「どうぞー!」
「お邪魔しまーす!」
マキが真っ先に歓迎の意を示すと、モモイが元気よく挨拶を返す。2人は結構仲良しなのだ。
また、ゲーム開発部とヴェリタスはアリスの学生証偽装で交流があったこともあり、先生も交えて挨拶だけでわいわいと盛り上がる。
「それでそれで、例のブツって?」
「ああそれなら・・・・・・これだよ。」
モモイが待ちきれないとその「例のブツ」を見せるようせがむと、ハレがそれを見せる。
それは、奇妙な形をしたロボットだった。まず黒い球体に、紫の線が入った灰色の外装2つセット4組が不完全に覆っており、背面から6本の紫のコードのようなものと2本の灰色と黒の細い触手状の脚らしきものが生えている。それが部屋に5体置かれていた。
”これは・・・いったいどこにあったの?”
「全てミレニアム学区の郊外で発見されたものです。」
「しかも、あと20体はあったよ!」
とにかくそれは異質だった。マキが「深海魚」と称したその奇怪な見た目は、ロボットであるか疑わしく思える程だ。当然、これと一致するドローンをミレニアムは作っていない。出てきたのがミレニアムというだけで、ミレニアムで製造されたかも不明だ。
さらに言えば、起動するのかもよく分かっていない。電源も接続ポートも見つからないのだ。それどころか、表面に継ぎ目がなく、ハードとソフトのどちらに問題があるのか、そもそも故障しているのか、全く不明という有様。ヴェリタスが先生を呼んだのはそういった理由からだった。
先生とヴェリタスがあーでもないこーでもないと悩んでいる中、アリスは無言でそのロボットの1体に近づく。
「・・・あ。」
アリスの視界に「チュートリアルを開始」という文言が表示され、次いで「Type.Mを起動し、リンクせよ」というミッションが表れる。
「アリス・・・。」
そのロボット、Type.Mに手を翳す。
「アリス・・・・・・見たことあります。」
Type.Mが起動する。
「これは・・・。」
表示された通り、Type.Mとリンクする。皆の声も、前時代的な機械の駆動音も聞こえなくなって、何かが入り込んでくるような、誰かと絆という言葉では表しきれない繋がりを得たような、そんな感覚になる。
視界に浮かぶミッションが「他4体のType.Mを起動せよ」に変わる。勿論、アリスからすれば造作もないことだった。呼び起こされた4体は近衛兵の如き精緻な連携でアリスを守るように取り囲む。アリスにはそれが至極当たり前のことに思えた。
さらにミッションが「己を起動せよ」に変わる
「・・・起動開始。」
騎士に守られながら王女は目を覚ます。
「・・・・・・コードネーム『AL-1S』起動完了。プロトコルATRAHASISを実行します。」
アリスの心を満たすのは解放感と全能感。今この瞬間と比べると、これまでは両腕両足が縛られていたようだ。以前モモイが「最高にハイってやつだよ!」というフレーズを言っていたが、今こそ、それが相応しい瞬間だとアリスは思った。そして同時に意識が澄んでいるのを感じ取る。自分の心の動きを1歩引いた場所から見ているような、そんな気分だ。
さらなるミッションが表示される。「この空間を制圧せよ」。制圧、つまりは先生を、ヴェリタスを、ゲーム開発部を倒せというものだった。それに対し、アリスは心の中で静かに首を振った。
───できません、皆、アリスの大切な人です。
しかしゲームのチュートリアルからは逃れられないものだ。例え育てる気のないキャラであっても育成素材を注がないといけないように、皆の事も撃たないといけない。アリスはそう、苦悩する。
だが、これはゲームではないのだ。
『・・・分かりました、ミッションを変更します。』
それはアリスにとって、やけに聞き馴染みのある声だった。