ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
目を開けると、心配そうにわたしを覗き込むかあさまの顔が見えた。ゆっくりと起き上がり辺りを見回すと、とおさまとリーリャが並んで立っていることがわかった。
「トマ?目を覚ましたのね、本っ当に心配したんだから!」
眉は八の字に垂れ下がり、涙目を浮かべながらわたしを抱き締める。ちょっと苦しいな、と思いつつ何でこんな状況になっているのかを考えた。
確かシル姉のとこに遊びに行って……でもカチューシャを忘れ…………て………
「にーさま!!!にいさまはどこ!?」
爆ぜるように叫んだ。にいさまが見当たらない。
焦りながらベットから出ようとすると、とおさまが話し始めた。
「あートマ、ルディはお仕事をしに行ったんだ。前に仕事を斡旋してほしいって言ってただろ?」
「仕事……?」
たしかに前、にいさまは仕事がほしいと言っていた。シル姉と大学へ行くために。
「じゃあさ、何でにいさまは縄で縛られてたの?」
「それは……あー……」
当然の疑問をとおさまへぶつける。
「縛る必要ないよね」
「あれには理由があってだな……」
とおさまはなにやら顎に手をやりうーんと唸っていたが、わたしの目を見つめると何かを決断したように話し始めた。
「お前もルディに似て賢い。本当のことを言う。仕事へ行ったのは事実だ。縄で縛ったのはそうでもしないと仕事に行かないからだ。」
とおさまの言ったことに疑問が生じる。無理やり縛って仕事へ行かせようとする意味がわからない。
「なんで?行かないわけがないじゃん。にいさまはシル姉のためにお金を稼ぎたいんでしょ?あんなにシル姉のことが好きなにいさまが仕事を断るわけがない。」
とおさまはわたしの目を見つめている。
「シルフィはルディに依存している。さらに言えばルディもシルフィに依存し始めていた。共依存だ。それは互いにとって良くない。よって無理やり引き離させてもらった。」
わたしはにいさまとシル姉の様子を思い出す。いつもの木の下で魔法を特訓したり、遊んだり、家で一緒に勉強したりしていた。
最近はその頻度や遊ぶ時間も増えていたが、あれが共依存なのだろうか。
わたしは友達が少ない(魔術の特訓のため仕方ない、仕方ないのだ)のでわからない。
納得し難いと思っていると、かあさまが静かに、探るように話しかけてきた。
「ねぇトマ、あの力はいつからできたの?」
あの力?無為転変のことだろうか。サプライズがご破算となってしまったことは残念だが、自慢できるようになったのはうれしい。
「だいぶ前、3歳くらいかな?みんなにあるもやもや……魂を弄れるようになったの!あ、わたしの魂もね。力の名前は
えへ、言っちゃった言っちゃった!口角が上がり、顔がニマニマするのを感じる。
わたしはんふーって感じで褒められるのを待った。しかし誰も何も話さず、しんとして寂しい静寂が部屋を支配した。わたしは困惑した。
「ゼニス……トマはやっぱり神子なんじゃないか」
「………………神子だったら何よ。トマは絶対うちの子よ。」
「わかってる、わかってるよ」
「………っ…わかってない!!!あなたは神子の意味を全然わかってないのよ!!!」
かあさまは張り裂けるように叫び、再びわたしを抱き締めた。わたしは怖くなった。もしかして、怒られる?
「神子って、名前がないのよ。もとから無いわけじゃなくて、取り上げられるの。それで、ずっと国のために力を使うことを強要されて、私達はトマに会えなくなる。神子ってだけで、会えなくなる……。」
…………みこ?知らない言葉だ。だけど聞いている限り、みこってのになると名前が無くなってかあさま達に会えなくなるらしい。それは嫌だ。
「…………会えなくなる……トマに会えなくなるのよ!!!わたっわたしの、私の子なのに!!!そんなの嫌よ!!!絶対いや!!!いやぁ...ぐすっ。」
「奥様…………」
かあさまの悲痛な叫びが部屋に響き渡る。いっぱいいっぱいなかあさまを見ていると、心が悲しくなるし、慰めてあげたくなる。わたしはなんとかかあさまを笑顔にするためなんとか言葉を絞り出した。
「かあさま、わたしはみこじゃないよ。これは魔術。にいさまやシル姉、かあさまと一緒のやつだよ。だから……泣かないで。」
かあさまの顔が見える。泣いている。
「…………そうね……トマが神子なんて嘘よ……トマはただの私達の子供……だからずっと一緒にいるのよ……。」
涙に濡れた虚ろな目だった。見ているだけで悲しくなる。その時、2人の大きなの泣き声が聞こえた。ノルンとアイシャだろうか。
「私が行って参ります。」
リーリャはそう言うと部屋から出ていった。かあさまはわたしを抱き締めたままだ。
「……ゼニス、聞いてくれ」
とおさまは神妙な面持ちで話しかける。
「………………なによ……」
「俺は、もしトマが神子でも国へ渡さない。トマを必ず守る。」
そう言うとおさまの顔は、今まで見た中で一番かっこよかった。
とおさま……やっぱりだいすき!
