ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第45話 魔石多頭竜

トマ視点

 

 

 

 父さま達と迷宮探索を初めてから15日経った。

 第五階層はイートデビルばかり出てくる階層だったが、誰一人死者を出すことなく第六階層へ繋がる魔方陣を発見できた。

 この15日の間に父さまは魔力付与品(マジックアイテム)である『鎧通し』の短剣を格安で購入していた。

 肉も切れないと言われていたナマクラを魔剣だと見抜くなんて、慧眼だ。

 

 第六階層の最奥へ向かう途中、隅で大量の卵が潰され、魔物の死体が一面散らばった部屋があった。

 肉片は発光するものがあり、わたしが改造した魔物が四散している。

 改造魔物殲滅部隊が戦った部屋なのだろう。

 相討ちになってしまったが、役割は果たしたらしい。

 

 その奥へ進むと、三つの魔方陣だけがある石造りの大部屋に辿り着いた。

 さっきまで頻繁に遭遇した魔物の気配は一切感じない。

 父さま等が言うには、守護者前の雰囲気だと。

 守護る者か。

 何を守っているのだろうか。

 魔力結晶とか、魔道具とかのお宝?

 お宝じゃなくてわたしは母さまを見つけたいんだけど。

 

 三つの魔方陣へ改造魔物を送り続けているが、数少ない戻ってきた改造魔物はどれも違うルートを通っているらしい。

 つまり、ランダム転移だ。

 三つの魔方陣全てそうらしいのだ。

 こんなこと今までなかったのに。

 うーむ、困った。

 

 わたし達は魔方陣に乗れず、この大部屋で悩み続けている。

 父さまは胡座をかいて腕を組み、壁にもたれ掛かっている。

 ギースさんは寝っ転がり、エリナリーゼとロキシー先生は二人で一緒に座り込む。

 タルハンドは武器を磨き、兄さまは入り口付近でウロウロ歩きながら悩む。

 両手の人差し指と親指で長方形を作り、それを覗き込んで唸る。

 頭に引っ掛かる事がありそうな兄さまだ。

 わたしは改造魔物の帰還を祈り、ランダム転移の法則性を考えているが、そんなものはなさそう。

 ここに来て手詰まりなのか。

 

「………………あっ」

 

 兄さまがポツリと、何かに気づいたような声を出す。

 そしてヅカヅカと遠慮なく大部屋の中央へ歩き、床にピタッと耳を当てた。

 美しい茶色の長髪が地面に広がる。

 

「お、おい。どうしたんだよ先輩」

「いえ、少し確かめたい事が……」

 

 兄さまは度々移動しながらと短剣の柄で地面を殴る。

 ただひたすら。

 音の変化は感じられない。

 

「……隠し部屋でも探してんのか?」

 

 ギースさんが兄さまの行動を推理する。

 

「はい、こんな感じの部屋を見たことがあるんです。その部屋は地下へ続く階段があって、ここもそうなんじゃないかって」

「なるほどな。そういうことなら俺に任せてくれ」

 

 ギースさんが四つん這いになり、耳を床に当て剣の柄でコンコン叩く。

 数回叩いた所で、表情が変わった。

 わたしはぺたんこ座りをやめて立ち上がった。

 

「おい……ある……!ここに空洞があるぜ!」

 

 興奮した様子で皆へ報告する。

 兄さまとギースさんの活躍で空洞……隠し部屋を見つけたのだ。

 

「やった…!凄いよ兄さま!お手柄だね」

「行くときに使った遺跡に似ていると思ったんだ。あれには地下へ続く階段があっただろう?」

「あったね。でも遺跡の内部はあんまり見てなかったから思い付かなかったよ」

 

 兄さまは床を岩砲弾(ストーンキャノン)で打ち壊し、破片をわたし達で取り除く。

 すると地下へ繋がる階段が露になった。

 

 皆ゾロゾロと集まって兄さまを背中を叩きながら褒める。

 わたしも再び可愛い大好きえらいねすごいね天才とか言って讃えた。

 改造魔物を先に向かわせながら下りる。

 

