ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
母さまが見つかったと聞いた翌日。
わたしは自室でオルステッド様へ送る手紙をしたためていた。
エリナリーゼによると、母さまは生きていて、ベカリット大陸で迷宮探索をしているらしい。ちょっとした問題はあるらしいが。
さらにロキシー先生や父さまは今頃ベガリット大陸に向かっているから、わたし達が焦って向かう必要はないとのこと。
とはいえ、わたしとしては今すぐにも出発したい。
母さまに会いたい、話したい、抱き締めてもらいたい。
今までの冒険や旅、友達や尊敬する人の事を全部伝えたい。
一晩じゃ語り足りないくらいの量がある。
それだけ離れ離れの時間が長かったのだ。
5年だ。
もう5年も会えてなくて、生きているかも分からずずっと不安だったのだ。
だから母さまが頑張れば会える距離にいるのなら、わたしは骨身を惜しまず頑張って会いに行きたい。
ここまで言うなら一人で勝手に出発すればいいだろうと思うかもしれないが、問題が二つある。
小さい問題とでかめの問題だ。
一つはオルステッド様へ送る手紙。
ベガリットへ行くと兄さまの動向が書けなくなってしまうのだが、これは事情を話したら融通を効かせてもらえるかも。
あの人は妙に親切だから、手紙にめっちゃ悲痛な文章を書けば許してもらえそうだ。
また、わたしの力の利便性を知っていて、なおかつそれに依存するレベルで命令してきてるから、わたしとの関係を崩す様なマネはそうそうしないはず。
もう一つの問題は、あと15日もすれば冬がやって来てしまう。
北方大地の冬は過酷で、大量の雪が振り続け、積雪は5メートルを超える。
まぁ、そこは問題ない。
わたしは竜を捕まえて改造し、空を飛ぶことが出来る。
しかし、雪が振り続けるということは、空での視界が著しく悪化するということだ。
目的地へ向かって真っ直ぐ進むことは困難だろう。
この二つの問題で、わたしはベガリット大陸へ出発できないでいる。
あーどうすればいいんだろう。
大人しく待つのが正解かな?
でも早く会いたいよ。
半ばむしゃくしゃしながら手紙へわたしの要望を大量に書いていく。
『オルステッド様へ
兄さまはいつもと変わらず、冒険者業や家族探しに勤しんでいます。
特に行動を変えたり運のいいことが続いたりしておらず、夢見も良さそうです。
そしてこの度、わたし達の家族の情報を掴むことができました。
ベガリット大陸の迷宮都市ラパン、そこに母さまがいるとの事です。
わたし達は長年一心不乱、
そのため、一刻も早くそこへ向かいたいのです。
しかしベガリット大陸へ行くと兄さまの様子を送ることができません。
されど、どうか、わたしに慈悲を与え、手紙の送信に幾ばくかの猶予をお与えいただけないでしょうか。
(追伸)
そろそろ兄さまが女性に手を出しそうです。
トマ・グレイラット』
「これでよし!」
手紙をオルステッド様がくれた特別な封筒に入れて、魔力与えて封をする。
これでオルステッド様以外の人物が封筒を開けることは出来ないし、海竜の水弾や赤竜のファイアブレスにも耐えられる。って言ってた。
早速封筒を持って宿を出て冒険者ギルドに持っていこう。
触れたらすぐに熔けてしまいそうな白雪がしんしんと降って、町並みを白く、静謐に変えていく。
夜にこの景色を見ると静寂と合わさって、なんとも言えない冷たい美しさを感じる。
吐いた息が白く濁って、朝の空気にユラリとほどけていった。
まだ町を歩く人は少なくて、ぽつぽつと飲食店や服屋が開店の準備を進めている。
薄く積もった雪を踏むたび、さく、こつ、と乾いた足音が石畳に響いた。
視線を正面に戻すと、この静寂に馴染まない走る人影が目に入った。
杖を持ってランニングしている。
「こんな朝早くに珍しいな」
彼は止まると、額の汗を服の袖で拭いながら話してきた。
走ってきたのはトレーニング中の兄さまでした。
「お手紙を出さないといけないので」
「あぁ……もう月末だもんな」
「うん。じゃ、わたし行くから。特訓頑張ってねー!」
「おう」
再び兄さまは走り出す。
このまま外壁まで行って、外でも走るつもりなのだろう。
朝から精が出るね。
わたしも再度冒険者ギルドへ歩き出す。
15分後にギルドへ着いた。
ギルドへ入って受付に向かう。
受付の人も封筒を持ったわたしを見て察したのか、姿勢を正してこちらを見つめた。
「おはようございます。手紙のお届けですね?」
「はい。いつも通りお願いします」
「了解いたしました。料金は銀貨5枚です」
オルステッド様専用だからか、割高だ。
お金を渡して、毎月のお仕事は完了した。
特に依頼を受けるわけじゃないので、そそくさとギルドから立ち去る。
今日は兄さまと決めた休日だ。
特にやることは思い付かないな。
防寒具や食料、雑貨もあるし市場へ行く理由がない。
部屋に戻って人形作りでもしようか。
そう思いながら宿へ戻ってきたら、二階の窓からエリナリーゼが顔を出していた。
「あっ……んっやっ!トッ、あっ、マ…ァ、おかえり、なさい」
「え!……ぁ……た、だいま……」
見てはいけないものを見てしまった!
