ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第44話 転移の迷宮探索九回目

トマ視点

 

 

 

 父さまと会った後日、わたし達は情報共有のために宿の一階で集まっていた。

 父さまは自分を含め計7人でラパンへ来たようだ。

 わたしは久しぶりにリーリャやロキシー先生達と話せてとても満足していた。

 

「ルディ……その、大きくなりましたね」

「先生こそ、以前と変わらないお美しさで」

「まぁ……ちっちゃいままです」

「そんなに小さくないと思いますけどね」

 

 兄さまはロキシー先生に会えてデレデレだ。

 ロキシー先生は兄さまの胸にチラチラ目線を向けながらも、弟子との再会に笑顔を見せている。

 

 兄さまが女になっているのはこの情報共有が始まってすぐに説明した。

 加えてわたしの術式も。

 ヴェラとシェラは随分驚いていたが、兄さまという規格外を思い出したのかおずおずと受け入れた。

 

「そういえばトマさんの持っている杖ってどこで手に入れたものですか?」

「これは自分で作ったの。それと、もうトマさんじゃなくてトマって言ってほしいな」

「この杖を自分で作ったんですか!トマ…は凄いですね……」

「えへへ。まあね」

 

 ロキシー先生に褒められちゃった。

 流し目で兄さまをチラリと見る。

 ごめんね、先生は兄さまじゃなくわたしを褒めて撫でて抱き締めてくれるんだ。

 ごめんね兄さま、ごめにい。

 ふふ、嫉妬してるかな?

 兄さまはズイッとわたしの隣に立った。

 

「先生、後で僕の魔術を見てくれませんか?」

「いいですよ」

「ありがとうございます。先生が行ってからもきちんと修行を積んでいた事を証明してみせますよ」

「それは楽しみです。ルディなら帝級を使えるようになっていてもおかしくありませんし」

「えっ……」

 

 ロキシー先生の兄さまへの期待は天井知らずだ。

 わたしにはもっと低めの期待をお願いしたい。

 もしも彼女に「聖級魔術くらい扱えるようになりましたか?」なんて言われても口をモゴモゴするしかない。

 

「あ、ルディ。会議が終わったら話があります」 

「話ですか?」

「はい。ここでは少し言いづらい事なので、部屋で話しましょう」

「先生の部屋ですか!もちろん行きます!」

 

 む、先生の部屋だって。

 羨ましい。

 いや凄く羨ましいな。

 わたしだって招かれたいが、真面目でプライベートな話し合いの可能性があるので口を出せない。

 しかし、ロキシー先生のじとーってした目を見る限りそんなに深刻な話題じゃなさそうだけど、なにかあったのかな?

 

「よし、迷宮探索の会議をはじめるぜ」

 

 ギースさんが手帳の内容を纏めたので、本格的な会議が始まる。

 

「事前にさらっと説明したとおり、俺達は2ヶ月前から転移の迷宮っつう所を攻略している」

「その転移の迷宮にゼニスが囚われてるんだな」

「ああ。トマの力で魔方陣の転移場所をコツコツ記していてな、今は第五階層までのルートは確立してるぜ。それでな───」

 

 ギースさんが情報を纏めた紙を見せながら、迷宮の進捗を皆に説明している。

 

「なら陣形はどうする?」

「ひとまず俺が斥候、その後ろの前衛をお前とエリナリーゼ、中衛をタルハンドとトマ、後衛を先輩とロキシーにするつもりだ」

「トマが中衛?前衛じゃなくてか?」

「トマにゃ治癒と魔物の使役に専念してもらおうと思ってな」

 

 斥候と前衛と中衛と後衛と回復を担ってた役割が一気に減った。

 改造蜘蛛のストックは豊富にあるし、バンバン使ってサポートしよう。

 

「──これで俺達の情報は全部だ。迷宮にはいつ出発するんだ?」

「うーん。昨日は夕方に着いちまったから、まだ迷宮探索に必要な物買ってないんだよな。だから……よぅし決めた」

 

 父さまが手を叩いて注目を集め、これからの予定を宣言した。

 

「二日後から転移の迷宮へ入る。それまで各々探索に備えてくれ。じゃあ、解散」

 

 家にいる時とは違う。

 捜索団の団長をやっていた時みたいな、カリスマ性のある言葉だった。

 

 

---

 

 

