ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
第35話 二人の冒険者
甲龍歴422年。
中央大陸北西部にある、バシェラント公国の第三都市ピピア。
そこにはある2人の冒険者がいた。
1人は水聖級魔術師であり、無詠唱で強力な魔術を繰り出す男。
彼は通称「
一見侮辱や侮りと取られてもおかしく無い言葉だ。
沼プレイしかしない男なのだろうか、はたまた女関係が泥沼の様にズブズブなのだろうか。
実際、前者は意味を変えればその通りであり、後者の方の真相は定かではない……
……定かではないが、彼は女性に誘われても、血涙をダラダラ流しながら鉄の意志で断り、自室に戻る様子が度々確認されている。
某ゾルダート氏曰く、「アイツ、好きな女が修行に行っちまったらしいぜ?しかも浮気OKっていう状況なのに、良く自分を保ってるよな」と、彼の自制に感心している。
なるほど、これを聞く限り「泥沼」は、1人の女性を一途に愛する、ミリス教徒顔負けの誠実な男だ。
しかしながら、彼はたまに夜の町で存在が確認されている。
やはり、下半身の欲は彼でさえ負けるほど猛烈に強大で、抗い難いのだろう。
その彼を見た人に話を聞くと、
曰く、フラフラと蛇行しながら、飛んで火に入る夏の虫のように、店へ歩いていった。
曰く、目は虚ろにとろーんとしていて、頬は紅潮していた。さらに僅かに漂って来る香りから、明らかに酒気を帯びていた。
曰く、ズボンにはテントが張っていた。
曰く、結局の所
ということらしい。
話の中に出てきていたあの子について、今話すことは出来ない。
重大なネタバレになってしまうからだ。
なぜかというと…………おっと、話が逸れてしまった。
閑話休題。
率直に言おう。
彼が「泥沼」と呼ばれる所以は、その戦闘方法である。
彼は水系統と土系統の混合魔術である泥沼を、誰よりも素早く広大に発動させることが可能である。
また、それをよく使う為「泥沼」と呼ばれるようになった。
つまり、「泥沼」は彼を決してバカにしている呼び名ではないのだ。
その強さは冒険者に知れ渡っている。
さて、ここから彼について詳しく探っていこう。
彼の容姿は茶髪で若葉色の瞳を携えた、穏やかな顔つきをしている。
言葉遣いは丁寧であり、性格も穏やかで争いを好まない。
戦闘方法は泥沼で相手を足止め、味方のサポートをして、余裕があれば岩砲弾を放つ。
また、A級冒険者ながら、既に単騎での赤竜討伐を成し遂げている。
持ち家はなく、北方大地を転々としているようだ。
その理由は彼があのフィットア領転移事件の被害者であり、まだ見つかっていない家族を探すためだ。
冒険者として固定パーティーを組んでいるが、他のパーティーと連携して依頼を受ける事も多い。
それは彼がとても優秀な魔術師だからだけではない。
彼と固定パーティーを組んでいる「彼女」は、折半する依頼料の一割を「泥沼」パーティが多く取ることと引き換えに、その戦闘で負った怪我を無料で治してくれるのだ。
その治癒魔術は凄まじく、切られた腕が生えてきたり、臓器が抉れても回復したりするそうだ。
恐らく、彼女が持つ特殊な魔眼の力だろう。
冒険者の中ではそう考えられている。
それでは、もう1人の冒険者、通称「
彼女は北神流上級・剣神流上級であり、全ての攻撃上級魔術を無詠唱で使う事が可能だ。
しかしそれを霞ませるほどの彼女の特筆すべき点は、治癒魔術と解毒魔術である。
彼女は治癒魔術では治らないような体の歪みを治したり、まだ治す方法が無い毒を解毒する。
「癒手」曰く、全部魔眼のお陰だよ、らしいが私はそうとは思えない。
今まで受けてきたどんな治癒魔術よりも、体の奥を癒されている感覚がするのだ。
体の調子が整って信じられないくらい活力が漲る。
もしや、新しい治癒魔術ではないのだろうか。
「癒手」の戦闘方法は無詠唱魔術と剣術を組み合わせた速攻勝負が多いが、敵によって戦い方をよく変える。
例えば、魔物が少ないなら自身の脚力と衝撃波で一気に加速し、一閃を放つ。
魔物が多い場合は「泥沼」と共に遠距離から魔術を撃ち、近づかれたら前衛が「癒手」後衛が「泥沼」になって戦う。
空を飛ぶ魔物が入る場合は自分も空へ飛び上がって、風魔術を使い地に落とす。
そこを「泥沼」が叩く。
「泥沼」と「癒手」はこの北方大地最強のパーティと言っても過言ではないだろう。
彼女を詳しく探ろう。
彼女の容姿は肩甲骨まで伸ばした金色の髪と左右色が異なるオッドアイが特徴だ。
右手の方が灰色で瞳の中に渦が巻いている模様がある。
左手の方が青色だ。
口調は「泥沼」に似て丁寧であるが、彼には砕けた言葉で話す。
彼女は明るく甘え上手な性格で、交流関係が広い。
しかし、「泥沼」を貶めた発言をすると態度は一変、一度目の警告を破ったが最後、ボコボコにされる。
まぁ、冒険者らしいといえばそうだろう。
「泥沼」が謙虚すぎるだけだ。
先ほど、彼女の交流関係は広いと言ったが、重要な事をつけ忘れていた。
浅く、広いのだ。
彼女が心の底から人と仲良くなることは滅多にない。
知り合いからお友達へ、お友達から親友へランクアップするのがとても難しい。
何故なら、その心はほとんど「泥沼」へ向けられている。
そう、「癒手」は「泥沼」が好きなのだ。
それは恋愛的に?それとも友情的に?
