ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
30日後ににいさまが10歳になる。
でもわたしは祝えない。
にいさまが遠くへ仕事に行っているからだ。
「はぁ……」
肘を机に突き、両手のひらで頬杖をつく。
椅子に座って足をプラプラさせている。
「どうしたトマ?最近ため息ばっかついてるな。
なにか困っているなら父さんが聞くぞ?」
対面に座るとおさまは眉をハの字にしてわたしのことを気にかけてくれている。
「あのねー……いや、なんでもない。」
にいさまに会いたい、そう伝えようとしたが近頃のとおさまの様子を思い出した。
最近とおさまは忙しそうだ。
なんでも森で魔物が活性化しているらしく、頻繁に魔物狩りへ行く。
そんな中で遠くのにいさまに会いたいと言われても困ってしまうだけだろう。
「そうか?悩んでるならなんでも言えよ。」
「うん……わかった。」
椅子から降りてトテトテと階段を上がってにいさまが使っていた部屋に入る。
今はわたしの部屋だ。
机にはかあさまから貰ったカチューシャが置いてあって、壁には大剣が立て掛けてある。
「はぁぁ……」
ベットにうつ伏せで倒れ込み目を閉じる。
ここ数日ため息ばかりつくわたしにみんな心配し始めている。
でも仕方ないじゃん。
お祝いに会えないんだから。
ため息だってつくし気も滅入る。
わたしがそうやってふて寝をしていると、
コンコンと扉が叩かれた。誰だろう?
「はーい」
ベットからのそりと足を下ろす。
扉を開けると、妹のノルンがいた。
「姉さん……遊ぼう?」
手を後ろに組んで控えめに体をフリフリと揺らしている。さらに顎を少しひいたままそっと上目遣いをした。
かわいい!
「いいよー!それにしても教えたグレイラット流必殺上目遣い上手になったね。」
「うんっ!お父さんがなんでも言うこと聞いてくれるようになった!」
「使いすぎると効きにくくなるからほどほどにね。」
「はい!」
ノルンは3歳になった。
ちょっと前まであんなに小さくて泣いてばっかりだったのに、今では秘技をも使いこなすたくましい妹になった。
むふ、わたしの行動を手本に成長しているね。
家族に甘えるのはいいことだ。
「えっと……本を読んでほしい。」
「本?何のやつ?」
「剣士のやつ……!」
「いいよ、こっちに来てベットで一緒に読もう。」
わたしはノルンがわかるように所々やさしい表現にしながら本を読み聞かせた。
隣にちょこんと座るノルンはふんふんと興奮している。
実はこの本の読み聞かせはすでに何回もやっている。なんでこの本が好きなの?と聞いてみたら
「お父さんみたいだから……」
と頬を赤らめながら薄くはにかんだ。
ノルンはとおさまっ子である。
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わたしは机を拭いているアイシャを見つけ声をかけた。
「アイシャー、リーリャいる?」
「はいっ今お母さんは庭にいるはずです。」
「ありがとー!」
アイシャも3歳になった。
リーリャに教えられて家事をよく手伝っている。
いつも元気溌剌で教えられたことはすぐに吸収してものにする。
とてもいい子なんだけど……にいさまのことは胡散臭いと思っているっぽい。
3歳で中級魔術、5歳で聖級魔術を使えたことが信じられないらしい。
ちなみにノルンもにいさまに関しては無関心寄りだ。
2人とも最後ににいさまをみたのは1歳頃かな?