 皆明後日の準備で忙しそうで、構ってもらえそうにない。

 かといって、わたしが買い物を手伝おうとしてもリーリャにこれは私の仕事ですから、と止められてしまった。

 ふむ、暇なら冒険者ギルドに顔を出して、オルステッド様から連絡が来てないか確認しようかな。

 と、考えて今ギルドに着いた。

 中に入ると、職員がわたしを見るなり慌てて奥に引っ込んで、封筒を持ってきた。

 やっぱり来てたか。

 受付に近づき、確認を取る。

 

「龍神オルステッド様からお手紙預かってないですか?」

「はい。預かっております」

「ありがとうございます。お金の方はもう渡されてますか?」

「大丈夫です。既に頂きました」

 

 受付は職員から封筒を渡された。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 受付からそれを受け取り、宿へ戻った。

 

 

 

 誰もいない部屋に入り、ベッドに腰かけ魔力を与えて封筒を開ける。

 中には手紙が一枚。

 達筆な人間語で書かれていた。

 

「なになに?」

 

『トマ・グレイラットへ

 

 俺はベガリット大陸での用事をもうじき終える。

 よって大陸を移動し、別の場所で活動する。

 

 お前が家族を見つけた後、移動するかは分からないが、転移魔方陣を使ってもいい。

 だが、お前の捜索がいつまで掛かるか分からないため、行きのように俺が遺跡で待機するわけにはいかん。

 よって、下部に書いてある魔法陣のある遺跡の目印と隠蔽魔術の破り方を読んで使うがいい。

 

 そして1ヶ月後、お前の力が必要になる。

 直接会いに行くので、人気の無い場所で待機しておいてほしい。

 封筒と同様に指輪へ魔力を込めると、ルーデウス・グレイラットとお前の区別がつく。

 この手紙を読んだら魔力を注いでくれ。

 

 オルステッド』

 

「なるほどね」

 

 1ヶ月後に仕事があるのか。

 それに帰りの心配もなくなった。

 母さまを見つけた後、転移魔方陣で北方大地へ移動し、ノルンとアイシャをリーリャの実家へ迎えに行く。

 その後はラノア魔法大学に入って、呪いの研究をしたいな。

 エリナリーゼの呪いをどうにかするために。

 その場合わたしの住む家は北方大地になるけれど、父さま達はどこに住むのだろう。

 一緒について来てほしいけど……

 

 っといけない。

 指輪に魔力を込めなきゃ。

 わたしは右の人差し指にはめた指輪へ右手を当てて、魔力を注いだ。

 すると……見た目に変化はなかった。

 

「これじゃ付け間違い起こるんじゃないの?」

 

 まぁ居場所が分かってなおかつ驚異的に頑丈だから、そこにスペック全部使ってる魔道具なのだろう。

 あ、父さまにオルステッド様を説明してなかったな。

 まぁいいか。

 衝撃的な内容だし、母さまを助けて余裕が出来た後に話そう。

 

 その後、部屋に入ってきた兄さまは窶れシワシワになっていた。

 話を聞いてみると、ロキシー先生に大切なものを取られそうになったらしい。

 まるで子犬が落ち込んだ時に出すような、キューンと頼りない声で説明してくれた。

 ああ、かわいそうに。

 わたしは兄さまそっと抱き締めて、優しく頭を撫でた。

 でもロキシー先生が理由なく酷い事するわけないので、兄さまが何かやらかしたんだろうな。

 自業自得の線が限りなく高い。

 

 

---

 

 

 二日後、わたし達は転移の迷宮に入った。

 一階層から三階層まではすんなり進めて、四層で手間取ってから第五階層に着いた。

 父さまは一階層からわたし達に良いところを見せようと蜘蛛を切ってアピールしてきた。

 その剣技は三大流派全て上級という腕前の高さを疑わせない速く鋭いものだったが、一々振り向いて来られるのはちょっとね。

 父さまが凄いのはちゃんと分かってるから。

 

 わたしがやったのは改造魔物と魔術でのサポートだ。

 ヘイトを買ったり氷霜撃や岩砲弾で攻撃したり、後はたまに幾魂異性体を作ったりした。

 治癒に専念とはなんだったのか。

 まぁわたしも手持ち無沙汰になるよりはこっちの方がいい。

 

