ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第43話 親フラ

ルーデウス視点

 

 

 

 転移の迷宮へゼニスを捜索し始めてから2ヶ月程経った。

 第三階層から第四階層へのルート開拓は完了し、第四階層のマッピング、及び第五階層に出る魔物の把握は着々と進んでいる。

 エリナリーゼやトマが怪我することはあっても、命に関わるものはなく、傷だってすぐにトマが治す。

 しかし、ゼニスは未だ見つかっていない。

 

 俺達は転移の迷宮探索8回目を終え、ラパンの宿まで戻ってきていた。

 迷宮探索は自然にルーティーン化されていて、基本的に3日間で階層のマッピング、2日間で迷宮を脱出、半日でラパンへ戻り、1日装備や食料の補充兼休みという感じだ。

 今日はその1日の休みの日。

 俺は迷宮探索に使える武器でも売っていないか市場へ探しに出ている。

 迷宮都市というだけあって迷宮産の魔道具や武器、防具等……色々売っているが、俺達に必要そうなものはなかった。

 ……実はこの前、魔力を込めると振動する魔道具を買った。

 エリスとの夜に活かせそうだったからだが……まぁいい。

 

 回れ右して酒を買いに行く。

 この日は毎回トマが見つからない事を愚痴りまくるので、俺達は酒を飲みながら話を聞いてやっている。

 

 この愚痴会の初回は大変だった。

 悲痛な面持ちで淡々と絶望を吐露し続けるトマに、それを黙って聞く俺。

 エリナリーゼは優しく慰めたりしていたが、トマの落ち込み様が移ったのか彼女ですら弱音を吐き始めた。

 お通夜みたいな重苦しい雰囲気の中、ギースはなんとか空気を変えようと口先八丁と身振り手振りで懸命に努力していたが、それも叶わなかった。

 

 さらに最悪だったのは、翌日の迷宮探索にも影響が出たことだ。

 案外トマは引きずる性格らしい。

 これはダメだと三人で話し合った結果、愚痴をいう時は酒を飲んでその日でキッパリ気持ちを出し切ろうとなった。

 

 そう、俺はトマに飲酒の許可を与えたのだ。

 元々この世界に年齢制限なんてもんは無いが、愛する妹には健全に育って欲しかったからな。

 せめて15歳までは禁止にするつもりだった。

 

 酒で破滅する人間の話はネットにゴロゴロ転がっていたし、北方大地へ向かう途中の酒場で何日も項垂れていた男を見たこともある。

 酒は悪だなんて言うつもりはない。

 しかし、酒に逃げるのはダメだ。 

 俺はトマにそうならないで欲しかった。

 

「これと……そっちも下さい」

 

 俺は淡い琥珀色をしたテキーラの様な酒と細い瓶に入った蜂蜜酒を購入した。

 どうせギースが大量に酒とつまみを買ってくるのだ。

 これくらいでいいだろう。

 

「まいど」

「ありがとうございます」

 

 袋に入った酒瓶を持ち歩きながら考える。

 自分の母親が行方不明なら、あれくらいが普通なのかもしれない。

 だが俺は、ゼニスが消息不明だと知ってもたいして驚かなかった。

 むしろ、ああそうだろうな、と納得したくらいだ。

 俺はゼニスの生存を頭の何処かで諦めていた、もしくは手遅れだと思っていたのだろう。 

 なにしろ、もう転移から5年が経過しているからな……

 

 俺は子供の頃からゼニスと接点が薄かった。

 また会って話したい気持ちはあるが、どうにも自分の母親であると意識しづらい。

 それは前世を覚えているからというのもあるが、7歳の時に分かれてから9年近く会っていないのが大きいのだろう。

 どうしてもドライになってしまう。

 けど、しょうがないだろ。

 9年だ。

 

 トマやパウロには悪いが、ここ2ヶ月俺はゼニスが亡くなっていた場合の慰め方を思案している。

 迷宮には初めて入ったが、あんな魔物がうじゃうじゃいる場所でゼニスが生き残れると思えない。

 俺は弔いか、せめて遺品の一つでも手に入ればいいと思っている。

 しかし、トマはゼニスが生きていると信じている。

 迷宮の奥底で懸命に生き延び、助けを待っているのだと。

 いや、そう思わないとやってられないのかもな。

 

