みを進める。

 周りに人がいないか気を遣って警戒する。

 そして、月の軌跡がわかるくらいの長い時間を経て、とうとうわたしは辿り着いた。

 

 (ちょっとだけだから…!………見るだけ……見るだけだから…!)

 

 しゃがみこんで、そろぉーーと入り口の布を人差し指と中指を合わせて押し退ける。

 音がでないように徐々に、緩やかに……!

 

 (ふーー……ん……わ!わぁー!す、すごい!えっちだー!)

 

 にいさまの背中が見えた。

 一定のリズムで動いていて、恐らく下にはエリスさんが……わぁーー!!!

 に、にいさま、すごい、すごすぎるよ!

 なんなんだあの早さは!

 無音の太刀にも勝るとも劣らない。

 お、男の人って感じの動きだ!

 がっついて、エリスさんを味わってる!

 しかし、なんというか、んん、早いのは早いんだけど…………力が無い。

 迫力が足りない気がする。

 なんか……ドドドドド!!!じゃなくて、へこへこへこへこーって感じだ。

 あっでもすごい。

 耳舐めてる。

 めっちゃ舐めてる。

 ペロペロって。

 

 (……すごいなぁ………わっ……う…………ぁ…ぅ…?)

 

 とりつかれたように見つめてたわたしは、なんだかお腹が熱くなって、切なくなって、太股を擦り合わせた。

 

 すり…………すり…すりすり…………

 

「……ん……ふ…………うぅ…………」

 

 擦る度、だんだん控えめな吐息が熱気と湿り気を帯びて、生々しくなってきた気がする。

 

「……ふっ……ふぅ………んっ…ふ…………はふ……ふ」

 

 おへその……下がズクズクと疼く。

 わたしも、その……やり方は知っている、けど。

 

 恐る恐る右手の中指と薬指を、汗ばんだ太股の間に入れてみる。

 あとは…………

 ゴクリと生唾を飲んで、喉が鳴った。

 

 あれ?喉が鳴って、音が出た?

 

 

  

 あ、マズい!!!

 

 

 

 ブワッと全身から冷や汗が吹き出した。

 さっきの甘ったるく熱いものなんて消え失せ、変わりに絶叫したいくらいの焦燥感が止まらない。

 

 耳をすませて、にいさま達の様子を探る。

 ……うん。

 変わってない。

 バレて……ない……!

 

 安心感で溜め息をつきそうになったけど、慌てて口を閉じることができた。

 冷静さを取り戻したら、もうえっちとか考える気分じゃなくなったよ。

 頭も冷えたし、もう帰ろう。

 わたしは行きと同じように、気配を消しながら部屋に戻った。

 

 

---

 

 

 しかし一度火照った体は眠気を彼方へ吹っ飛ばしてしまい寝られそうにない。

 もともと早めに就寝してたのも災いして元気に満ち満ちている。

 あとまだアンアン聞こえるし。

 

 寝返りをうって、懸命に目を瞑る。

 視界が暗闇に染まり、外の情報が遮断される。

 ここからだ。

 何も考えないようにしないといけない。

 じゃないと否応にもさっきの光景が思い出されてしまう。

 ベッドからずり落ちた毛布、空気が肌にまとわりつくような熱気、汗ばんだ裸体、わたしが初めて聞くエリスさんの声。

 

「はぁ」

 

 寝転んだまま足を垂直に上げて下げる、その反動で起き上がり、服を整える。

 よし。

 気分転換に外の空気を吸いに行こう。

 こんな所にいたら変態になってしまう、

 

 スタスタスタと早歩きで、隣部屋と反対方向に進んで行く。

 普通さ、妹が隣にいるのにおっ始めないよね。

 というか、なんでしてたんだろう。

 旅の道中じゃそんなことしてる姿一回も見たことないけど、見てないだけでガンガンやることやってたのかな。

 恋人同士なのだろうか。

 はたまた婚約関係?

 一夜の過ちって線は……ないな。

 にいさまとエリスさん仲良しだから。

 

 難民キャンプの外へ出て、落ち着ける場所を探す。

 この気持ちを冷ますために夜空がみたい気分だ。

 それも最高のシチュエーションで。

 

 途中から翼を生やして布を被り魔術を使って空を飛んだ。

 念入りにわたしだってわからないように偽装したのだ。

 空中から絶好の夜景場所を探索する。

 体に魔力を巡らせ身体強化し、衝撃波の出力を増加。

 びゅうびゅう風を切りながら、速さが増していく。

 地を舐めるように俯瞰すると、一本の木が生えた丘があった。

 高度を下げて、着地する。

 

「んー、いいね」

 

 星が降ってくるような、幾重もの圧倒的な煌めき。

 その中でも一際輝く水色の星は、地平線まで覆い尽くす星々全てが引き立て役と思えるくらい、燦々と輝いていた。

 美しい、素直にそう思った。

 あの星はサファイアより色が薄くて、中心は墨のように暗く見える時がある。

 さらによく観察すると、うずまき模様に見えなくもない。

 

「……ん?」

 

 どういうわけか、ブルっと体が震えた。

 冷え過ぎたのだろうか。

 空中は地上より気温が低いし、たぶんそうだ。

 

「あー……これから、どうしよう」

 

 草むらに寝っ転がる。

 考えるのはこの先の未来。

 オルステッド様に手紙を送ることを考えると、にいさまと離れすぎたら一々様子を見に行くのが難しい。

 まぁ、恐らくにいさまはエリスさんについて行き、フィットア領に留まるだろう。

 えっちまでしてた仲だからなー。

 

 そうなると、わたしは一人で北方大地でかあさまを探すのか。

 むぅ、効率が悪いか?