「キュうゥ」

 

 改造魔物は歪な鳴き声をあげ、部屋に着いた事を知らせる。

 そこは、血のように真っ赤に光る魔方陣があった。

 明らかに今までの魔方陣と違う。

 これが守護者へ転移する魔方陣なのか。

 

「各自装備の点検をしてくれ。このまま進む」

 

 その魔方陣を見て、父さまは引き返したりせずに進む判断をした。

 改造魔物によってあまり戦ってなく、体力や魔力、消耗品がまだまだ残ってる。

 わざわざ戻る必要はないだろう。

 

 ポケットやバッグからストックを取り出して数を確認する。

 改造蜘蛛2体イートデビル3体アイアンクロウラー1体。

 だいぶ少なくなっちゃったな。

 殲滅部隊を回収できなかったのが痛い。

 

「トマ、これを持っておきなさい」

 

 ストックをしまい直していたら、エリナリーゼが魔力結晶を手渡してくれた。

 

「いいの?」

「労いの品ですわ。このパーティーで一番働いてるのは貴女ですのよ」

「体張ってるのは魔物だけどね。ありがとう」

 

 いざという時に使おう。

 そっとポケットに入れた。

 

「よし、全員準備はいいか?」

 

 父さまの声で立ち上がる。

 わたしはストックを握りしめ、偵察用の改造魔物を作った。

 

「トマの偵察が帰ってきたら、俺達も突入する。いいな?」

 

 全員が頷く。

 わたしは魔物へ命令を下し、赤い魔方陣へ乗らせた。

 地面に吸い込まれるようにして消える。

 少しすると魔物が帰ってきた。

 

「閉じ込められたり一方通行になったりはしてなさそう」

「よし。じゃあ行くか」

 

 

---

 

 

 魔方陣で転移した所は、さっきまでいた大部屋を遥かに凌ぐ広い空間だった。

 床に精巧な模様が刻まれた石造りのタイル、部屋の両端に太く力強い柱が奥までズラリと並び、天井は見上げるほど高い。

 その堂々たる厳かさを感じさせる宮殿には、それに相応しい主がいた。

 

「ヒュドラかよ…初めて見たぜ……!」

 

 迷宮の深淵に鎮座する灰色の宮殿、そこに眠っていたのは、九つの頸を持つ竜であった。

 巨大な図体に翠玉色の鱗を纏い、頭に結晶のような角が生えている。

 

 侵入者に気づいたのか、多頭竜(ヒュドラ)がパチリと眼を開ける。

 深紅の瞳に縦長の瞳孔……多頭竜の眼の一つが、わたし達を捉えた。

 地に伏した九つの頸が次々に鎌首をもたげ、宮殿の侵入者を睥睨し始める。

 

「いた……!」

 

 そう呟いたのは、父さまだ。

 視線は多頭竜(ヒュドラ)に向いていない。

 父さまが見つめる先は、巨大な緑色の魔力結晶だった。

 つられて、わたしも魔力結晶を見た。

 

 

 魔力結晶の中に、母さまがいた。

 

 

 思考が一瞬で停止して、わたしは握りしめたストックを落とした。

 あれは、幻覚だろうか。

 わたしが母さまを恋しく思いすぎて現れた、幻影なのだろうか。

 だって、魔力結晶の中に人がいるわけが……

 目を細めて、それをよく観察する。

 

 

 …………魂が、ある

 

 

 ブエナ村で、家で、診療所で、何度も何度も見た母さまの魂だ。

 見間違えるはずがない。

 魂は一人一つで……いや、例外もあるのかもしれないが……少なくとも、母さまは一つだけだ。

 つまり、あれは、魔力結晶の中に閉じ込められているのは、正真正銘母さまだ。 

 

「ゼニス!」

「っ馬鹿野郎! 早まるな!」

 

 父さまが両手に剣を持って走り出した。

 叱責するギースさんの声が、遅れて聞こえる。

 

「っ!」

「むぅ!」

 