 気が付けば俺は顔を伏せ、じっと地面を見つめていた。

 ふと前を向いてみたら、冒険者ギルドが目に入った。

 そういえば、そろそろパウロ達がこの町に着いていてもおかしくないのだが…………

 トラブルでもあったのだろうか。

 まだラパンに来ていないだろうし、見ていない。

 

 パウロと合流できたら迷宮探索はさらに進む。

 そのためにも早く来て欲しい。

 俺も久しぶりにパウロの顔が見たい。

 トマもきっと喜ぶだろう。

 

 さっきよりは軽い足取りで俺は足を進めた。

 

 

---

 

 

 宿の一室。

 そのテーブルの上には大量の酒、肉、ナッツ類が乱雑に置かれていた。

 

「あーもう!なんで見つかんないの!なんでぇ……!あー…ぅぁー……ごくごくごく」

 

 トマが真っ赤な顔をしながら蜂蜜酒を一気に煽る。

 そしてナッツを手に取りパパっと口に放り投げた

 

「はぁぁぁー……うあー兄さまぁ」

「おーよしよし」

 

 腹に抱きついてきたトマの頭を撫でてやる。

 

「しっかしとんでもねぇ早さで地図は埋まってるぜ。これなら後5回も行けば6階層も見つかるかもしんねぇな」

「やっぱり魔物の斥候がいるとやりやすいんですか?」

「ああ。危険度外視の作戦をバンバン立てられる」

 

 やっぱりそうだよな。

 転移魔法陣が何処に出るか安全に確かめられるってのは画期的だ。

 印をつけた改造魔物をいくつか魔法陣へ送り込ませて、帰ってくるか見つけたらどの経路を進んできたか確認するやり方で、地図を埋めていく。 

 ここまで便利なら召喚魔術を習ってみてもいいかもしれない。 

 お湯で薄めた蒸留酒を一口飲む。

 植物みたいな独特な香りが鼻を抜け、スパイシーな甘味が舌を焼く。

 体がぽかぽかしてきた。

 

「兄さまぁ、母さま見つからないよぉ」

 

 トマは胸に顔を半分埋めながら、涙目で嘆く。

 

「そうだな」

「服も、道具も」

「見つからないな」

「……………………………………生きてるよね?」

「……そう、思う」

「そっかぁ」

 

 俺から離れてエリナリーゼに抱きつくトマ。

 さりげなく蜂蜜酒を片手に持っていった。

 

「今度はわたくしですわね。ほら、いっぱい甘えていいんですのよ」

「エリナリーゼぇ……」

 

 トマの背中を優しく擦っている。

 その横でギースは酒を片手に自身のメモ帳と睨み合う。

 酒が入った頭で考えられるのか?

 

「次の迷宮探索だが……最速で第五階層へ突入。仮拠点を張って、そこから魔法陣を片っ端から調べていくつもりだ」

「了解です」

「いつも頼りにしてるぜ先輩」

「僕もギースさんを頼りにしてますよ」

「よせやい。前みたいにもっと舎弟みたいに扱ってくれよ」

「そうですか?なら肩でも揉んで貰いましょうかね」

「お安いご用さ!」

 

 小走りでギースが俺の後ろに回り、強すぎず弱すぎずの絶妙な手加減で肩を揉む。

 あー気持ちいい。

 この体唯一の欠点として肩が凝るんだよな。

 巨乳を支えてるせいで。

 

「あっそうですわ。もうすぐパウロ達がここに着く頃でしたわ」

 

 若干頬が赤らんだエリナリーゼが唐突に声を上げた。

 おいおい忘れてたのかよ。

 ……いや、違うか。

 迷宮探索のせいで時間感覚がおかしくなっているのか。

 

「え!父さまが!……そういえばそうだったね」

「ええ、すっかり忘れてましたわ」

 

 いややっぱり忘れてたのかよ。

 