どれも違う。
あれは、家族愛だ。
「泥沼」と「癒手」は兄妹である。
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トマ視点
水底から浮かび上がるように、ゆっくりと目が覚めた。
土魔術でコップを作り、混合魔術でお湯を注ぐ。
全部一緒くたにすることは出来ない
兄さまみたいにはまだ出来ない。
コップに口をつけて飲む。
暖かいお湯が体を芯から温めて、眠気が徐々に薄れていく。
「よし」
飲み干した後、袋から御神体を出す。
祭壇に乗せ両手を合わせて祈る。
神様、今日も一日わたしをお導きください。
「……ん」
祈ったら丁寧にしまい、寝巻きから外行きの服に着替える。
最近胸が膨らんできた。
将来的に母さまくらいの大きさになりそうだ。
まぁ、わたしの体は自由に変えられるから、そんなに意味はない。
けれど、やっぱり母さまが産んでくれたこの姿が一番好きだ。
「っと」
最後に髪を梳かしカチューシャをつける。
腰の後ろで横向きに大剣を、左側にわたしが作った杖を掛けて完成。
この杖は赤竜丸々一匹を贅沢に使った一品だ。
名を
火魔術を7倍、その他魔術を2倍くらいの効率で放つ事ができる。
作り方は、兄さまへ送った短剣と変わらない。
脳を変形させて抵抗を無くし、徐々に体を捻り圧縮させ小さくする。
体内にある深紅の魔石を先端に持ってきて、杖身を硬くしなやかに練り上げる。
そのまま体を半分ほど使って仕上げた。
片手で使うにはちょっと長いし重いけど、剣士なら余裕で振り回せる程度だ。
杖の持ち手は赤く滑らかで鱗の気配なんて微塵も感じさせない。
しかし上部へいくにつれ黒く角質めいた硬い物質が血管の様に、不規則に張り巡らされる。
頂上の深紅の魔石は、下部三分の一程度黒い物質ででこぼこに包まれる。
兄さまの
もっと武器屋とか行って、造詣を深めないとね。
窓から外の景色を見た感じ、そろそろ兄さまもランニングから帰ってきているだろう。
部屋の外へ出て、隣の部屋にノックする。
ノックは大事だ。
親しき仲にも礼儀あり、前いきなり開けたら兄さま全裸だったからな。
着替中に入ってしまった罪悪感がまだ残っている。
中でゴソゴソと音がして、使い古された扉がキィと軋みながら開けられる。
茶髪で若葉色の瞳をしている、わたしより二回り大きい青年、兄さまがいた。
わたしが150cmくらい、兄さまが165cmくらい?
「おはようトマ」
「おはよー兄さま!」
兄さまは毎朝ランニングをした後、腕立て伏せ150回腹筋150回行って神に祈りエリスさんの髪を吸う。
この毎日ルーティーンをこなしてる。
わたしも走った方がいいかなー。
でも身体能力は落ちてないと思うし、わたしにとって重要なのは想像力と体の動かし方だから、実践しまくるのが一番いいんだよね。
走るだけだとそんなに意味がない。
無為転変様々だね。
「ご飯食べよ」
「わかった、けど先に行っててくれないか?まだやることがあるんだ」
それとなく部屋の中を覗くと、机に御神体が入った箱と赤い髪を見つけた。
ありゃ、まだ終わってなかったか。
「ん、先行ってるね」
宿屋の2階から降りて一階の食堂へ向かう。
わたしがいつも食べるのは魚のスープとパン、大盛りで。
北方大地は他の中央大陸の土地と比べて食費が高いが、お金に余裕があるのでバクバクいっぱい食べる。
冒険者は体が資本!
