その変質の影響を真っ先に受けたのはアビ・エシェフ、そしてそれを操るトキだった。アビ・エシェフは圧倒的な回避能力を持っているが、それはエリドゥの演算能力を前提にしている。エリドゥが変質し、その演算能力の提供を停止した結果、アビ・エシェフは「ただの優れた機体」になった。そして、「ただの優れた機体」ならC&Cが攻撃を当てることは可能だ。ネルがリベンジマッチに燃えているのもあって、トキは劣勢を強いられることになる。
そして、ゲーム開発部が中心になって攻略しているアヴァンギャルド君は飽和攻撃にさらされることになった。その種は至って単純。あの奇妙な見た目の機械、
まさしく形勢逆転。トキとアバンギャルド君に勝つのは時間の問題だった。アバンギャルド君はほぼ機能停止状態、アビ・エシェフもチェックメイトを掛けられたという段階で、エリドゥの中央タワーから人が現れる。
「わー!アリ・・・ス?」
その姿を見るや否や歓声を上げたモモイだったが、その雰囲気があまりにも別人すぎた故にすぐに声量は下がり、疑問符が付く。
「彼女はアリスではないわ。」
肩に担がれたリオがそこをきっぱりと断言する。事実アリスではないから何も間違っていないのだが、絵面が酷いためイマイチ信用し辛かった。
そんな不格好なリオをやや乱雑に立たせると、ケイは流れるような所作で腰を30度曲げる。
「初めまして、私は王女・・・皆さんが『アリス』と呼ぶ方の従者。名を、ケイと言います。皆さんのことは、王女を通して存じているので、自己紹介は不要です。」
”よろしくね。あれの動きを鈍らせたり、あのロボットを呼び出したのは、もしかして・・・”
「はい、王女の指示の元、私が干渉した結果です。」
腰を曲げたまま、ケイは自らの干渉を認める。ケイは知っている、先生という人物の人柄を。先生は、生徒という存在をほぼ無条件に肯定し、筆舌に尽くしがたい献身を行う。ケイは自分がこのキヴォトスで王女に付き従うためには、先生から生徒であると認められることが大前提だと考えた。過度なアピールは必要ない。重要なのは恐らく、素直な心で向き合うこと。
”ありがとう、助かったよ。”
先生は屈んでケイと目線の高さを合わせる。その優しい瞳から、ケイは何となくだが、自分という存在が先生に認められたような気がした。
「受け取っておきます。それと、そろそろ体を王女に返させていただきます。」
ケイはそう言うと目を閉ざし、再び目が開かれたときにそこにいたのはアリスだった。
「モモイ、ミドリ、ユズ、先生!」
今度は、アリスの方から駆け寄る番だ。その小さな体で腕を広げ、4人と抱き合おうとする。お互い名前を呼び合い、ゲーム開発部は物理的に一塊になる。
先生がさり気なくその輪から抜けると、丁度タイミングよく車椅子の移動音が聞こえてきた。ヒマリが遅れて登場したのだ。
”リオ、ヒマリ・・・。”
先生は2人の方を向く。リオとヒマリでは目線の高さが違い過ぎるので、目線を合わせることはできないが、それでも真摯な気持ちで2人を見ていた。
「今回の騒動は、私が起こしたものよ。」
「私たち、でしょう?」
リオが1人で責任を背負い込むことを、ヒマリは許さなかった。
「・・・・・・とにかく、皆には迷惑をかけたわ。ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
そんな2人の謝罪は容易に受け入れられた。アリスが真っ先に許したというのが大きい。尤も、ユウカは横領に関しては大変ご立腹で「後お話があります」の一言でリオを振るえ上がらせたが。
「皆が仲直りできて、良かったです!」
アリスは、王女のように可憐で、勇者のように眩い笑顔で、皆の仲直りを誰よりも喜んだ。