「父様がくるまで探索は一旦止めにしときますか?一緒に探索した方が効率は上がりそうですし」

「えー…………うーん。どうしよ」

「俺はそっちの方がいいと思うぜ」

「ん、ギースさんがそう言うなら……」

 

 エリナリーゼも同意して、パウロが来るまで迷宮探索は休止することになった。

 そうとなれば、俺はちびちび飲んでいた酒を一気に胃に流し込む。

 喉がじんわり熱くなる。

 

「いい飲みっぷりですわね」

「明日も休みでしょう?今日は久々にたくさん飲みますよ」

「そうとなりゃ追加の酒とツマミを買ってこなきゃな。俺行ってくるぜ」

「ん、いってらっしゃーい」

 

 ギースは共用資金を持って部屋から出ていった。

 ギースの選ぶ酒は旨い。

 これは期待出来そうだ。

 俺は酒瓶からコップへ酒を注ぎ、魔術でそれをお湯割りにした。

 トマはぼおっとその様子を見て、蕩けた話し方で言った。

 

「兄さまのそれ美味しいの?」

「旨いけど、お前には度数が高すぎるな。蜂蜜酒で十分だろ」

「ちょっとだけ飲ませて」

 

 ちょっとだけか。

 先っちょだけか。

 それならいいか。

 

「まぁ、少しだけなら」

「えへ、ありがとぉ」

 

 トマは差し出したコップを両手で恭しく受け取り、熱いお茶を飲む時のように口をすぼめて啜った。

 

「ん!これ美味しいよ!」

 

 お口に合ったらしい。

 俺と味の好みが似ている。

 そういやトマの好きなフィギュア製作も俺から来ているな。

 兄妹ってことか。

 

「ならよかった。返してくれ」

「どうぞぉ」

 

 これまた献上するようにコップを渡してくれた。

 

「ありがとう」

「ところで兄さまぁ!」

 

 机をバンッと叩き、俺を指差してくる。

 いきなりどうした。

 俺は困惑した。

 

「兄さまってさぁ、えっちだよね」

 

 今まで一回も見たことの無い、口を三日月型に吊り上げた笑みをして、トマは宣言した。

 その言葉を理解するのに時間がかかった。

 いや、ええ………………

 急にどうしたのだ。

 お前はそんなキャラじゃなかっただろう。

 エロい事はあまり知らない、純粋な13歳の女の子だったはずだ。

 それがどうしてこうなった。

 

「お前は何を言っているんだ」

「同感ですわ」

「ですよねエリナリーゼさん!」

「パウロの息子でなければ今すぐ誘いたいくらいのいい男……いえ、えっちな男ですわ」

「エリナリーゼさん?」

 

 あ、こいつニヤニヤしてやがる。

 完全に俺をからかう気だな。

 エリナリーゼは結構こういう時に悪ノリしてくるヤツだ。

 トマはゴクリと蜂蜜酒を飲み干し、座っている俺を見下ろした。

 

「胸大きいし、優しいし、謙虚だし……この人わたしの事好きなんじゃないか?ってなる人が出てきてもおかしくないよ!」

「え、あー、ありがとう……?」

「実際出てきてたんだからね!北方大地で冒険者やってる時、兄さま狙われてたよ?」

 

 そんなの初めて知ったな。

 しかし、その時は男じゃないか?

 

「俺が北方大地にいた頃は男だっただろ?そんなにモテてたか?」

「それなりにモテてたよ。ゾルダートがエリスさんの事を広めてくれたお陰で、兄さまに直接手を出す人は少なかったけど」

「ああ、ゾルがエリスを広めてくれていたのか」

 

 なるほど。

 通りで話してない冒険者にエリスとの遠距離恋愛を知られていた訳だ。

 しかし、なんだか複雑な気持ちだ。

 言い寄られなくて残念な心と、理性を試されなくて安心する心。

 心が二つある。

 

「他にも兄さまがえっちな証拠は多々あるよ。男でも女でも兄さまはえっちなんだよ。自分がえっちなの自覚してるの?わかってるの?わかっていてえっちを振り撒いてるの?」

 

