ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
ルーデウス視点
ヒトガミの夢を見た翌朝、俺は宿の一階に皆を集めて件の話をした。
内容は、俺とロキシーがラノア魔法大学へ入学・研究の準備を進めて、その間トマ達はここに残って呪いの研究を進める、同時進行で活動しようというものだ。
パウロやロキシーはベガリット大陸からラノアまで掛かる時間を考慮して、全員で行った方がいいと提案したが、それは問題ない。
詳細はぼかすが特別な方法があり、往復4ヶ月程度で移動できると説明した。
パウロは半信半疑だったが渋々納得した。
トマは兄さまなら大丈夫だよねと、俺がラノアへ向かうのを受け入れた。
ロキシーは俺との同行を快く受け入れてくれた。
さらに「ふふ、ルディと一緒に旅ができると思うと、楽しみですね」と言ったのだ。
ロキシーが俺との旅を楽しみにしてくれている。
その事実に、俺の心は踊った。
ラノア魔法大学へ向かうことが決定したので、それにともない色々準備を始めた。
食料、消耗品、スクロール、ルートの確認etc……
そうやって物資を補充や旅の計画を立てている時、トマが俺を訪ねてきた。
呪いの研究を止めてまで何の話だろうと思っていたが、どうやら転移魔方陣のことらしい。
現在、転移魔方陣は隠されているが、破り方や場所等この手紙に書いてあるのでこれを持って行ってほしいと。
加えて指輪を必ず着けておいてほしいとのこと。
完全に骨折り損になるところだった。
危ない危ない。
今回の旅はトマがいない為、移動手段は歩きになる。
ベガリットの高温の砂漠を徒歩で進む。
と言っても2ヶ月程度で遺跡へ着く距離だ。
油断はできないが、それほど過酷な旅にはならないだろう。
バザールもたくさん点在しているし、なにより旅慣れしているロキシーがいるからな。
頼りにさせてもらおう。
ロキシー様々だ。
旅の準備をしているとまたもや来訪者が。
扉を開けた先にいたのはパウロだった。
俺が出発する前に話がしたかったようだ。
ちょうど一段落したし、じっくり話してやろう。
親子水入らずでな。
コップにズリック(ラクダみたいな生き物のミルクを発酵させ、水等で割ったもの)を入れてやって、サイドテーブルに二つ、コトリと置く。
俺とパウロは並んでベッドに腰かけた。
「……いつ頃出発するんだ?」
「明日の明け方くらいに行こうと思ってます」
「ずいぶん早いな」
「そうですか?気温が一番マシな時に出発した方が良いでしょう」
「ああいや、時間帯の話じゃなくてだな。もう出発しちまうのかってことだ」
パウロは頬をポリポリとかいた。
ああ、そっちの話ね。
「早くラノアに着けば着くほどトマの研究、ひいては母様の為になりますからね」
「まぁ、そうか。……ありがとな」
「いえ、これくらい家族なら当然のことですよ」
サイドテーブルからコップを取って、ズリックを一口飲む。
酸味の強いヨーグルト味が口に広がる。
砂糖を入れたらカ○ピスになりそうな味だ。
「中々いけるな」
「父様もそう思いますか?」
「ああ」
パウロはグビッと一口飲んだが突然止まって、その後はチビチビコップに口をつけた。
好物はじっくり味わうタイプなのだろうか。
意外だ。
パウロは半分くらい残ったズリックをテーブルに置いて、ほう、と一息つく。
「思えば、ここで再会してからまだ一月も経ってないんだよな」
「……あぁ、確かに、そうですね。でも4ヶ月くらいですぐに帰ってきますよ」
「でもなぁ、行っちまうんだろ?」
「なんですか父様、寂しいんですか?」
「ちげぇよ。ただ……」
パウロはゆっくりと俺に視線を向ける。
穏やかな顔つきで、まじまじと俺の顔を見る。
