女神「融通するから許してクレメンス」   作:にんじん

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早いもので、入学から2カ月が経った。

今日は今年2回目の選抜レースが行われる日だ。

この選抜レースは、3月6月9月12月の年4回開催され、ウマ娘、トレーナー双方にとって非常に重要な意味を持つ。

ウマ娘はトレーナーにアピールを、トレーナーは才能あるウマ娘をスカウトする場となるのだ。

特にウマ娘は、トレーナーと契約できなければトゥインクルシリーズどころかデビュー戦に出走すら出来ないため皆全力で挑む。

かくいう私もトレーナーとの契約を目指して全力で走るつもりだ。折角トレセン学園に入学したのにデビュー戦すら走れずに退学しましたなんてなったら目も当てられない。

 

今回もぶっちぎってトレーナーと契約するぞ!

 

てなわけで、私が出場する選抜レースは芝2400m、クラシックディスタンスなんて言われてるね。日本ダービーや凱旋門賞と同じ距離で、速さだけではなく、持久力や総合力が求められる。ちなみに選抜レースでは最長距離となり、私の体力をアピールする場として最適と判断してこの距離を選んだ。

スタートは正面観客席前の直線から、ホームストレッチを走りゴール板を抜けそのままコーナーに入りグルっと1周して帰ってくる。日本ダービーが行われる東京のような上り下りの坂はなく、平坦なコースなのでかなり走りやすいと思う。今回の出走人数は13名。私は8枠13番大外スタートとなった。

コースを下見しつつ芝の感触を確かめてから待機スペースに戻る。周りを見れば、緊張しているのか何度も深呼吸をしている子、それを見守っている子、目を閉じイメージトレーニングに没頭している子、それぞれ緊張の面持ちで出走時刻を待っていた。皆トレセンでの未来が掛かっているのだから当然か。

 

「ひえー緊張するねー……ひっひっふー……」

「……それ違うでしょ」

 

いや何かベタな漫才してる2人いるよ。友達なのかなー?と見ているとツッコミ役と思われる少女と目が合った。

 

「えーと」

「……」

 

目が合った少女は、どこか気まずそうにほんの少し頬を赤らめると、呆れたような溜息をつきながらこちらへ歩み寄ってきた。

 

「……ごめん、変なもの見せて。この子ちょっとズレてるから」

「ちょっとー!ズレてるとは失礼な! 私は真面目に精神統一を……ひっひっふー……」

「それ、ラマーズ法。レース前に産気づかない」

 

息の合いすぎたやり取りに、私は思わず笑う。

 

「私はグランアタランテです。よろしくお願いします」

「うん、よろしくー! 私はシルキーヴェールだよ!」

「アタシはアロープレシジョン。よろしく」

 

ヴェールさんは、私よりだいぶ背が低く小柄でクリーム色の髪をサイドテールにしている可愛い系。

アローさんは、私より少し高い背丈、黒髪でウルフ系のボーイッシュ。

うーん、ヴェールさんは天真爛漫、アローさんはクール系と一見対照的な2人だけど、すごく仲がいいのが伝わってくる。相性がいいんだろうね。互いに無いものを補い合うみたいな。動物の本能で違う性質を求めあうって聞いたことあるし。

 

なんて考え事をしていると、間近にヴェールさんの顔があった。お互いの息がかかるくらいの距離。そのまま少し見つめあってヴェールさんはにっこりと笑った。

 

「ふふ、グランちゃんお顔明るくなったね!」

「え?」

「グラン表情硬かった」

 

自覚はなかったけど、どうやら緊張が出ていたらしい。2人ともそんな私に気を使ってくれたのだろう。申し訳ないのと同時にとてもありがたい。

 

「ありがとうございます。ヴェールさん、アローさん。おかげでリラックスできました」

 

お礼を言うと、ヴェールさんは得意げに胸を張り、アローさんは呆れつつも優しく微笑んでくれた。2人がいい人すぎる。初対面の私にここまでしてくれるとか聖人か何かです?後光が見える。拝ませてほしい。いや拝む。

 

『第四選抜レースに出走の方はスターティングゲート前に集まってください。繰り返します』

 

アナウンスが流れる。もう出走の時間が来たらしい。

2人のおかげでリラックスできたし、程よい緊張感でレースに挑めそうだ。

 

「あ、もう集合の時間だ! それじゃアロー、応援よろしくね〜!」

 

ヴェールさんが胸の前で拳をキュッと握りしめ、気合十分といった様子で駆け出していく。

よし、私も気合を入れて――ん?応援?