 オルステッド様にダメ元でもかあさまの場所を聞いてみようかな。

 協力すれば助けてくれるようだし、人探し魔道具とかくれるかもしれない。

 

 手紙も問題ないな。

 北方大地とフィットア領は本来赤竜の上顎を通らなければならないが、わたしの場合赤竜山脈を飛んで近道できる。

 

 なんだ。

 なんも問題ないじゃん。

 考えを整理してみたら、気持ちがスッキリした。

 

 まとめると、わたしはにいさまがどうしようと北方大地でかあさまを探す。

 手紙は問題ない。

 お金もあるから問題ない、最悪竜を売ろう。

 強さも問題ない、オルステッド様と戦ってわたしはさらに強くなった。

 遍殺即霊体(へんせつそくれいたい)に成ったわたしは全体的に二回りくらい強くなる。

 最低でも聖級…いや、王……帝級剣士くらいの実力はあるのではなかろうか。

 帝級剣士見たことないけど。

 

 ふむ、正確に考えると、初見で戦うならルイジェルドさんにも勝てるかな。

 2回目3回目となると、次第に厳しくなってくるかも。

 

 エリスさん相手だと、たぶん全部勝てる。

 が、普通の状態で食事中にいきなり殴られたら気絶するかも知れない。

 あの剣神流に北神流が混ざった戦い方は格上も倒せるくらい強い。

 

 にいさま相手だと、距離次第で倒すのにかかる時間が変わるかな。

 遠くでオルステッド様に傷をつけた岩砲弾(ストーンキャノン)を連射されると何もできない。

 体の変形と回避で手一杯になりそう。

 それに、予見眼のせいで不意打ちに強そうだ。

 わたしは粘って粘って粘り切ったら勝てそう。

 ……あ、でも、にいさまが魔力切れになったの見たことないな。

 1日に何回岩砲弾撃てるんだろう。 

 まさか1万発とか?

 ありえるかも。

 

 ふと空に意識を戻すと、夜空が明るくなって、星の輝きが薄れてきているのに気づいた。

 そろそろ帰るか。

 翼で衝撃波、高度を上げて飛んで行く。

 にいさま達がいる、難民キャンプへ。

 

 

---

 

 

 難民キャンプから離れた場所で翼を消して、歩いてそこに入る。

 部屋に近づくに連れて、もしかしたらまだヤッてるんじゃないかって落ち着かなくなってきた。

 しかし杞憂だった。

 音はしない。

 これで穏やかな気持ちで一日を過ごせる。

 もんもんとしながら2人と一緒にいるのはしんどい。

 ……でも、好奇心が湧いてしまう。

 ちょっとだけ見たいな。

 あ、わたしは変態じゃないから!

 これは人生の先輩の様子を見てこれからに活かすための健全なる好奇心だから!

 

「……見ちゃおうかな……ちょっと」

 

 2人とも寝てるだろうが、足音は消して歩き、入り口の布をどかした。

 

「あっ」

「え?」

 

 部屋の中には短髪になったエリスさんがいた。

 なんで、髪が短くなって……

 目線を下に落とすと、大量の赤い髪が落ちている。

 

「エリスさん?」

「しっ!」

 

 エリスさんは左手でわたしの口を押さえ、小声で話す。

 

「静かに」

 

 コクンと頷くと、エリスさんが部屋から出ていった。

 足音を立てずに。

 あれは意識してやってる歩き方だ。

 どうしたんだろう。

 

 エリスさんを追って、部屋から出る。

 歩き続ける彼女を追い続けると、難民キャンプの外にギレーヌが立っていた。

 

「もう行くのか」

「ええ、置き手紙を残したわ」

 

 置き手紙?

 何の事だろう。

 でも、今はそれより

 

「エリスさん、どこに、なにしに行くんですか?」

 

 わたしはエリスさんを見てからずっと、状況を掴めていない。

 2人が何をしに行くのかを知らない。

 魔物狩りやあいさつ回りとかならいいんだけど。

 

「強くなってくるわ!ルーデウスに釣り合うくらい!」

 

 エリスさんは振り返らず、されど決意のこもった口調で宣言した。

 強くなる?

