ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
早速わたしと兄さまの共用資金でエリナリーゼと服を買ってきた。
わたしの所持金はベガリット大陸のススメでほぼ消えたのだ。
本当はわたしが赤竜や青竜を無為転変で改造して作った服をプレゼントしたかった。
けれど、それを作る時間は無いし、そもそも生物を服に変えたことがないので安定を取った。
部屋の扉をコンコンとノック……しようとすると、ドアノブが氷で包まれているのに気づいた。
火魔術で溶かしてから、兄さまに確認を取る。
「兄さまー起きてますかー」
「ああ、起きてるよ……」
ドアを開け部屋にはいると、甚平の様な服を着ている兄さまがベッドに腰かけていた。
ベッドシーツは綺麗に整えられている。
エリナリーゼはそれを横目に見ながら兄さまの隣へ座り、わたしに聞こえないくらいの声量で囁く。
(女の快楽はどうでしたの?)
(えっいや、なんのことだか……)
(隠す必要はありませんわ。見れば分かりますもの)
(……まぁその、良かったですよ)
何の話をしているかわからないが、わたしは袋から服を取り出す。
「兄さまに服を買ってきたよ。あと下着も」
「ありがとう。俺だと買いに行くのちょっと気まずかったんだ」
計三着買ってきたので一着渡して他は袋にしまう。
兄さまは渡された下着や服をしげしげと見た。
「ふむふむ…………実に機能的なパンツだ」
「兄さま服の着方わからないでしょ?わたし達が着せてあげるから……服、脱いで」
「えっ……いや、そうだな。頼む」
一瞬戸惑っていたが、下着を見直して着方がわからないことに気づいたのか、素直に了承してくれた。
わたしとエリナリーゼは下着や服の着方を説明しながら兄さまに着付けた。
と言っても、下着以外いつもの兄さまと格好は変わらない。
精々鼠色のローブが体格に合わせて若干小さいくらいだ。
若干で収まってるのは胸が大きいから。
あれは母さまくらいかな?
流石にギレーヌほど大きくない。
……わたしも、ちょっとだけ大きくしようかな。
着付けた後はご飯(わたしは二回目)を皆で食べてから、ギルドへ行って討伐依頼を受ける。
依頼達成を主目的にせず、運動したり魔術を使ったりする事で、兄さまを女の体に慣れさせることを目的にしよう。
掲示板で手頃な魔物の討伐依頼を探す。
んー……スノウバッファローはどうだろうか。
いや、ラスターグリズリーの方がいいかな。
「よぉ癒手。今日は泥沼いないのか」
後ろから誰かが声をかけてきた。
振り向くと、依頼の紙を持ったゾルダートだった。
「あー……そうですね。兄さまはいないですよ」
「そうか。誘おうと思っていたんだが……」
「依頼にですか?」
「いや、飲みにな。最近いい店を見つけてよ、値は張るが旨い酒と旨い飯が食える」
「む!店名教えて下さい!」
「そうだなー確か……」
この辺りの名店はあらかた行き尽くしたと思っていた。
是非とも知りたい。
「トマ、依頼は見つけたのか?」
わたしとゾルダートが話している間に兄さまがテクテクと近づいていた。
ゾルダートは兄さまを見るなりその巨乳に目線が奪われ、その後眉間を狭めた。
もしかして、バレかかってる?
S級冒険者の洞察力を舐めていた。
まずい!
「この方はその……えっと、あー………んー……」
身振り手振りで誤魔化しながら、必死に兄さまにアイコンタクトを取る。
「初めまして、ルー……ルディ子です」
「ゾルダート・ヘッケラーだ。あんた、泥沼の姉か妹か?いや妹は無いか……」
むっ!
わたしの胸を見て否定したな。
これでも徐々に大きくなってるんだからね。
それでも今の兄さまに比べたらペターンって感じだけど。
「遠い親戚みたいな者ですよ。グレイラットは傍系が多いですからね」
「なるほどな。それで似てるのか」
「よく言われます」
愛想笑いを維持しながら手練手管に自分の詳細を誤魔化してくれた。
ふーよかった。
…………落ち着いてる場合じゃない!