半分ほど食べ進めた時、兄さまが大きく盛られた米と豆の料理を持ってきて前の席に座った。
「兄さまいっつもそれだね」
「米はね……俺のソウルフードなんだ……お前もお米を食べないか?」
「食べない」
「そうか……」
軽口を交わし合いながら朝食を頂く。
毎日一緒に食べるもんだから、一人で食べるのが寂しくなってしまった。
兎は一匹だと寂しくて死ぬ、わたしも一人だと寂しくて死ぬ。
わたしは兎だった……?
「なぁ、今月も手紙を出すのか?」
兄さまが眉根を寄せて心配そうに話す。
オルステッドへの定期連絡のことだ。
「うん。別に大丈夫だよ?変な事されてる訳じゃ…………ない、し」
「本当に大丈夫か?その、それは俺の……いや、これはダメなんだよな」
「そうだよ。アレは兄さまのせいじゃないってやっとわかった?」
「…………あ、ぁ」
「ずっと引きずってるよね」
兄さまはオルステッドと戦った事を今でも後悔している。
もう魘されることはないけれど、心に一生残る傷になってしまった。トラウマだ。
さっきわたしがいい淀んだのは、たまに手紙からオルステッドに呼び出されて、人を治療しているからだ。
失った腕や悪くなった内臓、死にかけの人物の体を変形させ健康かつ若さを取り戻させたこともある。
お陰で人への無為転変の技術は上がったけど、オルステッド様は人を治す度に凶悪な笑顔で「良くやった」って言ってくる。
あまりにも友好的な態度を取られ過ぎていて、嫌悪感と恐怖がちょっ………………とだけ薄れ、代わりに困惑の感情で埋まってきた。
と、そんなことを考えているうちに食べ終わった。
兄さまも食べ終えたみたいだ。
「よし、ギルドに行くか」
「はーい」
冒険者ギルド。
荒くれ者が集まる場所。
しかし悪い人達ばかりじゃない。
「よーう『グレイラット兄妹』、聞いたか?北の方ではぐれの赤竜が出たらしいぜ!」
Sランク冒険者、ゾルダート・ヘッケラー。
空色の瞳と黄色味が強い黄褐色の髪の男。
言葉は荒いが冒険者ならこんなものだろう。
不器用だが優しく、ツンデレな人だ。
また、ステップトリーダーというパーティーのリーダーを務めている。
「ふーん?久々に大物が来たね兄さま!」
「そうだな」
お、兄さまも乗り気だ。
「僕達も一緒に行ってもいいですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。他のパーティはどこが参加するんですか?」
「これから募るが……久しぶりの大仕事だ。皆やる気満々だろうぜ」
竜退治は普通複数のパーティーで行われる。
わたしだって、無為転変を使えないなら一人で倒せない。
でも例外として、兄さまなら一人でいける。
この前、単騎ではぐれ竜を倒したようだ。
回転する赤熱しかけの
岩砲弾を練習して連射・複数発射できるようになったんだって。
今回、赤竜退治には、5つのパーティが参加を表明した。
総勢25名。
やや少ないが、わたし達なら行けるだろう。
「癒手がいるなら怪我は怖くねぇな」
「泥沼は単騎で竜を倒したんだろ?なら楽勝だろ」
「バカ!泥沼が余裕でも俺らは死ぬかもしんねぇだろうが!」
「あー?癒手がいるじゃねぇか。大丈夫だろ」
若干まとまりが無くなりそうだった時、ゾルダートが声を張り上げた。
「よっしゃ行くぜお前ら!報酬は山分けだ!一割分以外!」
その鶴の一声で、参加を迷っていたパーティーはいなくなった。
皆が赤竜退治に加わった。
冒険者は血気盛んな者が多いのだ。
---
わたし達は薄く雪が積もった道を歩く。
木々の葉は枯れ落ちて、代わりに真っ白な雪を纏っている。
「泥沼、偵察を頼む」
ゾルダートの指示により、兄さまは足元から土柱を生成し、周囲を見回した。
赤竜は大きいからこうやって偵察すれば見逃さない。
「二時方向に、ラスターグリズリー。群れでいます。すごい雪ぼこりです!」
「何匹だ!」
「8……いや、10匹はいますね! こっちに気づいてますよ! まっすぐ近づいてきます! 速い!」
兄さまが魔物を見つけたようだ。
杖に触れていつでも出せる状態にする。
「散開しろ!癒手、魔術で数を減らせ!泥沼、降りて援護頼む!」
「はーい」
「了解!」
ゾルダートの指示は的確で素早い。
