ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第41話 迷宮都市ラパン

トマ視点

 

 

 

 1ヶ月後、わたし達は迷宮都市ラパンに着いた。

 土色の町並みを見回しながら大通りを歩いている。

 道中で特に危険な事は起きなかった。

 理由は単純兄さまとストックのおかげだ。

 

 改造魔物に偵察させ、魔物がいたら迂回した。

 絶壁や崖に最短経路を阻まれたら兄さまが魔術でどうにかした。

 たまーに魔物が襲いかかってきてもわたし達が怪我をすることはなかった。

 だから暇で暇で……ベガリット大陸のススメを読み尽くしてしまった。

 

 迷宮都市ラパンは巨大なベヒーモスの骨に覆われた町だ。

 そもそもここは小さなオアシスでしかなかったが、ベヒーモスの死骸のせいで多くの迷宮が出現したらしい。

 迷宮が出来ればそれを攻略せんと集まる冒険者がわらわら出てくる訳で、人が集まっているならそこに物資の需要が生まれ商人も集まる。

 そうして小さなオアシスは大きな町となり、ここは一攫千金を狙う世界中の冒険者が集まる、迷宮都市になったのだ。

 

 さて、ラパンに着いたので目的の母さまを探さないといけない。

 でもただ闇雲に聞いて回るだけじゃ効率が悪いだろう。

 よって

 

「冒険者ギルドに人探しの依頼を頼もうよ!」

 

 兄さまはその手があったか、という風に眉を上げ頷いていたが、エリナリーゼは微妙な顔をしていた。

 

「ゼニスは迷宮に潜っているようですし、普通にギルドでゼニスの事を聞けばいいじゃありませんの」

「……確かに。迷宮に潜ってるならギルド使ってるのが普通だよね」

 

 わたしは難しく考えすぎたようだ。

 

「先に宿を取って荷物を置きませんか?」

「宿なら父さまと同じ所がいいんだけど……まだ来てないのかな?」

「そうですわね……多めに見積もって、パウロ達が到着するのは後2ヶ月程度かかると思いますわ」

 

 2ヶ月か。

 それなら先に母さまを見つけてここで待ってよう。

 久々に家族が全員揃うのだ。

 美味しい肉や魚を買って、盛大にお祝いしたい。

 

 

 

 兄さまの提案通り宿を取って荷物を置いた。

 懐に余裕があるのでBランク冒険者向けの高級な宿だ。

 まぁわたし達A級冒険者なんだけどね。

 エリナリーゼに至ってはS級だ。

 ちなみに噂ではSS級なる冒険者もいるらしい。

 どうやったらなれるのだろうか。

 

「では、作戦会議を始めます」

「おー!」

 

 三人部屋の兄さまのベッドに集まり、恒例の会議を行う。

 兄さまはベッドに腰掛け、エリナリーゼは隣のベッドへ上品に座る。

 わたしは兄さまの後ろから抱きついて、肩に顎を乗せながら参加する。

 

「えー僕達はこれからギルドに向かい、母様の捜索を行います」

「見つかった後はどうするの?」

「再会を祝し、肉と酒を大量に買って酒池肉林のパーティーをやる」

「あら、男が足りませんわよ?」

「男は要りません」

 

 ピシャリと兄さまがエリナリーゼの戯れを断る。

 男禁制の女子会だ。

 ワクワクするね。

 

「それで、母様が見つかっても父様が来るまでラパンに待機する訳なんですが、資金稼ぎに迷宮に潜ろうと思います」

 

 なるほど迷宮でお金を稼ぐのか。

 わたし達ならほとんどの迷宮で命の危機にならないだろうし、いい案だ。

 

「どこの迷宮に潜るつもりなんですの?」

「とりあえず、C級程度から」

「最初からA級の所に入ってもいいと思うよ?」

 

 兄さまは振り返って、わたしと目を合わせた。

 

「いいかトマ、こういう言葉がある。初心忘れるべからず。エリナリーゼさんはともかく俺達は初めて迷宮に潜るんだぞ。確実に生き残れる迷宮に入るべきだろう」

 