首をかしげる私を余所に、アローさんは去っていくヴェールさんの背中に手を振り声を掛けていた。

あれ?アローさんは走らないのか。

 

「……ん。アタシは付き添い」

 

そうなのか(驚愕)てっきり一緒に走るのかと思っていたけど……って早く行かないと失格になってしまう。アローさんに頭を下げ走りだそうとする瞬間――私は手を掴まれ引き寄せられた。

目の前には若干頬を染めたアローさんの顔。あっ顔がいい。じゃなくて何この状況!?急に恋愛漫画始まった!?何がなんやら困惑している私の耳元に顔を寄せたアローさん。そして――

 

「……応援してる」

 

そっと激甘ボイスで囁かれる私。

あっ好き♡

じゃねーよ私!なに即落ちてんだ!

というかなんで私!?

 

「……一目惚れ(照れ気味)」

 

――惚れてまうやろおおおおおおお(カワイ)

あかんこれじゃ私が死ぬぅ!(男的な意味で)

 

「……ふふ。顔真っ赤」

 

あっ(昇天)

 

 

 

なんとか誘惑から抜け出し、ギリギリで集合場所に滑り込みセーフ。

それにしても何だったのあれ?夢か?選抜レース前に動揺させるための精神攻撃?

いやいや、アローさんがそんなことするわけないでしょ!

脳内にアローさんがフラッシュバックし、また頬が熱を持ち始める。

タイム!タイム!意識を切り替えよう。私ならできる――

 

「グランちゃーん!頑張ろうねー!」

 

首を振って脳内のアローさんを強引に追い出そうとしていたところへ、元気いっぱいの声が飛び込んできた。

振り返ると、そこには両手をぶんぶん振っているヴェールさん。

集合場所のピリついた空気なんてどこ吹く風。

彼女の周りだけフワフワと舞っている花が見えるようだ。

 

「ヴェールさん! はい、お互い全力を尽くして頑張りましょう!」

 

何とか笑顔でそう返すと彼女は大きく頷き、私の顔をまじまじと見つめてきた。

 

「んー?どしたの?顔赤いよ?」

 

うっそんなことないですよ?普通です。普通。あはは……。

 

「そうかなあ?やっぱり――」

『係員に従って順次ゲートインを行ってください』

 

ここで絶好のタイミングで流れるアナウンス。痺れる。

あっヴェールさん!ゲートインの時間ですよ!

私はこれ幸いと強引に話を打ち切った。

 

「あ、ホントだ!負けないよー!」

 

ヴェールさんは無邪気に手を振ると、自分の枠に軽く跳ねるように向かっていく。

その背中を見送りながら、私は大きく息を吐き出した。

危なかった。あのままだったら見抜かれてたよ多分。

ヴェールさんは妙に鋭い感じするんだよね。

 

さて、と。

いよいよ本番だ。いい加減に意識を切り替えなくては。

周囲を見渡す。

すでに先頭の1番から順番にゲートインが始まっている。

ヴェールさんは3枠3番。

私は8枠13番で大外枠からのスタートだ。

係員に促され、最後の1人としてゲートへと足を踏み入れる。

重厚な音を立てて背後の扉が閉まり、視界が前方だけに固定された。

 

『13番グランアタランテ、収まって態勢整いました』

 

――静寂

 

8枠13番。

一般的にレースにおける大外枠は距離ロスという明確なデメリットを抱える。1コーナーに突入するまでに外から内へ斜めに入り込む分、走らされる距離が伸び、序盤から無駄なスタミナを削られるからだ。