S級冒険者の名は伊達じゃない。
わたしは
それはキュルルルと高速で回転し、エネルギーを溜め込んでいく。
イメージするのは兄さまの岩砲弾。
わたしの目に遠くから接近するラスターグリズリーが写った時、それ目掛けて全ての槍を発射する。
『
巨大な8本の氷槍がラスターグリズリーの命を奪わんと襲い掛かる。
3本は外れ、5本はラスターグリズリーの腹、肩、頭を貫通した。
白い毛皮に染み込むように赤い血が吹き出して悲鳴を上げる。
辛うじて生き残った1体と、幸運にも当たらなかった5体は進路を変えようとしたけど
『
突如地面がぬかるんで足を取られた。
ラスターグリズリーはその自重と粘着性のある泥故にに深く沈み込み、身動きが取りづらくなった。
「いまだ!」
ゾルダートの号令で、散会した冒険者が一斉にラスターグリズリーへ襲い掛かった。
そこにいる全員が高ランクの冒険者だ。
躊躇などせず、鋭い攻撃で魔物を屠っていく。
大丈夫そうだね、でも一応言っておこう。
「怪我したら言ってくださいねー!」
「おうよ!」
「はっ!楽勝だろ」
「お前ら!黙ってトドメをさせ!」
あっという間に全ての魔物が息絶える。
誰も怪我はしなかったみたい。
よかった。
「よし!泥沼、もっかい偵察いけるか?」
ブンっと剣を振って血を落としているゾルダートが言った。
この戦闘中に赤竜が来ていないか心配しているようだ。
「わかりました」
兄さまはさっきと同じ様に柱を生成し上に乗った。
わたしはラスターグリズリーの方を向く。
しばらくは待機かな。
ラスターグリズリーの死体を燃やさないといけない。
放置したらソンビになっちゃうかもしれないし。
あ、そうだ。
戦闘で汚れただろうし、みんなにお湯でも配ってあげよう。
布は自分でなんとかしてね。
そう思い、土魔術で桶を作ろうとした時だった。
上から焦った声が聞こえた。
「っ!?赤竜が来ます!」
「は!?嘘だろおいおい」
「急接近してきます!煙幕を掛けるので、バラバラに逃げてください!」
「ちっくしょ、撤退だ撤退ー!」
ここまでゾルダートが焦っているのは理由がある。
赤竜退治は本来、遠方から見つけ、奇襲を掛けるのがセオリーだ。
真正面から戦うと損害が冗談じゃすまない。
はぐれて地に落ちたとはいえ、赤竜は中央大陸最強の生物なのだ。
それが準備もなく、逆に奇襲を掛けられた。
彼らに勝ち目はない。
彼らには……
「兄さま、どうする?」
「ゾルダート達と逆方向に逃げる!」
柱を引っ込ませ降りた兄さまと一緒に雪道を走る。
チラリと後ろを振り返ると、きちんと赤竜がついてきていた。
あの人達が安全な距離に離れるまで、逃げ続ける。
息を切らしながら、兄さまが言う。
「トマ、プランCだ」
「ん、わかった」
プランC。
兄さまが陽動・足止めをした後、わたしが兄さまと挟み込むように攻撃するワンセット。
左へ方向転換し、木々に紛れながら杖を抜く。
疾走しながらも赤竜がファイアブレスを放ったのが見えた。
兄さまは巨大な
その間に後ろへ回り込めたわたしは、タメを作った強力な魔術を放つ。
『
回転する8本の氷の槍が高速で赤竜に飛来する。
貫通することはなく、しかし深々と肉を裂いて突き刺さる。
「ギャアアァァ!!」
よろめきながら、後ろを振り返ろうとした赤竜。
その行動のせいで、わたしの魔術よりも恐ろしい攻撃に対応出来なかった。
「グギャアアアアア!!??」
ババババババァン!と連続で破裂音を立てながら赤竜に
赤熱と回転はしていない、連射特化の岩砲弾だ。
マシンガンのように発射している。
これにはたまらず赤竜もヨロヨロと逃げ出そうとするが、そうはいかない。
「『
逃げ道を潰すように壁を作り出し、その壁からトゲみたいに槍を出す。
それほど強度はないが、弱った赤竜は無理やり突破することを嫌がった。
止まってしまったのだ。
『
赤竜が泥の沼に沈み込む。
兄さまがそれに魔力を送り続け、より粘着質にした。
「よし」
ピクピクと震えるだけになった赤竜へ、兄さまは巨大な岩の塊を叩きつけた
---
宿場のある町へ戻ってきた。
赤竜は山分け、みんなホクホクの表情で解散した。
あとは晩御飯を食べて、体を拭いて寝るだけだ。
いや、お風呂に入ろっかな?