早くこの場を離れないと。
「兄さま!依頼見つけたから早く行こ!」
「は?兄さまって……泥沼じゃねぇんだろ」
「と、トマはおれ……いや、私の事よくルーデウスと間違えるんですよ!」
ダメだボロが出まくる。
ごめん兄さま。
さっさと依頼受けてギルドから離れよう。
「ね、姉さま!行きましょう!」
「わかっ…うわっ!?」
「うおお!?」
兄さまは足をもつれさせた。
やはり女の体にまだ慣れていないのだろう。
倒れ込む勢いのままゾルダートに抱きついちゃった。
むにゅん、と胸の形を変えながら、ゾルダートの胸に顔を埋める。
「お……ルディ子平気か?」
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」
ゾルダートが兄さまを支えて起こした。
さりげなく腰を支えて、胸に手が触れないように。
とても紳士的だ。
一昨日エリナリーゼさんの腰を掴んでえっちな微笑みを浮かべていた男とは思えない。
こういうところでモテるモテないが決まるのだろう。
「何してるんですの二人共。早く行きますわよ」
わたし達がゾルダートとわちゃわちゃしている間に、エリナリーゼが既に依頼を受けていたようだ。
ヒラヒラと依頼の紙を揺らしている。
「うん。じゃあ行こ姉さま」
「わかった。では失礼しますね」
「ああ……じゃあな」
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雪が木々を白く染める森の奥、暖かな日差しが差す誰にも見つからない場所でわたし達は兄さまの魔術を見ていた。
『
キュュュイイン!と空気を震わせ、赤熱し高速回転する拳大の岩の塊。
先端は鋭く尖り、貫通力を高め空気抵抗を減らす円錐形になっている。
エネルギーを溜め込めるだけ溜め込んだ後、放つ。
それは鋼鉄の如く頑強にし、何重にも作った岩壁を、およそ15枚ほど貫いた。
「改めて見ても凄まじい威力ですわね」
「やっぱりすごいなぁ」
「………………あれ?」
兄さまは傲慢なる水王竜を矯めつ眇めつ眺めていた。
なにか違和感があるのだろうか。
「体平気?なんか違和感あるの?」
「いや……むしろ調子がいいんだ」
不思議そうに手を握ったり開いたりしている。
ふむ?
無為転変を失敗した訳じゃなさそうかな。
『
兄さまが杖を天高く掲げる。
すると突風が私たちの髪を揺らし、雲一つない晴天に暗雲が立ち込める。
あれ。
これ雨降るやつじゃん。
「『
片手間で土のドームを作ってくれた。
いや技術が高すぎるでしょ。
聖級魔術を使いながら片手で上級魔術を使うって。
例えると、右手左手それぞれで二つのキャンパスに違う絵を描くに等しい離れ業。
わたしも背中に翼を生やして魔術を使うことはあるけれど、あれは使い慣れた魔術や中級の簡単なやつしか使ってない。
兄さまは頻繁に豪雷積層雲を使ってる訳でもないのに、これを成立させているのだ。
「……広範囲にすると危ないので、縮めてみます」
雨に打たれる兄さまはそう言うと、魔力が暴れ狂う黒色の雷雲を強引に圧縮し始めた。
魔力を体に流すことが苦手な兄さまは、その弱い体に相当の負荷がかかっている筈なんだけど……うん、ギリギリ大丈夫そうだ。
危なそうだったら回復してあげよう。
雷雲はバリバリとゴウゴウと、その嘶きを増していき、地に降る雨はさらに勢いをつけていく。
次第に雷雲は渦を巻き、球体に見えなくもないかな?くらいになって、その巨大な身体から紫電を放出し始めている。
ここからどうするんだろう。
そう思って兄さまの様子を見たら、杖を持つ手がブルブル震えていた。
「兄さま!?」
わたしは土のドームから飛び出して、兄さまに治癒魔術をかけた。
無為転変だと肉体が不自然に変わるから、魔術の制御に支障が出るかもしれないと思ったからだ。
兄さまは歯を食い縛って、杖を持つ右手を左手で押さえている。
「トマ……これ、どう、する?」
「どうするって……放出するしかないと思う」
「これをっ、地面にっ、落としたらっ……俺たち、感電して、死ぬんじゃないか」
「え、あ……」
ふと地面を見ると、雨水でビッチャビチャだった。
それどころかわたしと兄さまは身体まで濡れている。
わたしはともかく、これじゃ兄さまが死ぬかもしれない。
どうすればいい。
まずやらなくちゃならないことは雷を落として魔術を終わらせること。
それも安全に落とさなくちゃいけない。
確か雷って高いところに落ちるんだっけ。
なら、わたしが遠くに塔を作って、そこを壁で囲めばいいか。
よし。
「兄さま、北の方に土の塔を作るから、そこに放出して。」
「わ、かったっ!」
兄さまから手を離した瞬間、無為転変で翼を作り一気に飛ぶ。
背中に複数の腕を生やし体と顔を隠す。
そして離れたところで
それを岩壁で囲み、周囲を火魔術で乾燥させた。
できたらすぐに兄さまの所まで戻って、治癒魔術をかける。
3分くらいいなくなっただけなのに、兄さまの体がギシギシ軋むような音が聞こえた気がした。
それくらい、負担がかかっているのだ。
「建てたよ!見える!?あそこに落として!」
「うおおおおおおぉぉ!!」
紫電を纏う雷雲は最期、さらに小さく圧縮され、轟音と共に解き放たれた。
バッガアアアァァァァン!!!