 心配しすぎだとも思ったが、言ってる事は理にかなっている。

 外と迷宮では求められるスキルが違うかもしれない。

 松明を持ちながら戦う技術や暗がりで自分の位置を把握する方法等が必要そうだ。

 

「ん…わかった」

 

 わたしが頷いた後、兄さまはエリナリーゼの方を向いた。

 

「早速ギルドに行きましょう」

「あ、ちょっと待ってくださいまし」

 

 エリナリーゼがベッドから降りるわたし達を呼び止めた。

 何か他に話し合う議題はあっただろうか。

 

「今日の所はわたくし、捜索を手伝えませんわ。ごめんなさい」

「どうし………………うん、わかった」

「わかりました。夕食は一緒に食べますか?」

「ええ、日が沈むまでにこの宿へ戻ってきますわ」

 

 呪いが体を蝕んでいるのだろう。

 最後のバザールは5日前、そこから解消出来ていないのなら相当しんどいはずだ。

 無理に付き合わせるのは絶対に良くない。

 

「じゃあ行ってくるね。いい人見つけてね」

 

 部屋を出ていく直前、エリナリーゼを気にした。

 エリナリーゼはウィンクをしながら艶然と笑う。

 

「もちろんですわ!今日は多人数でしたい気分ですの!帰ったらまた話をしてあげますわね」

「やったー!」

「ちょ、深い所は話しちゃダメですからね!」

 

 む、兄さまフィルターがかかってしまった。

 まだわたしの事ピュアで純粋無垢な女の子だと思ってるの?

 あんなことこんなこと色々知ってるのに。

 実戦経験はゼロだけど……

 

「では、行ってきます」

「行ってきまーす」

「いってらっしゃい」

 

 

---

 

 

 宿を出て冒険者ギルドに向かう。

 ここのギルドは巨大な岩をくり抜いて造ったような見た目をしている。

 ふむ、デザインは中々よいではないか。

 特に入り口のリリーフは素晴らしい。

 

 中に入るとざわざわと人の喧騒が聞こえてきた。

 冒険者はどこも気が強いのだ。

 

「受付に聞いてみよっか」

「ああ、えー受付わっと…………あれ?」

 

 受付を探す兄さまの目が猿顔の男で止まった。

 男はテーブルに肘をつき、難しい顔で手帳を眺めている。

 

「知り合い?」

「そうだ。ここで会えると思ってなかった」

 

 わたしが知らないのなら、家庭教師時代か魔大陸時代に知り合った人だろう。

 礼儀正しくしなきゃ。

 カチューシャを取って髪を整えて、また着けた。

 

「ギースさん。お久しぶりです」

 

 男の机まで歩き、声をかけた。

 

「お?…………あーすまねぇ。どっかで会ったか?」

「ええ、会いましたよ。二人きりで裸の夜を過ごしたじゃありませんか」

 

 その捻りだけで無音の太刀の速度を超えそうな勢いで頭を兄さまに向けた。

 あぅえ!?

 嘘でしょそういう仲だったの!?

 いやそれはないか。

 

「へ?……いやいや、嬢ちゃんみたいな美人と夜を過ごしたら忘れねぇよ」

「そうですか?僕の顔をよく見てくださいよ」

 

 男は半笑いで兄さまを見つめた。

 知らない女が揶揄ってきたと思っているのだろう。

 しかし、男はだんだん口角が下がっていき、眉間を狭めて顎に手を当てた。

 

「わかりました?」

「いや…………」

「仕方ありませんね。ヒントを出してあげましょう」

 

 兄さまは指をピンと立てた。

 

「ドルディア、冤罪、牢屋」

 

 男はガタッと音を出して椅子を転がした。

 いきなり立ち上がったのだ。

 

「ハッ!……あんたまさか、先輩か!?」

「そう呼ばれてましたね」

「いや先輩は男だろ!?男のはずだ!確かにアレがあったんだ俺は見たぜ!」

「事情があるんですよ」

 