「……いや、やっぱり寂しいのかもな」
パウロは頭をガシガシとかいてズリックを飲んだ。
らしくないことを言ったせいか、顔がほんのり赤くなっている。
なんだパウロよ。
いつになく素直じゃないか。
「あーそうだ。お前の今までの話を聞かせてくれよ」
「いいですよ。まず、父様とミリシオンで別れた後、シーローン王国でアイシャに会ったんですよ」
「リーリャから聞いたな。お前らが二人を助けてくれたんだろ?」
「そうですね。色々問題はありましたが、無事に助けられました」
あの時は大変だった。
トマがパックスに捕まったり王宮に侵入したりザノバが俺を天井に投げ飛ばしたり……
もう2年前になるのか。
懐かしいな。
「お前は本当に自慢の息子だよ……娘か?」
「いや、ベガリットから出たら男に戻りますよ」
この体にも随分慣れたが、一生このままでいたいとは思わない。
こっちにいる間は仕方ないが、サキュバスがいない地域では男に戻りたい。
「シーローンの後はですね、赤竜の下顎で龍神に遭遇しました」
「……あ?龍神って、いや、マジかよそれ……」
「マジなんですよ。というか、トマから聞きませんでした?」
「いや、聞いてないが」
パウロを心配させないために言ってないのか?
なら悪いことしてしまったな。
この話は早めに切り上げよう。
「まぁ会ったんですよ。それで、その後はフィットア領へ行って、ルイジェルドさんと別れて、エリスとも離れ離れになりました」
パウロは腕を組んで頷く。
しかし、ふと俺を見て言った。
「そういえば、なんでエリスと別れたんだ?」
「エリスは剣の聖地へ修行に行ってるんですよ」
「ほぉ。剣の聖地か……行ったことねぇな」
「父様って剣神流上級でしたよね。誰に習ったんですか?」
「あー…家に招かれてた剣術の講師だ」
パウロは目を逸らして、言いにくそうに話した。
パウロって、確か家に勘当されたんだよな。
いや、自分で家出したんだっけか?
どちらにせよ、言いにくい訳だ。
「それよりルディ、エリスとはどこまでいったんだ?ミリシオンで会った時は仲良さそうだったろう?」
パウロは露骨に話題を変えた。
あれ?言ってなかったか。
自分じゃもう伝えたと思ってたんだか、そうでもないらしい。
思い返すと、パウロとここで会ってから迷宮の情報交換ばっかりだった気がする。
ああ、それでパウロは部屋まで来て話をしたがってたのか。
「実は……僕もう童貞じゃないんですよ」
「あ!?ルディお前、エリスとヤったのか!」
パウロは酷く驚いた後、 俺に懐かしい顔を見せた。
久しく見ることのなかった、ブエナ村でのパウロの姿。
つまり、猥談する時のニヤケ顔だ。
「へぇー、そうかそうか。エリスくっついたのか……」
「今は遠距離恋愛中ですけどね。もう婚約者みたいなもんです」
「なるほどなぁ。で、どうだったよ」
「どう、とは?」
「ルディ、わかってるだろ?『男』になった気分はどうだって言ってんだ」
「へへ、そりゃもう、凄かったですよ」
難民キャンプの一室。
押し倒され、俺に迫るエリス。
そしてあの言葉……
俺は獣になり、エリスと結ばれた。
2年経った今でも昨日のことのように甦る。
「父さん、そっちの事に関してはちょっとばかし自信があるんだ。何でも聞けよ。こう見えても若いころは遊んでたからな」
「そうですね、じゃあいくつか聞きたい事があるんですが───」
---
翌日、荷物を纏めて出発の準備をしていた。
昨日は夜遅くまでパウロと猥談で盛り上がってしまった。
酒も飲んで、朝起きた時は鈍い頭痛がした。
これほど解毒魔術をありがたく思ったことはない。
そうやって準備をしている時、はたと気付く。
指輪がない。
机の上、ベッドの下、袋の中、どこにもない。