目を焼くような稲光が閃き、岩柱を飲み込むように落ちた。
目を治し、再び落ちた場所を見ると、そこにはなにも無かった。
空も元の晴天に戻っている。
兄さまの方を向くと、息を切らしながら杖の先、魔石を凝視していた。
「ヒビ入ってる……」
エリスさんに貰った杖を、壊しかけてしまっていた。
「……それ、直りそう?」
「わからない。マジか……」
やっちまった……そうぼやいている。
恐らく魔力を注ぎ込みすぎたのだろう。
兄さまの魔力量に耐えられるほど、その魔石は強くない。
落ち込む兄さまをわたしとエリナリーゼで慰めた。
そして兄さまと相談して、今日はこれ以上の魔術実験はナシということになった。
その出来事がショック過ぎたのか、兄さまは杖で魔術を使わず、剣で依頼の魔物と戦っていた。
一つ一つの動作が今までの兄さまと段違いで、踏み込みも薙ぎ払いも、ジャンプもステップも素早かった。
落ち込んでいても相変わらず、体の調子は良さそうだった。
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報酬を受け取り晩御飯を食べ諸々が終わった。エリナリーゼはどっかに行ってしまったが、部屋で作戦会議をすることになった。
今回は兄さまの部屋で行う。
議題はあと2日間どう過ごすかだ。
「わたしは森で魔獣のストックを貯めとくね。あとは……杖を作って資金源にしようと思う」
「俺はこの体を慣らしておこうと思う。男の時より身体能力が高いんだよな」
「それなんでだろうね」
筋肉量は増やしてないと思うんだけど。
他に体が強くなる要因あったかな。
わたしが悩んでいると、ちょいちょいと肩をつつかれた。
「もしかしてお前、俺の体を魔力が流しやすい体質に変えたんじゃないのか?」
うん?
そんな事意識してなかったんだけど……
でも一つの可能性としてあるかもしれない。
そもそもわたしは体に魔力を流せないという感覚がわからない。
無為転変で体に刻まれた術式に魔力を注いでいたし、身体強化の時も体の隅々まで魔力を流していた。
だから無意識にそれが出来る体にしてしまったのかもしれない。
悪影響とかない……はずだよね。
「……そうかも」
「やっぱりか。魔術使っているときなんか体の調子が良かったのはそのお陰だったんだな」
「直した方がいい?」
「いや?そんな必要ないだろ」
いやでも、ちょっと心配だな。
わたしは兄さまに体の不調があったら直ぐに言ってほしいと伝え、兄さまは了承した。
ずっと自分の苦手だった魔力の身体強化を克服して嬉しそうだった。
それで作戦会議は終わった。
それからの2日間、作戦会議通りわたしはストックを貯め続け、魔物で杖を作り、お金を稼いでいった。
あとついでの事の様になってしまうが、エリナリーゼから呪いの事を聞いた。
しかし、今のわたしの無為転変では、それを消し去ることはできないと思う。
純粋に魔力が異常である神子や呪子を弄った経験が乏しいからだ。
加えて、呪いについても詳しくない。
ラノア魔法大学から推薦状が届いていたので、母さまを見つけた後そこに入ってもいいかもしれない。
呪い含め様々なことを研究できそうだ。
それでもなんとかしようと思い、 男に変えようかと伝えたが、そっちの方がマズいことになるとエリナリーゼに言われた。
うん……そうだね。
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出発の日、あいさつ回りの為に3人でギルドに来ていた。
よく臨時でパーティーを組んでいた人達に一言ずつ別れの言葉を伝える。
一通り親しかった人と話し終えたあと、ゾルダートがわたしに声をかけてきた。
「行っちまうのか癒手……」
「はい。家族の情報が手に入ったんです」
「おお、そりゃよかったなぁ。……泥沼は?」
「えっと、兄さまは一足先に行った……らしいです」
ゾルダートの後ろに立つ兄さまのボディランゲージを観察しながら言葉を紡ぐ。
「なんだもう行っちまったのかよ」
両手を組んで不機嫌そうにしかめっ面をしているが、なんだか寂しそうだ。
わたしは事前に伝えられていた事を言う。
「あと兄さまからの伝言があって、
『ゾル、今までお世話になりました。この数年いつも助けられてばかりで、何も返せなかったんですけどね。また会ったら飲みにでも行きましょう』
……らしいです」
「ハッ!むしろ利用して稼がせて貰ったんだ。ありがとよ……これ伝えといてくれるか?」
「もちろんです!」
目の前に兄さまがいたら見せないであろうツン弱めのデレの顔をしている。
兄さまも嬉しそうだ。
男同士の友情ってやつだね。
今は男女だけど。
そうして、わたし達は遺跡へと向かう。
その直前、わたしは兄さまにある事を聞かれ、それにOKを出した。
兄さまはギルドに戻って、ゾルダートにコショコショ耳打ちする。
あんぐりとした表情で口を開け兄さまを見つめるゾルダートと対称的に、兄さまは満足そうな笑顔をしていた。