 エリナリーゼが舌打ちしながら後を追い、続けてタルハンドも走り出す。

 わたしはここでようやく我を取り戻した。

 そうだ。

 ついに母さまを見つけることができたけど、あの魔力結晶の中からどうやったら出せばいいんだろう。

 まずはそれを確かめないと。

 ヒュドラを倒したら中の母さまごとバラバラに割れてしまうかもしれない。

 

「兄さ───」

「援護します!静かなる氷人の拳、『氷霜撃(アイシクルブレイク)』!」

「っ!『岩砲弾(ストーンキャノン)』」

 

 二人の放った魔術は父さまを追い抜いてヒュドラに直撃する……はずだった。

 ヒィィィン!と甲高い音がなり、魔術は空中に波紋を残して消えた。

 

「なっ!」

「弾かれた!?」

 

 なんで!?

 意味がわからない。

 兄さまとロキシー先生の魔術なのに、それを無効化したのか!?

 いや、魔術を無効化する技は聞いたことがある。

 オルステッド様と戦って、わたしが死にかけている時、兄さまは乱魔(ディスタブマジック)という魔術によって魔術を使えなくなったことがあると。

 それを使われたのか?

 オルステッド様といい多頭竜といい、竜はそういうのが使えるのか。

 

「うおおぉぉらあああぁぁ!」

 

 父さまが猛り叫ぶ。

 ヒュドラに肉薄した父さまは最小限の動きで攻撃を躱し、瞬く間に二連劇を浴びせ頸を斬った。

 しかし父さまは止まらない。

 そのまま地をなめるように体をヒュドラの頸の下へ滑り込ませ、弧を描くように頚を切断した。

 

 ヒュドラが無効化できるのは魔術だけのようだ。

 わたしはストックを拾い、ポケットからさらに取り出して、両手に納めた。

 魔術は効かない。

 だが、この技は魔術じゃなく、膨れ上がった魂の質量で攻撃する。

 味方に当たらないようヒュドラを拘束するのに重点を起き、拒絶反応を解き放った。

 

「多重魂(たじゅうこん)・撥体(ばったい)っ!」

 

 巨大な肉の塊が、おびただしい数の口を見せながらヒュドラに噛みつく。

 ヒュドラはグラリとよろめくが、すぐに7本の頭で肉の塊を剥がしていく。

 

「シャアアアアアァァ!!」

 

 血を流し鱗が剥がれかけた頸の根元へ、タルハンドの土魔術が迫る。

 

「『土落弾(アースピラー)』!」

 

 またもやヒィィィンと音が鳴り、岩の塊は空中に波紋を残して消えた。

 

「パウロッ!」

 

 エリナリーゼは父さまをフォローするために、盾を構えたまま剣を付きだし衝撃波を発生させる。

 魔力付与品の衝撃波だ。

 されど甲高い音と共にそれは無効化された。

 

「無為転変(むいてんぺん)!」

 

 蜘蛛2つ残して残りの魔物を改造する。

 改造イートデビル2体がヒュドラへ突撃する。

 役割は囮だ。

 あの鱗を貫き頚を切断する力はコイツらにない。

 

 わたしは自分の顔に両掌を押し付けて、深く魂の形を認識する。

 そして、生まれ変わる

 

「無為転変……遍殺即霊体(へんせつそくれいたい)」

 

 くすんだ水色の髪、全身に走るツギハギ。

 場違いな高揚感に力が漲る体。

 わたしはヒュドラへ走り出しながら、背中から翼を生やして一気に飛んだ。

 と、同時に口の着いた触手を生やして柱に噛みつき高所から隙を伺う。

 

「おぉらあぁぁあ!」

 

 父さまが撥体によって動きの鈍ったヒュドラの頚をもう一本切断。

 父さまへ注意が向く。

 ここだ。

 

「シュアあああぷぷっ!?」

 

 パアァァン!!!

