斯くして、エリドゥの一件は幕を下ろした。
「横領した分まで、しっかりと働いてもらいますからね!」
エリドゥはその建造者であるリオ自身の手で封鎖され、そのリオは横領した責任ということ、ユウカの監視下で馬車馬の如く働かされていた。ユウカから睨まれつつも、その明晰な頭脳で業務を熟していく。リオは時折、自分がこの執務室にいていいのか分からなくなるときがある。1人の生徒のことを調べるためにミレニアム全体を巻き込んで、多大な迷惑をかけた身だ。申し訳なさでいたたまれなくなる。
そんなときに決まって思い出すのが、ケイのことだった。彼女は自分より迷いがなく、そして思考と感情が切り離されていると、リオは思う。果たして、常人が「主が憧れる勇者とはそういうものだから」という理由で、その主を誘拐し精神的な苦痛を与えた相手に手を差し伸べられるだろうか?それに、キヴォトスを救って後追いすると言い切ったあの目。あれは本気であった。リオから見たケイは従者というよりは殉教者だ。
その狂気と理性が同居した瞳を思い出すと、ミレニアムから逃げるのが躊躇われる。少なくとも、その能力という点では自分がトップにいるのがミレニアムにとって最も望ましいという自覚がリオにはあった。自分がミレニアムから逃げれば、裏から支援するにしても影響はあるだろう。
だからリオは、今日も身を粉にして働いている。それがミレニアムにとって最善で、自分の贖罪になると信じて。
ゲーム開発部に新たな仲間が増えた。書類上の所属人数は変わらない。先生の提案もあってミレニアム生となることを誘われたケイだったが、「授業に出席するための体がない」という理由で編入を辞退したのだ。ケイはゲーム開発部の仲間でありつつも、部員ではないという立ち位置だった。
授業中のケイは基本的に、裏で静かに過ごしていた。テストに出そうな場所を聞き分け、メモしておくようアドバイスしたり、こっそり問題集を作ったりというのが主な活動内容だ。特に問題を解くときはどれだけせがまれても答えは教えなかった。ケイは優しいが甘くはないのである。
一方、ゲーム開発部の部室では表に出てくることもままあった。大体「このゲームをプレイしてほしい」と頼まれたときだ。自発的に出てくることはほとんどない。アリスと同じ体だが、「纏っている雰囲気が別物過ぎる」という理由で意外と区別がついていた。ちなみに、ケイのプレイスタイルは専ら効率厨な上に、実績の全解除や探索率100%だとかを取らないと気が済まないタイプであった。1つの実績のために何かの修行のような作業を延々と繰り返して、モモイから「楽しいのそれ・・・?」とツッコまれることもしばしばある。
『ケイの分析は凄いですね・・・!』
そんなケイが表に出たがる数少ない場面が、ゲームの分析を纏めるときだった。王女に逐一伝えながらだとどうしても効率が悪いということで、このときばかりはケイが自らの意思で表に出て文章に起こしていく。
『いえいえ、王女のおかげでもありますよ。』
ケイの分析の品質が高いのはケイ自身の能力だけのものではない。ケイは王女がゲームをプレイしているとき、その様子を見つつ、王女の心の動きを客観的に把握することができた。つまり、2人分のプレイ体験を深く分析することができる、ということだった。言うまでもなく、ケイとアリスではプレイ傾向が異なる。ケイはステージの導線だとか、レベルデザインだとか、ストーリーの構成だとかを気にしている一方で、アリスはもっと単純に楽しいか、感動できるか、ということを見ている。
ゲームとしてのクオリティと、単純な楽しさの両輪で分析できることは、ケイの分析の高さの一助となっていた。そういうこともあって、ゲーム開発部内でのケイの立ち位置は自他のゲームを分析する係だった。
ケイがいくら素晴らしい分析をしたところで、ゲーム開発部の本質は変わらない。相も変わらず導線もプレイ体験も酷いゲームばかりだが、それでもケイはなんだかんだこの日常の居心地を良いものと認識していた。
願わくば、この日常が末永く続くことを。そんなことを思う程度には。
これにて原作パヴァーヌ編は終わりですね。最終編とかデカグラ編はまだまだ未定です。