 男は絶句し押し黙る。

 対照的に兄さまはドッキリが成功して満足そうだ。

 ……そろそろご挨拶してもいいかな。

 

「初めましてギースさん」

「お、おお?その顔は……」

「トマ・グレイラットと申します。以後お見知りおきを」

 

 スカートを摘み持ち上げる。

 ふふ、決まった。完璧な挨拶だ。

 そう、完璧なハズ……なのに、ギースさんは黙りっぱなしだ。

 

「そうか……ゼニスと似てるな」

「む!?母さまを知ってるの!」

「待て待て、俺の自己紹介がまだだろ?」

「ん、そうでした」

「へへ、俺はギース。そこの何故か女になってる先輩の舎弟だ。よろしくな」

「よろしくお願いします!」

 

 ギースさんと握手を交わし、さっそく母さまの事を聞く。

 

「それで、ギースさんは母さまの事を知ってるんですか」

「まぁな……今すぐに話してぇ所なんだが……」

 

 ギースさんの目線を追う。

 そこには4人パーティーの冒険者がいた。

 剣士二人に魔術師二人のバランスのいいチームだ。

  

「おいギース!もう時間や早く来い!」

「遅れるやろ!」

「早よ来んか!」

「待ってんねんぞこっちは!」

「こういう訳でよ。今日は勘弁してくれ」

 

 なるほど、パーティーを組んで迷宮に潜る直前だったのか。

 それなら仕方ない。

 しかし次に会う時と場所だけでも決めておかなくては。

 と思っている時には兄さまがメモを渡していた。

 わたし達が泊まっている宿が書かれてある。

 

「ここに僕達がいるので仕事が終わったら来てくれませんか?」

「もちろんだ。そんときゃ俺の知ってる情報全部話すぜ」

「ありがとうございます」

 

 わたし達は4人パーティーに連れ去られるギースさんを見送った。

 さようならまた会う日まで。

 

「ギースさんが色々知ってるみたいだけど、これからどうする?」

「一応受付にも話を聞いてみよう」

「わかった」

 

 できるだけ暇そうにしてる人を選び話しかけた。

 茶髪の眼鏡をかけたお姉さんだ。

 

「すいません。ここにゼニス・グレイラットという冒険者の活動記録ってありませんか?」

「ゼニス・グレイラット様ですか……?」

 

 受付は奥の部屋に入った。

 数十分後、受付は何も持たず帰ってきた。

 

「ゼニス・グレイラット様のここでの活動記録はございません」

 

 え?いやいや、そんなわけがない。

 エリナリーゼは母さまが迷宮探索していると言っていた。

 冒険者が迷宮探索をしているのならば必ず冒険者ギルドを活用してお金を得ているはずなのだ。

 そうするのが一番正当で安全な稼ぎ方だから。

 それなのにない。

 なぜだ。

 

「本当にないのですか?」

「はい。最後の活動は15年程前になります」

 

 15年前と言えば、兄さまが生まれた年だ。

 その頃には冒険者をやっていなかったから、その記録は正しい。

 しかし、なんで活動記録がないの?

 

「そう……ですか。ありがとうございました」

 

 兄さまも怪訝な表情をしている。

 わたしも顔をしかめている。

 これでギルドに用は無くなった。

 とりあえず出よう。

 

 わたし達はギルドから出て、宿に戻った。

 そしてなぜ母さまの活動記録が無いか話し合うことにした。

 互いにベッドに座って、メモを取りながら。

 

「偽名で新しい冒険者カードを作ったんじゃないの?」

「あり得るな……しかし偽名を使う必要はないだろ」

「必要があったとしたら?例えば、母さまの身を狙う不届き者がいるとか」

「どうだろうな。でも父様の活動を良く思わない連中がいて、母様を狙った可能性はありそうだ」

 

 あの父さまの難民救助が気に入らない貴族連中かな。

 

