ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
馬に見せかけた改造魔物で移動し早1日。
手紙に記された遺跡についた。
石レンガ造りの一階建て、至るところが欠けたり風化したりしてボロボロだ
付近にはオルステッド様のマークが彫られた石碑があったし、ここで間違いない。
「じゃあ、わたしが先行するから。後についてきてね」
身体強化+術式に魔力を流しておく。
改造魔物に先導させ、その後をわたしが、さらに後を兄さまとエリナリーゼがついていく。
「魔物の気配はありませんわね。それに壁に貼られたこの紙は……」
「……矢印が書いてありますね。オルステッドが書いたんでしょうか」
あの人が一つ一つ紙に矢印書いて案内作ってるの想像すると、ちょっと面白い。
手紙もそうだけど、こういう人間くさい所を見せられるとどうも、あの人も感情があるんだなって感じる。
感じるだけだよ、絆されてる訳じゃないよ。
実際会うと恐怖感でそんな考え塵のように吹き飛ぶ。
けどまぁ、なんだかんだ2年間の付き合いだ。
オルステッド様の性格も段々わかってきた。
そんなこと考えてる間に、矢印で示された部屋についた。
中には地下へ続く階段があり、入り口側左隅には丈夫そうな紙と、2つの指輪が机の上に置いてある。
「むむ、転移した所の地図と例の条件のやつかな」
机に地図を広げると二人とも覗き込んできた。
「この地図が合ってるとすると……ラパンまで2ヶ月程度で着きそうだな」
「実際はもっと早いと思うよ。改造魔物を使い捨てるし」
「途中何度かバザールに寄ってもよくて?」
「もちろんです。でも最寄りのバザールまで一週間はかかりそうですが、エリナリーゼさんは大丈夫なんですか?」
「一週間なら平気ですわ」
指輪を右手の人差し指につけながら考える。
本当に平気なのだろうか。
ストックを使い切る勢いで進んだほうがいい気がする。
魔物を馬車みたいにするとして……いや、分けて乗った方がいいのか?
工夫しないと車輪が砂で空回りしそうだ。
考えておこう。
「その指輪って、手紙に書いてあったやつか?」
兄さまは訝しげな眼差しで指輪を見ている。
嫌いな相手に場所を知られる指輪なんてつけたくないよね。
でも今回は耐えてほしい。
「うん。これが今回の条件にあったわたしと兄さまがつける指輪だと思う」
「……どうしてもつけなきゃダメか?」
「ダメだよ」
兄さまは渋々指輪を手に取り、わたしと同じ右手の人差し指に指輪をつけた。
白銀の龍の意匠が凝らされた指輪はオルステッド様が監視している事実を強く知らしめる。
これで条件は満たした。
転移魔方陣は階段の先にあるのかな。
念のため魔物を先導させよう。
「行け。下の部屋まで着いたら戻ってこい」
階段の奥、暗闇の中へ改造魔物が飲まれていく。
そしてほんの数秒後、無事に五体満足で戻ってきた。
「大丈夫そうですわね」
「降りよっか」
一列になって階段を降りる。
降りていくにつれ、不思議と周りが明るくなってきた。
そういう魔道具だろうか。
またオルステッド様が用意してくれたのかな。
そう思っていたが、地下の部屋に入るとその理由が分かった。
転移魔方陣が青白く光っているのだ。
「よし、行ってこい!」
またまた改造魔物で安全を確かめる。
魔物が転移魔方陣に乗ると地面に吸い込まれるように姿が消えた。
そして魔獣は星になって消えた……
訳ではないが、全然戻ってこないんだけど。
これ本当に大丈夫?
