ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
四方が布で仕切られた部屋で、傍らのベッドで眠るにいさまを横目に見つつ、地面に広がる髪を拾う。
髪は燃えるように赤く、触ると手から零れ落ちてしまうほどサラサラで、エリスさんの匂いがした。
土魔術で作った籠に一本残らず入れていく。
それが8割程度埋まったところで、全ての髪を回収し終えた。
部屋の外へ出ると、太陽が優しい光と暖かさを放っていた。
明け方というには遅く、もはや早朝と言っていい時間になった。
エリスさんは、にいさまと釣り合うくらい強くなるために剣の聖地へ修行に行った。
またにいさまと会うのは何ヵ月…何年後だろうか。
定期的にご飯や服を持っていこう。
まぁあっちでも買えたりするんだろうけど。
わたしがエリスさんに会うためのいい口実だ。
剣の聖地ってどんな所なんだろう。
剣神流の人達がいっぱいるし、目と目が会ったら真剣(文字通り)バトルみたいな感じかな。
勝ったらお金とか貰えそう。
負けたら治癒術師センターで回復して、次の戦いに向けてまた特訓するのだ。
最終的に剣王、剣帝に勝ってバッジを貰い剣神と戦う。
そこで勝てば殿堂入りだ。
剣神流に名前が刻まれる。
部屋に戻ろうとしたとき、ふと野菜がコトコト煮込んだスープのような香りが、わたしの鼻腔をくすぐった。
香りのする方へ足を向けると行列ができていて、先頭はパンと野菜スープを受け取っていた。
これは、たぶん難民向けの炊き出しかな?
転移事件によって家やお金を失ったフイットア領の人達を飢えさせないために、アルフォンス等がやっているのだろう。
この数日アルフォンスの指示で働いていたけれど、あの人が食事を用意してくれていたから気付かなかった。
貰っていいのかな。
いいよね……たぶん。
わたしは最後尾に並んだ。
スープとパンを2つづつ貰えた。
にいさまの分もお願いしますって言ったら簡単に。
ここで働いててよかった。
情けは人の為ならずって感じだ。
土魔術で作ったお盆にスープとパンを乗せて部屋に戻る。
中へ入ろうとしたとき、焦った様子のにいさまが飛び出してきた。
幸い、咄嗟にお盆を引いたのでご飯は無事だ。
「と、トマ!エリスは!?」
にいさまが肩を揺さぶって聞いてくる。
右手に持ったお椀がぐらぐら揺れる。
「修行しに行ったよ。それで、んー……」
「ど、どこに?」
「中で話そっか。ご飯も持ってきたから」
「あ……あぁ。わかった」
にいさまはベッドに座り、わたしは土魔術で椅子を作った。
机にお盆を置いて、話し始める。
「んっと、まずエリスさんの伝言から言うね」
両足を開いて腕を組み、胸を張ってエリスさんのいつものポーズを作る。
んんっ……と咳払いをしてから
「妻は何人いてもいいけど、必ず私とも結婚しなさい!」
「え……?」
中々再現度高いんじゃ無かろうか。
もっと本気でやるなら、無為転変でエリスさんの姿になることも可能だ。
「エリスが…?なんで、だって置き手紙には……」
「なんて書いてあったの?」
「今の私とルーデウスでは釣り合いが取れません。旅に出ますって……」
誤解されそうなほど言葉が少ないな。
実際誤解されてるし。
にいさまがこうなるのも納得だ。
「それはエリスさんがにいさまの足を引っ張ってるって言いたいみたい」
「そう、なのか」
にいさまは手紙をまじまじと眺めている。
そのまま見たり下から見たり、匂いも嗅いでる。
いい匂いするのかな。
「足手まといなんて、思うわけないだろ……」
にいさまは独りごつ。
「……それで、エリスはどこに行ったんだ?」
「剣の聖地だって。ほら、北方大地の最西端にあるやつ」
「そうか、今から出れば間に合うか……?」
にいさまは深く考え込んだ。
やっぱり、ついていくのだろうか。
「エリスさんに会いに行くの?」
「ああ、足手まといなんて思った事無いって言ってくる」
「ん?あー…にいさまがそう思ってそうだから修行に行ったんじゃなくて、エリスさんがそう思ったから行ったんだよ」