そういえば、一階で説明している時にはもう着けてなかったような覚えがある。
どこで外したんだろう。
自室から出て、一階に向かう。
まだ食堂もやっていない時間帯だ。
暗くて静かな食堂、夜中の学校に通じるものがある。
明かりを持ちながらうろちょろ探したが、見つからない。
二階に戻ってトマの部屋へ。
ノックをしてから、ゆっくり扉を開ける。
部屋の中にはベッドに丸まってすやすや眠るトマ、サイドテーブルに指輪が一つ。
マズいな、もう時間が無いというのに。
確認だけとって、トマの指輪を着けていっていいだろうか。
見た目も効果も変わらないだろうし。
トマを揺すって起こす。
「んんぅ…………ん……なに…」
「俺の指輪見つからないから、トマのヤツ持っていっていいか?」
「ん…………」
トマは薄目を開けて、控えめに頷いた。
俺はテーブルの指輪を着けて、部屋から出ていった。
宿の外ではパウロとロキシーが既に待っていた。
パウロは顔色が悪い。
見るからに二日酔いだ、だがそれでも見送りに来てくれた。
「おお……行くのか……」
「はい。父様…いや、父さんは見送りですか」
「ああ……」
昨日からパウロを父さんと呼ぶようにしている。
パウロからそう呼んでくれと言ってきたのだ。
「解毒かけましょうか?」
「いや……魔力を温存してくれ……トマが起きたらかけてもらう」
パウロはフラフラになりながら言った。
「それじゃあ……気を付けてな。ロキシーも」
「はい。では、行ってきます。パウロさん」
「行ってきます、父さん」
俺達はパウロと別れ、迷宮都市ラパンから転移魔方陣へ歩き始めた。
---
トマの力を使わない砂漠の旅は、俺が思っていたより苛烈だった。
あの快適な旅を知っていると、より徒歩での旅がしんどく思える。
だが火魔術『バーニングプレイス』の応用で暑さが和らぐことは知っていたので、気温に関してはまだ許容範囲だ。
最寄りのバザールは歩きで3日。
魔物車なら1日程度で着くのに。
ああくそ、思考が楽な方に引っ張られてしまう。
そんな時の対処法を、俺は旅を初めて一時間で見つけ出した。
それを今から実践しよう。
まず、歩調を上げて前のロキシーに近づく。
不審に思われないゆっくり、気付かれないように徐々に。
そうやってジワリジワリとロキシーとの距離を詰めて行く。
ロキシーの帽子を手で掴めるくらいの距離感になったら、腰を屈めて後頭部に顔を近づける。
ロキシーは三つ編みおさげによってうなじが隠されている。
しかし、俺には見える。
信心深い信仰によってロキシー限定の透視を手に入れた俺は、目を細めてそれを見た。
陽光に映える彼女の汗によって、じっとり汗ばんだうなじ。
加えて、後ろ髪によってそこに閉じ込められた蒸れた香気を。
ゴクリと、生唾を呑み込んだ。
俺はトマに習った、形だけの北神流『無音独歩』を駆使して、ロキシーの後頭部に触れる極限まで近づいた。
いいぞ、気付かれていない。
しかし、焦るな。
ここで逸る気持ちを抑えられる者だけが、それを手に入れられる。
落ち着け、落ち着け……俺。
頭は
フゥ………………
………………今だッ!
「すぅぅぅぅううう!」
「……ルディ、なにやってるんですか」
ロキシーはピタっと止まって、振り返って俺を睨む。
ジト目で、恥ずかしそうに、後ろ髪を片手で押さえて。
しまった。
吸うとき音を出したら意味がないじゃないか。
なぜ気付かなかったんだ。
くそっ!
「せ、先生、悪気はなかったんです」
「もう、ルディはその体になってもえっちなんですから」
ロキシーがえっちって言うと破壊力がヤバい。
今の俺は女なのに、心の息子が隆起している気がする。
い、いかん。
俺はエリスという婚約者がいるというのに!