 トマの目がグルグルとしている。

 言動と容貌を考えるに、明らかに悪酔いしすぎてる。

 解毒魔術をかけてやろう。

 と思った時、俺に一つの案が浮かんだ。

 このままいけるとこまで酔わせて、一気にストレス解消させてやった方がいいんじゃないだろうか。

7日に一度不満を小出しにするよりそっちの方がよさそうだ。

 その上、翌日の二日酔いの後悔で酒に依存しにくくなるだろう。

 

「ねぇ聞いてるの?」

「聞いてるって。それよりこっちの酒はどうだ?」

「これ蒸留酒じゃん。飲んでいいの?」

「今日はいいんだ。でも流石に水で割っとくからな……ってあれ?」

 

 コップに注いだ透明な酒は、水を入れると乳白色へと変わった。

 こういう酒はなんというんだったか。

 確かアブサンとかいう酒は水を入れると白く濁った気がする。

 記憶が曖昧だ。

 そもそも前世じゃ酒を飲む機会が少なかったから仕方ない。

 

「ふーん色が変わるお酒なんだ。飲んでみるね」

 

 トマは俺の隣に座り、テーブルに置かれた酒を飲む。

 

「美味しい!」

「そりゃよかった」

「わたくしも一口よろしくて?」

「いいよぉ」

 

 エリナリーゼはトマに渡された酒を一口飲んだ。

 気に入ったみたいだ。

 俺もコップに入った酒を一気に煽り、飲み干す。

 さて、次はなんの酒を飲もうか。

 

 

---

 

 

パウロ視点

 

 

 

「ようやく着いたぜ……」

 

 ロキシー達が魔大陸から持ち帰ってきてくれたゼニスの情報。

 それを頼りにミリシオンからこのベガリット大陸まで移動し、ここ迷宮都市ラパンに辿り着くことが出来た。

 

「取り敢えず宿を取りませんか?」

 

 荷台から顔を出したロキシーが疲れた顔をして提案する。

 

「そうするか。資金にはまだ余裕があるはずだしな……あるよな?」

 

 俺はリーリャに目線を送って確認を取った。

 リーリャは丁寧に答えた。

 

「なにもせずとも半年は生活できる程度の余裕はあります」

「そうか。結構残ってるな」

「はい。宿の方は私達で取って置きますので、旦那様方は先にギルドへ行かれてはどうでしょうか?」

 

 リーリャは俺の心を見通したかの様な提案をした。

 リーリャにはバレちまってるか。

 俺はこの町に入った瞬間から、一刻も早くギルドへ向かいたかった。

 ゼニスがここで迷宮探索をしているのなら、ギルドを通して活動していると考えるのが当然だからな。

 

「そうさせて貰う。お前らはどうする?」

「わしは酒を買いに行こうかのう」

「私はお先に宿へ向かわせて貰います」

 

 タルハンドは酒。

 ロキシーは宿。

 つまりギルドへ行くのは俺一人ということか。

 

「わかった。集合場所は……あそこでいいか」

「かしこまりました。では、いってらっしゃいませ」

「おう」

 

 リーリャ達と離れ、夕暮れのラパンの町並みを小走りで進む。

 途中で何度か立ち寄ったバザールより遥かに規模が大きい。

 冒険者ばかりいるため血の気は多いが、治安はそこまで悪くないな。

 

 ……ゼニスはどうして俺達に会いに来ず、迷宮探索をしてるんだ?

 無事ならフィットア領を目指すと思うんだが。 

 いや、そう出来ない理由があるのだろう。

 資金の問題か移動手段の問題か。

 まあ、今考えることじゃない。

 ギルドに着いたら、全てがわかるのだから。

 

「っと、着いたな」

 

 考え事をしている内にラパンの冒険者ギルドへ着いた。

 早速扉を開け、中に入ろうと─────

 

「……ゥロ!パウロ!おい待てって!」

「ああ?なんだ?」

 

 遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ってみると、ギースが手を振りながらこっちに全力疾走していた。

 

「ギースじゃねぇか!お前なんでここに!?」

「ハァ…ハァ……パウロ……お前速いんだよ……」

 

