「パンパカパーン、アリス、お姫様にジョブチェンジです!」
「おお、良く似合ってますよ。」
などと呑気極まる会話が繰り広げられている裏で、リオは脳を限界使用していた。エリドゥが攻められているとこをアリスに気付かれないようにしながらゲーム開発部たちに程よく危害を与えるためには、アリスを何かに夢中にさせて他の事を忘れさせるのが1番というのはリオとヒマリが話し合って出した結論だ。そしてトーク力ではヒマリの方が圧倒的に高いのだから仕方ない。こんな状況下で攫われていることも忘れさせ、着せ替えて遊ばせることができる人物はそう多く居ない。
なお、アリスの潔白を証明するためとはいえ大事な後輩たちを傷付ける立場に回らなければならないことに内心反対だったヒマリからの無駄に手の込んだ妨害が1番うざかった。しかもその妨害で双方ともに程よい被害で落ち着くのが本当に質が悪かった。万が一のため、エリドゥの価値を落とし過ぎない程度にエリドゥの武装を破壊させるヒマリの手腕はリオも一目置く部分がある。ある程度引き込んで、自然な流れでゲーム開発部に「秘密兵器」をぶつけるというのも2人で話し合って決めたことだ。
「だからってこれはないでしょう!?」
なら文字で伝えてほしいというのが本音である。無駄に力を使いながら、ゆっくりと、着実にゲーム開発部のチームだけを中心部へ引き込んでいった。
「・・・ここまでは、順調といえるかしらね。」
重要なのは、ここからだ。廊下から聞こえる、誰かが走る足音。概ね計算通り、誤差は許容範囲内である。
「どうして・・・!」
「何のことかしら?」
ドアが開け放たれ、アリスが姿を現す。全力で走ってきたのか、肩で息をしていた。お姫様のように着飾っていては、猶更動きづらいはずだが、それでも彼女は全力で疾走した。
「外の惨状は・・・、一体何なんですか。」
「攻められたから、防衛した。それだけよ。」
嘘ではないが、正しいとも言い難い。さっさとアリスの無事や誘拐への謝罪、無事に帰すという約束を行えば未然に防げたことだ。それらを敢えて行わず、丁寧にエリドゥへの導線として配置したのはリオであり、つまり原因はリオの方にある。
「・・・・・・。」
だが、酷く焦っているアリスはそこまで気付けない。背を向けたままのリオをじっと見つめるだけだ。
「アリスは、助けに行きます。」
「武器も無しに?」
最初会ったときに会話を求めてきた相手とは思えない冷え切った態度にアリスは少しばかり狼狽える。勿論、全てはプロトコルATRAHASISを行わせるための誘導だ。
「まあ、何にしても貴方が行くというなら私は止めるわよ。」
威嚇としてAMASも登場する。実際、ここでアリスが駆け出して直接助けに行かれても困るのだ。あくまでもこの場所で、プロトコルATRAHASISを実行してもらわなくてはならない。
「なんで・・・こんなことに・・・。」
しかし、アリスは中々実行する気配を見せない。まだトリガー足りえないのか、あるいはもっと単純な見落としがあるのか。何れにせよ、何かが不足しているのだけは確かだ。
アリスが足踏みをしていた理由は極めてシンプルだった。ヒマリに乗せられた結果、現状を正しく把握できず、「お姫様になったみたい」などと宣い、遊び惚けていた罪悪感。モモイ辺りなら「そんなの騙した方が悪いに決まってるじゃん!」とでも言ってきそうなものだが、アリスはそこまで図太い神経はしていなかった。
つまるところ・・・ヒマリの口が達者すぎた故に、計画に致命的なレベルの誤差が発生していたのであった。今のアリスは勇者になりきれていなかったのだ。
埒が明かない、そう判断したリオは少しだけ賭けに出ることにした。それは強烈な一押し。奮起するか、そのまま落ちていくか、リオには読めない。でも、やらないよりはマシだ。
「貴女が、勇者として未熟だからじゃないかしら?」