 第五階層に出てくるのはマッドスカルと四階層からいたアーマードウォリアーやイートデビルだ。

 魔物の名前はギースさんやロキシー先生が教えてくれた。

 アーマードウォリアーは父さま達が来る前から対策を立てられていた。

 その鎧の魔物は水神流の技で攻撃を受け流したりカウンターしたりするのが特徴の四つ腕の鎧でできた魔物で、甘い魔術や斬撃は致命的になる。

 よって、改造魔物で気を引いてから兄さまの赤熱回転岩砲弾を撃ちまくるのが定石になった。

 兄さまの魔術を受け流した個体は未だいない。

 ストックが少ない場合は兄さまの援護を貰いながらエリナリーゼと協力して剣で普通に戦う。

 

 問題はイートデビルだ。

 コイツは壁や天井を這い回り奇襲や待ち伏せを好んで使う。

 攻撃力が高く、視線が上に固定されるのが厄介だ。

 そして陣形を無視して後衛に突っ込んでくる。

 応急措置として、後衛に改造魔物を護衛として付けているが、もしもがあったらと思うと背筋が凍る思いだ。

 あ、護衛にしてるのは改造蜘蛛で蜘蛛糸を噴射して天井だろうが壁だろうが動きを止めてくれるよ。

 めっちゃ優秀な奴なので、母さまを見つけた後も幾つかストックしておきたい。

 

「っ!魔物だ!」

 

 ギースさんが叫び、後方へ走っていく。

 接敵したらしい。

 ポケットから改造魔物を取り出して、右手に杖を構える。

 

 発光する改造魔物が照らした魔物はアーマードウォリアーが3体、イートデビルが4体。

 共生関係ではないはずだが、偶然か。

 

「泥沼いきます!」

 

 兄さまが一歩踏み出そうとしたアーマードウォリアーの足元へ泥沼を発動させ、ズブッと膝まで泥に沈んだ。

 これで数秒動けないだろう。

 

 イートデビルが天井を這い回りながら接近する。

 アーマードウォリアーから十分離れた位置まで誘き寄せると、壁に張り付いた改造蜘蛛が粘着性を高めた蜘蛛糸を発射し、動きを阻害した。

 

「トマは真ん中の奴を頼む。オレは右だ」

「わかった」

「ではわたくしが左ですわね」

 

 蜘蛛糸に絡まったイートデビルを無視して通過、ソイツらはタルハンド達に任せアーマードウォリアーを仕留めにかかる。

 杖をしまって腰の後ろから大剣を引き抜く。

 

「無為転変」

 

 左手から小型の改造蜘蛛が飛び出した。

 それは泥沼から脱出したアーマードウォリアーの足元へ近寄り蜘蛛糸を発射する。

 若干だが、ステップや踏み込みがしづらくなる。

 

「やぁ!」

 

 わたしは地面を踏みしめ、両手で大剣を振り上げて飛びかかり一気に肉薄する。

 アーマードウォリアーは半身に構え、2本の剣で大剣の真向斬りを受け流そうとした。

 しかし足が蜘蛛糸に引っ掛かり、流を使うのに適した姿勢を作れず、わたしの大剣を頭から喰らった。

 わたしは上半身を真っ二つにされ裂けていくアーマードウォリアーを再び斬りつけてトドメを刺した。

 

 左のエリナリーゼはこの2ヶ月の間に買った魔力付与品で優位に戦いを進めている。

 右の父さまは剣技で着実にアーマードウォリアーを追い詰めている。

 手伝うなら何度も共闘して慣れているエリナリーゼだろう。

 

「エリナリーゼ、援護する。隙を作って」

「分かりましたわ」

 

 エリナリーゼが巧みなステップで魔物のヘイトを買う。

 ダメージを与えるより間合い管理に重点を置いた動きだ。

 アーマードウォリアーは水神流の技を使うが、知能はそれほど高くないのだろう。

 エリナリーゼの動きに釣られて攻めっけが強くなってきた。 

 エリナリーゼに致命傷を与えんと剣を大振りに振り下ろす。

 

「今ですわ!」

「ふっ!」

 

 アーマードウォリアーが剣を振った直後、エリナリーゼの合図によって攻撃した。

 無音の太刀を放ち、アーマードウォリアーを腹から一刀両断できた。

 

「父さまは……もう倒してるね」

「イートデビルも大丈夫そうですわね」

 

 糸に絡まったイートデビルを泥沼に沈め、それをタルハンドがかち割ったらしい。

 皆怪我もなく、無事に終わった。

 

 今回の迷宮探索では初めて大人数の共闘をしているので、体の変形は抑え目にしている。

 好き勝手触手や翼を生やしたら味方の邪魔になるし、狭い迷宮内で空を飛ぼうと衝撃波(エアバースト)を放ったら後衛に当たる。

 そうでなくても、変形を踏まえたわたしの戦い方は独特過ぎて連携がしづらい。

 

