「うむぅ・・・。」
アリスは目を覚まし、大きく伸びをする。しかし場所は知らない部屋だった。しかも体を拘束されている。椅子に座らされ、足を縛れ腕を背もたれに固定されているのである。夢でも見ているのだろうか?いや、夢だったらいつもの彼女がいるはずだ。なら現実だろう。どれだけ非現実的でも、現実は現実である。
「起きたのね。」
声がした方向へ、アリスの眼球型カメラのピントが合わせられる。身長は171cm、長い黒髪を持ち、黒を基調とした制服を着こなす、生徒というよりキャリアウーマンに見える女性。
「自己紹介から入りましょうか。初めまして、調月リオよ。」
そう、ミレニアムサイエンススクールの生徒会にあたるセミナーの長である。
「結論から言えば、貴女をここへ連れてきて拘束したのは全て私が指示したこと。まずはこのような手段を取ったこと、謝罪するわ。」
アリスが疑問を言う前に、リオが先んじて疑問に思いそうなことを答える。
「そしてここはエリドゥといって、貴女に対抗するために私が設計した都市よ。貴女を拉致したのは邪魔を入れさせない為、貴女を拘束しているのは貴女が危険な存在でもあるから。貴女が疑問を持ちそうなことは概ね答えたつもりだけど、まだ何かあるかしら。」
「アリスは・・・何のためにここに連れ去られたのでしょうか。」
勇者としてのアリスはまだ折れていない。何故ならまだ誰も傷付けてないからだ。アリスの翳りのない強さを秘めた視線に、リオは無感動な視線で返す。
「貴女と2人で話したかったのよ。一応貴女のヘイローを破壊する用意はあるけど・・・あくまで念の為の備えよ。ミレニアム最高の頭脳2つと引き換えにキヴォトスの滅亡を阻止する、非効率極まりない手段でしかないわ。」
ミレニアム最高の頭脳2つ、つまりリオとヒマリである。リオの備えとはとどのつまり、自分とヒマリを巻き込んでの盛大な自爆であった。もちろん手動式である。こういう本当に本当の最後の手段は非電子に限る。こんなものを万が一にもハッキングされたら堪ったものではない。
同時に、これはアリスと自身を対等なテーブルに座らせるための一手でもある。余計なことをすればお互いに死ぬ。そういう条件を突きつけ、対等な力関係に落とし込む。リオは死ぬというリスクと、向こうも死ぬからそう安易にそうしては来ないという安心感のバランスで、強制的に対話という状態へ引き込んだ。
「分かりました、会話には応じます。ただ、どうしてそんなことを求めるのですか?」
拉致監禁という強硬な手段を取りながら、あくまで平和的な対話を求めるというギャップがアリスは気になった。こんな強硬策を取るなら、てっきり有無を言わせない人かと思ったら、そうではないらしい。そして何かのトラップという感じもしない。
「昨日の貴方の暴走。」
「・・・!」
それはアリスとしてもドキリとすることだった。チュートリアルという体裁で指示されたとはいえ、謎の機械を起こしたのは他でもないアリス自身だし、あの誰かがミッションを変えてくれなかったらどうなっていたか、想像したくもない。
「あのとき、プロトコルATRAHASISは確かに起動していた。それでいながら、被害はほとんど0と言ってもいいレベルに抑え込まれた。それも、貴女自身が制御するという形で。」
リオの語る言葉を、アリスは無言で聞いていた。彼女の真剣な眼差しを前に、ほぼ固定されているとはいえ背筋が伸びる気がした。
「私が知る限り、貴女があれを制御するなんてありえない事象だった。貴女のことは多数のため犠牲になってもらうしかないと思っていたわ。でも、話が変わったのよ。制御できないという前提がひっくり返るなら、その対応も変えるのが道理だわ。」
「なるほど・・・。」
これはチャンスなのだとアリスは捉えた。ゲーム的に言えば「『ぷるぷる、アリス悪い子じゃないよ』を聞き入れてもらえるチャンス」だ。きっと誤魔化しは通用しない。誠実さが命をつないでくれるはずだろう。恐れることはなにもない。