 修行に行くってことか。

 

「そう……ですか。寂しくなります」

 

 そうか、わたしに一言も無しで出ていくのか。

 にいさまには置き手紙を残したのに。

 結構心にくるものがある。

 いや、わたしが部屋にいなかったから声をかけなかっただけか。

 そうだといいな。

 一応、確認してみるか。

 

「わたしに一言もかけずに、行くつもりだったんですか?」

 

 そう言うと、エリスさんが固まった。

 

「せめて、わたしにも置き手紙を書いて欲しかったです」

「トマなら、わかるわよね」

「わかりませんよ」

 

 怪訝そうな顔をしてエリスさんは振り返った。

 その時にふわりと跳ねる長髪は無かったが、短髪はそれはそれで似合ってる。

 

「えっと、どこに修行をしに行くんですか?」

 

 目的は聞いたが場所はまだ聞いてない。

 

「剣の聖地だ」

 

 奥のギレーヌが答えた。

 剣の聖地、北方大地の最西端の岬にある剣神流本拠地だ。

 ここから馬に乗って3~4ヶ月くらいかかる場所にある。

 なるほど。

 エリスさんの修行の地としてピッタリの場所だ。

 

「なら、会おうと思えばすぐ会えますね!わたしも北方大地で家族を探すんですよ!」

「ルーデウスと一緒に探すの?」

「……それはにいさま次第ですね。そういえば、なんでにいさまを起こさずに剣の聖地に?」

 

 彼女は目を細め、拳を握り締める。

 

「今の私は、ルーデウスの足を引っ張るだけだわ。ルーデウスは私なんかにかかずらわず、どんどん先に行くべきよ」

 

 確固たる意志と共に、彼女の目が見開かれる。

 

「だから!ルーデウスと釣り合うくらい、肩を並べられると思えるくらい、強くなるために!剣の聖地へ行くわ!」

 

 エリスさんの意志は強く、わたしがどんな事を行っても出ていってしまうだろう確信を抱かせる。

 

「……ルーデウスと別れるのは、そうしないと私が彼に甘えてしまうからよ」

「…………そう、です、か」

 

 エリスさんは強い。

 並の相手には負けないだろう。

 しかし、彼女にとってそれではダメなのだ。

 にいさまに釣り合うくらいの強さじゃないと、自分を許せない。

 

 エリスさんはにいさまの事が本当に好きなのだろう。

 にいさまに相応しい剣士になりたいのだろう。

 だから、一度別れるという選択ができる。

 

 わたしに、そんな選択ができるだろうか。

 いや、きっと寂しすぎて出来ない。

 エリスさんは、本当に凄い人だ。

 

「そろそろ行くわ!」

 

 エリスさんがわたしに背を向けて歩き出した。

 あ…あと1個だけ、聞きたいことがあるのに!

 この空気の中引き留めるのは中々勇気がいるが、走って彼女に立ちふさがる。

 

「なによ?」

 

 彼女の耳に手の輪っかをくっつけて小声で伝える。

 

「にいさまと結婚したんですか?えっちしてましたよね?」

 

 エリスさんは顔を赤らめて、恥ずかしそうにわたしからザザっと離れた。

 

「き、聞こえてたの?」

「めっちゃ聞こえてました」

「そ、そう……」

 

 短くなった髪を弄りながら、動揺を鎮めようとしている。

 ふーよかった。

 これは賭けだった。

 わたしの存在がバレていたら、恥ずかしさで死ぬところだった。

 

「ルーデウスと家族にはなったけれど、まだ夫婦じゃないわ。強くなって戻って来た時に告白するつもりよ」

 

 その言葉を聞いて、心配しか頭に浮かばなかった。

 にいさまはエリスさんを置いて恋人とか作るかもしれない。

 例えばシル姉!

 もしシル姉が未だににいさまの事が好きだったら、わたしはどうすればいいかわからない。

 エリスさんもシル姉も大好きで大事な人だ。

 

「それ、にいさまに言ってますか?言ってないなら恋人とか作るかもしれませんよ?」

「え゙」

 

 面食らった顔をされた。

 考えて無かったのか。

 いや、無理もない。

 エリスさんシル姉の事知らないだろうし。

 

「にいさまにはシルフィエットという目茶苦茶仲良しな女の子がいます。エリスさんがいない間に結婚してもおかしくない…かも、です」

「え、えぇ……」

 

 ……あー、固まってしまった。

 わたしはギレーヌの方を向いて助けを求めるが、彼女もどうしたらいいかわからなそうだ。

 あわあわしてる。

 どうしよう。

 わたしもあわあわしてる。 

 

「……………………………………………………わかったわ!」

 

 フリーズしてたエリスさんが復活した!

 

「ルーデウスに伝えといて頂戴!妻は何人いてもいいけど、必ず私とも結婚しなさいって!」

 

 それは、いいの?

 

「エリスさんは、それでいいんですか?」

「……いいわ、原因は、私の力が足りないせいだから。私だけじゃ、ルーデウスを立ち直らせる事はできなかった」

 

 そう自分を悔やみながら、今度こそエリスさんは地を蹴って走り出した。

 

「ギレーヌ!行くわよ!!!」

「あぁ」

 

 わたしは彼女達の背中が見えなくなるまで手を振って、声を上げて見送り続けた。

 エリスさんはにいさまに会うのはダメだけど、わたしは会っていいよね。

 迷惑じゃなかったら、月一くらいで会いに行こう。

 そう思いながら、にいさまの所へ帰った。

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