 涼しい時間にも関わらず、汗を流して息を荒げるギース。

 

「ハァ……お前の……家族を探してたんだよ」

「なっ!?ギース!ゼニスはどこだ!?どこにいる!?」

「おい掴むなって!全部話してやるから落ち着け!」

「ああ!?落ち着けるかよ!」

 

 ギースの肩を掴んでブンブン揺さぶる。

 オレは歓喜で気が急いて、胸の鼓動がドクンドクンと鳴り響く。

 

「おい!早く答えろ!」

「ぐっ、ゼ、ゼニスはまだ見つかってない!」

「……………………あ?」

 

 期待で逸る気持ちに冷や水をぶっかけられ、俺は自分でも分かるくらいマヌケな声を出した。

 ゼニスが見つかってない?

 ここで迷宮探索をしているんじゃないのか?

 意味がわからない。

 パンッと手を叩かれて、ギースの肩を掴んでいた両手が宙ぶらりんになった。

 

「……でもここにゼニスがいるってのは本当だ。何年か前にゼニスらしき人物が迷宮に入ったって情報が流れてきた」

「っ本当か!?」

「ああ本当さ。俺達はその迷宮に潜ってゼニスを探している」

「俺達?」

 

 ギースは戦闘以外はなんでも出来る。

 だが迷宮は魔物や罠の危険があるため、戦闘能力が無いと入れない場所だ。

 そもそも一人で入る所じゃないが、ギースなら尚更仲間が必要だ。

 それは分かる。

 分かるのだが……ゼニスの捜索を手伝ってくれるヤツがロキシー達以外にもいるのか。

 

「そうさ。お前もよーく知ってるヤツだぜ」

「オレが……?」

 

 心覚えは全く無い。

 元黒狼の牙であるギレーヌか?

 それともエリナリーゼだろうか?

 いや、エリナリーゼはありえん。

 アイツはルディとトマにゼニスの場所を教えにいったから、ゼニスを探しにベガリット大陸へ向かっているとしても、まだ北方大地にいるはずだ。

 よくて中央大陸西部だろう。

 

「パウロ、お前驚くぜ?」

「……あー取り敢えず、そいつらが居る場所を案内してくれ。礼を言いたい」

「おうよ!というか、そのつもりで酒屋から追いかけて来たんだぜ?」

 

 ギルドの入り口から離れてギースの後を着いていった。

 辺りは薄暗くなり、夕暮れから夜に刻々と変化している。

 軽口を交わし合いながら歩く。

 

「いやーパウロおめぇよ。来るのが遅せぇぜ」

「悪かったな」

「全くだぜ。そういや、娘はどうしたんだ?」

「ノルンとアイシャの事か。二人共リーリャの実家に行ってもらっている」

「へぇ。誰が付き添ってんだ?」

「ルイジェルドとジンジャーだ」

「旦那かぁそりゃ安心だ……あ」

 

 ギースが突然止まった。

 目線は通りの左側にある酒屋を向いている。

 

「いっけね忘れちまってたぜ」

「なんだ?」

「俺は元々酒を買いに来たんだよ」

 

 そう言って、ギースは適当に酒を見繕い始めた。

 

「あ、パウロ。お前も飲むだろ?」

「いやオレは……」

「こんな日くらいいいじゃねぇか。どうせ今日は迷宮に潜れねぇんだし、再会を祝おうぜ」

「……そうだな」

 

 ギースは大量に酒を買い、俺にも持たせた。

 持ちきれねぇならそんな買うなよ。

 しかし、俺が飲む分も入っているので口には出さない。

 

「そういや、どこでオレが来たのを知ったんだ?」

「タルハンドに会ったんだよ」

「なるほどな」

「泊まってる宿を教えたから、その近くにお前も泊まると思うぜ」 

 

 相変わらずこういう所の手際がいい。 

 暫く二人で夜道を進むと、ある宿に着いた。

 

「ここは……」

「ここに俺のパーティーがいるぜ」

 

 宿に入って階段を上がる。

 すると姦しい騒ぎ声が扉から漏れ出ているのに気づいた。

 女の声って事は、エリナリーゼなのか?