「戻ってこないな。トマ、これ本当に安全なのか?」
「安全だと思ってたんだけど……オルステッド様くらいになると安全だよって事なのかもしれない」
「それなら俺達全員死ぬんじゃないか?」
「うん。死ぬね」
「わたくしこれで死にたくありませんわね」
危ないものかもしれないので全員魔方陣から離れて観察している。
手紙に転移魔方陣の事もっと詳しく書いてほしかったな。
諦めムードが漂ってきた。
しかし突然、改造魔物が地面から吸いだされる様にして出てきた。
「あら?出てきましたわね」
全身を確認してみても怪我はなさそうだ。
「これなら行けそうだね」
転移魔方陣の前に立つ。
けれど二人は元の位置から動いていない。
どうしたんだろう。
「どうしたの二人共?」
「わたくし転移には少々嫌な思い出がありまして…………いえ、もう行きますわ。ゼニスを探す為ですもの」
エリナリーゼは歩いてわたしの左隣に立った。
兄さまは動かない。
転移魔方陣をキッと睨み付けて佇んでいる。
「大丈夫だって。何かあってもわたしが治すから」
その言葉を聞いて兄さまは溜め息をついてからゆっくりと歩き、わたしのの右隣にきた。
「手紙によると、転移は体の一部が触れ合ってないと一緒に飛べないらしいから、手を繋ご。それなら直ぐに回復もできるし」
「わかりましたわ」
「わかった」
兄さまは普通に握って、エリナリーゼはわたしの手ををお腹にムギュっと押し付けた。
滑らかな肌と柔らかさの奥に引き締まった筋肉がある。
「わっ!どうしたのエリナリーゼ」
「思ってたのですけれど……貴女、女も行ける口ですわね」
「ん?んーそうかな…そうかも…性別はあんまり気にしてないね」
男の体も女の体もどっちも魅力的に見える。
でも一番惹かれるのは魂かな。
好きになった人の魂の揺らぎを見るのがなんか……好きだ。
その人の感情が分かったりするから。
「ならわたくしもイケるんですの?」
「うーん……まだエリナリーゼの事あんまり知らないからなー。一緒に過ごしたのって船旅から合わせて2ヶ月くらい?」
「ちょっとトマに何話してるんですか」
「トマはもう立派なレディですわよ。むしろそういったことをちゃんと教えてあげないといけませんわ」
わたしは現在13歳。
15歳で成人だから、後2年もしないうちに大人の仲間入りだ。
大人になったからといって、何かが変わる訳じゃないけど。
「ほら、行くぞ」
兄さまに手を引かれ魔方陣に足を踏み入れる。
……好きな人かぁ。
魅力的に写る人と好きな人は違うよね。
例えば、母さま父さまに、リーリャアイシャノルン、エリスさんやシル姉、メグにハナ、ルイジェルドさんが好きだ。
ロキシー先生やエリナリーゼ、タルハンドにゾルダート、そして兄さまも好きだ。
エリナリーゼが言ってたイケる口っていうのは、えっちな事だろうか。
誰かとそういう事をしたいと思った事はないけれど、そう迫られたら、どうだろうか。
例えば─────
淡い青の光が輝きを増し、意識が途切れた。
---
意識が飛んだのは一瞬、直ちに我を取り戻し、周囲を確認した。
石造りの部屋に大した変わりはない。
ただ隅に砂が積もっていたり、石が茶色味かかっていたりと細かな違いがある。
わたし達が魔方陣から出ると、再び青白く光出した。
便利すぎる。
これは悪用もされるな。
転移魔方陣は時間のラグがあるようだ。
念のため改造魔物を再び魔方陣に乗せたが、15分位したら戻ってきた。
「うん。帰りも使えそうだ」
「わたしはのんびり旅して帰ってもいいけど?」
「お金が足りなくなりますわよ」
確かに。
ここって竜いるっけ?
有名なのは……竜じゃないけどベヒーモスかな。
お金少なくなったら仕留めよう。
「では行きましょうか」
帰りの魔方陣を確かめたわたし達は階段を上がった。
一階は地下と比べ物にならないくらい暑かった。
けれどこれくらいじゃ死なない。
相変わらず壁に貼ってある矢印にしたがって遺跡の外へ出る。
そこには一面乾いた砂や岩が続く砂漠が広がっていた。
真上の太陽に照らされて白く眩しく光っている。
光の反射だ。
眩し。
「暑……熱い。熱風が顔に当たるぜ」
「丁度昼間ですわね。トマ、馬を出してくださる?」
バッグを漁る。
手持ちのストックは50個。(絶滅させる勢いで狩り尽くしたのだ)
それをチマチマ使って町に着く頃に大量に残っていても意味がない。
それなら沢山使って涼しい自動移動式の馬車を作り早く町へ着こう。
エリナリーゼが手遅れになるのは絶対に避けたい。
涼しい風を出すのは兄さま任せだ。
「無為転変」
6個の改造魔物を馬車に、4個の改造魔物を馬役に。
それぞれ一つに纏めると反発するので、手を繋ぐみたいに、あるいは木組みの様に接続させる。
ぐにゃぐにゃ魔物が変形して、外観は立派な灰色の馬車になる。