 

 頸の一つが歪に大きく、ボコボコと膨れ上がり、破裂した。

 ぐちゃぐちゃの肉塊や脳が辺り一面に散らばる。

 コロコロと深紅の目玉が転がる。

 

「やぁぁあ!」

 

 全力で地面を踏み込み、大剣を振るう。

 切っ先がヒュドラの頸へ迫る瞬間。

 その時微かに、瞬く間に、ほんの一瞬だけ、世界から色が消えた気がした。

 

「シュアア!!??」

 

 ドスンとヒュドラの頭が地面に落ちる。

 頚を落とした!!!

 残りは4本だ!

 だが、トドメを差していいのか?

 このまま流れで倒してしまったら、取り返しのつかない事態になるのではないか?

 どれだけ追い詰めても、一旦下がるべきだろう。

 ヒュドラから離れて、それを伝えようとした。

 

「えっ!?頭が6個!?」

 

 下がってヒュドラの全体像を確認したら、無事な頭が6個。

 切断面をさらした頸が2本、破裂して頸の途中から血を垂れ流しているのが1本。

 なんでだ、おかしい。

 治ってるのか?

 治癒魔術……いや、再生能力があるのか!

 

「何か来ます!下がってください!!」

 

 ロキシー先生の声。

 父さまやエリナリーゼ、タルハンドは兄さま等の元へ走っている。

 わたしも遅れて走る。

 その間もヒュドラは2つの頭で改造魔物を蹴散らし、4つの頭を天高く上げる。

 

「ブレスが来ます!俺の近くに固まってください!」

 

 わたしは皆より遅れて兄さまの後ろに、つんのめった。

 そして起き上がりながら竜魂の熾火を取り出す。

 兄さまが分厚い、水の壁を作り出すのと同時に、ヒュドラの口から灼熱の炎が襲いかかってきた。

 

「ぐっううぅ!」

 

 兄さまは両手で杖を握りしめて、絶え間なく水の壁を作り出す。

 膨大な湯気が部屋に立ち込め湿度を上げる。

 

『水砲(スプラッシュフロウ)!』

「せせらぎの濁流よ!『水流(フロードフラッシュ)』!」

 

 わたしとロキシー先生で水の壁を補強する。

 徐々にわたし達の水がブレスを押していく。

 いける!

 そう思った時、灼熱の炎は全てを滅する業火へと、熱と勢いを上げた。

 残りの頚を使ってブレスを吐いたのだ。

 ブレスには使用制限がある。

 おいそれと使えるものではない。

 だが、ヒュドラは使える頚全てでそれを放った。 

 

「ぐっぐぅ……うおおおぉぉぉおお!!!」

 

 それでも、兄さまの水の壁は破られることなく、それどころかさらに勢いを増してヒュドラのブレスを防ぎきった。

 右手に杖を持ち、左手から水を加えたのだ。

 魔力効率なんて考えない、兄さまだからこそできるゴリ押しだ。

 

「おおおおぉぉっ!!」

 

 父さまが湯気を切り裂く勢いでヒュドラへ走る。

 わたしは確認しなければ、走れない。

 

「兄さま!ヒュドラ倒したらあの結晶溶けるの!?」

「わからない…というか母様はあれで……」

「溶けます!守護者を倒したらああいうのは溶けるんです!そう聞いたことがあります!」

 

 兄さまの声を遮って、ロキシー先生は大きな声でわたしに言った。

 ならば遠慮する必要はない。

 わたしは最後のストックを握りしめた。

 走り出そうとした時、兄さまに肩を掴まれた。

 

「ヒュドラは再生した。だが傷口を焼いたら再生しないかもしれない」

「傷口を?」

「そうだ。だから俺も前衛に加わる」

「……わかった」

 

 魔術師が前衛に加わるのは相当危ない。

 しかし、兄さまなら……!