 ギースは部屋の扉で止まり、俺に予告した。

 

「もう一度言うが、お前は必ず驚く」

「ギース、しつこいぞ。オレはもう声で誰がいるのか分かってんだよ」

「いーや、お前は分かってない。分かってねぇのさ」

 

 なんだその顔は。

 ギースのヘラヘラした笑い方は鼻に付く。

 

「……もう入っていいか?」

「ああ、ビックリして腰を抜かさないようにな」

「うるせえな……」

 

 オレは扉を開けた。

 

 

 

 

 

「わぁぁ!かわいいよ兄さまぁ!もっとこっち見て!」

「我ながらいいセンスですわ!あ、ちょっと、胸をもっと強調するんですのよ!」

「こうですか?うっふーんルディ子よー!」

「すごいぃぃ!かわ………か…んふふふふ!」

「ほれほれ、どんどん上がっていっちゃうぞー」

「わ゙!?えっちが過ぎるよに゙い゙さま゙ぁ゙!」

「ふぅん?中々スジがいいですわ……わたくしも情事に取り入れましょうか」

 

 そこら中に散らかされた空の酒瓶。

 机に食い荒らされた肉やナッツ等のツマミ。

 酒の臭いがこもった部屋。 

 

 エリナリーゼはベッドに脚を組んで座っていて、トマはベッドに座ったり茶髪の女に抱きついたり匂いを嗅いだりと、忙しなく動いている。

 茶髪の女は立ちながら猫のように腰を曲げて、両腕で胸を挟み、その乳の大きさを強調するポーズをした。

 そして短いスカートの裾を両手で徐々に上げ、白い太股をあらわにしていった。

 

 オレは、茶髪の女に強い既視感を覚えた。

 その泣きボクロ、その声、その茶髪に若葉色の瞳。

 そこはかとなくゼニスに似た雰囲気を纏いながらも、隠しきれないエロい事が好きそうな表情。

 まるで……ルディじゃないか。 

 いや、ルディは男のはず…………

 ……待てよ。

 トマの力なら……出来なくはないのか……?

 

「あ!父さまぁ!やっと来たんだねー!」

 

 ハイテンション過ぎる赤い顔のトマがオレに気づいた。

 

「お、おう……」

「ま、予想通りですわね」

 

 エリナリーゼはオレの来訪を分かっていた。

 さも当然だ、というような態度を取る。

 

「あっ……………………………………」

 

 ルディ?は持ち上げていたスカートを押さえ、オロオロしている。

 酒で赤かった顔はさらに赤みを増し、プシューという音が聞こえてきそうだ。

 

「………………………その……………………初めまして」

「お前ルディだろ」

「兄さまだよ」

「トマ!!!」

 

 やっぱルディなのか!

 大きくなったなあ…………胸の話じゃないぞ。

 

「あのこれには理由があってベガリットってサキュバスが出てくるじゃないですかその対策として俺が女になれば解決するというのがあってさっきのも決して露出や誘惑を楽しんでいたわけじゃなくて酒の勢いでついやってしまっただけでいや気持ちよくなかったといえば嘘になるんですけど」

「わかったわかった。つまるところサキュバス対策な訳だ」

「そうなんですよ!」

 

 確かに女になっちまえばサキュバスは寄って来ないな。

 オレには思い付かない賢い考えだ。

 自分で決めた事を守れなかったオレとは違う。

 どんな方法を使ったかは知らないが、一足早くラパンに着いて立派にやってたんだな。

 胸に込み上げてくるものがある。

 オレはルディとトマを抱き締めた。

 

「父さん来るの遅くてごめんな。本当にダメな父親だ」

「そんなことないよ。父さまは凄いんだよ」

「そうですよ。そんな自分を卑下しないでください」

 

 ルディとトマはオレを抱き締め返した。

 約2年ぶり、成長した二人の抱擁は、オレの涙腺を強く刺激して、思わず涙ぐんでしまった。

 だが、オレは父親だ。

 決してそれを溢さないようにしながら、二人をさらに強く抱き締めた。

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