逃げなら尚更、内枠の逃げウマ娘にハナを叩かれればその時点で計画が狂う。

普通なら不利だと考える枠順。

だけど、私にとっては話が別だ。

私の一番の武器――それは無尽蔵のスタミナ。

序盤にどれだけスタミナを削られようが、痛くも痒くもない。

私にとって大外枠の距離ロスは、障害になりえない。

となれば、大外枠はデメリットどころか絶好のチャンスに化ける。

バ群に囲まれて動きを制限されるリスクはゼロ。外側から全体を見渡してポジションを取れるし、何より踏み荒らされていない綺麗な外側の芝を使って、最初からフルスロットルで加速できる。

 

――つまり、大外枠は私にとって不利ではなく、圧倒的優位に立てる好条件となるわけだ。

 

私の作戦は単純明快。

スタートからゴールまで先頭で走ればいい。それだけ。

だから何も躊躇する必要はない。

ゲート内で、静かにその瞬間を待つ。

静寂の中、自分の呼吸音と鼓動だけが鮮明に届く。

全ての意識をゲートが開く、その一瞬に向けて研ぎ澄ます。

 

開扉――その瞬間、私は駆け出した。

 

『飛び出しました。おっとグランアタランテ、絶好のスタートを切りました。早くも2バ身のリード――』

 

ロケットスタートを決めた私は、そのまま一気に加速してハナを切る。

長距離レースにおいて大事なのは温存することだ。

序盤中盤は抑えて消耗を避け、スローペースで展開し、勝負どころまで脚を溜めておく。

それがセオリーであり、故にこのレースに出走しているウマ娘たちもそう考えているはず。

でも私は違う。無尽蔵のスタミナという女神からの贈り物がある。

そして、ソレを生かすために走法を切り替える技術も磨き上げてきた。

 

『さあ、大外からあっという間にハナを奪いましたグランアタランテ! 正面スタンド前を先頭で駆け抜けていきます! 後続を引き離し、その差は早くも5バ身、6バ身!』

 

一気に内へと切り込みながら身体をグッと低く倒し込み、脚の回転数を跳ね上げてトップスピードまでもっていく。風を切り、景色が線となって後方に流れ去る。

 

『第1コーナーへと入っていきます。先頭は一人旅グランアタランテ、大きく離れまして2番手は――』

 

コーナーの遠心力を最小限に抑えるため、接地時間の短いピッチ走法を維持。ピストン運動のように脚を高速回転させ、ぴったりとコースの内ラチ沿いをトレースしていく。そして2コーナーを立ち上がり、向正面の直線に入った瞬間――滑らかにストライド走法へと切り替えた。

 

『向正面に入りました! 先頭は依然として13番グランアタランテ! 後続をどんどん突き放し、その差は10バ身、15バ身でしょうか――』

 

そのままストライド走法で向正面をぐんぐんと突き進む。

深い前傾姿勢を維持したまま、股関節の可動域を限界まで広げて一歩一歩の歩幅を大きくし、振り下ろした脚でターフを蹴る。

蹄鉄がターフを噛み、強力な推進力が生まれて、飛ぶように身体が前に進んでいく。

もはや後ろから足音は聞こえない。

 

『4コーナーカーブ、直線コースを向きます。変わらずグランアタランテ先頭!大きく離れて2番手シルキーヴェール! 前との差を詰めにかかるが、その差は縮まらない!』

 

スタンド側から風に乗って届く場内実況の声が、遥か後方の状況を教えてくれる。

ヴェールさんか……

レース前に見せてくれた優しさも含めて、私は彼女に確かな好意を抱いている。

本当に感謝してもしきれない。

自分自身すら気づかなかった緊張を見抜いて、真っ直ぐな笑顔でほぐしてくれたヴェールさん。呆れつつも温かく見守ってくれたアローさん。

ふたりの優しさに触れたあの瞬間があったからこそ、私はこうして自分の走りに集中できているのだから。

温かな気遣いと応援。

それに応えるための最大の誠意は、走者として全力を出し切ることだけだ。

 

だから、迷わず踏み込む。

あの優しさを無駄にしたくない。

泥臭くても、今の私が出せる全てをこの脚に込めて走り切る。

それが、背中を押してくれた2人に対する、私の最大の誠意なんだ!