いや、なんで窓開けっぱなしなの!
走って宿に入り、自室に戻る。
この宿は防音がしっかりしているため、部屋に声は聞こえてこない。
ベッドに潜って体を丸める。
エリナリーゼ、そういう趣味あったんだ……
この調子じゃ、そろそろ兄さま食われちゃいそう。
いや、もう仕方ない……のか?
兄さまは我慢の限界だ。
それならいっそ、大人なエリナリーゼに託すというのも……
いやダメだ!
ちゃんとエリスさんと別れた直後の兄さまの意志を守らなきゃ!
兄さまだって、自制が出来ないから予めわたしに頼んでたんだし、そのわたしが折れちゃダメだろう。
しっかりしろわたし!
わたしは決意を取り戻し、兄さまのえっちを止めることを誓った。
その後、わたしは朝食を取って部屋に戻り、人形作りに勤しんだ。
完成した作品は~エリスさん威風堂々~だ。
両腕を組んだエリスさんが自信満々な表情で立っている。
ここ数ヶ月で五指に入る出来だった。
---
手紙を出して3日経った。
そろそろ返事が来てるかもしれない。
兄さまとエリナリーゼとやった討伐依頼の帰りに、ついでに聞いてみる。
そしたらオルステッド様から預かった手紙がちょうど来ていたらしい。
それを受け取って、晩御飯を3人で食べて、夜の町へ繰り出すエリナリーゼを見送って部屋に戻った。
椅子に座って手紙を開く。
『トマ・グレイラットへ
まず、お前達の家族が見つかったことを嬉しく思う。
そしてお前の要望を条件つきだが聞こう。
俺も丁度ベガリット大陸へ用がある。
5日後、この手紙の下部に書いてある場所へ来い。
そこの遺跡の中には魔方陣があり、それに乗るとベガリット大陸まで一瞬で転移する。
転移した場所を記した地図を遺跡に置いておく。
お前がこの手紙を読むのが遅れる事を考え、5日後から7日後までの間その遺跡を開けておくが、それ以降は隠す。
条件は遺跡にある魔道具をお前とルーデウス・グレイラットがつけておくことだ。
その魔道具はお前達の位置を俺に知らせる。
よって手紙を送る必要はない。
(追伸)
ルーデウス・グレイラットは家族愛の強い男だ。
お前が頼めば女に手は出さん。
オルステッド』
「……うそでしょ」
わたしに都合が良すぎる。
北方大地からベガリット大陸まで繋ぐ転移魔方陣なんて存在したんだ。
転移魔方陣は第二次人魔対戦以降、主要都市や要人の隠れ家への奇襲といった悪用されてからは禁術として扱われ、関連する資料は処分されている。
でもオルステッド様なら知っていてもおかしくないか……
「でもこれで、母さまに会いに行ける!」
しかし、まだやらなくちゃならないことはある。
オルステッド様が嫌いな兄さまの説得だ。
いや、わたしもあんまり好きじゃない、というか怖いけど、慣れてきた。
人間どんなことも慣れるもんだね。
とりあえず、ベガリット大陸の諸々を調べよう。
出てくる魔物とか、気候とか。
ざっくりとした知識はあるけれど、それじゃ冒険では命取りだ。
今日は早めに寝て、明日本を買いに行こう。
---
本屋でめっちゃ高いベガリット大陸について色々載ってある本を手に入れた。
そのせいでわたしの貯金はほぼ無くなってしまった。
赤竜を倒しといて本当によかった。
けれどその分、内容は実践的で細かい部分まで掲載されていた。
この知識を使って、1時間後の晩御飯の時に兄さまを説得するのだ。
わたしは気合いを入れて読み進めた。
一時間後、一階に降りて兄さまとエリナリーゼが座っている席へ近づく。
二人共、わたしが分厚い本と手紙を持っていることを不思議に思うような顔をしていた。
さぁ、ここからがわたしの全力のプレゼンだ。
ドカッとテーブルに本を置く。
「どうしたんだこの本。なになに…ベガリット大陸のススメ?」
「急がなくていいと言ったじゃありませんの。それにもうすぐ冬が来ますのよ。行くのは無茶ですわ」
エリナリーゼは長く生きてきた経験から正論をいい放つ。
今回説得しなくちゃいけないのは兄さまだけだ。
エリナリーゼが無理についてくる必要はないし、説得する必要もないが、わたし達に情報を届けてくれた人なので今後の行動を伝えておきたい。
「んん、えー率直に話すと、わたしは母さまへ会いにベガリット大陸へ行きたいです!そして冬が来るという問題を解決できます!」
二人は顔を見合わせて、眉を逆ハの字にした。
屁理屈や無茶を言うつもりだと思っているのだ。
「これを見てください。龍神オルステッド様の手紙です」
「……アイツの」
「龍神オルステッド!?」
兄さまは見せられた瞬間から手紙を読んで、目を見開いた。
エリナリーゼは驚いてそんな場合ではないようだ。
二人が読み終わるまで手紙を見せ続ける。
一通り読み終えたら、しまって話を再開する。
「書いてあることは口に出さないでね。でもこれで分かったでしょ。すぐにベガリット大陸に行けるって」
「書いてあることが本当ならいいが。信用できるのか?」
「わたくしもちょっと、信じられないですわね」
兄さまはオルステッド様への悪感情から、エリナリーゼは純粋にこの現実離れした内容から、転移魔方陣の事を信じられないらしい。
「本当だと思う。今まで送られた手紙では、それを使わないと到底移動出来ない距離の話が何度も書かれていたし」
「そうは言っても、適当書くことも出来るだろう?」
「わざわざ毎月嘘を書き続けないと思う。それにバレた時、わたしの信頼を損なう」
そうだ。
オルステッド様はわたしとの信頼をなんとか築き上げようと苦心している。
それなのに嘘を書く意味がない。
「そもそも、オルステッドと知り合いですの?」
「うん。まぁ話せば複雑だけど、条件を飲めば協力してくれるくらいの仲だよ」
エリナリーゼは口に手を当ててお上品に驚いた。
複雑というか、脅されてるんだけどね。
「いやでも……冬を越すまで待った方がいいだろ」
むぅ……正論だ。
不確定要素を極力排除しようとしている。
このまま理詰めで話されると、わたしが負けてしまう。
どうすればいい。
賢い兄さまを説得する方法……
無理!思い付かないよ!