 わたしは改造蜘蛛を兄さまの護衛として、湯気の中を突っ切った。

 

「シャアァァァアアア!!!」

 

 湯気の先にヒュドラが見えた。

 生きてる頸は7本。

 1本はわたしの無為転変で再生出来ておらず、もう1本は父さまとエリナリーゼが連携して落としたようだ。

 ヒュドラはわたしの姿を確認すると、なりふりかまわず5本の頸で噛みつこうとしてきた。

 いつもより強化された脚力、牙のついた触手で宮殿を縦横無尽に駆け回り、逃げ続ける。

 

「父様!退いてください!」

 

 兄さまが再生しかけの頸を火魔術で焼く。

 綺麗に切断されていた赤い傷口が黒焦げになった。

 傷を負ったエリナリーゼと父さまをロキシー先生が回復する。

 その間もわたしはヘイト買い続けていたが、傷口が再生する様子はなかった。

 

「いけます!傷口を焼いたら再生しません!」

「マジかよルディ!よっしゃ!」

 

 父さま達がヒュドラへ攻撃する。

 たった1本の頸で父さま達を対処できるわけもなく、頚を落とされ炎で焼かれた。

 立て続けに頚を落とされたヒュドラは焦っている。

 その隙を、わたしは見逃さなかった。

 

「無為転変!」

 

 一度目を再現するかのように、2本の頸が膨れ上がって破裂した。

 残り3本!

 

「くっ!?」

「エリナリーゼっ!」

 

 ヒュドラは頭を失った頸を振り回す。

 嵐のような苛烈な攻撃に、エリナリーゼは盾を挟んだとはいえ直撃した。

 柱の一つへ吹っ飛ぶ。

 わたしはそこへ走る。

 誰よりも速く! 

 

「無為転変…!エリナリーゼ、大丈夫!?」 

「ゴホっ!……ええ、ありがとうございますわ」

 

 腕と脚がひしゃげてしまったが、瞬時に治した。

 エリナリーゼは苦痛に歪む顔を柔らげ、気丈に笑ってくれた。

 ほっとするのも束の間、ヒュドラは滅茶苦茶に頭を振り回し、その巨体を揺らす。

 兄さま達は近づけない。

 牽制しか出来ない。

 わたし達も近づけないだろう。

 

「……あれどうする?」

「疲れるまで待つのも手ですわね」

「でも、待ってたら再生しちゃうよ?」

「そうですわねぇ……」

 

 撥体なら効くのはわかっているが、いかんせんストックがない。

 一旦帰ってもいいが、そうするとヒュドラはわたし達を警戒して、魔方陣でここに来たわたし達をリスキルするじゃないだろうか。

 頭を悩ませていると、兄さまが近づいてきていた。

 改造蜘蛛を連れて!

 

「トマ、お前の力ならヒュドラに届くんじゃないか?」

「わ!蜘蛛死んでなかったんだ!」

「タルハンドさんがもしもの為と守ってくれていたんだ」

 

 タルハンドありがとう。

 やっぱり年の功というべきか、戦局を良く見ている。

 わたしは改造蜘蛛2体を掌に縮める。

 そして、圧縮。

 圧縮、圧縮、圧縮…………

 おどろおどろしいエネルギーが、掌から溢れ出す。

 擦り潰された呻き声が耳を打つ。

 ここで止める。

 迷宮が壊れたら本末転倒だからね。

 この撥体は、左右からカーブを描いてヒュドラを押し潰す形にしよう。

 

「よし……いけるよ」

「わかった。スゥー……」

 

 兄さまは深く息を吸った。

 

「全員離れてください!トマが撃ちます!」

 

 兄さまの一声で、父さま達はヒュドラへの牽制を止める。

 父さま、タルハンド、ロキシー先生がわたしの元へ集う。

 厄介な連中が離れたのがわかったのだろう。

 ヒュドラは動きを鈍らせ、少しでも休憩を取ろうとした。

 それが、ヒュドラ最期の行動だった。

 

「多重魂(たじゅうこん)・撥体(ばったい)」

 

 バンッ!とわたしの掌が弾かれて、黒い肉の塊が二又に分かれて突撃する。

 ヒュドラを容易に越える質量、命を潰えさせられるであろう威力。

 死に体のヒュドラは回避することができず、全ての頚を押し潰された。

 頚失ったヒュドラは力なく横たわり、ついぞ再生することはなかった。

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