わかっていたが、とおさまは頼もしい。
わたしじゃかあさまの涙を止められない。でもとおさまなら
「トマは……神子じゃないわ……」
「ゼニス、お前も家の中から見えただろう。この子の脚を。背中から生えた触手を。」
かあさまは、まだ泣き止まない。
「…………」
「ゼニス、俺を信じてくれ。俺は、必ずトマを、家族を守る。」
かあさまは涙でぐしゃぐしゃになった顔ででとおさまを見た。とおさまは、真っ直ぐで決意の籠った目をかあさまに向けている。二人は見つめ合い続けている。ノルンとアイシャの泣き声も聞こえなくなった頃、かあさまが小さく口を開いた。
「愛してるわ、パウロ。必ず私達でこの子を守りましょう。」
「もちろんだ。」
その日はもう力のことを聞かれず、いつも通りリーリャの作ったおいしいご飯を食べて眠った。
翌日、かあさま達は神子について教えてくれた。何でも、この世界には神子と呼ばれる特別な力を持った存在がいるらしく、それがわたしなのではないかと。
正直言ってめちゃくちゃ嬉しかった。だって世界でも珍しい特別な存在だと言われたのだ。
わたしはぴょんぴょん跳び跳ねて喜びを表現したが、続いて告げられた言葉に衝撃を受けた。
神子は名前を取り上げられて国のために働かされるらしいのだ。最悪だ。
「トマ、これから命が危ないとき以外にその力……魂を……その……なんやらする力は使うな。」
「うん……わかった。」
わたしの力は封印された。
「パウロ様、差し出がましいようですが、トマ様を守るためにも、私は能力を正しく理解しなければならないと思います。」
「……それもそうか。」
「そうね……トマ、ちょっとだけ力を使って頂戴。」
わたしの力は解放された。
「ちょっと待ってて!すぐに持ってくるからー!」
そう言うとわたしは庭へ飛び出し、ストックした鼠を持ってきた。最後かもしれないし、気合いをいれて力を使おう。そう考えながら机に鼠を置いた。
「なっ鼠!?……か?ずいぶん小さく、粘土みたいになってるな……」
とおさまだけでなく、リーリャもかあさまも驚いている。それにわたしは気分をよくした。サプライズにはならなかったが、今まで練習してきた成果を見せられるのはうれしい。
「見ててね見ててね!いっくよー!」
気合いを入れる。右目でよく見て、
「
鼠の体がうねり変形していく。今回目指していく形はコレ!ターミネートボア!2足歩行する4本腕の猪の魔物だ。
にいさまに教えてもらった魔物で、とおさまはこの魔物を瞬く間に斬り伏せたらしい。かっこいい!
鼠の足を大きくし、尻尾を消す。腹の横から腕を生やして全体の毛を茶色に変更!体型をムキムキに!最後、顔に角を生やしたらー……完成!これぞ匠の技ってやつかな。
「とおさまどうー?これにいさまに聞いた、とおさまが倒した魔物!ちっちゃいけどよくにてるでしょ!」
ニコニコしながら自慢する。けれど何故かみんな引いている。なんで?
とおさまが遠慮がちに声をかけてくる。
「これは……なにをしたんだ、トマ」
「鼠の魂の形状を変えたの。とおさまは
「どっちって言ってもな……肉体か?」
「ぶー、正解は魂!……かも?」
にいさまの魂なんか変なんだよなーでもにいさま以外は普通だし……やっぱりにいさまは特別なのかな?
「肉体の形は、魂に引っ張られるの。
わたしは右目で魂を見て、体に刻まれてるなにかに魔力と流すと魂を弄ることができる。」
「右目っていうことはその魔眼の能力は魂を見ることなのか」
「そう!初めはもやもやがよくわからなかったんだけどね、なんとなく魂かなーって思ったの。」
「なるほどな、お前は魂を……っ!?」
「あっ」
異形と化した鼠が震えてる。さすがにもたないか。あれ何日前にストックしたやつだったんだろ。
まぁまだまだあるし……
「トマ!お前これ自分の体にやってたよな!?大丈夫なのか?」
「トマ!?本当に大丈夫なの?」
とおさまは焦っている。かあさまはもはや泣きそうだ。困った。
「んーとね、ちょっとなら大丈夫。魔力で体強化してるし。頭弄ったらマズいかも。」
あれ?でもわたし結構変型させてたような……?
「かあさま、もしかして昨日ヒーリングしてくれたの?」
「そうよ、パウロが青い顔しながらドタドタ家に入ってきたの。私も家の中から見てたけど、ちょっと呆然としちゃって動けなかったわ。」
「そっかー、かあさまありがとう!」
自分でヒーリングできるようになったら弄り放題かも。アイシャとリーリャがもうちょっと大きくなったら魔術特訓を再開してもらおう。
「あーまとめると、トマは魂を変型させられる、
肉体は魂の形に引っ張られて変わる、自分の魂も変型することができるってことだな。」
「そんな感じ」
とおさまは椅子立ち、わたしの真ん前まで近づいて、しゃがんで目線を合わせながらこう言った。
「トマ、父さんと約束しよう。その力はなるべく隠し、使わないこと。友達に絶対使わないこと。そして……」
「……そして?」
「父さん達を頼ること!お前はまだ5歳、まだまだ俺達に甘えていい年齢だ。ゆっくりその力と向き合っていこう。」
「……!うん!」
こうして、緊急家族会議2は終わり、わたしの無為転変はなるべく隠すことになった。後日、リーリャが鼠のストックを見つけて緊急家族会議3が始まったのはさすがに反省した。