車輪は砂漠用に太くて大きく柔らかくした。
数も4つではなく増やして、砂に沈みにくく。
前方に取り付けたフックに改造魔物を紐で括り、馬車の中に布を敷けば完成。
中々いい出来じゃなかろうか。
「中に入ってさっさと移動しちゃおう!」
エリナリーゼは中に入って荷物を置いた。
兄さまは外でなんともいえない表情をして馬車を眺めている。
「兄さま?」
「改めて変形する姿を見るとな……その、なんだ………なんでもない」
遅れて、兄さまが馬車に入った。
兄さまは優しいから、こうやって生き物を弄って生きたまま馬車したりするのが嫌い……というより苦手だ。
でも苦手だからといって、わたしに力を使うなとは言ってこないし、わたしを嫌悪することもない。
この2年でわかった。
兄さまがわたしを嫌いになるなんてあり得ないのだ。
わたしも馬車に乗り込んで、改造魔物に指示をする。
すると魔物は嘶いて走りだし、馬車も砂で空転することなく進み始めた。
---
出発して数時間経った。
鉄格子みたいな窓から流れる砂景色を眺める。
馬車の中は常に兄さまの火魔術『バーニングプレイス』の応用で、砂漠の熱気を忘れさせる快適な温度に保たれている。
周囲の魔物は改造魔物によって偵察され、馬車が奇襲を受けることはない。
それでも、いつ戦闘が起きても対応出来るように魔力は節約しなければならない。
土魔術で人形を作り、暇を潰す事が出来ない。
ただひたすら、ベガリット大陸の事が載ってある本を読み続けている。
兄さまにもたれ掛かりながら。
「なんか、思っていたより楽ですね」
「ここまで快適な旅は初めてですわね。トマの力もそうですけれど、あなたの魔力量と無詠唱魔術が便利過ぎますわ」
「ええ、僕魔力量ラプラス並にあるらしいですよ」
兄さまが魔力切れになった姿は一度も見たことがない。
もはや底がないのではないか、と思うくらいだ。
わたしは上級魔術百発くらい撃ったら尽きるんじゃないかな。
無為転変は魔力効率がいいから何回でも使える。
あ、多重魂と撥体は別だよ。
「……っ………ちょっと止めてくれ」
「ん?いいよ」
兄さまの大きい胸と腕の輪っかの間から抜け出して、改造魔物に命令を下す。
徐々に進む速度が小さくなって、最後にグラっと揺れて止まった。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
そう言って、兄さまは急いで馬車から出ていった。
一人で。
男と女の体の違いか。
まだ細かい所は慣れていないのだろう。
………………あれ?一人で?
いや、改造魔物がいるから奇襲は受けないと思うけど……
まぁ問題無いだろう。
わたしの思った通り、兄さまはすぐに戻ってきた。
兄さまに何かあったらここらの魔物を絶滅させていたかもしれない。
「お待たせしました」
行きより爽やかな顔で元の位置に座り、両手で杖を掴んだ。
その間に入り込み、また命令を下して出発しようと
「グぎゃうあ!」
偵察用の改造魔物が叫ぶ。
「敵が来た!」
即座に馬車から飛び出して、その上に飛び乗る。
前方にでっかい尻尾が二本ある蠍がいた。
本によるとあれは、
尻尾の毒は中級の解毒魔術がなければ治癒できないらしい。
「
「魔物は節約するべきですわ!」
改造魔物はナシと。
蠍はこの瞬間にも砂煙を上げながら近付いてくる。
速さは無い。
「打ち合わせ通り、わたくしが引き付けてトマかルーデウスが攻撃しますわよ!」
「了解!」
「うん!」
エリナリーゼが蠍向かって走り出す。
地面はさらさらの踏み締めにくい砂であるのに、それを感じさせないくらいしっかりとした足取りだ。
蠍の尻尾の一つが、エリナリーゼに躍りかかる。
エリナリーゼは接近を止めバックステップ、攻撃の当たらない絶妙な位置で注意を引く。
わたしは背中に翼を生やし、飛んだ。
「『
ひゅん!と飛来する岩砲弾が蠍の外皮を貫いた。
蠍は体液を撒き散らしながら動きを止める。
蠍の意識が極限まで前方のエリナリーゼと兄さまに向けられた時、わたしは空から急降下して大剣を振り下ろした。
「やぁ!」
重力と翼の加速、そして大剣の重さによって蠍の8つの目を容易く切断。
……したけど、もしかして岩砲弾の時点で蠍死んでた?
「……まぁいいや」
汗を拭い馬車の中に戻る。
二人とも怪我はないようだが、暑そうだ。
「あぁー生き返るー」
兄さまは涼しい馬車の中で鼠色のローブを脱ぎ、冷水を飲んでいる。
兄さまの汗が染み込んだローブか………………
エリナリーゼは兄さまより暑さに耐性があるのか、水を飲むだけで服は脱いでいない。
わたしもそうだ。
前衛で戦う人は肉体が強いのだろう。
安全を確認したら再び魔物を走らせる。
このペースならすぐにバザールへ着きそうだ。
鼠色のローブを抱き締めながら、そう思った。