海水浴二日目の午前中。猛暑の太陽が降り注ぐビーチは、昨日以上の賑わいを見せていた。
「ダーリン! うち、ちょっと行ってくるっちゃ!」
モナが嬉しそうに駆け出していった先は、昨日彼女が「お姉さんとお話ししてくるっちゃ!」と楽しそうに喋っていた海の家だった。
「あ! モナちゃん、いらっしゃい! 本当に来てくれたのね!」
海の家のお姉さんがパーッと表情を輝かせる。実は昨日、あまりの激務に困り果てていたお姉さんと意気投合したモナは、「明日、うちがお手伝いするっちゃ!」と1日アルバイトの約束を交わしていたのだ。
水着の上に「海の家」と書かれた赤いハッピを羽織り、三角巾を巻いたモナが、笑顔で店頭に立つ。
「いらっしゃいませだっちゃー!冷たいかき氷やラーメン、いかがだっちゃー!?」
その瞬間、ビーチ中の視線が海の家へと集まった。ラム色の水着と赤いハッピという抜群のギャップ、そして太陽のような眩しい笑顔。モナの「看板娘」としての破壊力は凄まじく、あっという間に海の家の前に長い行列が出来上がってしまった。
「う、うわぁ……!モナちゃん効果すごすぎる……!でもこれ、私一人じゃ注文と調理が追いつかないよ〜!?」
悲鳴をあげるお姉さんと、一人で健気に注文をとるモナ。その様子をパラソルの下で見守っていた翔大の体は、気がつけば勝手に動いていた。
「……しゃあないな。おい、みんな!俺たちも手伝うぞ!」
「おうよ! モナちゃんの大ピンチなら、この荻中、火の中水の中だがや!」
「ふっ、看板男としての俺の美意識を魅せる時が来たピー!」
「まったく……俺らは客として遊びに来たはずなんだけどねぇ~まあ、見過ごすのも後味が悪いからねー行きやすきゃ~!」
文句を言いながらも頼もしく立ち上がったツレたち。ここから、五人総出の「海の家お手伝い大作戦」が始まった。
「はい、いらっしゃい! かき氷と焼きそばのセットがお得だよー!どんどん並でー!」
玉田が抜群の判断力と横浜仕込みの商魂を発揮し、限定セットメニューを考案してテキパキと列を誘導する。
「そこのお兄さん方!焼きそば焼き上がったでー!でら美味いよー!」
「イカ焼きのお客様、お待たせしたピー! 俺特製の情熱シロップ……じゃなかった、タレがかかってるぜぇ〜!」
大声で呼び込みと運搬をこなす荻中と村上。翔大はモナの隣で、ひっきりなしに入る注文に応えて必死に氷を削り続けた。
そんな中、モナの圧倒的な可愛さに目をつけた地元のチャラそうな男子高校生が、カウンター越しにモナへニヤニヤと話しかけてきた。
「ねぇお姉さん、めっちゃ可愛いじゃん。バイト終わったら俺と遊ぼうよ。連絡先教えてよ!」
すかさずモナは、一切の迷いもなくパッと満面の笑顔で即答した。
「無理だっちゃ!うちには世界一格好いいダーリンがいるっちゃ!」
「げっ、ダーリン……!?」
撃沈して退散していくナンパ男の背中を見送りながら、隣でガリガリと氷を削っていた翔大は、思わず口元が緩むのを抑えきれなかった。
(……ふっ。ざまあみろ)
昨日「俺の女」と言い放ったばかりの翔大にとって、モナの迷いない言葉は誇らしく、密かな優越感と甘い愛おしさが胸いっぱいに広がっていく。
目の前で一生懸命働くモナは、お年寄りには「暑いから気をつけてね」と声をかけ、子どもには目線を合わせてかき氷を手渡していた。モナの周りには、いつも温かい笑顔が溢れている。
(ほんま……どこ行っても、誰からも愛されるやっちゃな)