「エリスが?」
「うん。私はルーデウスに釣り合わないって。
あと、にいさまと一緒にいたら甘えてしまうから離れるんだって」
あのエリスさんの決意を見たわたしとしては、にいさまがエリスさんに会いに行っても、一緒にいられる可能性は低いと思う。
それでも会うのなら、止めはしない。
「にいさまは、これからどうするの?」
「どうするって、言われても……」
「わたしは北方大地に行ってかあさまを探しに行くよ」
母様……そう、にいさまは呟いた
「にいさまがどうしようと、わたしはそうする。
そして、にいさまがどうしようと、わたしはそれを尊重する」
パンとスープとパクパクと平らげて、立ち上がる。
「待って、どこ行くんだ?」
「アルフォンスのとこでちょっとした仕事」
振り返らずに言った。
「あと10日間くらいはここで働いて、その後北方大地に行くつもり」
入り口の布を押して部屋から出る。
にいさまにも仕事がアルフォンスから仕事を任されるだろうけど、今日のにいさまを働かせるのは可哀想だ。
アルフォンスに言ってやめて貰おう。
そう思いながら、本部へ向かった。
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仕事の途中、それとなくエリスさんの事を聞いてみたが、話を逸らされた。
しょうがない。
わたしはただのボランティアだ。
にいさまが聞いたら、ちゃんと話してくれるだろう。
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夜、ご飯を持ってにいさまの部屋に入った。
にいさまはベッドの中でくるまっていたが、わたしが居る事を察知したのか、ノソノソと出てきた。
「ご飯、食べる?」
「食べる」
机にお盆を置いて、朝と変わらぬパンとスープを食べる。
お互い一言も話さない無言の食事だが、無理に話題を出し合うよりもずっといいと思う。
硬いパンをスープに浸して、ふやかす。
食べられる硬さになったら、お椀ごと口に持ってきてパンを食べる。
その繰り返し。
わたしが食べ終わった頃、にいさまは半分くらいパンが残っていた。
食べ終わるまでいたほうがいいのかな。
でも、早く食べろっていうプレッシャーになっちゃわないかな。
んー……難しい。
結局、髪を弄りながら座っていた。
にいさまが食べ終わった時、目が合った。
そして、話すために口が開かれた。
「俺は、母様を探しに行く」
…………そっか。
エリスさんの決意を尊重したんだ。
「わかった。じゃあ10日後一緒に行こう」
そう言って笑うと、にいさまも弱々しげながらも、笑顔を見せた。
一日中悩んだんだろうな。
でも逃げないできちんと自分なりの答えを出したんだ。
にいさまはすごい。
「明日は俺も仕事を手伝うよ」
「ありがとう!にいさまの仕事いっぱいあるらしいよ!」
「ははっ、そりゃ頑張らないとな」
にいさまは笑った後、何かに気付いたようにハッとして、籠に入った赤い髪を見つめた。
「そうだ、俺も頑張らないと。エリスに顔向け出来ないな」
十分頑張ってると思うけどね。
「今日は早めに寝よっか。明日も早いし」
「ああ、そうだな」
土魔術で作った椅子を崩し、おやすみと言うため振り返る。
すると、一人でベッドに座るにいさまの姿がいやに寂しそうに見えた。
「……一緒に寝る?」
「うん?寂しいのか?」
どちらかというと、それはにいさまでは?
でもわたしは出来る妹なので、兄を立てることが可能なのだ。
「そうだね、エリスさんがいなくなって寂しいな」
「そうか、じゃあほれ」
ベッドに入って手招きされた。
わたしはカチューシャを外して、ベッドに入った。
にいさまの温もりを素肌で感じる。
んふふ。
「にいさま、おやすみ」
「おやすみなさい」
目を閉じる。
だんだん意識がぼんやりしながらも、思うことがある。
にいさまとエリスがすれ違わなくて、本当によかった。
次章 迷宮編