「ほら、進みますよ」
ロキシーはおさげを振り回しながらくるっと回って前を向いた。
当然、閉じ込められていたロキシーの香りがフワッと俺の顔に。
「……ふぅ。ありがとうございます」
「え?何がですか?」
「いえ、先へ進みましょう」
ロキシーによって俺は気力、体力、そして魔力すら回復した。
踏み出す足に力が漲り、杖を持つ手に誇りが宿る。
俺はゼニスを救うために、また一歩、ラノアへ歩み始めた。
---
旅は順調だった。
ロキシー成分を補給した俺は、魔物をサーチアンドデストロイ……あ、いや、避けられる時は避けてバザールへ向かう。
バザールが遠目に見えるくらいになった時、グリフォンの鳴き声が聞こえた。
警戒を強める。
歩を進めていくと、数人の人間と数匹のグリフォンが戦っているのが見えた。
中でも一人の男はかなり動けている。
パウロより強いんじゃないか。
だが、地面に倒れている人間もいる。
正直言って、助太刀しなくてもグリフォンは倒せるだろう。
だが、俺はヒトガミの助言を思い出していた。
もしや、あれがガルバンじゃないのか。
だとすれば、あの人達を助けることでロキシーが安全にラノア魔法大学へ行けるのだろう。
俺はいまいちヒトガミを信じられない。
だが、ヒトガミの言葉を信じたくないから、人を助けないのは、なんというか………いや、別に積極的に人助けをしたいわけじゃない。
しかしなぁ……うん、まぁ、とりあえず助けてやろう。
「先生、助太刀しましょう」
「わかりました。ルディは前衛をお願いします」
ロキシーと同時に走りだし、すぐに俺が先行する。
俺はグリフォンへ
5匹のグリフォンは回転し飛来する拳大の岩によって、2匹まで減らされた。
魔力で身体強化ができるようになって、命中率が上がっている。
ロキシーは
残りの一匹が俺に向かって空中から突進する。
俺は身体強化された体で走りながら、土魔術でカタパルトを作りさらに加速。
照準を合わせ、最後のグリフォンを仕留めようとした時、追いかけてきた男が首を斬った。
全然切っ先が見えなかった。
あれは、無音の太刀だろうか。
それ以上かもしれないが、俺の目には見えなかった。
剣を振って血を落とした男が俺に近づいてくる。
キラキラした目で走る。
まるで尻尾を振った犬みたいだ。
いや、本当に尻尾を振っている。
「本当に助かりました!あなた方のおかげで無事です!」
「いえ、困った時はお互い様です」
帽子を被っているから分からなかったが、おそらく獣族なのだろう。
毛並みのいい灰色の尻尾を振って、ニコニコ笑顔を見せてくる。
あれだ、シベリアンハスキーに似ている。
俺はロキシーと合流し、男達から改めてお礼を言われた。
商人の名はガルバン。
ヒトガミの言っていた男だ。
他の護衛達も自己紹介をした。
護衛隊長『鷹の目』のバリバドム。
護衛『骨砕き』のカルメリタ。
護衛『大刀』のトント。
そして、『剣聖』ルムタナ。
アドルディアを名乗らないのは理由があるのだろうか。
そう思って聞いてみると、ルムタナは半獣族で、親を生まれて間もない頃に無くしたため、本当にアドルディア族か分からないらしい。
確信が持てないから、アドルディアを名乗らないそうだ。
吠魔術を使えるようだし、明らかにアドルディア族だと思うのだが、まぁ首を突っ込まないでおこう。
ガルバンは俺達に護衛を頼んできた。
さっきの戦闘で魔術師を失ったらしい。
俺はロキシーに確認を取って受け入れた。
道の方向的に1ヶ月程度までだけどな。
提示された報酬は中々の金額だった。
ガルバンが言うには、今回運んでるものを売れば大変儲かるから。
一体何を運んでいるのやら。
違法ではないようだが、怪しい。
なんだかんだありつつも、俺達はバザールに着いた。