昼過ぎ、怒涛のピークが過ぎ去り、ようやく静けさが戻ってきた。
「みんな、本当にありがとう〜! みんなのおかげで大助かりだったわ!」
感謝するお姉さんから「賄い」として好きなものを食べていいと言われ、五人は達成感に満たされながらパラソルの下へと戻った。
すると、モナが巨大なラーメン用のどんぶりを抱え、ニコニコと顔を輝かせて走ってきた。
「ダーリン!お手伝いのご褒美に、特製のかき氷作ったっちゃ!」
「うわ、なんやこれ!? めっちゃカラフルやな!」
どんぶりの中に高く聳え立つ氷の山には、いちご、ブルーハワイ、レモン、メロン、そしてたっぷりの練乳がこれでもかと回しかけられていた。
「ダーリンのために、シロップ全部かけだっちゃ!さあ、一緒に食べるっちゃ!」
モナが一本のスプーンを翔大に差し出してくる。
「え、一本? ……ま、まあええか」
ど直球の「間接キス」に一瞬ドギマギしつつも、翔大はスプーンを受け取り、モナと一緒にカラフルな氷を掬って口に運んだ。
「美味っ! いろんな味が混ざってカオスやけど、めっちゃ美味いな!」
「ふふ、でしょー! うん、とっても美味しい――……あ!!」
勢いよくかき氷を口に頬張ったモナが、突然「ピキーン!」と固まった。両手でこめかみを押さえ、涙目になって悶絶し始める。
「あうう……!頭が……頭がキーンって痛いっちゃ〜〜!ダーリン、これって病気になったっちゃ!?」
「アハハハ! 違うわ! それ冷たいもん一気に食った時のやつや! 冷感頭痛っていうねん!」
パニックになるモナが可笑しくて愛おしくて、翔大は大爆笑しながら、彼女の頭を優しく撫でてやった。
「よしよし、じっとしてたらすぐ治るからな」
「うう……ダーリンの手、あったかいっちゃ……」
冷えた頭に翔大の温かい手が心地いいのか、モナは猫のように目を細めて翔大にすり寄ってきた。
少し離れた場所で、お姉さんからもらった焼きそばとイカ焼きを頬張っていた男子三人が、そんな二人を呆れ顔で見つめていた。
「……なぁ、俺たち、クソ暑い中で汗だくになって手伝ったんだよな?」
「そうだピー。俺の超次元ドライブ汗が止まらんぜぇ……」
「なのに、なんで最後はあの二人のあま〜い世界を見せつけられてるわけ?」
荻中と村上がガックリと肩を落とし、玉田が「やれやれ」と苦笑しながら焼きそばの豚肉を口に運ぶ。
「まあいいじゃん。モナちゃんの笑顔も見れたし、峰川のあんな楽しそうな顔、滅多に見られないんだからさ」
「……ま、それもそうだがや!よし、俺らは焼きそば追加でもらいに行くぞー!」
夕暮れ時。
片付けの終わった海の家のお姉さんが、「これ、今日のお給料代わりね!」と小さな袋を差し出してきた。中に入っていたのは、夕日に照らされて綺麗に輝く「ガラス細工の海のキーホルダー」だった。
「わあ……! キラキラして綺麗だっちゃー!」
モナと翔大にはお揃いの青いイルカ、ツレたち三人にはそれぞれ色違いのカメや貝殻のキーホルダー。
「みんな、今日一日ありがとうね!また絶対遊びに来てねー!」
「お姉さん、バイバイだっちゃー!」
バスタオルを羽織ったモナが、大きく手を振る。
手のひらの中にある、ひんやりとしたガラスのキーホルダー。
昨夜の不良との緊迫した出来事を乗り越え、今日みんなで汗を流して笑い合った時間は、この小さなガラスのように、翔大たちの二度目の青春にかけがえのない思い出として刻まれていくのだった。