 

「――っは!」

 

ギアをもう一段引き上げ、ターフを力強く蹴りつける。

 

『残り200m!伸びる!伸びる!グランアタランテ止まらない!シルキーヴェールは苦しいか!?』

 

実況の声すら遠くに感じる。

全身を駆け巡る熱を力に変えて。

妥協なんて絶対しない。

最後まで自分の走りを貫き通す。

 

『強い! 強すぎるグランアタランテ! 今、圧倒的な差をつけてゴールイン!!』

 

――ゴール板を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【トレセン】選抜レース実況スレ Part3【新バ】

 

 

 

111 名無しのウマ娘

やべえええwwww

 

112 名無しのウマ娘

ファーwwwwwwwwwwww

 

113 名無しのウマ娘

大差wwwwwwwwwwwwwwww

 

114 名無しのウマ娘

なんやこの怪物……

 

115 名無しのウマ娘

2400mをあのハイペースで逃げ切るとか頭おかしい(褒め言葉)

 

116 名無しのウマ娘

大外から一気にハナ奪ってそのまま大差勝ちとか、バグだろこれ

 

117 名無しのウマ娘

2分21秒台?????

えっこれ選抜レースですよね????

 

118 名無しのウマ娘

>>117

選抜レースです(白目)

 

119 名無しのウマ娘

後ろ牽制しあってるの笑ったわ

 

120 名無しのウマ娘

シルキーヴェールちゃんもかなり良い走りだったのに完全に霞んでて草

 

121 名無しのウマ娘

てか最後の直線入っても全然脚色衰えてなかったよな

 

122 名無しのウマ娘

>>121

それ。普通ならバテて沈むペースなのに、加速し続けてたのマジで意味分からん

 

123 名無しのウマ娘

あ!僕のママ見つけた!

 

124 名無しのウマ娘

>>123

きっしょ

 

125 名無しのウマ娘

13番の子なんてお名前?

 

126 名無しのウマ娘

>>125

グランアタランテちゃん

覚えておけ、将来のダービーウマ娘だ

 

127 名無しのウマ娘

グランアタランテか

 

128 名無しのウマ娘

現地組だけど、スタンドのトレーナーたちの目がマジで血走ってて草

今すぐスカウトしにダッシュしそうな勢い

 

129 名無しのウマ娘

>>128

おはウマ娘

 

130 名無しのウマ娘

てか走り方変えてなかった?

コーナーと直線で使い分けてたぞあの子

 

131 名無しのウマ娘

>>130

ようわかるな、全然わからんかったわ

 

132 名無しのウマ娘

シルキーヴェール推しワイ、涙

 

133 名無しのウマ娘

>>132

ヴェールちゃんも2着だし、後ろとはかなり離してるから普通にめちゃくちゃ強いんだよなぁ……

グランが異次元だっただけで

 

134 名無しのウマ娘

グランアタランテ「ずっと先頭走れば勝てるやろ」

 

135 名無しのウマ娘

>>134

脳筋怖い

 

136 名無しのウマ娘

あんな走りしといてケロッとしてんの草

 

137 名無しのウマ娘

>>130

バケモンで草

 

138名無しのウマ娘

スタミナお化け

 

139 名無しのウマ娘

おいおい、来年のクラシック戦線壊れる気しかしないぞ

 

140 名無しのウマ娘

【急募】グランアタランテに逆噴射させる方法

 

141 名無しのウマ娘

>>140

ないです

 

142 名無しのウマ娘

スカウト合戦やばそう

誰がこのバケモノを射止めるんだこれ

 

143 名無しのウマ娘

【朗報】来年のクラシック戦線、無事終了のお知らせ

 

145 名無しのウマ娘

ぶっちゃけこの時期でこの強さはヤバいわ

クラシック総なめやろ

 

147 名無しのウマ娘

グランアタランテ推しになります

 

149 名無しのウマ娘

>>136

 

151 名無しのウマ娘

>>128

おいスカウト合戦実況しろ

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