兄さまは綺麗好きだから、よく自分で作ったお風呂に入る。
その影響でわたしもお風呂が好きだ。
一度自室へ戻って、重い荷物を金庫に入れたら宿の外で待つ。
今日は酒場で食べたいんだって。
あ、来た来た。
「お待たせ!待った?」
「全然待ったよ!」
「え、マジか。ごめんな」
「えへ、嘘。全然待ってないよ」
兄さまと手を繋ぎながら歩いて酒場へ行く。
何回も繰り返した行動だ。
そう、何回も……
「……全然母さま見つからないね」
「そうだな……情報の1個くらい出てきてもおかしくないと思うんだけどな」
「ここまで見つからないなら、北方大地にはいないのかもね」
「うーん、他の候補地といえば……ベガリット大陸か?」
そんな事を話しながら、酒場に入ってご飯を注文した。
兄さまはお酒も追加した。
兄さまはお酒を飲むとアレの自制が効かなくなるため、わたしと一緒にいる時以外は飲んでいない。
わたしがセーフティ役なのだ。
会話を楽しみながら、運ばれてきた料理に舌鼓を打ち、兄さまの動向に目を光らせる。
パクパクと食べ進め、テーブルに乗った料理も残り2割になったところで
バン!
と、突如として酒場の扉が開かれた。
「ようやく見つけましたわ、『
輝く金色の縦ロール、切れ長の目に、長い耳。
ドレスにも見える冒険者の服。
背にはバックパック、腰には剣と盾が吊り下げられている
そしてあの魂……エリナリーゼだ!
「エリナリーゼー!」
「ふふ、大きくなりましたわね、トマ」
飛び上がって抱きつくと、ふわりと懐かしい匂いがした。
脳内に船と馬車の旅が思い出される。
「ええと、トマ。その方は?」
「わたしをイーストポートからミリスまで送り届けてくれた人だよ!」
「それはそれは……妹が大変お世話になりました。僕の妹を無事に送り届けてくださって、本当にありがとうございます」
兄さまは深々と、90度に腰を曲げて感謝の気持ちを伝えた。
「いいんですのよ。それよりも……」
エリナリーゼは兄さまにすり寄って、舌なめずりをする。
むっ!
いや、まだわからない。
動くのはまだ早い。
「どっどうしました!?」
「いえいえ、なんでもありませんわ!」
兄さまとエリナリーゼが椅子に座ったので、わたしも座る。
「自己紹介をいたしますわ。わたくしの名前はエリナリーゼ。エリナリーゼ・ドラゴンロード。あなたの父、パウロの元パーティメンバーで……ロキシーの友人ですわ」
「えっ先生の!?」
「うふふ、そうですわ」
むふふ。
尊敬している人同士が仲良しだと、わたしも嬉しいな。
エリナリーゼは兄さまの腕に胸を押し付けしなだれかかった。
「いい男ですわね。もっと子供だと思っていたんですけれど……逞しくって、ス・テ・キ……」
「えっと……ふふ、お姉さんもなかなか美しいですよ」
むむ!!
トマセンサーが警報を鳴らす。
そろそろ止めないと兄さま手を出すね。
ちなみにこの浮気防止は兄さまがわたしに頼んだことだ。
二人の間に割り込んで、密着を阻止する。
「あら?」
「兄さまー………これ以上はダメでしょ?」
「……はっ!?危なかった……ありがとうトマ」
お酒と誘惑で正気を失いかけの兄さまをなんとか戻せた。
「おっと、いけない。わたくしったら」
「あんまりからかわないでくださいよ。僕には遠くに行ってしまった愛する人がいるんです」
「あら素敵。まぁわたくしもパウロの娘になるつもりはありませんし、ロキシーの友達でもあり続けたいんですの」
……うん。
仲直りしたけれど、父さまと仲良くないのは変わらないね。
「エリナリーゼは何しにここに来たの?」
「貴方達に朗報を届けに参りましたわ」
エリナリーゼは優しく笑った。
その日。
わたし達は母さまが見つかったことを知った。