覚えていなくても仕方ないかな。
わたしはにいさまの評価を上げるため魔術や剣術を見せ
「にいさまならもっとすごい魔術を使えるんだよ!」
と言ってみても、中々信じて貰えなかった。
まぁ後2年もすれば帰ってくるし、にいさまなら何とかするでしょ。
正直、わたしはアイシャとあまり仲がよくない。
いや、よくないっていうのは語弊がある。
ノルンと比べ関わりが少ないのだ。
なんとかして仲良くなりたいな……
と考えながら庭に顔を出すとリーリャが居た。
「リーリャ!かあさまの所に行ってくるね!日が落ちる前には帰ってくるー!」
「はい、行ってらっしゃいませトマ様。」
リーリャがお辞儀をしているのを見ながら家の外へ駆け出していく。
森の魔物が活性化している影響でかあさまが働いている村の診療所にも来る患者さんが増えているのだ。
わたしも魔術を使えるので手伝いができるし、加えて魂を注視する練習にもなる。
怪我をした人や苦しそうな人は魂が揺らいでいる。それを何人も見ていくうちに無為転変の技術が上がったような……気がする。
あとさすがに患者さんに無為転変はしていない。
もし弄って死んじゃったらかあさまが悲しむと思うから。
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診療所の扉を開け控えめな声を上げる。
「……かあさま居ますか?」
「あっトマ、また手伝いに来てくれたの?」
部屋の奥の方には金髪を後ろでまとめた女性、すなわちかあさまが居た。
「うん!」
「ありがとう、じゃあお湯を貰える?」
「わかった。」
木の桶の中へ魔術で作ったお湯を入れる。
ここ1年わたしの魔術はあまり成長していない。
にいさまやシル姉ほどの才能は持ってないのかもしれない。
けれど、剣術と治癒魔術はメキメキと上手くなっている自信がある。
剣術は剣神流上級に北神流上級(とおさま直伝)、
水神流はもうほぼ諦めた。
治癒魔術は中級、解毒魔術は初級までできるようになった。
前にこっそり森へ入り、治癒魔術+身体強化+無為転変を試したら面白いことが出来た。
腕を剣に変形させたり伸ばしたり、足を兎のように変えたりしても体の負担が少なかったのだ。
…………魔力の消費量は多かったけど。
「かあさまできたよ、他やることある?」
「ありがとう、うーん今日はあまりやることないのよね。私ももうすぐ帰るからそれまでここで待っておく?」
ふーん珍しいね。
「ここで待つね、人が来てないときはかあさまとお話してもいい?」
「もちろん!……なにか話したいことがあるんでしょう?最近のトマを見ていたらわかるわよ。」
やっぱりわたしが悩んでいることはかあさまにお見通しだったらしい。
このままもやもやを抱え続けるのも苦しいし正直に話そうかな……。
わたしは髪の毛を人差し指と親指で弄りながら、 おずおずと話す。
「あのね……もうすぐにいさまが10歳になるでしょ。それのお祝いに行けないのが悲しくて……。」
「…………そうね。」
かあさまはわたしを引き寄せ優しくこちらを慮るように抱き締めた。
わたしも抱き締め返す。
「でも最近とおさまもかあさまも忙しいでしょ?
それで、こんなこと言っても困らせちゃうだけだろうなって思っちゃって……言い出せなかったの……。」
「……トマは優しい子ね。」
かあさまは優しくわたしの髪を撫でながら話を聞いてくれた。
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数日後、みんなでご飯を食べているときにとおさまが話し始めた。
「皆、聞いてくれ。あと少しでルディは10歳になる。しかしルディは仕事でこの家にいない。」
……お祝いできないんだよね。
15歳になるときはこのことも踏まえてめちゃくちゃ盛大に祝おうかな。
「今朝、ボレアス……ルデイの勤め先から手紙が届いてな。あっちでルデイの10歳のお祝いパーティーをするから、それに俺達も来ないかって内容だ。」
瞬間、世界が色づいたような気がした。
えっ嘘!
会えるの!?にいさまに!?
「ほんと!?絶対行きたい!」
「まぁ!それ本当なのパウロ!?」
「兄さん……?」
「……お兄ちゃん。」
やった!にいさまに会える!お祝いできる!
あっでもプレゼント用意できてないや。
まだ時間はあるし、ゆっくり決めよう。
わたしは花が咲くような笑顔になっているのを実感したがとおさまは気まずそうな顔をした。
「それなんだが……俺は行けそうにない。お前もわかっていると思うが、森の魔物が活性化してるんだ。村から俺が離れることはできない。」
……とおさまはこの村の騎士だもんね。
責任ってやつなのかな。
「そっか……じゃあかあさま達と行ってくるね。」
「おう、迎えの馬車が10日後に来るからそれまでに色々準備しておけよ。トマ達はロアの町初めてだろう?あそこはすごいぞ。」
むふ、むふふふふ。
なにプレゼントにしようかな?
そうだ人形はどうかな!?
でもわたしの魔術じゃあんなの作れないか……。
……無為転変と組み合わせれば、短剣くらいは作れそう。
でもそれだと死んだら腐っちゃうし……うーん。
「ふふ、トマは本当にお兄ちゃんっ子ね」
かあさまは慈愛に満ちた笑みをわたしに向けた。
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「むふっむふふふふ……ふーっはっはっはっはぁ!!!」
今日はにいさまの所へ向かうための馬車が来る日!
正直シル姉には申し訳ない。けれどとおさまやロールズさんからもルデイに会わせないようにお願いされているのだ。
それに共依存?っていうのを直さないとシル姉にとってもよくないらしいし……
……お土産たくさん買って帰ろう。
「剣よし!カチューシャよし!服よし!プレゼントよし!」
扉を開けドタドタと階段を駆け下りる!
「準備でき……たよ……?」
かあさまやリーリャが慌ただしく動いている。
木の桶に水をいれたり薬草を煎じていたり……
どうしたんだろう?