「よし、全員殺そう」

「待てって!まだ仮定の話だぞ」

「今の話を聞いてそんな奴らは先んじて殺しておいた方がいいと思った」

「……そんな簡単に人を殺すのは……その、あんまり良くないだろ…………」

 

 兄さまに嫌われたくないから人を殺してこなかったけれど、家族に危害を加えるのなら躊躇はしない。

 もっとも、今では人を殺しても兄さまはわたしを嫌いにならないと確信している。

 でも貴族を殺したらわたしだけじゃなく皆も狙われる可能性があるよね。

 それはダメだ。

 

「わかった殺さない」

「自分の身が危ない時には全然手加減しなくていいからな。ちゃんと身を守れよ」

「改造人間にするね」

「……………………」

 

 脳を上手いこと弄れば記憶を消せそうだ。

 失敗したら廃人になっちゃうけど、それなら殺す事はない。

 上手いこと弄れる様になるまでの犠牲は知らない。

 

「…話を戻そう。他の可能性を考えてみたんだが、母様が記憶喪失って線はないか?」

「記憶喪失?」

「そうだ。それなら違う名前で冒険者カードを作ってもおかしくない」

 

 転移の影響で記憶喪失になったというのは考えづらいが、否定はできない。

 しかしそれじゃ、わたし達を忘れてるって事になってしまう。

 無為転変でどうにかなるかな。

 脳を繊細に弄るのはあんまりやってこなかったから心配だ。

 迷宮の魔物で練習するか。

 できれば人の形の魔物がいい。

 

 わたし達の話し合いは夕方まで続いたが、有力な説はあまり出てこなかった。

 

 

---

 

 

「ただいまですわ」

「おかえりなさーい」

「おかえりなさい」

 

 エリナリーゼが帰ってきた。

 肌は艶々気分は爽快、最高に調子が良さそうだ。

 

「冒険者ギルドでギースさんに会いましたよ」

「あら、それは助かりましたわ。ギースなら人を探すのなんて一瞬でやってくれますもの」

 

 エリナリーゼがここまで言うなんて、ギースさんって実は凄い人なのだろうか。

 強そうには見えなかったが、わたしの観察眼が未熟なだけか。

 

「じゃあご飯食べに行こっか」

「ええ」

 

 何を食べようか、どこで食べようかと和気あいあいと言葉を交わし、軽装で宿を出ようとした。

 その時だった。

 

「おーい先輩、トマー!ん?お、エリナリーゼもいるじゃねぇか!」

 

 ギースが手を振りながら走ってきた。

 

「久しぶりですわね」

「ああ、おめぇも元気そうだな」

「ええ、さっきまで4人とシてましたのよ。最高に気持ち良かったですわ」

 

 4人!?

 すご……でもそれどうやってするんだろう。

 男の方絶対に人余るでしょ。

 エリナリーゼの周りで素っ裸のまま待機してるのかな。

 なんか滑稽な絵面になりそうだ。

 

「これから飯か?」

「はい。ギースさんもどうですか?奢りますよ」

「そりゃありがてぇ」

 

 ギースさんは母さまの情報を聞かせてくれる人だ。

 これくらいのお礼は当然だね。

 わたしからはお金や無為転変で作った杖を渡そうかな。

 

 今回の夕食は商人向けでお高めの店に決定した。

 しかも個室のやつだ。

 運ばれてくる料理はどれも美味しそうで、よだれが止まらない。

 

 わたしはミルクを飲んでいたけれど、三人は再会を祝してお酒で一献交えていた。

 皆と料理に舌鼓を打って、兄さまとエリナリーゼがほろ酔いくらいになった頃、ギースさんが暗い面持ちで話を切り出した。

 

「この空気の中じゃ言いづらいんだけどよ……ゼニスの話だ」

 

 二人は赤らんだ顔を真剣に引き締めながら、ギースさんの声に耳を傾けた。

 わたしもチビチビ飲んでたミルクを置いた。

 

「ゼニスは……迷宮に捕まっちまってるらしい」

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