黙るのが一番ダメだ。
でまかせでも話そう。
「えーと…これを使えば1年の旅が4ヶ月くらいになるかもしれないよ!危険だって少ない!」
「そもそもそれが危ないものかもしれないんだぞ」
「あぅ……」
それ無敵の言葉じゃん。
本当にどうすれば……
うつむき、悩むわたしの視界にオルステッド様の手紙が入った。
内容が思い出される。
兄さまは家族愛が強い、わたしが甘えれば大体ゴリ押し出来るって書いてあった。(うろ覚え)
……なんにも思い付かないし、実践してみる?
「兄さま行こうよぉー母さまに会おうよー」
椅子ごと兄さまの隣に移動し、腕を胸に抱き寄せて甘え声を出す。
いつもより高く、トロトロに蕩けた語尾だ。
もう使えそうな手段は全部使おう。
兄さまは身をよじってわたしから離れようとする。
「と、トマ!待て!」
「お願い!兄さま……にーさま!」
太ももで手を挟んで、胸を腕に押し付ける。
さらに肩にスリスリ頬擦りする。
兄さまの呼び方を昔のものに変えて、庇護欲をそそらせる!
「にーさま、おねがーい!ベガリットに行こ?」
「ぐぅ………エリナリーゼさん!トマをなんとかしてくれませんか!」
エリナリーゼはわたし達をニヤニヤ面白そうに笑っている。
兄さまの懇願を聞くつもりはないらしい。
彼女も兄さまの腕に絡み付いて胸を押し付けた。
「え、エリナリーゼさん!当たってます!」
「うふふ、当ててますわ」
「にーさま、おねがい」
わたしはさらに強く絡み付く。
「うぅ…エッエリナリーゼさんは行くつもりなんですか!?」
「…わたくしは、あなた達が行くのならついていきますわ」
「ん?エリナリーゼ来てくれるの?」
「当然ですわ。ゼニスだってわたくしの大切なお友達ですのよ」
バチコーンとウィンクを決めながらそう言ってくれた。
ミリスへの旅から母さまの情報、捜索まで手伝ってくれるなんて……エリナリーゼには頭が上がらない。
「……百歩譲ってそれでベガリット大陸に行くとして、俺達が捜索の拠点にする町…例えばラパンまで行けるのか?」
兄さまは赤くなった顔で、努めて冷静に話す。
それについては問題ないだろう。
魔術で飲み水は確保出来るし、改造魔物で足もある。
食料だってそれに乗せていけばいい。
道案内とかは雇おう。
兄さま闘神語話せるから交渉は任せたい。
「大丈夫、魔術師二人いるなら暑さだって平気だよ」
「魔物は魔大陸と同じくらいの強さだったよな。厄介なやつとかいないのか?」
「厄介なやつ?…………いたかな」
「ベガリット大陸といえば、サキュバスですわね」
いつの間にかエリナリーゼは離れていた。
椅子に座って、真剣な表情だ。
「臭いで男の理性を狂わせる魔物ですわ。わたくしがルーデウスの相手をするのが一番手っ取り早いのですけど……パウロの息子とはできませんの。
それと、ロキシーとの約束もありますから」
「それは問題ないよ」
サキュバスは簡単かつ単純な対策があるため、厄介な魔物と言われても出てこなかった。
「兄さまが女の子になればいいんだよ!」
わたしは掌を見せつけるようにヒラヒラと手を振った。
兄さまは顔を引きつらせて、縋るようにエリナリーゼをみたが、彼女はわたしの言葉に感心するばかりだった。
「じゃ、ご飯食べたらわたしの部屋に集合ね!」