「リーリャ、どうしたの?」
「あぁトマ様、今アイシャとノルン様が急に熱を出してしまっていて……」
熱?大変だ!わたしも手伝わないと!
「っ!手伝えることある?お湯出そうか?」
「いえ、私が2人の看病を致しますので奥様と一緒にロアの町へ行っていただいて───」
「ダメよ!私も手伝うわ!」
「ですが……」
2人ともてんやわんやだ。
これは……にいさまの所へ行けないかもしれない。
……仕方ないか。別に祝えなくたって一生会えなくなる訳じゃない。
ノルンとアイシャの命の方が大切だよね……。
「トマ!あなたは1人で馬車に乗りなさい。きっとギレーヌっていう獣族のお姉さんが居るからその人を頼りなさい。」
「でも……ノルンとアイシャが……。」
かあさまは気丈に笑った。
「いいのよ、私達が看病するわ。ルディを祝いたいんでしょう?それに、10歳のお祝いに1人も家族が来ないなんてルディも悲しむでしょう?」
「かあさま……。」
確かに、私もお祝いのときに家族が居なかったら泣いちゃうかもしれない。
わたしだけでも行くべきかもしれない。
「わかった……でも2人に挨拶だけさせて。」
「わかったわ。2人とも2階に居るわよ。」
「うん」
響かないよう音を出さずに階段を駆け上がり、ノルンの部屋に入った。
「入るよ……ノルン大丈夫?」
ベットのノルンの顔が見える位置まで移動すると、つらそうな表情のノルンがいる。
ノルンは布団を被り顔を赤くしていて、意識が朦朧としているのか焦点はあまり合っておらず、コホコホと咳まで出ていた。
「姉さん……?コホッ…馬車は……?」
「……ッ!いいんだよ、やっぱりわたしもここに居るよ。安心して。」
ダメだ、こんなに辛そうなノルンを置いていけない。アイシャだってそうだ。いつも家事をしてくれるわたしの家族。なんかあったら後悔してもしきれない。
「いいの……姉さん……わたし、兄さんのことよくわからないし……行ってきて、姉さん。」
「でも……」
「わたしがいいのって言ってるの…ゴホッ!ケホッ……行ってきて!…ケホッ。」
「…………じゃあアイシャにも聞くね……。本当に無理しちゃダメだよ……。」
ノルンの部屋を出てアイシャの所へ行く。
「アイシャ……入るよ。」
「聞こえてたよ……コホッ……あたしもノルン姉と同じ気持ち。トマ姉行ってきてあげて…」
なんでこんなにわたしのことを優先してくれるのだろう。
なんで。
「……お兄ちゃんのことは知らないけど……トマ姉がこのことすっごく楽しみにしてたの知ってるから……ケホッ……行ってきてほしいの。」
「…………わかった。かあさまもとおさまもリーリャも居るから!絶対熱無くなるから!だから安心してね、アイシャ!」
アイシャはちょっと眉をひそめた。
「ちょっとうるさい……」
「……………………ごめん。」
わたしはアイシャの部屋から出て一階に降りた。
かあさまにあったことを話す。
「ノルンもアイシャもわたしに行ってきてって……」
「皆トマが楽しみにしてたのを知ってるのよ。だからトマは家のことは気にせず、精一杯ルディを祝ってきて頂戴。」
「……わかった!!!」
荷物を持って家の扉に手を掛ける。
でもこれだけは言っておかないと。
「かあさま!リーリャ!ノルン!アイシャ!いってきます!!!」
「いってらっしゃい、トマ」
「いってらっしゃいませ、トマ様」
わたしは扉を開け、庭から見える馬車に近づいて行く。
馬車のすぐそばには獣族のお姉さんが居る。
灰色…銀色?の髪で褐色肌の筋肉質なお姉さんだ。
「あの、トマ・グレイラットです。」
「そうか、ギレーヌだ。他の家族はどうした。」
「とおさまは森の魔物への対処で行けなくて……ノルンとアイシャが熱出しちゃったから、かあさまとリーリャも行けなくなってしまいました。」
「……そうか、お前は来るのか?」
「はい、お祝いに家族が1人も来ないなんて、悲しいことですから。あっもちろんにいさまを祝いたいって気持ちはたくさんありますよ!」
ギレーヌさんはフッと笑った。
「わかった。馬車に乗れ、夕方には着く。」
「わかりました!ギレーヌさん!」
「ギレーヌでいい」
「アッハイ、ギレーヌ……えっと、乗ります!」
わたしは馬車に乗り込んだ。
そしてガタガタと大きく揺れながら、ロアの町へ進み出した。