 戦いの後の装備点検をやっていると、ギースさんが近づいてきた。

 

「ここからは足を踏み入れたことがねぇ。偵察と探索を頼むぜ」

「ん、わかった」

 

 バッグに入った改造魔物を両手で掴み取る。

 目的はギースさんの言った通り、それに適した改造を魔物へ施す。

 

「無為転変」

 

 まずわたし達が容易に発見出来るように光らせる。

 持久力、耐久力を上げて長期の探索を可能に。

 魔物は魔力の濃い場所だと何も食べなくてもしぶとく生きるので、餓死はしないだろう。

 複数改造する中の一部に、人と同じ程度の重さにした魔物を用意する。

 踏み込み式の罠を踏んだが、体重が軽すぎて発動しませんでしたじゃ話にならないからね。

 

「後は殲滅用のヤツかな」

 

 改造蜘蛛はサポートや偵察において、転移の迷宮に出る魔物でぶっちぎり使いやすい。

 しかし、正面きって戦うのは比較的弱め。

 したがって、魔物狩りにはアイアンクロウラーやイートデビルを改造して使う。

 

 わたしが考えた転移の迷宮、改造魔物の有能総合ティア表はこんな感じかな

 

---Sティア---

 

朱凶蜘蛛(タランチュラ・デスロード)

 

 蜘蛛糸で相手を足止め、行動阻害、捕獲、何でも出来る。

 初級解毒魔術で治せるくらいの毒も持っているのでガチの戦闘でも便利。

 改造すれば壁や天井を這い回れるのもイイ。

 

イートデビル

 

 攻撃力が高く、魔物殲滅部隊の遊撃隊である。

 朱凶蜘蛛と同じく縦横無尽に這い回れて、蜘蛛以上に機動力が高い。

 第五階層でたくさん会えるので、ストックしやすいのもポイント。

 

 

---Aティア---

 

アイアンクロウラー

 

 魔物殲滅部隊の主力。

 高い防御力を持ち、ここにいる魔物の攻撃なら結構耐えられる。

 殲滅部隊は基本的に、コイツが囮と盾になってイートデビルが攻撃するって戦略だ。

 これ以上頭を使った作戦はわたしの無為転変じゃ組み込めない。

 地味に素早いのもポイント。

 

 

---Fティア---

 

マッドスカル

 

 お前の脳はどこにあるの?

 魂はあるのに。

 ドクロの内部に繋がった泥……肉?みたいなヤツを弄ったらビクビク体の泥を痙攣させた。

 わたしの理解が浅く、命令を下せない。

 

アーマードウォリアー

 

 お前の脳はどこにあるの?

 いや、それ以前にアンデット系は魂がない。

 少なくとも、わたしの魔眼じゃ見えない。

 魂が無くても動いているのは、魔力がなんやかんやしているのだろう。

 魔力は、ツギハギの人の記憶にある■力より万能………そう…だ?

 ■力……ん?

 名前が出てこない。

 ぼんやりしてる。

 オルステッド様と戦って死にかけてからさらに記憶が入ってきてるんだけどな

 それでも抜けがあるし、曖昧だ。

 

 

 

 アイアンクロウラーとイートデビル、少しの朱凶蜘蛛を改造して部隊を作り、迷宮の奥へ進ませた。

 これで遭遇する魔物は減るだろう。

 

「偵察行ったよ」

 

 そう言いながら振り向くと、父さまやロキシー先生が傍に来ていた。

 

「前より使いこなしてるな……」

「その力、どこまで出来るようになったんですか?」

 

 この二年間とオルステッド様との戦いで、確かに無為転変は成長した。

 けれど、他人を安全に変形できる技術を手に入れたくらいかな。

  

「魔力で身体強化出来ない人を強化可能にしたよ。後は性転換に人族限定の種族変化、魔物を武器や防具に変形できるよ」

 

 ロキシー先生は感心と……不安?

 父さまはスゲーって感じに驚いた。

 

「トマさ…トマ、絶対にその力を隠してください」

「うん、わかってるよ」

「絶対ですよ」

 

 心配してくれてる。

 大丈夫、わたし龍神の後ろ盾があるから。

 

 少しの休憩の後、第五階層のマッピングをする。

 父さま達が来たことでそれの埋まる早さは加速して、第六階層へのルートを開拓できた。

 それでも、転移の迷宮探索9回目では、母さまは見つからなかった。

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