部室で起床したゲーム開発部はアリスの不在を前に方々を駆け回っていた。冒険という可能性もなくはないが、部屋が散らかりっぱなしというのが妙だった。彼女ならキチンと掃除をしてから出かけるはず。主にモモイが誘拐されたに違いないと騒ぎ立て、先生を筆頭に周囲を巻き込んでアリスの大捜索が始まっていた。
そして、ついにヴェリタスがその手がかりを見つける。ミレニアムの防犯カメラの映像に偽造の痕跡があったのだ。
ヴェリタスが見つけた「顔」と「移動経路」。先生はすぐさまセミナーに連絡を入れた。セミナーには生塩ノアという瞬間記憶能力を持つ生徒がいる。彼女にその顔を見せればそれが誰かなど1発で特定できた。
「この顔は・・・1年の飛鳥馬トキさんですね。所属は・・・C&Cです。」
そして裏で同じセミナーで会計を務める早瀬ユウカが、セミナーのデータベースから連れ去られた場所の特定を行った。
「彼女の移動先が特定できました。今、画面に映します!」
セミナーというのはこのミレニアムでも上澄みの優秀さを持つ生徒だからこそ入れる組織だというのが分かる、実にスピーディな調査であった。
「エリドゥ」というコードネームをつけられたその都市にまつわる資金の流れ、そして召集されたC&Cの証言からこの事件の容疑者としてリオが浮上する。
「・・・と、いう状態ですかね。今頃は皆でアリスをどうやって連れ戻すか会議中、でしょうか。私たちの計算通りなら、ですが。」
ミレニアムが誇るもう1つの最高の頭脳、明星ヒマリはどこか得意気に、ゲーム開発部たちの現状予想をアリスに聞かせていた。なお、この予想は恐ろしいほど当たっている。リオとヒマリという2人の天才がタッグを組めば、裏から盤面を操作するくらいできて当然だった。自分たちの隠蔽が何時、誰にバレるかの予想ならもっと簡単だ。
「なんだかお姫様になった気分ですね・・・。」
気分も何も正真正銘王女であるという無粋なツッコミはさておくとして、アリスは若干この状況をエンジョイしつつあった。シリアスの権化のようなリオとは違い、超の字がつく自信家で図太く自由奔放で悪戯好きな、要するに割とコミカル寄りな性分のヒマリの小粋なトークが主な原因である。
「ならティアラでも用意しますか?3Dプリンターがあったはずです。」
一応、ただ遊んでいるわけではない。適度な接待でアリスをここに居させることがヒマリの仕事だった。
アリスが予想と違って本当に無害な存在かもしれない。その可能性が急激に高まったことを認識したリオが取った行動はヒマリへの謝罪と協力の打診であった。当然ヒマリは、リオが必要とあらば自分に謝罪して恥を忍んで協力を頼める質だということは知っていたし、1度は強引な手で自分を無力化してきた相手にただで再び協力するのもどうかと思っていた。・・・だが、仏頂面で無駄にデカい乳がもげそうな勢いをつけて腰を直角に曲げるリオの姿が滑稽でちょっと・・・いやかなりツボに入ったので協力することにした。
そんなこんなでもう1度同盟関係になった2人の計画はこうだ。
第1段階、アリスの誘拐。そしてアリスとの問答。ここでアリスが力を完全に制御しているならそれで良い。事態を厳しく見過ぎていた自分たちが悪いということで、色々責任を取って話は終わりである。
第2段階、エリドゥを攻略させる。そしてその過程でゲーム開発部へある程度の危害を加える。あのアリスなら彼女たちを助けたいと強く願うはずだ。その状況下でなら、アリスがプロトコルATRAHASISを実行できる可能性は高い。
第3段階、経過観察。実行されたプロトコルATRAHASISがどうなるかの直接の観測。これがきっかけでアリスが力を制御できるようになるならそれで良いし、暴走を始めるなら自爆する。あまりにも割り切った計画だった。今回は協力者がいるとのことだったので、この段階で見るのはその協力者がエリドゥという「優れた演算装置」を前に取る行動だ。
斯くして先生一行はエリドゥの攻略に取り掛かる。リオとヒマリの、策略通りに。